「京都vs足利」古都あんみつ決戦の行方は?

京都からウマズイめんくい村に帰ってきてからも、赤羽彦作村長の頭の中には人気店 「ぎをん小森」で賞味したあんみつの記憶が沈殿したままだった。香を焚きこめた古い町屋で夢心地のまま「京都」を楽しんだつもりが、どうもキツネにダマされたような気分。雰囲気込みの値段だとはいえあんみつが1200円というのにも驚かされた。そして何より、その味自体がうまいにはうまいが、メチャウマとまでは言えなかったからだ。京都にはどうやらキツネが住んでいるらしい。

そのことを確認すべくやってきたのは関東の古都・足利。そこに前から気になっていた店があった。「あまから家」。すぐ近くには国の重要文化財にも指定されている鑁阿寺(ばんなじ)と日本最古の学校・足利学校がある。こちらも古い民家を改造した店。甘味とカレーを売りにしているので「あまから家」。甘味とカレーを同時に出すというのも珍しい。

          あまから家③ 
          いかにもの造りだが

店内はアンチークなつくりで、飾ってある柱時計なども大正ロマンの雰囲気。石をモチーフにしたオリジナルグッズが売られてもいる。古都の観光客が喜びそうなつくりになっている。時刻は午後3時過ぎ。おやつタイムである。
「村長に引っ張られて来ちゃったけど、これ以上太るのは勘弁よ」
「うむ。では村長だけあんみつを頼むことにしよう」
「それは不公平よ。何だか腹が立ってきた。私も何か頼むことにするわ」

オーナーだろうか感じのいいきれいな女性が注文を取りに来た。奥が厨房になっているらしく、親父さん風の男性の姿が見える。作っているのはその親父さんのようだ。村長は目的の「あんみつ」(630円)を注文。蜜は黒蜜を選んだ。村民2号はどうしたわけか「クリームあんみつ」(630円)を注文した。思考回路がどうなっているのか「スフィンクスの謎」のようで、理解不能というしかない。

          あまから家④ 
          粒あんとこしあんと家来
         
10分ほど待たされて、あんみつ姫の登場。朱塗りの器に見事なこしあんと粒あんが東西の横綱のように鎮座していた。あんこマニアとして、こしあんと粒あん両方が楽しめるというのは無上の幸せと言ってもいい。そのあんが絶品だった。北海道十勝産の小豆を使った手作り。甘さは控えめで、いいあんが備えている「香り立つような風味」が際立っている。こしあんは一瞬の涼風となり、粒あんは「ぎをん小森より上」と見た。相当なワザと言わざるを得ない。

        あまから家⑥ 
        こしあんでござる

果物以外はすべて手作りなんですよ。手作りにこだわってるんです。果物だけは手作りできませんから(笑い)」と店の女性。寒天は柔らかめ。硬めの歯ごたえが好きな村長にとってはここだけが唯一の不満。豆かんは硬さもほどよくいい出来である。みかん、パイナップル、桃などもいいものを使っていることがわかる。

「これで630円とはね。店構えから見て、観光地の味かなとタカをくくっていたけど、このこだわりは意外だったわ」
辛口の村民2号も納得の表情。
「ハズレか当たりか中間はあり得ないと思っていたけど、当たりだった。ぎをん小森の約半分の値段で味自体の満足度は1.5倍はある。そりゃあ、雰囲気ではとてもかなわないけど」
「1200円のうち雰囲気代が800円くらいかしら。調布先生がビールにしたのはさすがだったわね」
「足利氏の発祥の地が京の都に全然負けていないということ。ことあんみつに関しては足利に軍配を上げたい。金閣寺も銀閣寺も足利氏が造ったことを忘れちゃいけない」
「村長はいまだに何もつくらない」
「・・・・・・」



本日の大金言。

1930年(昭和5年)、銀座「若松」が発祥と言われるあんみつ。まだ82年ちょっとの歴史だが、京都・足利の甘味版「二都物語」。そのロマンも隠し味になっている。


           あまから家② 
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謎の店「真っ赤な怒りのパスタ」と遭遇

 司馬遼太郎が「街道をゆく」でコンビを組んだ埼玉・吹上町出身の画家・須田剋太の美術展を見た後、ウマズイめんくい村の一行約2人はオンボロ車を吹かして、熊谷市郊外の「長島記念館」へと向かった。美術展で出会った親切なおじさんが「長島記念館でも須田剋太の油絵の絵画展をやってますよ。ぜひ見に行ってください。今なら特別に無料ですよ」と教えてくれたからだった。

         長島記念館② 
         こんな穴場が

そこで見た作品「舞姫」「抽象 赤」が印象的だった。赤の使い方が独特で、根源的な生命の核みたいなものを塗り込めることに成功している。美熟女の村民2号が少々上気した表情で言う。
「グワッシュ画もよかったけど、油絵もいいわ。司馬遼太郎が惚れこんだのもうなずける
彦作村長がボケ顔で答える。
「年賀状の絵も面白かったね。牛のデフォルメは凄かった。あんな年賀状をもらったら、一生の宝になるよ」
「タダでこんなに楽しめるなんて。ちょっと申し訳ない気になるわ。ああ、感動したら、お腹減っちゃった。記念館の人が教えてくれたパスタのうまい店に行きましょ」

         ちゃよりあい⑨ 
         ガイドブックには載ってない

午後1時半過ぎ。熊谷市郊外は見渡す限り田んぼばかり。「ちゃよりあい」は長島記念館から1キロほどの近さだが、こんなところにという殺風景な場所にポツネンと存在していた。軽井沢とか那須高原にでもありそうな瀟洒な茶色とサーモンピンクの外観。「コーヒー&パスタ ちゃよりあい」という看板。「ちゃよりあい」は多分「茶寄り合い」の意味だろう。入口が木造のテラスになっていて、入ると大きな木のテーブル(6人用)、その奥に4人用と2人用の木のテーブルが二つという構成。ナチュラルというキーワードでくくれそうな落ち着いた雰囲気、喫茶店というよりレストランである。

パスタがうまい、ということだったので、メニューの中から「アラビアータ」(730円)を選んだ。「激辛」「真っ赤」という説明文とメニュー写真に反応したのだった。村民2号は「タラコと水菜スパゲティ」(730円)を選んだ。

         ちゃよりあい⑤ 
         アラビアータの衝撃

         ちゃよりあい③ 
         タラコと水菜の純愛

「須田剋太の絵に触発されたんでしょ?」
「バレたか。アラビアータってイタリア語で怒りという意味だそうで、最近怒りを忘れかけつつあるので、これを食って怒ってしまおうとも思ってさ」
「怒れ、村長!でも村長の場合、どっちかと言うと、いかれぽんちのイカレに近いかも」
「古いなあ、古畳」

「アラビアータ」がやってきた。大きな白い陶器皿に見るからに辛そうな真っ赤なパスタ。バジルとシソの千切り、粉チーズが上に乗っかっている。辛さが「激辛、ちょい辛、並辛」の3段階になっていて、村長は迷わずちょい辛を選んだ。村長は実は辛いのが苦手なのである。目の前のあまりの赤さに、勢いで注文してしまったことを少々後悔した。この尋常ではない赤さは赤唐辛子と自家製のトマトソースの色。

          ちゃよりあい⑥ 
          イタリア娘の激辛愛

水を一杯ぐいっと飲んでから、フォークでまずは様子見のひと口。細身のパスタは生めんを使っているそうで、コシがある。それが、トロリと甘いソースと絡まって、口中に入ると、何だか陽気なイタリア娘に「ボンジョールノオ~」と抱きしめられたような気分。悪くない感触。うまい、と漏らしたくなる。ふた口、三口と続いていくと、口中が次第に熱くなってきた。か、辛い!
うまいけど辛い!辛いけどうまい! 辛いとうまいがデュエットでカンツオーネを歌い始める。田んぼの中の一軒家で突如サンレモ音楽祭。ジリオラ・チンクエッティとボビー・ソロの情熱的な歌がアラビアータから竜巻状に立ち上がってくる。

「村長、水水!顔が真っ赤よ。酔っぱらったみたい」
「カプサイシンで酔っぱらっちゃったよ。ちょい辛でこの辛さだと、激辛はどうなるんだ?」
「お代わりしてみれば?」

          ちゃよりあい④ 
          こっちの方が正解よ

「こっちの方がうまいわよ。しっかり味がついていて、タラコと水菜と海苔がとてもバランスがいい。ヘルシーなのもいい。この店はかなり健康に気を使ってるわね」
村民2号がクールな表情でのたまった。ぐやじい。カプサイシンだって健康増進になるんだぞー。最近の日本人は怒りを忘れたカナリアになっていないかあー。村長の口から出たパスタの火は犬の遠吠えのように田んぼを見下ろす大空へと吸収されていった。



本日の大金言。

ガイドブックには出ていない田んぼの中のパスタ屋と須田剋太。そこにも人間ドラマが潜んでいる。そんな場所でイタリアのアラビアータ(怒り)を味わうのも一考ではある。


                ちゃよりあい⑧ 

鯛焼きより今川焼きの超うま店めっけ

 このところ鯛焼き人気に押されて、やや影が薄くなっている「今川焼き」。だが、今川焼の方が歴史も古く、江戸時代の中ごろに花のお江戸の神田「今川橋」近くで初めて登場したとされている。それが語源。やがて全国各地に点在していき、「大判焼き」「小判焼き」「じまんやき」「きんつば」など様々な名称となっていったようだ。「たい焼き」は明治になってから登場したというのが定説(麻布十番・浪速家が元祖など諸説ある)で、それも「今川焼き」の変化した形で、源流は「今川焼き」である。

         御座候⑦ 
         これこれ・・・今川焼き!

彦作村長は今川焼きをこよなく愛している。だが、うまいたい焼き屋がどんどん増えているというのに、うまい今川焼き屋が少ないのが気になっていた。フードコートや出店などで見かける今川焼きはいい小豆を使っていることが少なく、それなりにはうまいが、脳天が痺れるような感動までいかないのがとても悲しく残念だった。

          御座候① 
          この行列

埼玉・大宮そごうのデパ地下を散策中のこと。行列のできる今川焼き屋を見つけてしまった。「御座候」という持ち帰りの今川焼き屋さんだ。午後4時過ぎ、おばさん、おっさん、買い物帰りの主婦などが並んでいるその先には、若い職人さんが手際よく今川焼きを焼いてる姿が・・・。小豆あんと白あんの2種類。それぞれ「赤あん」「白あん」と名付けられている。どちらも一個80円と鯛焼きに比べて安めなのがいい。

いい匂いにひきつけられて、行列に並んで職人技を見ていると、小豆の色に目が行く。北海道十勝産の見事な小豆あんをドッカドッカと入れていく。白あんの方も、同じく十勝産の白インゲン豆(てぼうあん)を使って、惜しげもなく入れていく。その奥行きのある白い照りが、見るからに食欲をそそってくる。添加物は使っていないというのも、心意気を感じる。

       御座候⑥ 
       あんこの至福

御座候は本社が兵庫県姫路市。昭和30年に一個10円で売りはじめ、そのうまさと安さから評判を呼び、昭和51年には一個50円、その後平成3年に一個70円となった。できるだけ値上げせずに、という方針を続けたが、平成20年に現在の80円(税込)という値段に。しかし、創業当時からあんこへのこだわりは半端ではない。「北海道十勝産」のいい小豆の風味を極限まで生かす独自の作り方を続けている。それは「企業秘密」だが、それが、関西から中部、首都圏にまでファンを広げている大きな理由でもある。

           御座候13 
           鯛焼きよりマル!

ウマズイめんくい村に持ち帰り、まずは赤あん。少々冷めてしまってはいたが、こんがり色はそのまま。それでも二つに割ってみると、小豆のいい風味が香り立ってくる。甘さはかなり控えめだが、それがある種の品の良さとなっている。小豆あんがぎっしりと詰まっていて、思わず「うまい」という言葉が漏れてくる。幸せ感のある今川焼き。これまで食べた今川焼の中でも「頂点の味」といっても過言ではない。

続けて白あん。店では白あんを待つ人の方が多かった。こちらも二つに割ると、てぼうあん(白インゲン豆)がぎっしり詰まっている。名店の豆きんとんのようないい色具合。甘さは控えめで、絹のようなと形容したくなる品のいい甘み。お世辞ではなく、今川焼きの白あんでこれだけのうまさはそうお目にかかれない。もっともレベルの高い今川焼きが少ないという側面もあるが。
 
         御座候⑧ 
         赤あんである

         御座候⑨ 
         白あんである

大きさが小さめというのが、一個当たりの満足感という意味では評価の別れるところだろう。直径にして6センチほど。6センチの明あん。とはいえ、今川焼の隠れファンでもある彦作村長にとっては、うれしい発見となってしまった。負けるな、今川焼きクン、である。



本日の大金言。

これからが今川焼きのシーズン。鯛焼きがどんどん高級化していく中で、今川焼きの本来の価値が見直されてくるはず。今川焼きは庶民とともにある。


             御座候⑤ 

目からウロコ「魚沼産こしひかり目刺し弁当」

「京都の台所」錦市場をうろつきながら、彦作村長は、京都は一つの循環する宇宙だという思いを強くした。ここでは時間が他の地域のように流れていない。「先の戦争」が太平洋戦争ではなく応仁の乱だったり、未来についても「そんな先のこと、かなんなァ」だったり。「いま」が何よりも大切で、その「いま」は累々たる死者の上の成り立っている。ここでは死者も生きている。「ご先祖さまから預からせてもろうてます」という言葉が自然に出てくる街。本能寺にある織田信長の墓所や六波羅蜜寺近くの老舗みなとやの「幽霊子育飴」で感じた実感としての時間と空間感覚。何という街だろう。京都はホンマになんぎやなァ。

          錦市場① 
          京都の台所錦市場

「村長ったら、カランカランの頭でそんなこと考えてたの?」
京都並みになんぎな美熟女の村民2号が、帰りの新幹線こだまの中でチクリ。
「ホント頭がくらくらしてきたよ。迷路があまり深すぎて、京都の奥座敷を見るのは不可能だと知ったよ」
「今ごろわかったの? 京都の尻尾を摑もうなんて、1万年早いわよ。それより早く弁当あけましょ」

         目刺し弁当② 
         かような弁当が存在していたとは

京都にお住まいの調布先生から教えてもらった「魚沼産こしひかり目刺し弁当」(380円)が目の前にある。
「ボクはいつもこれですよ。これが一番うまい。高い駅弁なんか買ったらあきませんよ、ひっひっひ」
包みを解くと、白ごまがちょこんと乗っかった塩おにぎり2個と小さな目刺しが2匹。それに沢庵2切れ。それ以外には何もない。実にシンプルな構成。こんな弁当見たことない。
「魚沼産のコシヒカリというのがいい。このシンプルさ、まるで禅の世界みたい。隣にお坊さんもいるし」
「お坊さんは余計」
「大阪の菊太屋というお米屋さんが作った弁当で、こだわりがすごい。店頭で一個一個手で握ってるのよ。目からウロコのお弁当だわね」

         目刺し弁当③ 
         結びはシンプル!

塩おにぎりは小さめ。まずはひと口、がぶりと行くと、いいコシヒカリの甘みが軽く振られた塩加減に伴奏されて、主メロディーとなって口中に広がってくる。目刺しをかじる。濃いめの味が絶妙なアクセントになる。突然、土光敏夫のいかつい顔とともに遠くから琵琶の音が聞こえてくる。味覚が研ぎ澄まされてくるようだ。あまりにシンプルなうまさについつい感動してしまいそうになる。あわてて沢庵もかじる。涙が出てきそうになる。

            目刺し弁当④ 
            コシヒカリの甘みが・・・

気を静めるように、駅の売店で買った「玉乃光 純米吟醸」(310円)で、ノドの中を洗う。あー極楽ごくらく、線路の上の極楽。

「大丈夫?村長、さっきからおかしいわよ。上向いたり、下向いたり。挙動不審で通報されちゃうかもしれないわよ」
「おにぎりと目刺し・・・。これはきっと、おにぎりを目指せという暗示があるかもなあ」
「おにぎりみたいな頭で、何言ってんのよ」
「おにぎりは日本人の原点でもある。つまり、原点を目指せという意味・・・」
「それ、ダジャレのつもり? でも、この弁当、気に入った。量が少ないのもいい。ぜいたく言うと、あと100円安くしてもいいと思う。ニッパチ。花のニッパチ・・・280円」
「・・・・・・」

          目刺し弁当⑤ 
          ワイをなめんなよ


本日の大金言。

日本人はもう一度シンプルの奥深さに気が付いてほしい。3.11がそのきっかけになるはずだったのに、いまだに迷走は続いている。目刺し弁当が身を持って教えてくれる。



                   幽霊飴① 

これは何だ?豆腐の新しい味に混乱する

 豆腐は晩酌には欠かせない。絹ごし豆腐と純米酒。枝豆とビール。さつま揚げと焼酎。これは「ウマズイめんくい村」の定番である。村民2号と京都をウロウロと散策中に南禅寺周辺で豆腐茶屋に入ろうと思ったが、ちょっとしたコースで3500円もする。
「2年前に食べたからいいでしょ。まだ景気のいい時に」
「1000円ぐらいでうまくて安い店はないものか」
「そんな虫のいい話、あるわけない。村長がもっと稼げばいいのよ」

「そうだ、豆腐料理を食おう」も京都での壁は高い。
「京都で豆腐を食べないなんて、鰹節を前にして、サッと引っ込められた猫にでもなった気分だよ」

意外だが、京豆腐(絹ごし豆腐)の歴史はそう古くない。豆腐自体は空海が中国から持ち帰ったという説をはじめ諸説あって、はっきりしたことは不明である。しかし、現在のつるっとした絹ごし豆腐は戦後になって登場したという。それまでは木綿豆腐が「豆腐の代名詞」で、今よりも「固くてゴワゴワ」が一般的だった。

現在、日本の食卓に上がっている絹ごし豆腐(京豆腐)は、京都の「嵯峨豆腐」が源流になっている。「森嘉」の先代が中国での体験をヒントに、凝固剤にすまし粉(硫酸カルシウム)を使用することを思いつき、柔らかい豆腐を開発することに成功したという。これが絹ごし豆腐の原点で、戦後の高度成長期の波に乗って、テレビとともに全国の茶の間に浸透していった。

          南座の夕暮れ② 
                          夕暮れの南座

夕暮れ時、華やかな南座周辺から鴨川沿いにトボトボと歩いて三条通りに出て、ホテルに戻ろうとする途中だった。「とうふ処 豆雅傳(とうがでん)」という看板とノレンが視界の隅に飛び込んできた。町家づくりのはんなりした店で、一階が自家製の豆腐が売られていて、二階は食事コーナーになっている。ボードを見ると「湯とうふセット」(1400円)、「生ゆば丼セット」(1000円)などと比較的安めの値段設定。「豆乳ぜんざい」(450円)という文字も見えた。

「ダメよ。もう予算ないわよ。晩ご飯用にコンビニで弁当を買ったばかりでしょ。速やかにホテルに戻って食べる」
「では、こうしよう。デザートメニューだけ食べる。予算は一人500円以内」
「デザートだけなんて、ダメに決まってるでしょ」
「賭けよう」

                 豆腐ドーナツ① 
         ここまで来ている豆腐ワールド

OKだった。他の客が豪華な食事をする中あんこマニアの村長は「豆乳ぜんざい」(450円)なるものを注文。コーヒー好きの村民2号は態度を一変、「コーヒーととうふドーナツセット」(400円)。豆乳ぜんざいにしても豆腐ドーナツにしても初体験。豆腐料理がここまで来たか、という物珍しさも加わって、村長の胸は甘い期待感で一杯になっている。

          豆腐ドーナツ⑤ 
          ようお越しやす

            豆腐ドーナツ③ 
          豆腐ドーナツどす
           
来た。何ということか。「豆乳ぜんざい」は、小豆が底に沈んでいて、外見上はただの豆乳ミルクにしか見えない。小皿に白玉2個と栗1個。一方、「とうふドーナツ」は直径3~4センチのこんがり色のドーナツが3個。実にうまそうなのだ。
「うっふっふ。私の方が当たり。しかも村長より50円安い。領土侵犯は許さないわよ」
コーヒーをうまそうに飲みながら、勝ち誇った表情の村民2号。

         豆腐ドーナツ⑥
                      大納言さまア~
                       豆腐ドーナツ④  
         このお味がわかりますやろか

豆乳ぜんざいは木のスプーンですくうと、いい香りが立ち上がってきた。その下に沈むぜんざいと合わせて口中に運ぶと、極めて薄味のはんなり世界が「ようお越しになりましたなあ。お疲れどすやろ」とささやいてくるよう。拍子抜けの味。もう少しぜんざいが前面に出た方が村長の好みだが、ここは豆腐の店。白玉を乗せてもう一度味わう。甘さがかなり控えめでやさしい味なのだが、脳の中枢には響いてこない。ひょっとしてこれはミスマッチではないか。

                       豆腐ドーナツ⑧ 
         甘く見ると火傷しますえ

「村長の豆腐みたいな頭に響くわけないでしょ。こっちもはんなりしていて、ほとんど甘さがない。豆腐の香りもかすかにする。でも、この自然な柔らかさが溶けるような感じで、とてもいい。コーヒーとの相性もいい。これで400円なら満足満足」
「ちょっとだけ味見させてくれよ」
「領海侵犯。一人で夫婦ぜんざいしてれば?」
ウマズイめんくい村にもドーナツ化現象が・・・。日中国交回復も遠い・・・。



本日の大金言。

和スイーツの新しい波もまだまだ戦国時代のようだ。豆腐という守護大名から信長や秀吉が出てくる日は案外近いかもしれない。豆腐の未来を想像してみよう。


                            豆腐ドーナツ⑦

キツネも食べる有名老舗「ぎをん権兵衛」

 「ぎをん権兵衛」といえば、あの小泉元首相が現役の総理時代に大勢のSPを引き連れてやってきたことでも有名なうどん屋さんである。創業は昭和の初期。京都で「昭和の初期の創業」といえば、京雀に「まあ随分とお古いことどすなあ」などと言われそう。京都のタウン誌の女性編集長から「京都では3代続いて初めて京都人と認められる。それで初めて中に入れるのですよ」と教えられたことがある。江戸っ子も3代続いてようやく本物の江戸っ子と認められる。なぜか3代。

根が軽薄でミーハーな(もう死語かも)赤羽彦作村長。「3代以上の京都人」調布先生にお願いして、「権兵衛」に連れて行ってもらった。歌舞伎役者や芸能人、作家、財界人、政治家、裏社会の方など日本のエスタブリッシュメントが夜になるとこぞってやってくる花街・祇園。幕末に薩長の獅子と称するお人たちが、密貿易でぼろ儲けしたお金を湯水のように使って、色と欲と権力奪取の画策に励んだところでもある。ちなみに、この祇園を東京でアレンジして真似たのがバブルあたりからの「銀座」である。

         権兵衛⑨  
         いい雰囲気どすなあ

「ぎをん権兵衛」はさすがにいい雰囲気を醸し出していた。古い町屋をそのまま使ったのか。暖簾もうむと唸りたくなるさり気ない風情。赤ちょうちんには「そば」と書かれている。正しくは「うどん屋」ではなく「そば屋」ということか。人気店らしく、入ると、中居さんにすぐ入り口のテーブル席に案内された。奥が座敷になっていて、二階もある。階段から坂本龍馬でも降りてきそうな雰囲気。

メニューを見るとやはりいい値段である。「釜揚げうどん」(930円)「鴨なんば」(1400円)「天ぷらそば」(2100円)「ざるそば」(930円)「とろろそば」(1700円)という具合。
「私はきつね」
「そうだな、村長もきつね」
「いっひっひ・・・ボクも」
三者の意見が見事に一致した。800円という最も安い値段に惹かれたわけではない。キツネが京都の基本だからだ(?)。全員、そばではなくうどん!

         権兵衛⑧  
                       小泉さんもここをくぐった

「お揚げはきざみにしますか、甘辛く炊いた大きいのにしますか?」
と感じは悪くない中居さん。
「きざみ!」
と村民2号。
「きざまれたい」
と村長。
「キツネにダマされないように」
と調布先生。

          権兵衛② 
          このシンプルさがたまらない

待つこと10分ほど。来た。ドンブリは小さ目。九条ネギが多めに入っていて、その色の鮮やかなことに目を奪われた。きざみはそこそこの量。すり立ての生姜がちょこんと乗っかっている。おつゆが半透明で、出汁と醤油のいいバランスを感じさせる。昆布と鰹節の香りがうっすらと漂っている。見た目はどこにでもあるきつねうどんとそう変わりがない。これで800円か、という思いが頭をよぎる。

        権兵衛③  
        九条ネギときざみ

「きざみがダメ。地元の人はこういうところには来ない。値段を考えても、近くのおかめの方がずっといい」
と調布先生。
「私はダシのよく効いたこの汁と細めのうどんが好き。どんは讃岐うどんのような野性的なコシではなくて、はんなりしたコシに奥深さを感じるわ。こんなに自然な味はさすがに老舗」
と村民2号。
「確かに全体が地味だけどよくまとまっている。量が少なめなのがいい。ここんとこ食い過ぎてるから」
と村長。

        権兵衛⑤ 
        麺の太さもコシも柔らかい

「ところで、小泉さんはここで何を食べたんだろう?」
「そんなもん、キツネに決まってる。ダマすのがうまいから。国民はみんなダマされた。今でもダマされてる。ぐひひひ」

そう言えば小泉元首相はライオン丸というアダ名だったが、キツネにも似ている。大ギツネ。ドジョウ首相もここに来てご利益を受けた方がいいかもしれない。ドジョウはキツネにはなれないが。



本日の大金言。

キツネだって恩返しをする。京都がキツネを好むのは何となく理解できる。それに比べて、千葉のドジョウは・・・。ドジョウうどんがメニューに乗る日はたぶん永久に来ない。


                 権兵衛⑥ 





衣笠丼と冷や汁、京都のB級どんぶり対決

「村長、もうダメ。一歩も動けない。この3日間で5万歩は歩いたわ。どこかで休みたい。ああ、腹も減ったア~」
二寧坂に行くつもりが、間違って清水坂に入ってしまい、急こう配をハアハア言いながら上っていく。みやげ物屋や呼び込みなどでわんさか賑わう清水坂は、京都の「はんなり」とはほど遠い世界。「野暮な田舎の観光地」としか思えない。
「頼むから、相撲取りみたいに腹をポンポンするのはやめてくれよ。多分、あそこで間違えたんだな。二寧坂に行ってから昼飯にしよう」
紅葉には少々早いが、深まる晩秋の気配が空にも木々にも漂っている。

          結び屋⑧ 
          やっぱりKYOTOはええのう

5万歩以上歩いても一向に減量の兆しも見えない美熟女の村民2号。腰痛が激しくなり尺取虫のように奇妙な歩き方になってしまった赤羽彦作村長。なぜか外人観光客の視線がいささか気になる。二寧坂は清水坂とは違って、落ち着いたいい雰囲気である。京都に来たという実感をここほど感じる所はないかもしれない。もっとも、それはガイドブックの世界だが。

場所が場所だけに店構えもいいが、値段もそれなりに張る。
「安くてうまくて満足度の高い店がいい。予算は一人800円以内」
「ぜいたくな注文だ。注文の多いレストランダム(笑い)」
「シャレになってないわよ」

7~8件ほどあーだこーだと物色した末、ようやく庶民的な町家づくりの店に入った。「結び屋」というノレン。どこにでもあるソフトクリームの置き物が気になったが、この際ぜいたくは言ってられない。ウナギがメイン料理の店のようだが、「衣笠丼」(800円)というメニューが決め手となった。緋毛せんに蛇の目傘の席もあり、そのあまりのわざとらしさに好感を覚えたこともある。

         結び屋② 
         衣笠丼、京都の台所どすえ

感じのいい作務衣姿の女性が注文を取りに来た。店の中は中央にコの字型の開放的な厨房があり、奥にもテーブルと緋毛せんの席がある。村長と村民2号はそのテーブル席に座った。
「衣笠丼!」と村長。
「私は汗をかいたから、冷や汁にする」と村民2号。どっちも800円ナリ。「鰻まぶし丼」(1900円)にも目が行ったが、村民2号の毒矢がピュッと飛んでくる気配を感じて断念。

         結び屋10 
         冷や汁、いかがどす?

衣笠丼は京都のまかない料理でもある。一般家庭でも昔から食べられているもっとも庶民的な料理で、TVの人気バラエティー番組「秘密のケンミンショー」でも、京都人しか知らないドンブリとして、ネタにされたりしている。名前の由来はドンブリの景色が衣笠山の雪景色と似ていることからきたようだ。冷や汁は基本的には味噌仕立ての庶民料理で、宮崎県や埼玉県、東北などにもあり、その食べ方は多種多様だ。

12~3分ほど待って、冷や汁と衣笠丼がやってきた。衣笠丼はきざみにしたお揚げさん(油揚げ)を出汁で炊いて(煮込んで)、そこに九条ネギを入れ、最後にとき卵をかける。それをご飯の上に乗せて出来上がりというシンプルなもの。だが、このシンプルさが奥深い。きざみ海苔と柴漬けなどの漬け物が添えられている。

         結び屋③ 
         揚げと九条ネギととき卵

         結び屋① 
         白みそと出汁と白ごま

「冷や汁」は白みその出汁をぶっかけたご飯の上に、キュウリと千切りにした大根、焼き鯖のほぐしなどが品よく乗っている。白ごまが散りばめられている風情もいい。小松菜と揚げの入った煮びたしの小鉢。そして、漬け物。
「私の方が当たり、ね。白みそとダシ汁のバランスがとてもいい。この冷たさも心地いいわ。じんわりと身体の中に滲みこんでくる感じ。小鉢もうまい」

「こっちは小鉢がないのとみそ汁がないのが寂しい。でも、ほうじ茶がうまい」
「村長、やせ我慢は体に毒よ。もう毒が回ってるけど。で、衣笠丼そのものはどうなの?」
「いい味としか言いようがない。ホントだよ。揚げがいい。ま、もうちょっと味がしみ込んだ方がいいかな。 でも、九条ネギと半熟のとき卵、それにこの醤油ベースの薄味の甘いだし汁のハーモニーは絶妙だよ。ご飯が固めなのが村長の好みにマッチする。こっちもうまさがジワジワと体の中に攻め込んでくる感じ。はんなりした愛を感じるよ。あんたに欠けてる愛・・・」

         結び屋⑨ 
         奥から外への世界

「村長に欠けてるお金。場所を考えても、これで800円は納得、ということだわね」
「村の財政危機もこれで少しは収まるかもな。よかったよかった」
「甘いわよ。最後の夕飯はコンビニ直行。B級キングにふさわしい」
「衣笠山にこもりたい・・・」


本日の大金言。

京都の胃袋を底辺で支える衣笠丼。卵とじの様子を「衣笠山の雪景色」に例えるイケズな洒落の凄さ。


         結び屋⑦ 

目算が狂った「鯖寿司」最高峰の夜

「京都に来たら、末廣の鯖寿司は外せませんな。ちょっと値段は張るけど、それだけの価値は十分あります」
京にお住いのグルメ目利きの調布先生がかつてこう言ったことがある。
「でも、買ったその日に食べてはいけませんよ。一日置いてからの方がうまくなる。でも、鯖は足が速いから気を付けなされ。イッヒッヒ」

         末廣ノレン 
         日本の鯖寿司の頂点

「末廣」は江戸時代は天保年間に創業。鯖寿司の最高峰として、京都の沈み込むような闇の中で「創業当時のままの製法」を守りながら、「京寿司」の灯りを点しつづけている。このところ財政事情が緊迫しつつある彦作村長と村民2号は念のためにガイドブックを見て、値段をチェック。「さばずし 1850円」と書かれていた。3000円は覚悟していたが、1850円! 村長と村民2号は手を取り合って、すぐに予約の電話を入れた。「1本、お願いしまーす。夕方の6時に取りに伺いまーす」。

その日の夕飯は、どこか居酒屋にでも入って、おばんざいを楽しむつもりだった。
「夕飯は予算は3000円まで。お銚子は一本以内。わかってるわね」
宮仕えを終えて以来、村民2号の「無駄遣い撲滅運動」が厳しさを増している。村長の稼ぎが悪いので、それも致し方ない。末廣の鯖寿司は一日置いて、翌日の楽しみにするつもりだった。

                末廣③ 
        老舗のまさかの佇まい

寺町二条の「末廣」を探し当てる。ボーっとしていると通り過ぎてしまうほど、小さな店構え。入口に灯りが置いてあり、紺地に白抜き文字で「末廣寿司」と書かれたノレンが下がっている。いい佇まいだが、何だか下町の鯛焼き屋みたい。「いなりずし 770円」という実物のケースもどこか安っぽい。老舗の京寿司屋とはとても思えない。

「入口は狭くて質素、しかし奥が深い」
彦作村長が独り言のようにつぶやく。京都の知恵と伝統をここも守っているということなのかもしれない。
「村長、ちょっと変よ。さばずし3700円って書いてあるわよ。ガイドブックと違うんじゃない?」
「うむ」
中に入ると狭い空間の左手に小さな質素なテーブルが二つあり、右手が厨房のようだ。
「お待ちしておりました」
「おいくらですか?」
「3700円です」
「1850円では?」
「はっ? ああ、それは半分のお値段どす。店では半分でもお出ししてます」
「・・・・」
                末廣⑤ 
         一本3700円ナリ

空が落ちてきた。夕暮れなのに真っ暗だった。
「なんで、半分で結構ですって言わなかったのよ」
「予約しておいて、それはできないよ。それにしても何というバカ。末廣の鯖寿司がそんな値段で買えると思った浅はかさに付ける薬はない」
「もう、見栄っ張りなんだから。夕飯のおばんざいは中止。ホテルに戻ってこの鯖寿司で夕飯にしましょ」

頭を切り替えて、コンビニで一番安い冷酒を買って、調布先生も太鼓判の棒ずしを賞味することにした。よく考えてみれば、これこそ最高のぜいたくではないか? 目の前の見事な竹の皮にくるまれた鯖寿司を見ながら、茶碗に冷酒を注ぐ。
3700円分の思いを込めて、竹の皮をそっと開ける。見事な鯖の棒ずしが横たわっていた。鈍く青光りした鯖は厚い部分でゆうに1.5センチはあろうかと思えるほど。それが半透明な最高峰の昆布「求肥(りゅうひ)昆布」にくるまれている。見事な姿態と表現するしかない。少し前の松坂慶子みたい。

         末廣⑥ 
         鯖は読んでまへん

         末廣⑦ 
         なんという厚み、存在感

ひと口。酢と塩加減がほどよい脂の乗った鯖、やや甘めの酢飯、柔らかい昆布。うまいにはうまいが、最初の印象は酢と塩が効きすぎているかな、だった。日本酒でノドを洗い流しつつ、またひと口。次第に口の中で1+1+1が絶妙に溶け合ってきて、それが3になり、4、5となっていくのを実感する。鯖臭さがまったくない。  

「うまいわ。鯖の甘みと酢飯の甘さがこれだけマッチしているのは凄いと思う。これまで食べた鯖寿司とはひと味は違う。店の人は今日中にお召し上がりくださいって言ってたけど、調布先生の言葉を信じて、少しだけ明日まで取っておきましょ」
「そうしよう。全部で12切れあるから、3切れだけ取っておくことにしよう」

        末廣11  
        こちらは真ん中あたり

        末廣10 
        こっちは尻尾の方。薄い?

「だけど、醤油くらい付けておいてほしいなあ。電話で予約した時は付けておきますと言ってたのに。醤油好きの村長としては少し悲しい」
「私は醤油は付けない方がうまいと思うわ。でも、忘れるのはよくない。そこだけサバを読まれた」
「・・・・・」

翌日、取リ置いた3切れを賞味。調布先生のアドバイスは正しかった。味がまろやかみを増していた。足の速い夏はどうかと思うが、今の季節から冬にかけては一日置いた末廣の鯖寿司は絶品だと思う。
「ギリギリが一番うまいんです。フグの肝もぎりぎりだからうまい。危ないと紙一重のギリギリ。それが旨いものに対する義理と作法というもんです。ギリと義理は大事にしないといけませんよ。ヒッヒッヒ」
調布先生の茶渋のような声が、鯖寿司の中から聞こえてきた、ような気がして、彦作村長は大きなくしゃみを二つした。



本日の大金言。

海のない京都のなれずし文化はここまで洗練されている。末廣の鯖寿司。ガイドブックに鯖を読まれないようにすることもこっそり教えてくれる。


            末廣① 

パリもかすむ進々堂の仰天モーニング

 京都には来るたびに新しい発見があるが、「進々堂のモーニング」には驚かされた。午前7時半。パン好きの美熟女村民2号が、バカ高いホテルのバイキングをパスして、「外の空気を吸いに行きましょ」と彦作村長のデリケートな耳を引っ張った。
「朝食で1700円なんて、村長の稼ぎじゃ無理よ。第一、朝からそんなに食えない。相撲取りじゃあるまいし」
「昨日は豆大福を食い過ぎた。あんたの好きなパンとコーヒーのいい店を探すのもいいかもな」
「村長もようやくわかってきたわね」

天気がよかったせいもあるが、早朝の河原町三条周辺は気持ちがいい。300メートルほど歩くと、パン屋が見えてきた。ガラス越しにうまそうなパンが並んで、喫茶コーナーが広がっている。それが「進々堂」だった。京都でも有名な老舗のパン屋さんだが、彦作村長はこれまで入ったことがなかった。入り口にモーニングメニューが置かれている。まるでパリの街なかのカフェ。隣から「ボンジュール」という挨拶が聞こえてきそうだ。京都とパリは似ている。しかも、京都の方が歴史がある。

         進々堂② 
         ここはどこ?わたしは誰?

「ここにしましょ。スペシャルブレックファーストに決めた」
940円でメイン料理とパン・コーヒーが自由にお代わりできる。安くはないが、ホテルと比べると、はるかにリーズナブル。店内は熟年の白人カップルが3組ほどと日本人の若い女性客が4~5人。一人で黙々とモーニングを食べている藤村俊二みたいな謎のオッサンもいる。料理はスクランブルエッグを選んだ。

ウエートレスが3人ほど、差し込む朝陽の中を、小鳥のように動き回っている。中にはチャボみたいな子もいたが。ウエートレスがまずコーヒー。次に大きなバスケットに入った焼き立てのパンを持ってきた。「お好きなものをどうぞ」。「キミ」。村長が冗談を言うと、危険物を避けるようににこやかな笑みを返すだけだった。村民2号は完全無視。この空気投げがたまらない。

          進々堂③ 
          ボンジュール、おこしやす

進々堂は大正2年(1913年)創業。初代の続木斉が日本人として初めてのパン留学生としてパリに渡った。2年間ほどパリで修業。帰国後、日本で初めてフランスパンを製造販売。昭和5年(1930年)、京大北門前にカルチェラタンの日本版「カフェ進々堂」を建築。そこは若き日の湯川秀樹も通ったという歴史的なカフェ。現在は別法人になっているが、京都のパンは進々堂の歴史とともにあるといっても過言ではない。

食い意地の張った彦作村長と村民2号は10週類ほどあるパンの中からクランベリー、モロヘイヤ、プリオッシュ、クリームチーズ、バターロール、クロワッサン、さらにフランスパン生地にうぐいす豆が練り込まれたパンをそれぞれ選んだ。「全粒粉」を使っているのもパンの本道を行っている。

         進々堂⑥  
         焼き立ての全粒パン

         進々堂⑦ 
         うぐいす豆入り、よろしおす

「うまいわ。私はマカデミアとクランベリー入りが気に入っちゃった。コーヒーもホテルと遜色ない。サラダも新鮮だし、スクランブルエッグとベーコン・ソーセージもいい。これで940円というのはすごーく得した気分」
「ご飯食べたい。おにぎり食べたい。梅干し食べたい。番茶を飲みたい」
「死ぬまで言ってれば?」

京都人にとっては進々堂のモーニングは驚きではないだろうが、関東のへき地「ウマズイめんくい村」からオノボリしてきた村長にとってはこの雰囲気とこの内容でこの値段は仰天である。ギョーテンモルゲン・・・あれっ、ドイツ語になってしまった。またも京都、恐るべし。

         進々堂⑤ 
         文句ありまっか?        

本日の大金言。

フランスパンが日本では京都から始まったことを知っている人は少ない。ひょっとしてノーベル賞受賞が京大出身者に多いのも、京都が持つ進取の気性が土壌にあるかもしれない。

              進々堂① 


行列に並んで「出町ふたばの豆餅」品定め

 京都に来て「出町ふたばの豆餅」を避けて通るわけにはいかない。「豆大福」を堂々と「豆餅」と称する店は、日本広しといえどもここくらいだろう。関東では虎ノ門岡埜栄泉、護国寺の群林堂、原宿・瑞穂が彦作村長の中では図抜けた豆大福御三家である。だがしかし、友人の和菓子好きがかつてこう断言した。

「和菓子は京都を抜きにしては笑われます。京都は上生菓子屋ばかりではありません。まんじゅうや最中を出すおまん屋さん、そして餅菓子中心の餅屋がありましてね。豆大福は餅屋さんですが、中でも出町ふたばの豆餅はピカイチ。これを食べずして、豆大福について語るなかれ、です」

          出町ふたば① 
          まず並べ。考えるのはそれからだ

「売れ切れたらおしまい」と聞いていたので、午前11時前に、その「出町ふたば」に到着。すでに40人ほどが並んでいた。聞きしに勝る人気ぶりである。店は行列さえなければ、ごく下町の派手で庶民的な和菓子屋さん。虎ノ門岡乃栄泉や群林堂、瑞穂のようなある種の格調の高さはない。女性の店員さんが4~5人で忙しそうに客の応対をしている。奥では男性の職人さんが6~7人で、豆餅に餡を入れる作業をしている。

ターゲットの「新豆赤えんどう 名代豆餅」(1個170円)と「栗みな月」(抹茶200円)を2個ずつ買った。創業は明治29年(1899年)と京都ではそれほど古くはない。初代は石川県の米どころから京都に来て開業。故郷の豆餅にあんこを入れて売り出したところ、評判を呼び、加賀の豆餅を京都に広めたという。現在は4代目。

         出町ふたば③ 
         甘い関係、甘い誘惑

ホテルに戻って、ウワサの豆餅と直にご対面。
「はじめてお目にかかります」
「なんやあんた、今ごろ来るなんて。けったいなお人やな」


          出町ふたば④ 
          偉大なる豆餅

大きさは小ぶりである。直径5センチほど。虎ノ門岡埜栄泉の豆大福と比べると、まるで横綱白鵬と舞の海、いやそれ以上かもしれない。オーバーではなく半分くらいの大きさ。特徴的なのは赤えんどう豆が目立つこと。森羅万象に通じている京都の超人・調布先生がかつて「東京の豆大福は豆がダメ。岡埜栄泉も瑞穂も群林堂も赤えんどうが柔らかすぎる」とバッサリ斬っていたことを思い出した。今回、出町ふたばについて感想を求めたら、「ああ、あそこね。まあ観光客用の店。行列などしたらダメですよ」とこちらもバッサリ。

とりあえず真ん中から切って、賞味してみた。見事なこしあん。甘さは控えめで、くどさのないきれいなこしあんだ。極めて珍しい例だが、砂糖だけで塩をまったく使っていないそうで、そこに店主のこだわりを感じる。北海道十勝産のいい香りが吹き上がってくる。驚くのは餅の柔らかさ。手で引っ張ってみるとどこまでも伸びそう。もともとが餅屋なので、餅に対するこだわりは半端ではない。最上級のもち米を蒸し上げてから、普通の丸餅の倍以上の時間をかけてつくという。塩が少々入っていて、これがピュアなこしあんと実によくマッチしている。


         出町ふたば⑤ 
         おこしやす、こしあんどす

とはいえ、敢えて言うと、こと餅に関しては、彦作村長は虎ノ門岡埜栄泉に軍配を上げたい。好みもあるが、その柔らかさにさらに凄味があると思う。

だが、特筆したいのは赤えんどう豆。これが実に大きくて、しかも固め。この固さが絶妙で、岡埜栄泉や群林堂、瑞穂より1ランク上と見た。京都の赤えんどう豆がすべてこのレベルなら、調布先生の辛口評論も納得せざるを得ない。餅、あんこ、赤えんどう豆。この三位一体のうまさは「さすが」と言うべきだろう。行列ができるのも不思議ではない。


         出町ふたば⑧ 
         月と大納言

「栗みな月」はそれなりのうまさ。豆餅ほどの甘い衝撃はない。大納言と栗がもっちりした抹茶ういろとさっぱりとした三角関係を作っている。賞味しているうちに美熟女の村民2号の分まで食べてしまったことに気づいた。たらりと冷や汗。
「満足でしょ? どうせ村長も三角関係を作りたいんでしょ。甘い三角関係をお望みならいつでもどうぞ」
目が三角になっていた。天国特派員のチャイ、た、たすけてくれー。



本日の大金言。

東の虎ノ門岡埜栄泉、西の出町ふたば。たかが豆大福、されど豆大福。あんこ道に終わりはない。



              出町ふたば② 


猫ひろし?「京焼きそば」にハマってしまった

 冬姫が眠る知恩寺瑞林院に墓参に行った帰り、歩数計を見たら早くも9000歩近くなっていた。時計を見ると午前11時を回ったばかり。見上げると抜けるような青空。美熟女の村民2号の周辺で虫が鳴いたような気がした。
「ねえ村長、お腹すかない? 昨日は2万歩を超えたわよ。今日はそれ以上行くかもね」
「腹が減っては戦ができぬ。戦ができぬと足腰が弱る。足腰が弱ると、病気になる。病気になるとお金がかかる」
「病気になっても私は面倒見ない」
「うむ、では昼飯探しの旅に出るとしよう」

         百練① 
         いい店、めっけ

河原町周辺まで歩いていくと、裏道好きの彦作村長が柳通りと書かれた路地裏ににひょいと入り込んだ。B級独特ののいい匂いがした。
「ここにしよう」
「百練」と書かれた看板。店は2階。すぐ横のボードに「ランチメニュー」が・・。「京焼きそば450円」がおいでおいでをした。
「京焼きそばなんて聞いたことないわね。百練って百回練るという意味かしら」
「訳がわからないところがいいね。450円というのもありがたい」

                 百練② 
         狭い間口

木のドアを開けて、狭い階段をトントンと上っていくと、中は、カウンターがあって、奥が広い。「牛スジ煮込み」とか「テッチャンキャベツ焼」といったメニューが飛び込んできた。若い女性店員がはつらつと動いている。すばやく店内をチェックする。店内は開放的で明るく、どこか市場の定食屋か居酒屋のような雰囲気だ。カウンターの奥では中年のオヤジさんが料理中。まだ正午前だというのに、地元の(?)女性客が3組ほどランチしている。かなりのボリュームの肉料理をがっつり食べている若い女性もいる。

「京焼きそば、単品でお願いします。あ、それとだし巻も単品で」
村民2号は「カレーライスの大盛り」にでもするのかと思っていたら、突然、しおらしい声で「私も京焼きそば、お願いします」。
「せっかくの減量のチャンス。逃してなるものか。それにここは京都なのよ」

         百練③ 
         うまそうなだし巻きだが・・・

「だし巻き」(500円)がやってきた。きれいな4切れ。大葉と大根おろし。この店のオーナーは関西では知る人ぞ知る「酒場ライター」バッキ―井上氏というお方。京都生まれの京都育ちで、錦市場で漬物屋も経営しているとか。
「だし巻き」は京都の代名詞みたいな料理で、彦作村長も京都に来るたびに、錦市場でだし巻きを買うのを楽しみとしている。
だが、目の前のだし巻きは平凡としか思えない。家庭で作る卵焼きのよう。計算尽くしでわざと野暮ったくしている可能性もあるが、京都のだし巻きに感じる奥行きは感じられない。村長の舌がおかしいのか?
「ここは夜来るべき店なのよ。きっとひと味もふた味も変わると思うわ」
「そうかもな。酒なしで、あれこれ言っちゃいけない」

        百練⑨  
        おおきに、京焼きそばどす

        百練⑧ 
        この見事な花削り

お目当ての「京焼きそば」はかなりイケた。見事な削り節が黄色い細麺の焼きそばの上に羽衣のように舞っている。塩で味付けしてあり、細かく刻まれた牛スジとイカが麺に絡み合い、それが一見単調な味わいに奥行きを与えている。九条ネギの緑と赤紫のプツプツも見た目を楽しませてくれる。何かと思ってよく見たら、正体は柴漬けだった。これもいいアクセントになっている。
「これはうまいわねえ。何とも言えないやさしい味。麵もコシがあって、歯切れもいい。量もちょうどいい。見た目はシンプルなのに、よく考えられているわ」
「これも一杯飲んだ後に締めに食いたい一品だね」
「また夜くるつもりでしょ?」
「・・・・・・」

         百練⑦ 
         ここにも京都が・・・

村長の頭に突然、猫ひろしの姿が浮かんできた。猫に鰹節。というより、この小さくまとまった京焼きそばのユニークさが猫ひろしを連想させたのかもしれない。村長はかつての猫ひろしのファンだ。マラソンでオリンピックを目指すなんて、自滅行為になぜ走ってしまったんだろう? 「らっせらー、らっせらー、ポースマス、ポースマス」の頃の危うい奇芸人・猫ひろしに戻ることはもはや不可能かもしれない。猫ひろしを飼い猫にしてしまったのは誰か? まだほとんど無名だった頃の猫ひろしはもういないが、村長は野良猫になって復活する日を待っている。京焼きそばと猫ひろし。ちょっと強引だったかな?


本日の大金言。

京焼きそばはバッキ―氏の発案のようだ。京都は歴史と伝統の街だが、進取の街でもある。300年後、京焼きそばが伝統になっているかもしれないぞ。

                 百練⑤ 

京都の超人気甘味処でビールあんみつ

 「あしたは祇園の白川沿いにある超人気甘味どころにぜひ行きたい」
あんこマニアでもある赤羽彦作村長は、京都にお住いの調布先生にお願いして、「ぎをん小森」に案内してもらうことにした。
「あっ、お上りさんが行くところね。彦作村長も趣味が多才ですな。ひっひっひ」
京都の裏の裏まで知っている調布先生が、うれしそうな表情になった。

           小森あんみつ⑤ 
           ああ、京都に来た

昨晩は調布先生の邸宅近くにある「旬菜 咲や」で、「おまかせコース」(3500円)を賞味。そこはガイドブックに載っていない店で、その内容のあまりの凄味に脱帽、京都の奥の深さに改めてため息を漏らすしかなかった。
「あれで3500円なんて嘘みたい。倍の値段を請求されても全然不思議じゃないわよ。あんな店を知っている調布先生って、ホント不思議な人ね」
ホテルに戻るバスの中で、ほろ酔い気分の美熟女村民2号が、いつもの辛らつをどこかに忘れてきたようにポツリと言った。
「ガイドブックに載っている店なんて、載った瞬間からダメになる。調布先生もそう言ってたけど、ホントかもな」

         小森あんみつ④ 
         おいでやす

さて、甘味どころ「ぎをん小森」。南座から花見小路、祇園界隈をひと通り散策した後、新橋ふもとで、調布先生がニヤリとした。
「ここですわ。先日もYさんをお連れしたばかりですわ。感激してはりましたよ。ひっひっひ」
歴史のあるお茶屋を一部改装して使ったという見事な建物。白地のノレンをくぐって中に入ると、まずは靴を脱がなければならない。右手には脱いだ靴を置く小部屋、左手にはお土産のスペース。香が漂う中を中居さんに案内されて、黒光りした廊下を行くと、坪庭が見える大部屋に案内された。映画のワンシーンの中にでも入ってしまったような錯覚に陥る。

午後4時を回っているというのに、若い女性客でにぎわっていた。見渡すと、なぜかほとんどが「抹茶ババロアパフェ」(1200円)などパフェ類を味わっている。和の甘味どころでパフェ。全体的に値段がかなり高めだが、雰囲気代と考えればそれも仕方がない。このあたりの演出が経営者の狙いであることはすぐに理解できる。いわばレプリカの世界。

         小森あんみつ① 
         小森のおばちゃま・・・

村長は「小森あんみつ」(1200円)を注文することにした。村民2号は珈琲(750円)。調布先生はなぜか「瓶ビール」(付出し付き、1260円)。
「こういうところはビールにするのが一番。他のもんは高すぎますわ」

「小森あんみつ」はあんみつに丹波栗、抹茶のアイスクリーム、くずきり、白玉が載っている人気メニューでもある。蜜は黒蜜か抹茶蜜を選べる。村長は黒蜜にした。来た、来た。見事な清水焼の器に入った特製あんみつ。きれいな丹波の新栗が二つ。いい色具合の北海道十勝産の小豆がどんと鎮座している。抹茶の寒天が顔見せに現れ、そこに抹茶のアイスクリームと白玉が「おいでやす」と両手をついている。くずきりも月(栗)を取り巻く雲海のように漂っている。

         小森あんみつ② 
         この小豆あんの見事さ

         小森あんみつ③ 
         丹波の新栗は絶品だった

建物から何からすべてが疑似ワールドのよう。「こういう世界が皆さんが望んでいる京都なんでどすえ」という最大公約数を凝縮しているようだ。寒天が器にくっついてしまうのは減点だが、小豆あんはボリュームもありうまい。栗が絶品。抹茶アイスもトロリとしていて濃密。くずきりも白玉もそれなりにおいしい。

「どうですか。京都はあらゆるものが人工的なんですよ。自然から何からすべて人の手が入っている。人の手が入ってないのは空くらいなもんです」
付き出しのちりめんを口に運びながら、ビールで少々赤くなった調布先生が深い話をさらり。レプリカの京都。目の前の一足早い紅葉が「ぐひひひ」と愉快そうに笑った。彦作村長もガハガハとバカ丸出しで笑った。村民2号の困惑が広がった。そこだけレプリカではなかった。



本日の大金言。

ガイドブックに載っている京都もそれなりに楽しい。しかし、本当の京都はその陰に隠れている。


              小森あんみつ⑥ 

完敗!京都のにしんそばにダマされた

某秘密ペンクラブの仕事をかねて、 3泊4日で久しぶりに京都に旅をしてきた。その間、この「ウマズイめんくい村通信」を休んでしまった。申し訳ない。腰痛を押して、毎日、2万歩近く歩いた。京都を丸かじりするのは不可能だが、端っこの端っこのそのまた端っこくらいにはかじりついてきたつもりだ。うまいもの探しや小ネタを拾いまくり、その反動で、最後の一日は、体中が悲鳴を上げて、安ホテルのベッドに突っ伏す羽目になってしまった。

何はともあれ、京都。その時空を超えた迷路。赤羽村長はパリも好きだが、5月に行ったパリと同じ人間の業と怨念と鎮魂の匂いがした。美熟女の村民2号も腰ぎんちゃくのように付いてきた。
「何、言ってんの。付いてきたやったのよ。村長が羽目を外して、大恥をかかないように。第一、一人じゃ何にもできないでしょ」
少々痛いが、毒矢は黙って受けるに限る。

         京都にしんそば① 
         まるで居酒屋

先斗町の脇道、そこにいい雰囲気にくすんだ赤ちょうちんが下がっていた。「生そば」という文字が夕闇に浮かんでいる。そこだけ先斗町の賑わいからポツネンと離れているような印象。B級の旨いもの屋を探して、足が鉛になりかけたとき、「ここにしましょ」と村民2号。「河道屋 銀華」というノレン。場所が場所だけにあまり期待せずに入った。5人が座れるほどのカウンター席とテーブル席が三つほど。何となく場末の居酒屋にでも紛れ込んでしまった気分。知識がないというのは恐ろしい。テーブルの汚れなどから「ここはハズレだな」と思った。

         京都にしんそば②  
         この板わさが曲者だった

「すいません、テーブルを拭いてください」
と男性の店員さんにお願いする村民2号。見渡すと、カウンターの奥では店主なのか、中年の板前さんが天ぷらを揚げている。その姿は、きりりとしていた。よどんだ店内との落差。うーむ。彦作村長は、まずは「板わさ」(500円)と「ひや酒 玉乃光」(1合750円)を頼んだ。これが実にうまい。わさびが下ろし立ての本わさびだったことも意外だった。玉乃光で板わさの余韻を洗い流してから、「にしんそば」(1150円)を注文。村民2号は「いい値段ねえ」とぶつぶつ言いながら「親子丼」(1100円)を注文した。

          京都にしんそば⑥
          何という薄くち、シンプル!

          
京都にしんそば④ 
          一見、うまそうに見えない

「にしんそば」は京都に来たら、一度は食べなければならない。「ここはひょっとして、いい店かもしれないぞ」彦作村長は、迷宮にでも入り込んだ気分になりかけていた。このあまりに庶民的な居酒屋風の佇まい。その落差。にしんそばがやってきた。一見安手の大鉢風どんぶりに大きなニシンが乗っている。その下のソバはどこか頼りなげ。生姜と刻み葱がちょこん。つゆも見るからに真水に近い。まるでわびさびの世界をそのままそばにしたよう。

つゆをひと口。うーむ。何という薄くち! 少々物足りないな。そう思った瞬間、じんわりと出汁の奥深い世界が村長の傲慢に容赦なく襲いかかってきた。「あんたは何も知らん」そう表現するしかないささやきが舌の根元あたりから、じんわりと聞こえてくるようだった。よく耳を澄まさないと通り過ぎてしまいそうなほどのささやき。こんなに薄くちで、これほどのさり気ない奥行きを感じさせるそばに出会ったのは初めての体験だった。

          京都にしんそば⑦ 
          この棒煮にしん、うーむ

そばは多分二八だろう、切れというより、ほのかな柔らかな、ぼそっとした歯ごたえ。そして、棒煮した乾物にしん。「ハズレだな」が完全に覆ってしまった。醤油と出汁と砂糖などでじっくりと時間をかけて、甘辛く煮込んだことがすぐに理解できる。そのあまりに自然な味わい。遠いにしんの香りと物語。そこには化学調味料などかけらも感じられない。シンプルの極みと言いたくなってしまった。それらが三位一体となって、口中に入り込み、「別に知らなきゃ知らないでええどすわ」そうささやきながら、無知で傲慢になりつつあった彦作村長を別次元に誘うようだった。

         京都にしんそば⑨ 
         わびさびの世界だよ

「こっちもうまい。見た目は無愛想にくすんでいて、うまそうじゃないけど、とんでもないわ。このダシのきき方、こんな親子丼ってあまりないんじゃないかな。ジワジワくるうまさよ」
親子丼を味わいながら、村民2号も、最初の印象を撤回し始めた。
「量より質ね。でも、みそ汁くらい付けてほしい。これはどうにかしてほしいわ」
「でも、びっくりだな。入口は狭くて中に入ると奥が深い。ホント、京都って底意地が悪いよ。この店にも完敗だ」

          京都にしんそば⑤ 
          ダマされてしまった

後で調べたら、「河道屋」は総本家、ノレン分けなどで、京都でも老舗の蕎麦屋であることがわかった。創業は享保8年(1723年)。今回たまたま入ってしまった「銀華」は明治35年(1903年)、総本家から分家。当代が3代目ということ、河道屋の中でも敷居を低くしている店であることなどもわかった。古びた赤ちょうちんに「生そば」というのも、創業当時のまま。作り方も味も昔のままだという。「蕎麦」と書かずに「そば」。京都、恐るべし。



本日の大金言。

千利休のわび茶は、余分なものを究極までそぎ落とし、精緻を極めた理不尽なほどシンプルな世界。一見汚い赤ちょうちん居酒屋を装うそば屋の奥の間には「修業」という言葉が延々と続いているようだった。


            京都にしんそば10 

「埼玉の歌舞伎町」で「へぎそば」に出くわす

 「へぎそば」を初めて食ったのは東京・上野の「越後屋」だった。宮仕え時代に北海道出身のフリーライターが「酒、魚、それに面白いソバがある店に行きませんか? 美女はいないけど(笑い)」と電話をかけてきた。美女がいないというのは気になったが、おおむね異議なしだった。JR御徒町駅で待ち合わせて、「越後屋」へ。そこで日本海の旨いブリと地酒を堪能、最後に締めで「へぎそば」なるものを食べた。これまで食べてきたソバとは盛り付けからして違った。3人前が長方形のへぎ(片木)にひと掴みずつきれいに盛られていた。少々緑がかっていた。

「布海苔という海藻を練り込んだそばでね。新潟ではそばというとこれなんだよ。結構うまいんだよ。第一、身体にもいい(笑い)」
飲み過ぎで、怪獣トドのようになったフリーライターがウンチクをひとくさり。実際食べてみると、かすかに海藻の香りがして、食感がつるりとしていて、案外うまかった。

約20年後、赤羽彦作村長は、ランチタイムに大宮東口の南銀座通りを歩いている。ここは大宮の歓楽街で、夜は呼び込みも多く、まるで一時期の歌舞伎町のよう。昼でも結構な賑わいで、歓楽街を昼間に歩くのが趣味でもある彦作村長は、おバカな野良犬みたいに路地に入ったり、祭りの後のような雑居ビルのけだるさを、「ふむふむ」などとつぶやきながら、楽しんだりするのだった。

         へぎそば⑤ 
         店構えはいい雰囲気

「へぎそば処 呑み処 越後」という看板が目に止まった。看板がいい。打ちっぱなしのビルのコンクリート階段が2階へと続いていて、藍染のノレンが下がっている。ふと見ると、「越後のランチ850円」というメニューが張り出されていた。へぎそばとセットになっている。店内はかなり広く、木のカウンターとテーブル席、座敷が田舎家のような雰囲気を醸し出している。少々どんよりした空気は、ここが呑み処でもあることを教えてくれる。

メニューから「へぎそば 天ぷら付」(850円)を注文。へぎそばは何人かで片木(へぎ)に入ったものを食べるのが一番だが、本日は村長一人。そのため、あの独特の盛り付けを楽しむことはできないのが残念。待つこと15分ほど。板前さんが天ぷらを揚げ、へぎそばを茹でているのがわかる。もちろん手打ち。注文してから作る。〆張り鶴(650円)や八海山(600円)、久保田(650円)、越乃寒梅(800円)といった新潟の地酒が並んでいる。猫に鰹節、村長に地酒。特に〆張り鶴好きの村長にとって、ノドからほとんど手が出そうになる。明日は胃カメラなので、ここはじっと我慢しなければならない。

         へぎそば⑥ 
         見た目はもりそばだが・・・

来た。見た目はほんの少し緑がかっているが、普通のもりそばのよう。しかし、食感がやや違う。ツルツルとコリコリがいい感じの歯ごたえ。海藻の匂いがほとんどしない。汁は鰹節がよく利いたしっかりした味。へぎそばの特徴をかなり抑えているが、これが評価を分けるのではないか。山葵(わさび)が摺った本山葵のようで、これは好感。

         へぎそば③ 
         これがへぎそば

         へぎそば④ 
         食感がコリコリ

「うちは自然なつくりを大事にしてます。そば粉は小千谷のものを使っています。小嶋屋さんはもっと緑っぽいようですね」
カウンターの近くにいた和服姿の女将さんがさり気なく話す。この場所に店を構えて13年になるという。小嶋屋はへぎそばの名店。女将の意地を感じる。大事なことだ。天ぷらはエビ2本とピーマン1個。コロモがやや多いが、カラッとしていてまずまずの旨さ。

だが、と村長は思う。ここは夜数人で来るに限る。タイムトンネルで20年ほど前にさかのぼってしまったような店の雰囲気に、彦作村長は、この「大宮の歌舞伎町」でノレンを守っていく困難さを思った。支払いを終えて店を出ると、若いサラリーマンやOLが、派手なチェーン展開の店からドドドッと出てきた。彦作村長はツマヨウジをくわえながら、電車に乗り遅れてしまった中年サラリーマンのような気分で、彼らの後ろ姿を見つめた。

               へぎそば①  

本日の大金言。

へぎそばは越後では江戸時代から食べられているという。伝統郷土料理の一種だ。いまいちメジャーになれないところにこそ価値があると思う。

絶妙な繊細、草刈民代のような塩ラーメン

 「塩ラーメン」は函館が有名だが、醤油ラーメンや味噌ラーメンとはひと味違ううまさがある。かつて自分のことを「谷間のラーメン屋」とやや自嘲気味び表現した総理がいたが、中曽根さんと福田さんという強力なラーメン屋・・・いや総理経験者に挟まれた自分の立場をユーモアで切り返したものだった。

醤油と味噌の二枚看板に比べると影が薄いが、そのシンプルな塩ダシの味わい深さに根強いファンも多い。赤羽彦作村長もその一人である。中でも東京・北千住の「子竜(こたつ)」は好みの店。東口を出てすぐ、高架沿いにバーやラブホテルもある並びにひっそりと咲いている。それだけで彦作村長の胸は躍る。午後9時過ぎ、ジャズバーでバーボンのオンザロックを飲みながら、ダンディーなマスターとバカ話を楽しんでから帰途に着くと、駅ビル・ルミネの前で、突然のように「子竜」のラーメンが食べたくなった。

          子竜ラーメン① 
          入口は凝ったつくり

中年のカップルが千鳥足でラブホテルに入っていくのをちらりと見ながら、村長は、店内がコンクリートの打ちっぱなしのデザイン的にはニューヨーク的な「子竜」に入った。10人くらいしか座れない木のカウンター席に腰を下ろす。うまい店なのに客が一人しかいない。ジャズが流れている。店主は30代後半くらいか。ひょっとして40代かもしれない。見た目は若い。無駄口を叩かず、黙々とラーメンを作る。聞くところによると、葛西の人気店「ちばき屋」で修業したそう。

          子竜ラーメン③ 
          シンプルな立ち姿・・

「塩ラーメン」(650円)を注文。5~6分で、久しぶりの塩ラーメンが目の前に姿を現した。白濁した半透明のスープ。鶏ガラで取ったスープは少なめで、ほんのりと脂が浮いている。細ちじれ麺(多分自家製)がきれいな身なりで正座している。うまそうなピンク色のチャーシュー、よく煮込まれたシナチク、海苔、それに白髪ねぎがいい具合にシンプルを装いながら、脇を固めている。姿のいい塩ラーメン、そう表現するのがぴったり。

         子竜ラーメン④ 
         この繊細・・・

まずはスープをひとすくい。最初のアタックは薄味ですっきりしている。それが次第にコクと奥行きをじんわりと感じさせてくる。麵はかなり細麵が、シコシコしていて、彦作村長の好きな食感である。さりげない中に奥深さを秘めた職人芸。シナチクもいい具合の歯ごたえ。チャーシューは柔らかくてジューシー。ただ、村長の好みとしては、もう少し厚みが欲しい。チャーシューがあと2ミリ厚かったら、ほとんど完ぺきではないか。それが少々残念。白髪ねぎがシンプルな貴婦人のようで、シャキッとした食感が、いい塩出しのスープと麺のコラボにさらにいい色合いをもたらしている。

繊細な芯のある塩ラーメン。一瞬、どんぶりの中で、女優でバレリーナでもある草刈民代が踊り始めたような錯覚を起こしてしまったほど。何よりも今流行している極太麵とギタギタ脂と魚粉入りのドロリとしたラーメンとは明らかにポリシーが違う。野蛮と繊細。化学調味料と無化調。チャーシューさえもう少し厚みがあったなら・・・。

         子竜ラーメン⑥ 
         草刈民代が踊り出す・・・

         子竜ラーメン⑦ 
         もう少し厚かったら最高なのに

「自家製のからしを入れてみてください。また別の味が楽しめます」と無口な店主。その自家製からし(ラー油)を加えてみた。確かに辛みが増して、別の味わいが楽しめる。たまたまなのかもしれないが、これで、なぜ客が少ないのか。 全体的なインパクトに欠けるということなのか? 秘すれば花、の世界の奥行き。この「さり気ない味わいと気遣い」、どこかで経験した記憶が・・・。彦作村長がよく通っていた、門前仲町の「支那そば 晴弘」に似ている。そういえば「晴弘」も「ちばき屋」の暖簾分けだったことを思い出した・・・。

         子竜ラーメン⑤  
         コタツではなく子竜

「子竜(こたつ)」という店名は、「坂本龍馬が好きだったんで、その子供という意味で付けたんです」とか。食後に出してくれたジャスミンティーを味わいながら、村長は無口な店主の背中に向かって、「派手な極太こってり系になんか負けたらいかんぜよ」と願うのだった。外に出ると、満天の星の下、ラブホテルの妖しい看板が視界の隅に入ってきた。



本日の大金言。

日本から職人が消えつつある。ラーメンの世界においても。昔は客がいい店・いい職人を育てたが、今はどうか?


                子竜ラーメン② 

謎の人気第1位「じゃが豚」を賞味してみた

味覚の大地、 北海道! 秋になると、スーパーやデパートなどで「北海道物産展」とか「北海道うまいもの展」と銘打ったフェアが目白押しとなる。彦作村長はエンタテインメント新聞社時代に、折を見ては東京・新宿の京王百貨店に足を運んだ。ここは全国駅弁フェアや全国うまいもの展の草分け的な存在。特に北海道フェアとなると、干物など魚介類から乳製品、スイーツまで、すべてがうまそうに輝いていた。しかし、不満が一つあった。全体的に値段が高いのである。それでも売れるので、北海道ブランドが強気になるのはやむを得ないかもしれない。

          北海道収穫祭② 
          人気ランキング第1位に吸い込まれる

とある夕方、贔屓にしているイトーヨーカ堂に買い物に行くと、「北海道収穫祭」の真っ最中だった。イトーヨーカ堂は「地方のうまいもの展」を頻繁に開催していて、彦作村長にとっては、ここに来るのが楽しみの一つでもある。人だかりの中をかき分けるようにして、「黒プリン」とか「南光園みそホルモン」などを物色。値段が少々高めなのは、北海道ブランドゆえだろうが、その中で「読モブロガー人気第1位」という「じゃが豚」に目が行った。

ところが、最後の1個が、タッチの差で届かなかった。太った森公美子そっくりの主婦に完敗してしまったのである。グ、グヤジイ。すごい人気なことはわかった。彦作村長は「翌日も出しますから」という店員さんの言葉で、翌日オープンと同時に再挑戦して、ようやくゲットしたのだった。12個入りで995円ナリ。安くはない。

         じゃが豚① 
         期待感がふくらむ

鍋に火をかけて、8分ほどゆでると、ピンポン玉大の「じゃが豚」が浮き上がってきた。それを弱火でさらに3分ほどゆでる。12個は2人前。美熟女の村民2号がテーブルで鼻歌を歌いながら待っている。大きめのドンブリを用意して、濃縮スープを入れ、そこにお湯を400ccほど入れる。作り方には500ccと書いてあったが、400ccのほうが村長の好み。ワンタンのような中華スープのいい匂いが漂い始める。有り合わせのもやしを湯がいて、残っていたシイタケも焼いて、赤ちゃんのおしりのようなプックリした「じゃが豚」の上からパラパラと浮かべた。

         じゃが豚② 
         沸騰したお湯に入れてッと・・・

「じゃが豚」は製造元の佃善が開発した新しい食感の食べ物。東京・府中の餃子屋さんが、中国人の話からヒントを得て、具をジャガイモで作る餅で包んだ「じゃが豚」を誕生させた。北海道のジャガイモに惚れこみ、約2年前に札幌に移住までしたという。豚肉も野菜もすべて北海道産にこだわったとか。

         じゃが豚⑥ 
         完成!このお姿にうっとり

「これはうまいわ。皮がホントにモチモチしていて、しかもツルッとしている。この感触は初めてかも。具はブタのひき肉が目立つけど、キャベツとかタマネギとかニラも入ってる。ショウガやごま油の香りもする。スープは中華屋さんのワンタンスープね」
「じんわりと胃袋に滲みこんでくるような奥深い味だなあ。これは、中華料理の一種だろうね。点心スープだ」
「おやつにピッタリと宣伝してるけど、おやつというより主食よ。ラーメンやワンタンと同じ。一人前(6個)で結構お腹いっぱいになる」
「2人前12個入りで約1000円とはちょっと高いと思う。700~800円ならコストパフォーマンスがいいとなるけどなあ」
「村長のおこづかいを減らせばいいのよ。そうすれば、2週間に一回ぐらいなら楽しめる」
  
         じゃが豚⑦
         このプルプルもっちり感

         
じゃが豚⑧ 
          肉汁がじゅわじゅわ・・・たまらん

「王様のブランチとかTVなどでも取り上げられて、話題の新食品でもある。でも、読モブロガー人気1位って、中身がよくわからない。読モブロガーって何だい?」
「私が知るわけない。独身モチモチブロガーの略かも。村長のお好きな」
「ドクの字が違うだろ。毒にもシャレにもならない。で、佃善に電話して直接聞いてみたんだ。そしたら、読者モデルブロガーのことです、とか。そこで人気1位になってるんだとか」
「ネットの時代ねえ。根拠がイマイチわからない」
「少々突っ込んでみたら、佃善の人も説明があやふやになっていた。ネットの時代ももちもちつるん、ということかもな」
「突っ込み過ぎ。こういう商品にはボケが必要よ。村長みたいなボケ・・・」
「・・・・・・」


本日の大金言。

北海道ブランド、特にスイーツ類は結構食品添加物を使っている。それでいて値段が割高だと北海道の名が悲しすぎる。もちろん、最後は消費者の選択だが。


                  北海道収穫祭③

鯛焼きにかりんとうはアリか?

和スイーツの分野でかりんとう饅頭 がある種のブームになっているが、その波がついに鯛焼きに来てしまった。「銀のあん」が「かりんとうたい焼き」(1匹200円)を発売したのは、東日本大震災直前の2011年3月7日。それから約1年半たった。1匹200円というかなり高めの値段設定にもかかわらず、黒糖かりんとうと鯛焼きのミスマッチは、その見た目のヒップホップ感もあり、特に女の子に人気を呼んでいるようだ。女子はいつの時代でも新し物好きで、黒い鯛焼きに群がるのも一つの風景ではある。

赤羽彦作村長は、「銀のあん」の「薄皮たい焼き(あずき」(150円)のファンである。ここは「築地銀だこ」と同じ経営(株式会社ホットランド)で、銀だこも村長の好みである。すっかり秋の空になった連休の昼下がり、鯛焼きの甘い香りが、利根川の風に乗って、村長の鼻腔をくすぐった。

         銀のあん11  
         かりんとうたい焼きの幟が・・・

ポンコツ車をぶっ飛ばして、イオンモールに到着。「銀のあん」に行くと、混み合っていた。鯛焼きの本格シーズン到来。「黒たい かりんとうたい焼き」の幟(のぼり)が遠くからでも目立つ。この一角はスイーツの激戦区。「銀のあん」はその中でも行列ができるほどの人気店だ。おばさんばかりでなく、家族連れや若い女性の姿も多い。若い店員さんが金型で鯛焼きを焼いている。プーンといい匂いがそこかしこに漂っている。

              銀のあん② 
      口あんグリ・・・この圧倒的な小豆あん!

あんの量が半端ではない。皮を薄く引いてから、小豆あんを入れていくのだが、金型の4分の3くらいが、北海道産のいい色具合の小豆あんに次々に占領されていく。甘い占領。そのワザと内容に見とれていると、美熟女の村民2号が、ソデを引く。
「村長、口ポカンはいけません。ウマズイめんくい村の村長としての威厳にかかわります。よだれも出かかってますよ」
「うむ、つい我を忘れてしまった。秋じゃのう」
「ボケの秋なんて、シャレにならないわよ」
「・・・・・・」

         銀のあん③ 
         「あんたヘンよ」「お前こそ」

ここらで「かりんとうたい焼き」を再点検してみるのもいい。定番の小豆あんとそれぞれ2個ずつ買って、ウマズイめんくい村に持ち帰って、賞味することにした。出来立てが一番うまいが、「かりんとうたい焼き」は冷めてもうまいと謳っているので、約1時間後の賞味となった。皿に置くと、改めて、その見事な色具合と雰囲気に脱帽してしまう。「銀のあん」が関東を中心に急成長しているのがよくわかる。中に詰まっている小豆あんが薄皮から透けて見えるような仕上がりなのだ。

          銀のあん④ 
          天下を取ってみせるよ
 
          銀のあん⑨ 
          中はうまそうなこしあん

「かりんとうたい焼き」をまずガブリ。1時間ほど経過しているのに、外側はカリッとしている。黒糖かりんとうの食感。中のあんは甘さ控えめのこしあん。村長は目を閉じて、しばし余韻を楽しもうとする。中の皮はもっちりしていて、それなりにうまい。しかし、これは鯛焼きではない。率直にそう思った。かりんとうの黒糖味が強すぎて、それがこしあんのよさを消してしまっている。ジャズの世界での、セロニアス・モンクとマイルス・デイビスのケンカを思い出した。モンクにハーモニーを求めるのは浪花節にポップスを謳わせるようなものだ。ひょっとして、かりんとうはセロニアス・モンクではないか?

このミスマッチは際物スイーツとしては実験的で面白い。だが、彦作村長は力なく首を振った。これはぶち壊しだ・・・。 

         銀のあん⑤ 
         やっぱりボクちゃんだよ

         銀のあん⑧ 
         これこれ・・中は小豆あん

口直しに定番の「薄皮たい焼き」を賞味。シッポまで詰まったいい小豆あんと表面はパリッとして内側はモチモチの皮のハーモニーが相変わらず見事。皮に含まれている一振りの塩が、小豆あんのうまさを引きたてている。香り立つような絶妙なうまさ。最近はうまい鯛焼きチェーンがどんどん増えているが、銀のあんの牙城は当分は揺るがないだろう。慢心さえなければ。

「かりんとう饅頭は揚げまんじゅうの一種だから、まだ許せるけど、かりんとうたい焼きは違うと思う。ご飯にマヨネーズをかけて食べる若者が多いけど、かりんとうたい焼きもその世代に向けて作ったのかもね。かりんとう好きの私としては、この中途半端な傾向は困る。困る困る。うまいと唸りたくなる味ならいいけど。そこまで行っていない。かりんとうだって泣いてるわよ。これに200円は払いたくない」

かりんとうファンの村民2号がかりんとうのようにプリプリし始めた。理屈になっていないが、妙な説得力がある。多分かりんとう鯛焼きがブームになることはないだろうな。もっとも、日本人の味覚が変わらない限り、という条件付きだが。



本日の大金言。

鯛焼きの世界もどんどん多様化している。そのうち鯛焼きラーメンとか、鯛焼き鍋なんてミスマッチが登場するかもしれない。


             銀のあん12 
 

古都の「訳ありざらめ煎餅」の恍惚

 関東の古都・足利市は好きな街である。室町幕府を起こした足利家の居宅跡や日本最古の学校と言われる足利学校(平成2年に復元)などがあり、鎌倉と並ぶくらいの歴史がある街でもある。彦作村長は行き詰るとポンコツ車を飛ばして、ときにふらりとこの街を歩いたりする。大好きな「古印最中」を買いに香雲堂に入ったり、蕎麦のうまい街でもあり、贔屓(ひいき)にしている「伊とう」に足を運んだり。鎌倉や川越ほどうるさい観光客も少なく、ここに来ると時間がゆったり流れていて、自分自身の来し方や行く末を自然に考えてしまう。そういう場所はあまりない。

               雷神堂⑦ 
          プーンといい匂いが・・・

秋の気配が漂う夕暮れ時、大日大門通りを歩いていて、いつもなら素通りしてしまう煎餅(センベイ)屋の前で立ち止まった。醤油を焦がしたあまりにいい匂いが鼻腔をくすぐったからだ。店の主人らしいオヤジが店じまいしようとしていた。手焼きセンベイが売れ残っていて、その焼いたばかりの余韻が周辺にまだ漂っていた。

                雷神堂⑧ 
          手焼きの割れセンベイ

雰囲気のある店だった。「雷神堂 足利店」。本店はあのおばあちゃんの原宿・巣鴨にある。とりあえず「できたて 1カップ4枚 250円」を購入。「ひと口どうぞ」とひとかけらサービスしてくれた。これがうまい。濃厚な醤油と手焼きの分厚い素朴が、バリバリ音を立てて、口中に夕焼けのように滲みこんでくる。スーパーでいつも買う煎餅とはひと味違う。

         雷神堂⑤ 
         訳ありのセンベイさん
 
さらに、村長の目がピカリと光った。「訳あり煎餅 ざらめ あうとレット」という一角をとらえてしまった。煎餅の中でもざらめセンベイは村長の好物である。しかも「訳あり」とは・・・。かつて、エンターテインメント新聞社時代に、彦作村長は大ボスと経済小説の大作家にお供して、本郷にある「訳ありの女将」の店に行ったことがある。そこで、訳ありの美人女将を見て、胸がキュキュキュンとなってしまった。以来「訳あり」という語感に敏感に反応してしまうようになってしまった。

         雷神堂③ 
         浮いてる?浮かしチーズセンベイ

訳ありざらめセンベイ! センベイにおける訳ありとは、美人女将のように「深くて暗い河に咲いた花」ではなく、単に割れているだけだが、一袋300円という安さも気に入った。「浮かしチーズ」(1枚130円)もついでに購入。ウマズイめんくい村に帰ってから、賞味することにした。

「訳ありざらめセンベイ」は、ざらめがきめ細かくぎっしりとかかっていて、センベイの焼けた香りとコラボして、実にいい歯ごたえで口の中の粘膜という粘膜に「あちきを見捨てないでくれて、うれしいよ」そうささやいてくるようだ。大きさもばらばらで、それがまた次の楽しみと余韻へとつながっていく。どんどん後を引くうまさ。後を引く恍惚・・・。

        ざらめ煎餅  
        あちきだってウマイどすえ

「浮かしチーズ」は、少々甘めの口どけのいいチーズが醤油センベイのパリパリ感と奇妙に合っている。案外、ビールのツマミにもなりそうだ。訳ありざらめセンベイほどの満足度はないが、それなりのうまさ。センベイといえば「赤坂柿山」が最高峰だと思っていたが、値段も含めたコストパフォーマンスも含めて、彦作村長は雷神堂の訳ありセンベイにすっかり骨抜きにされてしまった訳ありに幸あれ! そう祈らずにはいられない。



本日の大金言。

古都にはいつも発見がある。街にも人にもセンベイにも訳がある。人生は訳で成り立っているとも言える。


          足利学校 

桐生名物ソースかつ丼の新旧横綱対決

 食欲の秋到来で、美熟女の村民2号が張り切っている。
「もうダイエットは飽きた。この前、村長だけ会津でソースかつ丼食べてきたでしょ。ワタシもガツンといきたいなあ」
狙いはわかっている。村民2号の故郷、上州は桐生のソースかつ丼。会津と並んで関東・東北のソースかつ丼のメッカでもある。

まだ宮仕えのころ、桐生ソースかつ丼番付で「東西横綱」の一角といわれる志多美屋本店はすでに賞味していた。混み合いを避けて正午前に行ったのに、すでに順番待ちの状態で、20分ほど待たされて賞味した。定番の「ソースかつ丼」(870円)を食べたが、これが実にうまかった。会津のようにキャベツは敷いてなく、ヒレカツが4つ炊き立てのご飯の上に乗っているだけ。タレはソースの味が控えめで、むしろ新潟のタレカツ丼のように甘めだった。何より衣がサクッとしていて、肉はジューシーで柔らかく、村長の好みのやや硬めの「立ったご飯」との相性がよかった。ソースの味が強い会津のソースかつ丼とは明らかに違うソースかつ丼がそこにあった。

         桐生・藤屋食堂① 
         このB級のノリは好感が持てる
 
「では、桐生のもうひとつの横綱・藤屋に行ってみよう」
村長は越中ふんどしを上州ふんどしに改めてから、厳かに言った。
「村長、ずり落ちないように注意してね」
昔、彦作村長の父が作った謎かけを思い出した。
「越中ふんどしと掛けて何と解く? ヘタな鉄砲撃ちと解く。その心は? ときどきタマが外れる」。ヘンな親父だった。

正午前に到着。すでに4~5人ほどの客がいた。テーブル席と小上がりというレイアウトは志多美屋本店と似ている。志多美屋本店の創業は大正時代末だが、藤屋は昭和42年(1967年)と比較的新しい。その分、入口からして藤屋の方が庶民的。腕組みをした店主の等身大の看板がバラエティー番組のようなノリですっくと立っていて、やってくるお客をドキッとさせる。この主人、もともとは志多美屋本店で修業していたらしい。

          藤屋ソースかつ丼 
          横綱の土俵入り

「ソースかつ丼」(800円)を注文。入るときレジの横にあったお土産用の「揚げおにぎり」(2個200円)を試食したが、これが不思議な味だった。藤屋のオリジナルでおにぎりにカツの衣を付けて揚げたもの。ご飯をラードで揚げるという発想は面白いが、カロリーが心配な人には不向き。

志多美屋本店より70円安いソースかつ丼がやってきた。いい匂いが鼻腔をくすぐる。こんがり揚がったカツは同じく4つ。キャベツがないのも同じ。がぶりと食らいつく。志多美屋よりタレの甘さは控えめ。ソースの味は抑え気味。肉の厚さは志多美屋よりも薄く感じた。柔らかい歯ごたえ。さっぱりした味わい。みそ汁は豆腐とワカメ、それに刻み葱が浮いている。志多美屋もそうだが、しっかりダシが効いていてうまい。志多美屋はサラダがついていたが、ここはない。辛子がチューブ入りというのがちょっと気になった。

         藤屋ソースかつ丼② 
         肉はそれほど厚くない

全体としてうまいが、志多美屋本店の方が彦作村長の好み。肉も藤屋はもも肉を使用している。太もも好きの村長としては藤屋にシンパシーを感じるが、総合力と洗練度という点からも志多美屋本店に軍配を上げる。現役時代の貴乃花と日馬富士の違い。もちろん、それは好みの問題だが。

             桐生・藤屋⑦ 
             日馬富士~イ

             桐生・藤屋⑧  
             がぶり寄り

「初めはうまい!と思ったけど、次第にそっけなく感じてきたわね。食後の余韻も、ちょっと引っかかる」
「まあ、ノレン派と大衆派の違いということかな。桐生では一、二を争う人気店だけど、そのスタンスに違いがある」
「日馬富士が精進して貴乃花を超える可能性もあるしね。でも、ホント、日馬富士がお腹に入ったみたいで、もういっぱいいっぱい」
村民2号がマワシ・・・じゃなかったお腹周辺をポンポンと叩いた。秋場所はまだ始まったばかりだ。



本日の大金言。

ひと口にソースかつ丼と言っても実に様々である。人間と同じようにソースかつ丼にも、人格いやトン格がある。

                桐生・藤屋⑨ 

酒池肉林、丹波黒豆のガトーショコラ

犬も歩けば棒に当たる。猫も歩けばマタタビに当たる。無類の散歩好きの赤羽彦作村長が久しぶりにさいたま市大宮駅周辺を歩いている。この街は新都心という近代的なイメージとは裏腹にある種のローカル臭があり、特に東口は「ロフト」や「高島屋」はあるものの、こじゃれた店の間を縫って、一歩裏道に入ると、ローカル都市の妖しいネオンが輝いていたり、居酒屋が密集していたり、昭和40年代の雰囲気が残っていたり、新しさと取り残されてたまるかという古さが歪んでまだら状に渦巻いている街である。 

彦作村長の好きな街の一つでもある。あんこ好きが高じて、和菓子の勉強をしようと思い立ち、大宮の某所に見学にやってきた後、「夕暮れまで」の時間を東口界隈を野良猫気分で徘徊し始めた。すると、入口に黒板で、「午後2時~ジャパニーズスイーツコレクション 珈琲とセットで500円」という文字がおいでおいでしていた。ジャパニーズスイーツコレクション! 何というセンスだろう。都都逸(どどいつ)をヒップホップに変換するようなセンス。ダサさと紙一重の曲芸。店構えはパリやイタリアの下町のカフェのような、六本木とか原宿にでもありそうな、今どきの風情。「SEIA CAFE(セイア カフェ)」という看板。

          セイアカフェ(大宮)① 
          女性はうまい店を発見する天才

ちらりと覗いてみると、午後4時過ぎだというのに、店内は女性客で結構混んでいた。さすがの彦作村長も、我が身の人相風体から入ることを一瞬ちゅうちょした。だが、足が勝手に動いて、木のカウンターのある狭い入口を通って、やや広めのテーブル席に座ってしまった。脳内の何かが「B級グルマンの名が泣くぞ。いけいけ」とささやいたのがわかった。

店内は木をイメージしたかなり凝ったつくりで、4人用のテーブル席が3つ、2人用のテーブル席が5つほど。BGMはヒップホップ。ジャニーズ系(?)の多分バイト店員が注文を取りに来た。「ジャパニーズスイーツコレクション」の中から、「丹波黒豆のガトーショコラ」を選んだ。「抹茶と大納言のシフォンケーキ」、「黒糖キャラメルのティラミス」(単品だとそれぞれ390円)にも心を動かされたが、丹波黒豆の4文字にはかなわない。

                セイアカフェ⑧  
        見事に予想を裏切られてしまった

待つこと8分ほど。セットで500円という価格設定から「どうせ大したものはこないだろう」と上から目線で考えていた村長の想像を超えていた。うむむ。うまそうなガトーショコラが4切れ。そこに生クリームが美熟女のように寄り添っている。脇を固めるようにフローズンされたチェリー、木いちご、そして中央には大きなイチゴが「うっふん」と乗っかっている。ミラクルひかると渡辺直美がコラボし始めたみたいだった。チョコレートソースがいい具合にかかっていて、これでコーヒーも併せて500円とは信じられない。どこかに罠があるのではないか?

         セイアカフェ⑤ 
         これでコーヒー付きで500円とは

「すべて手作りです。コーヒーも農園から直接購入しているんですよ」とバイトウエイター君。ガトーショコラには確かに丹波黒豆が混ざっていて、そこにチョコレートの濃厚が熟女の深情けのように包み込まれて、いい感じである。生クリームとチョコレートソースを付けて口に運ぶとかなりの甘さ。それを凍ったチェリーやイチゴでクールダウンさせる。実にバランスのいい展開だが、村長には少々甘すぎる。しかし、女性にはこれがたまらないのだろう。見渡すと、20代から30代の比較的若い女性がスイーツとおしゃべりに夢中になっている。ハンバーグやピザを食べている女性もいる。

         セイアカフェ⑥ 
         うっふん・・・スイーツ好きにはたまりません

ワインでも注文したくなったが、まだ夕闇は降りていない。コーヒーをぐびりと飲みながら、彦作村長は、ひとり妄想を楽しむことにした。午後4時過ぎのスイーツは現代のパラダイス・・・。5分ほどしてから、あわてて妄想を切り替える。いい店を発見したよ。この内容でこの値段はちょっと信じられない。500円払って、高原の風のようなさわやかな満足感とともに、外に出た。どこか秋の匂いがする。散歩をすると、こういうマタタビに出会うこともある。



本日の大金言。

ネット情報より、自分の足の情報を信じろ。目の散歩には様々な発見がある。


          セイアカフェ⑦  

豪快!道の駅の冷やしぶっかけうどん

 「台風一過、今日は久しぶりに青空がすがすがしいわ」
美熟女の村民2号が、最近、とみに領土を拡張し始めたお腹周りをポンポン叩いて、彦作村長に流し目を送ってきた。
「食欲の秋」到来のゴングに聞こえた。こういうときは逆らってはいけない。
「うむ。では、ドライブがてら、道の駅でも行ってみるか」
「久しぶりに利根川沿いの童謡ふるさと・おおとねに行きたいなあ」
「野菊でも歌いながら、行くことにしよう」

         道の駅⑥
 
           童謡の大家・下總皖一の銅像が・・・

昔は野菊だったのに、今ではすっかりカボチャになってしまった村民2号が、童謡「野菊」を口ずさみながら、助手席に乗っている。相変わらず音程がずれている。「道の駅 おおとね」は北埼玉の加須市郊外にある。利根川のすぐそばにあり、大利根地区でとれたコシヒカリや果物・野菜類などが置かれ、土日は結構混み合っている。村民2号はここが好きで、時折、思い出した時にやってきたりする。

           道の駅③ 
             手打ちそばと手打ちうどんが待っている

ここにある「農村レストラン わらべ」が狙い。ウリは地粉のうどんとそば。どちらも手打ち。その他カレーライスも安くてうまい。まさに田舎のレストランである。彦作村長は、メニューの中から「冷やしぶっかけうどん」(650円)を選んだ。黒米うどんも名物だが100円高いし、何より村民2号が「私はカレーライス!」(550円)と機先を制したことも大きい。100円の気配り。

ご近所のおばちゃんたち(?)4~5人で切り盛りしていた。絣(かすり)の上っ張りがローカル色を引きたてる。待つこと15分ほど。「冷やしぶっかけうどん」がやってきた。デカい。しかも地場の生卵が付いていた。大根おろし、天かす、海苔がドヤ顔で乗っかっている。わさびがこれまた豪快に「オレを軽くあしらったら承知せんよ」と隅っこでドスを利かせている。

         冷やしぶっかけうどん③ 
           この圧巻、この素朴なボリューム

うどんは5ミリくらいで加須うどんにしては細め。まずはひと口。麺はつるりとしていて、噛むともちもちしている。コシの強さはほどよい。つゆは甘すぎず辛すぎず。カツオ節と昆布で取ったダシがじんわりと効いている。地場の大根おろしと天かすを付けてすすると、多分化学調味料を使っていないだろう自然な味わいが、いい余韻を残して胃袋へと流れ落ちていく。利根川の風とおばちゃんの笑顔が食道のあたりで手を振っている。
     
          冷やしぶっかけうどん④
            生卵を割ってっと・・・
 
次は生卵を割って、からませて、賞味してみた。案外、イケる。卵の黄身のまったり感がうどんに別の味わいを加味させながら、田舎のハーモニーとなって、彦作村長の口中を責め立てる。わたしゃあ、田舎のプレスリー。わたしゃあ、田舎のブリジット・バルドー。ま、参りましたッ。もうお腹いっぱいです。量がもう少し少ない方がいいのに・・・。

         冷やしぶっかけうどん⑤  
           つるつるの食感

「ここのカレーライスは何といってもご飯がメチャうま。北川辺のコシヒカリだもんね。しかも新米!おばちゃんの手づくりカレーで、この素朴な味が好きよ。私はブタ肉好きだから、肉が鶏肉なのがちょっと残念。でも、このボリュームは好き。とりあえず満足満足」
「わたしゃあ、過満足、過満足。味はまあまあだけど、量が多すぎるよ」
「食欲の秋到来だというのに、村長ったら、そんなに少食でどうするのよ。せめてもう一軒ハシゴしましょ」
「どうぞお一人で。食い過ぎで死にたくない」
「飲み屋だとすぐハシゴするくせに」
「・・・・・・」
食欲の秋がうらめしい。

         道の駅② 
           コシヒカリとおばちゃんカレー




本日の大金言。

農村!そこには日本人の過去と未来が交錯している。TPPなんてとんでもはっぷんぷん。低能(T)なパシリ政治屋(P)のパフォーマンス(P)。

               道の駅④ 

偉大なる発明品「アキバのカレーパン」さま

 明治以降の日本人の偉大なるB級発明品に、赤羽彦作村長は、あんぱん、メロンパン、カレーパンを挙げたい。この三つに対する思い入れは格別のものがある。中でもカレーパンはお菓子という範疇ではなく、サブ主食にもなりえるという意味で、別格ともいえる。あのカレーをパンに包んで油で揚げてしまうという発想は、今では誰も不思議とは思わないが、よーく考えてみると、コロンブスの卵だと思う。ピロシキにヒントを得たかもしれないが、ピロシキほど多様性はなく、カレーパンとして純化して一つの独立国を造っている点が根本的に違う。

         カレーパン② 
           老舗カレーの新しい展開?

コンビニや売店で買うヤマザキや神戸屋などのカレーパンも好きだが、東京・秋葉原で出会ったカレーパンは、ひと味違った。メイド少女がチラシを配る「欲望と哀しい夢の街」アキバで、彦作村長の目に、「14時~18時 カレーパン×ドリンクセット 450円」という文字が飛び込んできた。駅ビル・アトレの一角にある「東京カレー屋名店会」である。時計を見ると午後3時。ちょうどおやつタイム。昼飯を食べ忘れた彦作村長の目がピカリと光った。カレーパン! 

この店は、東京の有名老舗カレー屋5店がユニットを組んで、一か所で五店舗のカレーが楽しめるという新しい形の店舗展開である。神田神保町の「エチオピア」、湯島の「デリー」、本郷の「プティフ」、神保町の「共栄堂」、須田町の「トプカ」の五店だ。スカイツリーにも進出して、カレー好きの熱い視線を集めている。

         カレーパン⑥  
           アキバの胃袋をゲット・・・

30人くらいは座れそうなコの字型のシャレたカウンター。なぜか小学生のグループ、若いOL、青年などがカレーを黙々と食べている。村長は当然、カレーパンセット。ドリンクは4種類の中から「ラッシー」を選んだ。名犬ラッシーの大ファンだったからだ。
「ところで、ラッシーってどんな飲み物?」
恥も外聞もなく、店員に聞く。
「インドの飲み物で、ヨーグルトと牛乳を混ぜたものです」
犬のラッシーとは無関係らしい。

5分ほど待っていると、まず卵スープが来た。中華料理の卵スープのようで、まろやかでうまい。続いて、カレーパンとラッシーが登場。カレーパンはハンバーガーのように紙にくるまれている。出してみると、幅約10センチほどのまん丸いカレーパンだった。形状的にカレーパンには楕円と円の二つのタイプがある。1927年(昭和2年)に東京・深川の洋食パン屋「名花堂」(現在はカトレア)で誕生したと言われる元祖カレーパンは楕円形。彦作村長は楕円形の方に思い入れが強いが、目の前のまん丸くて分厚いカレーパンに目を見張った。こんがり具合がよく、いかにも揚げ立てという佇まいが、高座に上がった娘義太夫のよう。

                  カレーパン③ 
           カレーパンの誘惑、べんべん

食べておくんなまし、べんべん。うむむ。カレーパンの食べ方の礼儀はまずガブリ、である。外側の香ばしいパン粉。カリカリと音がしそう。そこから弾力性のあるパン生地と濃厚なカレーが二人三脚怒涛の寄り、村長の舌の上から咽喉チンコのすぐ近くまでを攻め立てる。

          カレーパン④ 
           華麗なるカレーパン?

カレーは北海道産じゃがいものの味が強め。タマネギは姿を隠しているが、低音部をしっかり押さえている。べんべん。ニンジンもすりおろされていて、ぷつぷつと「私も忘れないでね」とつぶやいている。肉の感触はかすかに隠し味として潜められている。

カレーは凸凹はあるが、深いところで2センチほどの厚さ。食べるとわかるがかなりのボリュームがある。ルーが甘口で、万人向きのマイルドなうまさ。その分、辛い好きには少々物足りないかもしれない。このカレーパンは「湯島のデリー」のカレーパン。1個220円で持ち帰りもできる。

         カレーパン⑤ 
          このクリーミイな中身・・・うっふん

激辛が苦手な村長は、このカレーパンが気に入った。箸休めにインドのヨーグルト「ラッシー」をグビリ。これがトロリとして、まろやかな酸味が舌に心地よい。何やらついドブロクでも飲んでいるような飲み方になってしまうのは悲しいサガか。隣のきれいなOLの視線が気になる。その隣の小学生のグループは黙々とカレーを食べている。この少年たちの未来はどうなっているのだろう? 彦作村長は自分は一体何者なのか、カレーパンを噛みしめながら、しみじみと考える。現代ニッポンの最先端の街で「秋の枯葉」アキバが一葉・・・。

                 カレーパン⑦ 



本日の大金言。

秋葉原とカレーパン。日本が世界に誇っていい二つのコアな世界。ここから、日本の新しい未来が始まっているかもしれない。

              カレーパン⑧ 



ラーメン界のエイリアン油そばと対決

 「油そば」という油地獄を連想させるラーメンの存在を知ったのは、高田馬場の「ぶぶか」だった。宮仕え時代に、「行列のできるラーメン界の新しい波」として週刊誌で取り上げられていて、好奇心に駆られて、学生や若いサラリーマンの行列の最後尾に並んで、賞味した。ナルトやチャーシューが乗っかったタレの少ない、見た目は冷やし中華みたいだったが、かき混ぜると、醤油ベースの濃厚なタレが絡まって、結構イケた。かき混ぜて食べるというのが面白く、太麺の焼きそばのようでもあり、「これが果たしてラーメンと言えるのか」首をかしげながら、店を出たことを覚えている。

その「油そば」を掲げて東京で躍進中の「情熱のすためし どんどん」が、埼玉に進出。すためしにも食指が動いたが、ここはやはり油そば。夕闇が忍び寄るころ、大宮駅東口の路地「ウエストサイドストリート」に足を運んだ。東口のウエストサイドストリートというネーミングの素晴らしさに「意外性好き」の彦作村長の胸がキュッとなった。

         油そば①  
             おおっと、 ド派手なお顔

大宮はすごい。入口がワンダーだった。赤に黒字で「東京名物 油そば」というド派手な看板。かつての安キャバレーのようで、身もふたもない、やけくそと紙一重のような自己主張が気に入った。入り口の横がテラス風になっているのも、わびさびとは対極の「何でもあり」で、日本もついにここまで来たか、と妙な感動を覚えずにはいられない。これは乗るしかない。

自販機で「油そば」(並680円)とグラスビール(280円)を買う。「並も大も680円」だそうで、胃袋の大きい人にはうれしい設定。
店内は長いカウンターがあり、その奥にテーブル席のスペースとなっている。外のテラスにしようか迷ったが、羞恥心の塊でもある彦作村長はテーブル席に陣取った。

          油そば③ 
              油そばとビールの出会い系

油そばがやってきた。プラスチック製の黒と朱塗りの大きな器にそっけなく茹で立ての盛り麵と角切りのチャーシュー2個、それに高菜、シナチクとベビーリーフ、刻みノリ、刻みネギが乗っかっている。麵はかなりの太麺。まず、ビールを一杯。繁華街の殺伐を癒すようにノドをうるおす。「最初はかき混ぜて賞味してください。それから好みで酢やマヨネーズ、ニンニクなどを入れて食べてください。二つの味が楽しめます」とバイト店員。

          油そば④ 
             この静かな陣容、底にはタレが・・・

底に醤油ベースの特製タレが隠れていて、かき混ぜると、いい色合いになってくる。同時にいい匂いも立ち上がってくる。予想よりうまい。麵がもっちりしていて、それほど油あぶらしてない。拍子抜けするくらいのやさしい味だ。まろやかさもある。醤油ベースのタレにはほのかに魚介類のダシやごま油も感じられる。

         油そば⑤  
             まずはひと口・・・

角切りのチャーシューは柔らかくて、それなりにうまい。もう1個増やすとさらにいいのだが。高菜が意外なアクセントになっていて、全体を引き締めている。酢とマヨネーズを加えて、さらにかき混ぜる。うーむ。濃厚さがグンと増して、しかも、後を引くうまさとでも言ったらいいのか、箸がどんどん進む。これはヤバイ。

         油そば⑦  
         このごちゃまぜ感がたまりません

「スープがない分、カロリーはラーメンのほぼ3分の2、塩分は約半分」というヘルシーさを謳(うた)っているが、ヘルシーな感じはどこかへと吹っ飛んでいる。コンビニのうまさとでもいったらいいのか、このうまさのノウハウがかなりのものであることはわかった。最近急増している脂のやたら多い「あぶらーめん」よりはヘルシーかもしれない。「エイリアンとプレデターのおいしさ対決」というコピーが浮かんだ。

しかし、彦作村長は、「ぶぶか」のときのように、どこか違和感を感じてしまう。職人の顔が見えない。この味は2か月に一度くらいがちょうどいい。村長はほろ酔いと化学調味料の匂いのする脳内幸福感を抱えたまま、外に出た。迷路のような飲食街が魚眼レンズのように村長の視界に飛び込んできた。



本日の大金言。

味覚は脳を変換させる。誤変換もある。それだけに本物を見分けることも重要になってくる。だからこそ、面白い。


              油そば⑧ 
プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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