なぜだ?虎ノ門岡埜栄泉への失望

 アンコ好きの彦作村長の中でも、豆大福は特別な存在である。豆大福ではなく、「豆大福さま」と様付で呼ばなければならない。これまでも東京の豆大福ビッグ3として、一に虎ノ門岡埜栄泉、二に原宿・瑞穂、三に護国寺・群林堂の名前を上げてきた。中でも村長の好みは虎ノ門岡埜栄泉で、あの京都の「出町ふたば」の豆大福(豆餅)に対抗できる存在として、一目も二目も置いてきた。

         岡埜栄泉③  
         この老舗の店構え

だが、悲しいことが起きてしまった。久しぶりに所用で江戸表に出たついでに、「虎ノ門岡埜栄泉」に足を運んだ。あまりの人気に正午には売れ切れてしまうという頭があったので、電話をして予約しておいたのだ。約10年ぶりに訪れた店は、リニューアルしたのか、さらにこぎれいになっていて、さすがと思わせる洗練された店構えになっていた。店員さんの対応もよくて、どら焼きまで追加してしまった。

以前は買ったその日のうちに食べないと、餅が固くなってしまうほどだった。当時、村民2号が虎ノ門の音楽事務所で働いていたので、気が向くとお土産として、買ってきてくれたりした。普通の豆大福の優に2倍はあるかと思われるほどの大きさ。午前中に買ったものが夕方には固くなりはじめる。ワクワクしながら食べると、そのあまりの柔らかさに驚く。さらにぎっしり詰まったこしあんの絶妙な甘さにオーバーではなく脳天が痺れた。ホントにさわやかな高原の春風が口中から脳天へと突き抜ける感じだった。
この脳天がシビレるという感覚は、その後、たまたま仕事でシャトーパルメのビンテージものを試飲した時と同じもので、村長にとっては特別な感覚である。

その強烈な印象がずっと続いていた。村民2号が音楽事務所を辞めてからは、虎ノ門岡埜栄泉から遠ざかっていた。先日、京都で「出町ふたば」の豆大福を初体験したこともあり、今回、約10年ぶりに食べ比べてみようと思ったのだ。ウマズイめんくい村に帰って、村民2号と久しぶりの賞味となった。

         岡埜栄泉⑤ 
         むむむのむ

ワクワクしながら包みを解く。あれっ、小さくなっている。やや大きめではあるが、普通の大きさとさほど変わらない。一個の値段は242円とかなり高い。皮が固くなっていないか、心配したが、その心配は無用だった。それでも昔のあの感動を確認するように、口中に運ぶ。餅は昔と同じ宮城県産の上質なもち米を使っているようで、柔らかさがさすが。出町ふたばの餅と遜色はない。

         岡埜栄泉⑧ 
         縮んだ?

中の北海道産のこしあんはいい色合いで、昔と同じように見えた。それがぎっしりと詰まっていてかなり甘めだが、塩分も感じられる。赤えんどう豆は少なめ。全体として普通の豆大福よりうまいと思う。だが、それ以上の感動はない。出町ふたばのあの豆大福に対抗できるという思いはすでに消えていた。

         岡埜栄泉⑦ 
         見事なこしあん

「悲しい。ひょっとして村長の記憶違いかもしれないと思って、関係者に電話して確認したら、やはり7年ほど前から小さくしたと言ってたよ。デパートに入れるようになって、あまり大きいと消費者に敬遠されるということなのかな。それと生産量が拡大したので、手作業から機械で包むようになったそうだ。経営としては仕方のないことだろうが、出町ふたばのあの凄味とは勝負にならない。赤えんどう豆も横綱と小結くらい差があると思う。ああ悲しい。これ以上の悲しさはない」

「バッカみたい。それは言い過ぎよ。前はデカすぎたし、味だってそう変わっていないと思うわよ。私は今がちょうどいい感じ。ただ、値段はちょっと高いと思う。昔はそうは思わなかった」
ダイエット中の村民2号が、横綱級のお腹をポンポンさせながら、残りの豆大福とどら焼きにパクついた。どら焼きも普通のうまさで特筆すべきものはない。ウマズイめんくい村の青い空にトンビがくるりと輪を描いた。


本日の大金言。

老舗とは何か? 期待は裏切られるためにある。豆大福においても、それは例外ではない。


               岡埜栄泉⑥ 




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こんなところに!天然記念物級どら焼き発見

 進化系佐野ラーメンの新しい流れを取材したついでに、「ウマズイめんくい村」の村民約2人は佐野駅近くをぶらぶらした。駅前の伊賀町を散歩中に村民2号が素っとん狂な声を上げた。
「あれっ?村長、見てみて!どら焼きの看板があるわよ。建物も歴史的!」

               みかわや⑧ 
       この立て看板が

引っ張られるように村長が見ると、うーむ、と唸りたくなるような古い店構えの和菓子屋が。ほとんど人通りはない。「みかわや」という看板が古き良き時代の面影をそのまま残している。「佐野名物 源左衛門煎餅・俵藤太・どら焼き」という文字も見えた。時刻は午後3時過ぎ。客はいない。しかし、どら焼き好きの村長の何かを刺激するものが漂っていた。
中に入ると、奥で女将さんらしき女性が高齢の女性と2人でこんがり色のどら焼きを木箱に入れている作業中だった。白衣姿の店主もいる。一家でどら焼きを作っている。
「いらっしゃいませ。ちょうどどら焼きが焼き上がったところなんですよ。すべて手作業なもんですから。失礼いたしました」

         みかわや④ 
         人の手の重み

2代目だという店主の山本恭徳さん(75)が出てきて、直ぐ後に女将さんがお茶を出してくれた。怪しい村民約2人は恐縮しつつ、焼き上がったばかりのどら焼き(1個160円)を賞味することにした。

         みかわや② 
         焼き立てのどら焼き!

焼きすぎでは、と思えるくらいにこげ茶色に焼き上がった見事などら焼き。大きさはあの日本橋うさぎやのどら焼き(1個200円)より一回りほど小ぶり。その分、厚みがある。プーンといい匂いが鼻腔をくすぐる。小麦と卵とハチミツで作った皮はふわふわと弾力があり、噛むと甘くてしっとり感も十分。中のつぶしあんもやや甘めで、何より粒つぶつぶ感が際立っている。北海道十勝産の大納言小豆を使っているという。砂糖も氷ざらめ(白双)を使っているというから驚いた。申し訳ないが、こんな閑散とした街で、こんな贅沢な材料を使ってどら焼きを作っていて儲かるのか心配になってしまったほど。

とはいえ彦作村長は冷静である。全体的にいいどら焼きではあるが、あの「うさぎや」に比べるとやはり格落ちだな、内心そう思いながら、村長は店主と雑談を続けた。
「うちのがうまいとすると、それはまず水だと思います。佐野は水がいい土地なんですが、うちの井戸はその中でもいい水なんですよ。本当は焼き立てよりも一日置いた方が味がなじんでうまいんです」
出されたお茶が異様にうまいのもこれで納得。

                みかわや⑨ 
         ここで焼き上げる

「いまどきこんな作り方をしている店はあまりないと思います。何から何まですべて昔ながらの手作りなんですよ。質を落とすのは簡単ですが、昔からのお客さんに申し訳ありませんから(笑い)」
まだ日本が景気のいいころ、東京から老舗デパートのバイヤーがやってきて、「こんなうまいどら焼きはない」と出店することを何度も勧められたが、地元のお客さんに申し訳ないから、と断ってしまったという。それが誇張ではないことを村長は次の日に思い知らされた。

          みかわや2① 
         一晩置くと変化が・・・
          みかわや2② 
          旨味の奇跡・・・

お土産に5個買って、翌日、賞味してみた。オーバーではなく1+1が2から3になっていた。皮のしっとり感がさらに進み、中の大納言ともなじんで、「うーむ」と唸りたくなるほどの深い味わい。口中から脳天へと抜ける甘い吹き上がり感が只者ではない。一夜でかわいい生娘が妙齢の美女に変身してしまったかのようだ。ガイドブックやメディアが取り上げない幻の逸品がここにある。
「私の代で店を閉めることになるかもしれません。時代の流れで仕方ないことかもしれませんね」
どら焼き界のイリオモテヤマネコを発見した興奮で爆発しそうになった頭の片隅で、店主が笑いながらつぶやいたひと言が、重くのしかかってきた。


本日の大金言。

時に意外な発見もある。日本もまだ捨てたものではない。メディアの情報だけを信じていると間違いを起こすかもしれない。自戒を込めて。


               みかわや⑤

行列の店、佐野ラーメン謎の進化形

 首都圏から車で約1時間ほど、栃木・佐野市は彦作村長が時々足を運ぶ関東のラーメン王国である。市内には大小合わせて200軒以上のラーメン店が覇を競っている。その数は正確にはわからない。市の観光課に聞いても、「登録されているのは144軒ですが、実際は200軒を超えていると思います。人口当たりのラーメン店の数でいうと、日本一です」と妙な胸の張り方をする。

このラーメン王国で人気急上昇中の店がある。創業昭和5年(1930年)の元祖「宝来軒」や「おぐら屋」といった老舗の人気店を押しのける勢いで今や行列のできる店となっているというのだ。オープンしたのは約6年前と歴史は浅い。佐野ラーメンの新しい波だという。噂を聞きつけた美熟女の村民2号が鼻をぴくぴくさせながら、俳句をひねっていた彦作村長の耳元でささやいた。
        ゐをり① 
        1時半過ぎだというのにこの行列

「私は三井とかケンちゃんラーメンが好き。だけど、凄い人気らしい。特に女性のファンが付いているんだって。これまでの佐野ラーメンとはひと味違うらしいわよ。『麺家ゐをり』って名前もユニーク。ウマズイめんくい村の村長が行かないとあっては損長になっちゃうわよ」
「うむ。村長と損長じゃ随分イメージが違うな」
彦作村長はおもむろに立ち上がった。ふんどしがズレテいないか確認してから、できたばかりの一句を口ずさんだ。
「ラーメンを すするお顔も 伸びている」

ポンコツの愛車が東北道・佐野インターから6~7分ほどで目的の「麺家ゐをり」に到着した。時刻は午後1時半を過ぎている。狭い駐車場は満杯でどこに止めようかとしばらく迷っていると、運よく1台分が開いた。この店の課題はまず駐車場だな。こすりそうになりながら、何とかポンコツ者を狭いスペースに入れることができた。

          ゐをり② 
          なんじゃ、この店構えは

建物はまるで童話の世界のような、ロボット風な、不思議な造り。外に椅子が並べてあって、入りきれない人が順番待ちしていた。佐野の中でも行列のできる店として麵通の間でも話題になっていることが、その光景を見ただけでもわかる。入り口のドアには朱色のノレンが下がっていて、そこだけ純日本風というユニークさ。

結局、15分ほど待たされて、6人くらい座れる木のカウンター席に案内された。他にテーブル席が4人用と2人用それぞれ3つほど。中の造りも凝っていて、何やらディズニーランドの穴倉にでも入ってしまったような気分。メニューの中から「醤油ラーメン」(600円)とW餃子(餃子2個としそ餃子2個セット、320円)を選んだ。

         ゐをり③ 
         このシンプル、只者ではない?

待つこと10分ほど。醤油ラーメンがやってきた。見た瞬間、待たされたことがどこかへと吹っ飛んだ。佇まいがいい。スープは半透明で、一口すすると、ダシがよく利いたまろやかな奥深い甘みが口中の粘膜にジュワジュワと滲みこんでくる。おそらく鶏ガラと煮干しなどで取ったスープにネギ油も加えている。よく見ると焦がしタマネギが浮いている。あっさりしているのにアラフォー美女のような奥深い底の見えないしたたかな味。

          ゐをり11 
          まずスープを
         ゐをり⑤ 
         進化形でござる

「うまい! 麺がこれまで食べた佐野ラーメンとは違うわ。かなりの太縮れ麺でつるっとしていて、もっちり感がすごい。佐野というより喜多方ラーメンみたい」
「チャーシューはバラ肉で、脂が多いけど、柔らかさがちょいうどいいね。シナチクは普通かな。海苔とかナルトがない。麵もそうだけど、これは佐野ラーメンではない。推測だけれど、店主はシェフからラーメンの世界に入ってきた人なんじゃないかな」
「全体的によく調和がとれているわね。私、この味好き」

          ゐをり⑨ 
          2種類の餃子の圧巻

餃子も大きめで皮が厚いがもちもちしていて具もジューシー。とくにしそ餃子は色が緑がかっていて、しその香りが口中に漂ってきて、意外なうまさ。村長の好みはもう少し皮が薄い方がいいと思うが、村民2号は「これはこれでいい」とこの店にすっかり惚れ込んだ様子。あっという間に完食してしまった。

「この麺は青竹ではないと思う。佐野の進化形ということなのか、それとも別種なのか。それと敢えていうと、箸がプラスチックというのが残念。化学調味料も適度に使っていると思う。とにかくうますぎる。それは間違いないが」
「そういうことを箸にも棒にも引っかからない評論というのよ。やっぱり損長かも」
毒矢が飛んできた。村民2号も底知れない熟女だったことを思い出した。


本日の大金言。

佐野ラーメンの新しい波を受け入れるか否か。佐野ラーメンのレベルが高いのはこうした競争が生きているからだと思う。「伝統と競争」。その競演にこそ未来が見えてくるかもしれない。


                   ゐをり10

再び東京下町の極上蒸しきんつば

 東京・北千住の伊勢屋は、本店が亀有にあるまさに東京下町の和菓子屋である。この店の凄さは、およそ飾り気というものがないところだろう。本店の方は人気コミック「こち亀」の両さんの地元だけに「両さんサブレ」などキャラクター和菓子も売りにしている。しかし、北千住店にはない。丸井側の日光街道へと抜けるメーンストリートにそこだけ昭和の下町のだんご屋が店を出している、そんな雰囲気なのだ。「塩豆大福」と「焼きダンゴ」が売りだが、彦作村長はここの「蒸しきんつば」(1個120円)が好みである。

         伊勢屋きんつば① 
         この敷居の低さよ

以前にここの「黒蒸しパン」を取り上げたときにもサラリと触れたが、今回は正面から取り上げようと思う。金つばは江戸時代の初期に京都で生まれたというのが定説になっている。餡を米粉で包んで焼いたもので、形状が刀の鞘に似ていたところから、「銀鍔」と呼ばれていたらしい。それが江戸に伝わって、銀より金の方が派手で景気がいいということで「金つば」となったという。金つばの老舗・榮太楼が安政4年に日本橋で創業した時も円形(鍔の形)だった。榮太楼の金つばは今でも円形である。

          伊勢屋きんつば② 
          蒸しきんつばの誘惑

今では金つばというとほとんどが四角形で、金沢の中田屋や浅草の徳太楼も形状は四角である。大納言を小麦粉で溶いた薄い皮でくるんで焼くのが一般的だ。しかし、北千住・伊勢屋の金つばは円形で、しかも焼かずに蒸しているのが特徴。そのため見た目が透明で、すぐ下に粒あんが実にうまそうに控えている。羽衣をまとった妙齢の美女が褥(しとね)に誘惑しているよう、そう表現したくなるほどだ。実際、口に運ぶと、ひと噛みした瞬間、皮の存在感は消えてしまい、北海道産の小豆の風味がストレートに伝わってくる。いい粒あんの風味がこれほどすっくと立ち上がってくる金つばは少ないと思う。

          伊勢屋きんつば⑥ 
          素朴な洗練

北海道産小豆と砂糖、それに塩と寒天だけ。塩分がやや多いため、甘みも増幅される。この塩分の加減が好みの別れるところ。
「うちのは田舎金つばですから。つぶしあんは毎日作ってます。本店で作ったものを毎日運んでくるんですよ。確かに塩が少し多いと思います。これがうちの特徴でもあるんです」(店主)
敷居が低い店構え同様に飾りのない下町特有の謙遜が心地いい。江戸しぐさの伝統がここには残っている。ここにはとかく格式ぶったり、由緒を強調しがちな老舗和菓子屋の尊大さはない。

        伊勢屋きんつば⑧ 
        風味がすっくと立ってくる

価格設定もこの中身で120円は驚かされる。「田舎金つば」どころか京都の下町の和菓子に通じる洗練すら感じられる。大きさは物差しで測ってみたら、円の直径は6センチ。厚さは2.3センチ。手づくりなので一個一個微妙な違いがあるが、そこが手づくりのゆえんでもある。この直径6センチの世界の恍惚。下町から天界への回路。極上の甘いひと時。このところ老舗の看板にガッカリさせられることが多い彦作村長は、メディアでもあまり取り上げられない北千住の蒸し金つばに、一服の清涼剤を見る思いがするのだった。



本日の大金言。

味と値段と敷居の関係はイコールではない。下町の和菓子職人の辞書には「ビジネス」という言葉はないのかもしれない。


              伊勢屋きんつば③

有楽町・B級老舗天丼の深イイ味わい

 天丼は彦作村長の好みの一品である。品のいいサクッと揚げた天ぷらも好きだが、明治20年(1887年)創業の浅草・大黒家や天保8年(1837年)創業の「江戸前のヘビーな」天丼も好きだ。もっとも体調がいい時に限るが。

         末廣⑧ 
         看板は知っている

東京・有楽町ガード下そばにある「天婦羅 末廣」の天丼は、およそ洗練とは遠い地点にある天丼である。近くに交通会館や丸井イトシアなどもある。エンターテインメント新聞社時代に、天丼チェーン店の「てんや」に飽きたときなどに、ひょっこりと「末廣の天丼」を食べたくなることがあった。こざっぱりとした清潔そうな一軒家に藍染のノレンが下がっている。だが、その向こうには「ブッキラボーな女将」というより戦後のおばちゃんの世界がある。

天丼はお世辞にもうまいとは言えない。だが、なぜか食べたくなる。創業は昭和23年。戦後の有楽町はモダンなごった煮の街で、近くにGHQもあり、アメリカ文化の波を受け、映画館が次々と誕生し、一杯飲み屋やバーが星雲状にできていった。パンパン(街娼)が立つ街でもあった。「有楽町で逢いましょう」(昭和32年)が大ヒットするのはそのずっと後である。

          末廣10   
          創業64年

「末廣」はその有楽町の坩堝(るつぼ)の時代からノレンを下げている。今の女将は2代目。彦作村長は久しぶりに「末廣」のノレンをくぐった。築地直送の魚介類も看板の一つだが、やはりここは天ぷら。午後1時半過ぎ。1階は4人用のテーブルが二つと3人ほど座れるカウンターのみ。2階はお座敷になっている。ランチメニューの「天丼」(お新香、みそ汁付790円)を頼んだ。他に常連らしい老紳士が一人いるだけ。

          末廣② 
          洗練を拒否した天丼

女将は相変わらずブッキラボーに天ぷらを揚げている。昔からの東京下町の雰囲気をそのままおばちゃんの姿にしたような、妙なへつらいや愛想がないことが、返って好感が持てる。天ぷらを揚げるあの懐かしい匂いが漂っている。待つこと10分ほど、もう一人のこちらも愛想のないおばちゃんが、お新香とみそ汁を持ってきた。見るからに東京の濃いワカメのみそ汁と漬け込み過ぎたようなお新香。これが末廣だ。

          末廣① 
          アタシを忘れちゃあいけないよ

ドンブリに乗っかっている天ぷらは大きなタマネギ天、小さ目のイカ天、エビ、それに子持ちシシャモ。カラメルのような色の甘辛タレが厚めのコロモによく滲みこんでいる。これだ、これだ。庶民の味、B級の老舗、戦後の味。そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。ご飯も洗練とはほど遠い、しかし、家庭的な懐かしいふっくらとした味わい。タレも多めにかかっている。社会全体が生きることに必死だった時代の、忘れ去られつつある生活感の滲みこんだ味とでも表現したくなる味だ。関西の洗練とは対極にある野暮ったい味覚の世界。

         末廣⑥ 
         この懐かしい味

食べログなどではあきれるほど評価が低いが、彦作村長は、この天丼の底にある生活感が好きである。この天丼の味は「うまい」とか「まずい」とかの二元論では推し測ることのできない、まさに「ウマズイ味」である。ぜいたくを言うと、あと100円安くしてほしいが。

行き詰り感の深い平成24年末の日本。戦後そのままの匂いを残した「末廣の天丼」をきれいに平らげて外に出ると、目の前にモダンなイトシアの世界がある。ガード下の雑居も視界の隅に入る。彦作村長はまったく似合わない遠い目で、「思えば遠くへ来たもんだ」を口ずさむのだった。



本日の大金言。

現実から遊離しそうになったら、チェーン店ではない古い店に行くのもいい。ひょっとして夢のかけらが潜んでいるかもしれない。


              末廣⑨ 

小江戸・川越の新名物「いも恋」の湯気

 「駅ナカ」は彦作村長にとってはデパ地下と並ぶ「ワンダーランド」である。一日いても飽きない。大宮駅の駅ナカ「エキュート」は2005年3月5日にオープン。以来、恋人に会うような気分で折に触れて通う場所となった。宮仕え時代には、わざわざ遠回りして、「エキュート大宮」でパンを買ったり、和菓子や洋菓子、さらにはコロッケや安いワインを買ったり、目と鼻の散歩を楽しんだ。

          いも恋④ 
          駅ナカの湯けむり?

めっきり寒くなったある日、エキュート大宮をうろついていると、「いも恋」が色っぽい流し目を送ってきた。蒸し器から湯気が立ち、あたり一面にサツマイモと小豆とまんじゅうのいい匂いが立ち込めている。まさにサツマイモの最もうまい季節。小江戸・川越の「菓匠 右門」の目玉商品「いも恋」は、右門が作った独特のまんじゅうで、紅あずまと十勝産の小豆を二層にして、それを独特の皮で包んだもの。本店のある川越には数店舗あり、その人気は埼玉にとどろき始めている。

サツマイモ「川越いも」は江戸の昔から川越藩の名産。「金時」が主な種類だが、今では甘さの強い「紅あずま」を栽培する農家も多い。「菓匠 右門」は、この紅あずまと小豆あんを合体させるというアイデアを実現させた。コロンブスの卵かもしれない。

           いも恋⑤ 
           川越でござる

蒸し器で蒸されて、白い皮が何とも言えない飴色になっている。うっすらと餡が透けて見える。餡とサツマイモを一つ一つ手作業で包んでいるそう。しっかりポイントを押さえている。1個160円ナリ。宮仕えを辞してからは村の財政事情もあり、悲しいかな2個だけ買うことにした。「本日中にお召し上がりください」と書かれている。添加物を使っていないことも好感度アップ。

「紅あずまは川越産?」
「今は茨城の契約農家で作っています」
「皮は普通のまんじゅうと違うね」
「もち粉と山芋を使ってるんですよ。だから、見た目も食感ももちもち。おいしいですよ」
「あんたみたいだね」
感じのいい女性店員と一歩間違うと通報されそうな軽い言葉の応酬を楽しみながら、彦作村長はウマズイめんくい村へよっこらしょと戻った。

           いも恋⑦ 
           何という存在感

村民2号が鼻をぴくぴくさせながら、「いも恋」を見ている。
「私のために買ってきてくれたのね。たまには気が利くのね」
「そ、そういうわけでは・・・」
村民2号の目がつり上がりそうになった。
「・・・そういうわけです」
「サツマイモのビタミンCがりんごの6倍あること、食物繊維が豊富なこと。すべては私のために、でしょ?」
「2個のうち1個半差し上げます・・・」

          いも恋⑨ 
          あんことサツマイモの出会い

割るとホクホクの余韻の残る黄色いサツマイモといい色のつぶしあんが「うふふ」と顔を出した。実に面白い二層の景色である。まずはひと口。もっちりした皮の食感とサツマイモの自然な甘みが口中で混じり合う。そこにつぶしあんが合いの手を入れてくる。甘さはかなり控えめだ。つぶしあんの存在よりサツマイモの存在が大きい。あんこマニアの彦作村長としては、もっと餡を強調してほしい気がする。輪切りにしたサツマイモをそのまま使っているので、どうしてもつぶしあんが負けてしまう。

「そこがいいのよ。あんこ派とサツマイモ派で好みが別れるわね」
「サツマイモをつぶした方がもっと美味くなると思うが」
「それはいいかもね。でも手間がかかるし、見た目もどうかな」
「この皮が素晴らしいよ。この皮だけでサツマイモ抜きのまんじゅうを作ってくれないかな」
「川越が消えちゃうわよ」
「カワを越せない、ということだな」
「黒の舟唄じゃあるまいし」
村長の干乾びた皮に、深くて暗い河が口を開けていた。なんじゃ、このオチは?



本日の大金言。

サツマイモのうまい季節に、かような新しい和スイーツが出てきたことはめでたい。埼玉から目指せ、全国区!


              いも恋10 

大震災から立ち上がった神戸B級の味

 東日本大震災の復興は進んでいない。とくに福島の状況はひどい。その裏に巨額の復興予算をめぐっての政官業の利権争いが存在していることを多くの人が感じ始めているのではないか。取り残された被災者と地元の持っていきようのない怒りも報道ではあまり伝わってこない(東京新聞の健闘だけが光っているが)。政治が機能停止状態という不幸。祖先が会津藩士でもある赤羽彦作村長は総選挙一色に染まっている躁状態のメディアを横目で見ながら、「こうして世の中は動いていくんだ」という冷めた怒りがふつふつと湧き起こっている。キミは本当は何をしたいんだい?
          鷲宮神社③  
          鷲宮神社

鷲宮神社でいつものようにお祈りをした後、ふんどしがズレてはいないか確かめてから、モラージュ菖蒲へポンコツ車を吹っ飛ばした。久しぶりにフードコートで安メシを食べようと思ったのだ。目的の店は、「花門亭」。お好み焼きと焼きそばが売りの店である。ここは、約18年前の1995年1月17日午前5時46分に起きた「阪神大震災」で最も被害を受けた長田地区でゼロからスタートした店。その味が評判を呼び、今では都内や大阪や博多などにも進出している。「本場神戸長田の味」というキャッチフレーズにも矜持(きょうじ)が見て取れる。

                 花門亭③ 
        神戸・長田の本場の味とは?

鉄板でジュジュジュと焼いた薄焼きのお好み焼きが売りで、大阪や広島のお好み焼きとは違う。もんじゃ焼きを思わせる外側のパリパリ感が何とも言えない食感をかもし出している。神戸の下町でもある長田には牛スジとコンニャクを煮込んだ「ぼっかけ」という名物がある。花門亭にもこの味がベースに入っているはずである。

          花門亭11 
          二つの味わい

メニューはかなり多い。選ぶのに一苦労するほどだ。気が多い彦作村長は、豚お好み焼きと焼きそばの二つの味を楽しめる「「ハーフセット」(ドリンク付き630円)を選んだ。ブザーを持たさされて、待つこと6~7分。テーブルの上でブザーが踊った。
鉄板の上でだし汁が利いた茶色いお好み焼きとかなり太麺の焼きそばがジュワジュワとうまそうな匂いを発散している。
ソースがすでにかかっていた。村長はマヨネーズと紅ショウガをくわえてから青のりを振りかけた。ボリュームがかなりある。ドリンクはウーロン茶。

           花門亭⑧ 
           立ち上がるんやで~

テーブルでまずはお好み焼き。外側のパリパリ感が村長の好みに合う。いい餃子にもこのパリパリ膜がある。本体は中がトロリとしていて、カツオなどのダシの風味とともに、豚肉の甘みがいいバランスとなって、口中に「いま生きている幸せ」をじんわりと実感させる。これだ、あの大震災から立ち上がった原動力の味だ。目をつむると、ここがフードコートの中とは思えない。腹に重くもなく軽くもない、ほどよい甘辛味。しかし、目を開けるいつもの平和なフードコートが広がっている。

         花門亭⑥ 
         負けひんで、長田の焼きそば

村長は次にちゃんぽん麵を使っているというかなり太麺の焼きそばに挑んだ。このもちもち感は何だ?複雑なやや甘めのソース味が滲みこんだいい食感。大きめの豚肉とキャベツと合わせて口に運ぶと、ここからも「いま生きている幸せ感」が立ち上がってくる。よくできた味と言わざるを得ない。

「ハーフセット」という軽い言葉がコンビニ風のお手軽さを感じさせるが、この奥に潜んでいるドラマは軽くはない。東日本大震災で阪神大震災は遠い昔の話になってしまった感があるが、たった17年と10か月前の出来事である。神戸の復興もそう簡単ではなかったはず。東日本大震災の傷はもっと深いが、何とか立ち上がらなければならない。彦作村長の胸に様々な思いが去来する。その左手にはたった1票だが、これまで以上にズシリと重い1票が握られている。簡単ではないが、まずは玉石混交をなんとか見分けることに注力しなければ・・・。ボクは台所でキミに話しかけたかった。キミは一体何をしたいんだい?



本日の大金言。

絶望するのは早すぎる。あきらめるのも早すぎる。鳥の視点と虫の視点。まずは最初の一歩を。


                     花門亭10 

「芸能人の口コミ」という落とし穴

 赤羽彦作村長はテレビが大好きで、平均すると一日に4時間くらい見ている。バラエティー番組も好きで、特にお笑い系が好み。今、気になっているのが「お願いだから、死んでえ~」の「ザ・パンチ」の現在。その笑いのツボに入ってくる独自な才能に村長は目を見張らされた。久しぶりに脳天を痺れさせてくれるお笑い芸人が出てきたぞ。村長は胸をわくわくさせて彼らの活躍を注視した。2008年のM-1でも決勝まで残って、そのまま優勝すると思った。だが、その本番で滑ってしまった。異様な緊張が伝わってきて、上滑りし始めたのだ。どうした、ザ・パンチ! テレビに向かって、村長は叫んだ。だが、負けたボクサーのような彼らのへこんだ顔だけがテレビに映し出されるだけだった・・・。

         かのや① 
         テレビの世界

そのザ・パンチだが、最近テレビで見ない。「吉本・東京」の所属だが、吉本はこの稀有な才能(ガラスの才能)をどうするつもりなのだろう? そんなことを考えながら、新宿の「ルミネ よしもと」の入っているビルを回って、居酒屋の客引きがたむろする通りを紀伊国屋方面へ歩いていくと「讃岐うどん かのや」という立ち食いうどん屋が目に入った。入り口には「芸人100人の口が選んだクチコミグルメ」というカラーの雑誌記事が張ってあった。よしもとのお笑い芸人が「この店を選んでますよ」という宣伝なのだろう。渡辺直美やスリムクラブ内田の顔も見えた。

          かのや12 
          お笑い芸人の口って?

「よしもとクチコミグルメ」が取り上げている立ち食いか。案外イケるかもしれないぞ。讃岐うどんも最近は食べていないし、ここはダマされてもともと、乗ってみることにしよう。そう考えて、自販機で「ちくわ天うどん」(390円)を選んだ。そばも売っていて、しかも「讃岐うどん」では当たり前のようになっているセルフ方式ではない。ま、「はなまるうどん」や「丸亀製麺」だけが讃岐うどんではない。これもありかもな。そう思って、「ちくわ天うどん」を受け取り、定番のきざみネギとおろし生姜を乗せる。白ゴマも振る。大好きな揚げ玉がないので、店員に「揚げ玉は?」と聞くと、「60円です」。自家製の揚げ玉なので別料金だという。初めての体験だったが、村長は「ま、揚げ玉が無料と思い込んでいた方もおかしい。だけど、ここはパス」。揚げ玉はあきらめて、横にのびるカウンターに腰を下ろして、うまそうに湯気の出ている「ちくわ天うどん」を見つめた。

         かのや④ 
         笑えないうまさ

ドンブリは小さめで、全体的に量も少なめ。ツユは薄口で、出汁のよく利いた関西風。その上に半分に切ったちくわ天が2つ乗っている。ワカメも鎮座している。生姜ときざみネギがいい具合に融け込んでいる。店内の雰囲気は場末の繁華街のようなけだるい雑然がそこかしこに感じられる。彦作村長の好みのシチュエーションでもある。

         かのや10  
        素晴らしきツユ

まず、ツユをレンゲでひと口。多分かつおやサバやイリコ、コンブなどで取ったダシがよく利いてうまい。さすがお笑い芸人口コミの店だな。ザ・パンチもここに来たことがあるのだろうか? ノーパンチ松尾のあの「早く死んでえ~」をもう一度聞きたい。パンチ浜崎の似合わないスカーフ姿を見たい。お願いだから、早く再起してえ~。ちくわ天をザ・パンチに見立てて、そう突っ込みを入れたくなった。

         かのや⑥ 
         うどんの意味とは?

うどんは讃岐とは思えないコシのない中太のうどん。もちもち感はなく、歯切れもごくごく普通。うーむ。村長は混乱した。これはいわゆる讃岐のうどんとは違う。少なくともはなまるや丸亀とは別種のうどんだろう。堂々と出している「讃岐うどん」という看板と芸人の口コミ記事。その意味をあれこれ推理しているうちに、彦作村長は考え違いをしていることに気づいた。これはこの店のある種の芸ではないか? 

メディアの露出情報をそのまま信じることの愚。
氾濫する外側だけの情報。表面こそが真実だというメッセージ。その絶望的な軽さ。その魔力。そうか、そうだったのか。ザ・パンチもこのテレビの魔力の罠にはまってしまったのではないか。

ザ・パンチはテレビから離れたところから必ず再起する。そして、テレビの世界に向かって「お願いだから、やめてえ~」と突っ込みを入れる日がくる。「かのや」を出ると、村長は今苦しんでいるはずの松尾と浜崎にささやかなエールを送るのだった。



本日の大金言。

作家の小林信彦はテレビについて「江戸時代の吉原のように人間を惹きつけて止まない現代のきらびやかな悪所である」という意味のことを書いている。必要悪。その洞察力、さすがと言うしかない。



                   かのや11 


泳げ、天然ものたい焼きくん

冬の風物詩、 たい焼きは戦国時代に突入している。気が付いたら、フードコートやスーパー、駅周辺など至るところに「たい焼き」の看板が見られるようになった。これほどのたい焼きブームは、1975年に大ヒットした「およげ!たいやきくん」以来だろう。いや庶民のスイーツとして根を下ろしたという意味では現在の方が当時より厚みが増している。あんこマニアの彦作村長としてはうれしい傾向ではある。

そのたい焼き戦国時代の中で、「天然物」と言われる一丁焼き型のたい焼きに新しい波が起きている。一度に何匹も焼く「養殖型」はほとんどがチェーン店で、「日本一たい焼き」や「白いたいやき」「たい夢」などはその代表格だが、天然物は一匹一匹焼くことが売りなので、個人経営となる。スーパーvs個人商店という構図である。たい焼き御三家と言われる「人形町 柳屋」「麻布十番 浪花屋総本店」「四谷 ふたば」などは、天然物の右代表である。

          かりゆし① 
          天然物のたい焼きくんが・・・

都内を放浪中に、東京の椎名町北口でたまたま見つけた「かりゆし」はその天然物の小さなたい焼き屋さん。猫がかつお節に惹きつけられるように、小豆の何とも言えない甘い香りにふらふらと引っ張られてしまった。目を凝らすと、長い持ち手を器用に扱いながら、主人らしき白衣姿の男が一本一本焼いているではないか。ノラ猫も歩けば棒に当たる。

        かりゆし②  
        職人ワザ

「乳卵不使用」「北海道産小豆を毎朝炊いてます」「一丁焼きで一つ一つ直火で焼いています」という手書きの文字も目に入った。たい焼きの職人がいる。意外な場所にかような店があることにまず驚いてしまった。他にだんごやおはぎ、大学いもなども売っている。昼食を取ったばかりだったが、小豆ハンターとしては逃げるわけにはいかない。すぐに「たい焼き」(1匹140円)を2匹買って、フウフウ言いながらその場で賞味することにした。

        DSCN3368.jpg   
        この手づくり感
    
特徴は皮がきわめて薄いこと、小豆あんが透けて見えるほどで、本当に尻尾の先までぎっしり詰まっていることだろう。天然物ならではの焦げ目が郷愁を誘う。小豆あんは毎朝炊いているというだけあって、見事な色合いでほくほく感がかなり強い。甘さはやや濃いめ。すべてに手づくり感が行き届いている。口中の至福を堪能しながら、彦作村長のカスカスの頭がカラカラと回転し始めた。この味と雰囲気、人形町「柳屋」と似ている。主人に直撃してみた。

          かりゆし⑦ 
          毎朝つぶしあん

「あの柳屋と似てますねえ」
「ええ、本家筋です。私は柳屋からノレン分けした『根津たいやき』で修業したんですよ」
とはいえ、柳屋よりも皮がさらに薄い。そのパリパリ感。毎朝炊いているという「つぶしあん」(粒あんではなくつぶしあん)で勝負していることがわかる。そこが好みのわかれるところでもある。

          かりゆし⑥ 
          これから、これから

店は約1年前に奥さんと2人でオープンしたそう。長い修業を経てから「一丁焼きの天然物」の小さな旗を掲げて、たい焼き戦国の世にデビューする。その志に拍手したくなった。泳げ、天然ものたい焼きくん、である。



本日の大金言。

マニュアルもそれなりにいいが、気の遠くなるような修業を経た職人技に敬意を払いたい。たかがたい焼き、されどたい焼き。たい焼きにも職人がいることを忘れてはいけないと思う。


                     かりゆし⑧ 

老舗居酒屋で名物「千寿あげ」の謎

 東京・北千住は赤羽彦作村長の生息圏である。エンターテインメント新聞時代に2年間ほど住んでいたこともある。明け方まであちらこちらとハシゴしまくって、そのまま会社に行ったこともある。いい居酒屋が多く、江戸の昔の宿場町の古きよき名残もそこかしこに残っている。

テレビで石原太陽じいさんと橋下金太郎の合流会見を見て、彦作村長は、突然のように「千寿あげ」を食べたくなった。寒さになど負けてはいられない、風邪など引いてる場合ではない。永田町の自己保身解散選挙に対して、1票の重みを示さなければならん。立候補者のウソとメディアのウソをしっかり見極めなければいかん。いかんいかん、イカの金ボール。

          永見① 
          おお永見よ

やってきたのは北千住の老舗居酒屋「永見」。ここの名物「千寿あげ」は絶品の揚げ天で、ニンニク入りを食べると、村長の場合は2日間は元気がみなぎる。少なくともハシゴも5軒は軽く行ける状態になる。カラオケも30曲はイケる。今回の選挙は明治維新、終戦に続く日本の将来を決める重要な選挙になる。このところぎっくり腰が悪化して、そこに風邪も併発してしまい、朝のラジオ体操も休んでいる。まずは「千寿あげ」、そこからすべてが始まる。

入り口の帳場にいつもいるはずの名物店主がいない。あれっ、と思いつつ、カウンターに腰を下ろして、「千寿あげ ニンニク入り」(520円)を注文した。もう一品、「牛の煮込み」(500円)も注文。煮込みはもう一軒の老舗居酒屋「大橋」の方が好みだが、永見も悪くはない。居酒屋とくれば、日本酒は欠かせない。メニューの中から純米酒「初孫」(1合590円を選んだ。

          永見⑥ 
          これだこれだ

時計を見ると、午後6時半。店内はサラリーマンやどんな商売をやっているのかわからないおっさんなどでほとんど埋まっている。茶髪のオネエちゃん店員が「千寿あげ」を「ハイッ」と持ってきた。一瞬、視力が低下したのかと思った。以前と同じように3個だが、小ぎれいになって縮んでしまったように見えた。こんがりといい揚げ具合で、粗塩もきれいに振られている。

         永見④ 
         何見てんだよ

村長はうーむと唸りながら、目の前の「千寿あげ」とにらみ合った。どう見ても、以前より一回りは小さい。しかも形がきれいな楕円になっている。つい8か月前に来たときはもっと大きくて、形も野性味に富んでいた。村長は「おまえ、本当にあの千寿あげかい?」と直接尋ねてみたが、返事はない。村長はある種のいぶかしさを覚えながら、まずはひと口。魚のすり身とタマネギの甘みが渾然一体となって凝縮し、そこにニラとニンニクの香りが立ってきて、実にうまい。確かに「千寿あげ」だ。

        永見⑦ 
        看板は変えないぜ

洗練されている。村長は「初孫」をグビと飲んで、タイミングを見てから、古手の店員に変化球を投げることにした。
「形、変わった?」
「いえ、同じですよ。看板ですから、そう簡単には変えませんよ」
「小さくなってない?」
その問いにいささか動揺したように、言葉を飲み込んだ。
「まあ、魚の値段が変わりますからねえ」

         永見⑧ 
         煮込みもうめえよ

もともと追及する意図はないので、そこで話は終わったが、材料の値段が上がると、小さくなるのもやむを得ない。何よりこのいい味を食べさせてくれるだけでありがたい。村長は醤油を付けて食べるのが好きなので、お酒をお代わりして、さらに「千寿あげ」に食らいつく。醤油が絶妙な甘みをさらに引き立たせてくる。頭をサッと切り替えて、永見のいい雰囲気を楽しむことにした。隣の公務員風の客と、解散・総選挙の行方などを語り合いながら、2杯目を空にして、サッと立ち上がった。出口の帳場で舌代を落とす。2200円ナリ。安くはない。帰りしな、気になることを訪ねてみた。

「オヤジさんはどうしたの?」
「引退しました。代替わりしたんですよ」
永田町も北千住も大きな節目のようだ。外に出ると、風がピューっと吹きつけてきた。懐にも。村長は夜空を見上げながら、ハシゴするかどうか迷った。遠くでオネエちゃんの声がしていた。



本日の大金言。

何もかもが小さくなってきた。日本はもともと小さい文化である。そこに洗練と志を求める民族でもあることを思い出した。小さいこともそう悪いことではない。


              永見11 





行列の鶏塩ラーメンに並んでみた

 めっきり冷え込んできた花のお江戸。彦作村長は久しぶりに東京・兜町にあるペン村に出稼ぎに行った。野田なまず首相が解散を宣言したことで、一度死んだはずの安倍ノ宮ばかりでなく、石原太陽じいさんや橋下金太郎が「薩長連合」などと時代錯誤のアドバルーンを打ち上げるなど、永田町は一挙に「平成の大戦(おおいくさ)」の様相を呈してきた。兜町もさぞやてんやわんやしているだろうとワクワクしながら元新聞記者根性で通りを歩いていると、行列のできている一角があった。「麵匠 たか松」というラーメン屋だった。時計を見ると正午。兜町のランチタイムは平和である。京都の人気ラーメン屋だそうで、ここが東京一号店だとか。

        たか松⑨ 
        待てば海路の日和あり?

日本経済がこれからどうなるか、株価は?給料は?年金は?という将来の不安も、人気ラーメン屋の前ではスープの中の一滴かもしれない。彦作村長はギアチェンジして、その行列に並ぶことにした。腹が減っては戦はできぬ、などと妙な言い訳を用意しながら。

並んでいると、黒Tシャツの店員がやってきて「まずは自販機で食券をお求めください」。この店の売り物は「鶏魚介つけ麺」(750円)と「鶏塩ラーメン」(750円)。迷ったが、寒いので「鶏塩ラーメン」を選んで、店員に食券の半券を渡す。20分ほど待たされて店内に入ると、カウンター席を指定された。見渡すと他にテーブル席が4つほど。狭くもなく広くもなく、といった開放的なつくりだ。黒Tシャツの店員が多いことが何やら体育会的で、「最近流行りの人気ラーメン屋さん」の最先端を行ってるということなのか。

          たか松③ 
          鶏塩ラーメン登場

半券を先に渡していたためか、カウンターに座ると、ほとんど待たずに「鶏塩ラーメン」がやってきた。実に機能的である。麵は並140グラム(かなり少ない)を選んだ。ちなみに大盛り210グラムも同じ750円ナリ。黒い器に丸いチャーシューが2枚、白髪ねぎ、水菜、シナチクが乗っかっている。見るからにこってりした白濁スープ。麵は中太麵と細麺の中間くらい。レンゲでまずはスープをひと口。塩加減の強い鶏の白湯スープだ。しかもかなりトロリとしている。魚粉を入れているのか、ひょっとして片栗粉を入れているのではないか? しかし、そのトロリが結構うまい。スープの量は少ない。その分、コラーゲンが多い?

         たか松⑦ 
         とろりスープ

麵は自家製。ストレートでコシがあり、歯ごたえも悪くない。隣の客はつけ麺を食べていた。つけ麺は「長野県産の石臼引き全粒粉」。まるで田舎蕎麦のような色で、うまそうではある。しかし、こちらは小麦色の麺。なぜ同じ麵を使わないのか、好みの麵を選べたらいいと思うのだが。

          たか松④ 
          自家製麵どすえ

チャーシューは多分豚バラ肉だろう、脂身が多め。シナチクは少ないが、コリッとしていてうまい。全体として小さくまとまっている印象。「よくできました」と花丸を押したくなるほど。しかし、例えば箸など社員食堂のような黒い プラスチック製で、いささか興醒め。やはり「今流行りの都会のラーメン屋さん」の最先端の店ということか。

そう言えば、並んでいる客も若いサラリーマンやOLが多い。ウマズイめんくい村の村長は複雑な気分でツマヨウジを一本取ると、次々にやってくる客に背を向けて外に出た。一陣のつむじ風が兜町の寒空に吸い込まれていくようだった。



本日の大金言。

激化するラーメン戦争と永田町の大戦(おおいくさ)。何だか同じ匂いと味がする。命が取られることのない大戦。


                たか松⑧ 

明治の味、桐生の老舗でひも川うどん

 上州は美熟女の村民2号の故郷である。「カカア天下」と「国定忠治」ばかりが強調されるが、桐生は少々違う。かつては織物の街で「西の西陣、東の桐生」と称されたその繁栄ぶりと垢抜けた洗練は今でも街のいたるところに残っている。この街は「堕落論」の作家・坂口安吾が晩年過ごした街でもある。安吾が通った「レストラン芭蕉」や「鰻の老舗 泉新」など2012年の現在でも変わらぬノレンを下げている。村長が好きな街の一つでもある。

「村長、桐生うどんって知ってる? 群馬は水沢うどんが有名だけど、桐生もうまいうどん屋が多いのよ」
このところソバとラーメンばかりで、うどんのうまい店に行っていないことを村民2号がチクリと指摘した。
「中でも明治初期に創業した川野屋本店のうどんはすごいわよ。織物の街らしく、着物の帯のような幅広のうどんで、これがなかなかなのよ」
鼻の穴が膨らんでいる。こういうときは逆らってはいけない。

         川野屋10 
         明治から帯川(ひも川)とは

ポンコツ車をぶっ飛ばしてやってきたのは、桐生市郊外の「川野屋本店」。見るからに雰囲気のある蔵造りの一軒家である。紺地に白抜き文字で「名代 帯川 川野屋本店」と記されたノレンが下がっている。帯川はひも川と呼ぶ。桐生にちなんだ洒脱な読み方だろう。ここは4代目が店を取り仕切っている。3代目の店も桐生市内にある。ノレンをくぐると、タイムスリップしたような古くてモダンな世界が広がっていた。木のカウンターとテーブル席、さらに一段上がって、その向こう側もテーブル席という今では珍しい構造だ。
 
「純手打ち巾広麵」「県内産地粉100%」という張り紙が「うちの店は他の店とは違うぞ」という心意気を感じさせる。メニューの中から温かい「きのこひも川」(600円)を選んだ。ナスが大好きな村民2号は「揚げナス汁うどん」(550円)。うどんの他ソバもあるし、ソースかつ丼(780円)などもある。

        川野屋③  
        きのこひも川うどんだんべ
        川野屋⑦ 
        こちらは揚げナス汁うどん

「きのこひも川」はマイタケ、しめじ、エノキダケといったきのこに雑じって、ワカメ、長ネギ、かまぼこがいい彩りで乗っかっている。その奥にまるできしめんをさらに幅広くしたような「ひも川」がほんわかと沈んでいる。このひも川は川野屋が創業当時から頑なに守っている半生干しの手打ちうどん。それがツルっとしていて、もちっとした独特の食感を作り出している。つゆは実に素朴な風味で、「サバ7、カツオ3」の出汁に醤油を合わせたもの。

「これはうまい。ホントに帯みたいな幅広。この何とも言えないツルもち感と歯ごたえはいいワンタンのようだよ。初めての食感だ。きしめんとも讃岐とも明らかに違う。半分生干しにして手間がかかっているが、その分だけ奥深い味になってる。つゆはやや濃いめだけれど、やさしいじんわりとくる味だ。ちょっとゴマの香りがする。ゴマ油を入れているのかな? 好みで言うとこのゴマはない方がいい」

        川野屋⑤ 
        この幅広がツルツルもちもち

「揚げナス汁は素朴で好感が持てるけどナスの量がちょっと少ない。ナス好きの私としてはここだけが不満」
「明治以来の伝統を守っているのがすごいと思う。値段も味も庶民的なところが好きだな。かき揚げやナス、かぼちゃなどの天ぷらを単品(100円~150円)でトッピングできるのもいいね」
「トッピングって昔からあったのね。やっぱり桐生は明治のころから新しいものをいち早く取り入れた街だったんだ。私もその伝統の上にあるのよ」
「うむ。カカア天下と国定忠治の伝統も受け継いでいる」
言い終わらないうちに、村長の頭上に村民2号の刃がギラリと光った。ジョ、冗談だってば。


本日の大金言。

坂口安吾も川野屋のうどんを賞味したに違いない。堕落論の作者が晩年この街で何を思ったのか。「半年のうちに世相は変わった。醜の御盾といでたつ我は・・・」と人間の本質を凝視した作家が今生きていたら、今の日本をどう見ただろう?


                  川野屋⑨ 


「らき☆すた」神社の絶品70円あんこ玉

このおかしなブログを読んでいてくれている小豆ファンのために、 本日はちょっと信じられない甘い極秘情報をお届けしよう。これは宣伝ではない。今どきこんな店もあるということをさらりとご紹介したい。一年中財政危機にある「ウマズイめんくい村」御用達の店でもある。何を隠そう、関東最古の大社「鷲宮神社」の参道にある「島田菓子舗」の話である。高くてうまいは当たり前。安くてまずいもまあ納得できる。しかし、ここは安くてうまい。ま、好みもあるが。

          島田菓子① 
          昔ながらの和菓子屋さん

埼玉・久喜市鷲宮町にある「鷲宮神社」。最近は人気アニメ「らき☆すた」の舞台にもなり、いまやアキバ系のおたくやアニメファンにとってはメッカとなっている。もともと歴史の古い神社で、神代の時代から存在しているという説もあるほどだ。あの八幡太郎「源義家」が馬をつないだ桜の古木なども残っている。あまり関係ないが、彦作村長も正月は毎年ここで参拝している。

          島田菓子③ 
          あった、これこれ

さて、その島田菓子舗。ここの「あんこ玉」(1個70円)が絶品なのである。創業は1935年(昭和10年)。「創業当時の作り方をかたくなに守っている」というのも素晴らしいが、何よりその値段。小豆は北海道十勝産を使い、添加物も使わない。すべて1個1個手づくり。それで、1個70円とは、東京の感覚で言うと、ちょっと信じられない。串だんごも1本60円。他にも草もちや鹿の子や水ようかんなどもある。

あんこ玉はピンポン玉くらい。かなり大きめ。舟和のあんこ玉の2倍は優にある。敷いているのがビニールの葉っぱという点だけがちょっと残念だが、値段を考えるとそう無理も言えない。彦作村長はあんこ玉5個とあんこの串だんご2本を買い求めて、ウマズイめんくい村に戻った。

         島田菓子⑤ 
         圧倒的なこしあん

       島田菓子⑧ 
       こちらは串だんごでござる

「また買ってきたの?今月はこれで3回目よ。いくら安いからと言って、限度があるわよ」
村民2号があきれ果てたように目を三角にした。
「うむ。あんこ道は厳しいのだ」
村長は訳のわからないことをつぶやいて、さっそく包みを開ける。

黒光りのあんこ玉が「よろしゅうお願いします」と正座して、その神々しい姿を現した。こしあんの濃淡がその日によって微妙に違うが、その手づくり感も好感がもてる。表面の透明な寒天の膜が、何とも言えないあんこ玉の独自の世界をかもし出している。この素朴感、この単純な深み。手に取るとずっしりと重い。

         島田菓子⑦ 
         このぷるぷる寒天

最初のひと噛みの感動。こしあんはやや塩分が強め。それが甘さを引き立たせて、口中に広がる。塩分の強さが好みのわかれるところだが、そこが病み付きになるところでもある。こしあんは舌や粘膜を蹂躪(じゅうりん)し、すーっと溶けるように脳天へと消えていく。その圧倒的な余韻。ぜいたくを言うと、もう少し小豆の香りがあるといいのだが。70円の至福。あっという間に2個平らげる。

         島田菓子⑥ 
         北海道産こしあん

「私にもちょうだいよ。私は串だんごにする」
村民2号の目が三角から丸に変化していく。
「もちは普通だけど、このこしあんがうまい。これで60円というのはびっくりね。儲かるのかしら」
「必要以上に儲けるという発想が多分ないんだと思うよ。これだけしっかり作っていて、ほとんど宣伝もしない。こういう店がまだ存在しているということにちょっと驚く」
「職人がいる。いまの日本に最も欠けている職人意識」
「ボクラは食人。お金のない食人。だから、しょっちゅう買いに行く」
「同じショクニンでも天と地、月とすっぽんということね」
いつのまにか、あんこ玉5個がきれいになくなっていた。



本日の大金言。

TVでは揺れる永田町、テーブルには70円のあんこ玉。しみじみと日本の行く末を想う。


                  島田菓子⑨ 







完全店内製麺、メディア注目つけ麵の味

生き馬の目を抜く花のお江戸で仕事にもまれている娘のキオから、「うまいつけ麺屋があるんだけど、行ってみない?」という連絡が入った。珍しいことだ。最近つけ麺に目覚めた美熟女の村民2号は、「仕方ないわね。行ってみましょ」とすぐに旅支度をした。村長も越中ふんどしがズレていないことを確認してから、「うむ」と立ち上がった。「でも、おごってくれるのかしら?」

          三ツ矢製麺⑧ 
          椎名町へようこそ

指定されたのは池袋の隣駅・椎名町である。池袋や新宿にも近く、学習院もある目白にも近い。駅を降りると、自転車が雑然と並び、買い物かごを下げた普段着のおばさんが行き交っている。生活感にあふれた街だ。2か月ぶりに見るキオが手を振って待っていた。学生から社会人になって約7か月。かなり揉まれたのだろう、顔がきりっと締まって、以前のような甘さが薄れて、闘う顔になっていた。

「今日はわざわざ来てくれてありがとうね」
社会人としてのマナーもしっかりしてきたようだ。
「あいさつは抜き。あー腹減った、つけ麺のうまい店ってどこ?」
村民2号のマナーの方が心配になってきた。

「目の前よ。ここはフランチャイズなんだけど、今話題のつけ麺屋なの。TVの『王様のブランチ』などでも取り上げられてる。村長もつけ麺好きでしょ?」
「まあな。イケメンだからな」
村民2号の回し蹴りが飛んできた。危ない、あぶない・・・。

         三ツ矢製麺① 
         注目のつけ麺専門店

「三ツ矢堂製麺」という看板。木の手づくり感が素朴な雰囲気を演出している。正午ちょっと前だが、店内は混み合い始めていた。カウンター席とテーブル席があり、麺へのこだわりを書いた大きなボードが目を引く。麵業界では初めてお菓子用の国内産特級小麦粉を使用して、しかも「完全店内自家製麵」とうたっている。

メニューが豊富なのが村長の好みとは少々違うが、この店の売り物である「半熟味玉つけめん」(880円)を注文した。麵の量や温度が好みで選べる。キビキビと感じのいい女性店員に「おすすめ」を聞いてみると、「お好みですが、私は冷やもりです」。麵の量は並(300グラム)にした。村民2号とキオはなぜか「味玉ラーメン」(880円)。ちなみにラーメンは780円。

         三ツ矢製麺② 
         味玉つけ麺でござる

         三ツ矢製麺11 
         あちきは味玉ラーメン

「あれっ、つけ麺じゃなかったの?」
「同じものを頼むより、別のものを頼んで品評した方がいいでしょ?」
「同感。ラーメン、つけ麺、ウーメンよ。うふふふ、イケズメン村長包囲網」

味玉つけ麺がやってきた。かなりの太麺で、いい小麦色。つけ汁はとんこつを煮込んだスープに魚介や乾物も加えた醤油ベースの濃厚なもの。半濁したアツアツのスープの中に煮卵がうまそうに浮かんでいる。脂身の多いゴロッとした角煮のようなチャーシューが4~5個。それに巨大なシナチクが2本とナルト。刻み葱も彩りを添えている。

         三ツ矢製麺④ 
         この太麺は高得点

ひと口。やはり麵が売り物だけあってかなりモチモチしていて、しかもつるりとした感触だ。うまいと言わざるを得ない。麵だけで見ると、大勝軒より上と見た。スープはこってりと濃厚で酸味がある。ゆずの香りがいい具合に絡んできて、太麺との相性もいい。煮卵、シナチクもよくできていてうまい。かなり試行錯誤してこの味にたどり着いたのがよくわかる。しかし、チャーシューの脂身が多すぎる。

         三ツ矢製麺⑥ 
         脂身の悲しいチャーシュー

「ラーメンもうまいけど味も値段も高級だし、全体として私はこの脂の多さが気になる」
と村民2号が辛口評論。
「このこってり感がいいのよ。全体で評価して欲しいなあ。この店は『女子が好きなラーメン150』にも選ばれてるのよ。ま、難を言えばもう少し安くしてほしいけど」
キオは若い分だけ村民2号とは意見が違うようだ。
脂身の多くなってきた村民2号と脂身が少なくなってほっそりしてきたキオ。ダシが出終わった鶏ガラのような村長。三者三様の評価がテーブルの上を飛び交う。

勘定を払う分になって、キオがすばやく言った。「今日はごちそうさま!」
村民2号もすかさず「村長、次もよろしくね」
村長はため息をつきながらも、キオが着実に成長していることを実感して、心の底ではうれしくなった。それから、よろよろとワザとのろい動作で薄くなった財布の中身を確認するのだった。


本日の大金言。

人間万事塞翁が馬。案ずることはない。駿馬も駄馬も一寸先は紙一重である。


             麵 





新宿ジャズバーの不思議なパウンドケーキ

 腰痛を抱えながら、赤羽彦作村長は新宿東口に立っていた。極めてユニークなイラストレーターが主催する「ラテンの会」に出席するためである。「こんなコセコセした時代は、発想をガラリと変えてラテン的に暮らそうじゃありませんか」というのが会の趣旨。メンバーはホームレス作家や出版社の編集者など少数精鋭・・・ではなく少数鈍才である。ヘンな集まりでもある。それでいいのだ、赤塚不二夫の匂いもする。開催時間の午後7時までは1時間ちょっと間がある。さて、どうしようか。ほとんどスカスカ状態の村長の頭にピカリとひらめくものがあった。

10分後、村長は紀伊国屋書店裏手の地下にあるジャズバー「DUG」にいた。DUGはあのピットインが紀伊国屋の裏にあった疾風怒濤の70年代にも存在していたジャズバーの老舗。当時は確か「DIG]という名前だったと思う。DIGから過去形のDUG。「掘る」と「掘り返す」という意味だが、スラングでは別の意味もあるようだ。

                 DUG① 
         ジャジーな黒生ビール

久しぶりのDUGで「黒生ビール」(740円)を注文した。オスカー・ピーターソンのピアノが流れている。何か軽くつまもうと思い、メニューを見ると、「ミートパイ」(450円)があった。しかし、ビールにミートパイは月並みに過ぎる。さらに目を凝らすと、「期間限定」として、「マロンパウンドケーキ」(210円)の文字がキラキラ輝いた。

         DUG③ 
         スイートな展開

黒生ビールとマロンのパウンドケーキ! この組み合わせはジャジーだ。意外過ぎる。千円札一枚でおつりがくるのも「ウマズイめんくい村」の財政事情には適合している。BGMはオスカー・ピーターソンからマイルス・デイビスに変わっていた。「クールの誕生」。ここはクールに限る。

黒生ビールが来た。クラッカーの小皿が付き人のように付き添っているのも「さすがDUG」。このクラッカーと黒生ビールの相性がいい。コンソメピリ辛味。ローストした麦芽のいい香りが口中から鼻腔へ抜け、それが滝となって反対側の咽喉奥へと流れ込んでいく。その流れが一瞬落ち着く。その隙間を狙ってピリ辛クラッカーを放り込む。奥歯で噛むと、タバスコのような乾いたラテンの世界が広がってくる。心地よい快感の怒涛の連鎖。味覚のベッサメムーチョ・・・。流れる曲はクール、口内はホット。この落差もジャジーだ。

         DUG⑧ 
         自家製の焼き立て

いいタイミングでマロンのパウンドケーキが登場した。スリムなウエイトレスが「自家製の焼き立てですよ」。いいバターと卵とクリームの香りが鼻腔をくすぐった。表面のこんがりと中身の黄色が温かい。まさかジャズバーでかようなパウンドケーキに出会えるとは思っていなかっただけに、そのいい方向へのギャップにうれしさも倍増してしまった。村長は単純なのである。

自然な甘みといい香りが、黒生ビールの通った後の口内にまろやかなメロディーを奏でる。甘さが控えめな分だけ奥深さが染み透ってくる。焼き具合がほどよく、粘りのある固さとねっとり感、それにマロンのつぶつぶが絶妙なバランスである。黒生ビールとの相性も想像よりもずっといい。あり得ない場所にあった不思議なパウンドケーキ。曲がセロニアス・モンクに変わっていた。

         DUG.jpg 
         イレギュラーパウンド?

ラテンの会の時間が近づいてきた。村長は濃厚な1時間に少なめの後ろ髪を引かれながら、地下から地上へと出た。ジャズとラテンが地上と夜空を彩り始めていた。



本日の大金言。

たまには気忙しい浮世を離れるのもいい。イルカが海中から海面に出て空気を吸い込むように。疲れるのはまだ早すぎる。


                  DUG⑤ 


人気1位蕎麦処で「3合そば」のなぜ

 紅葉の那須を後にして、ウマズイめんくい村のおかしな御一行3人が目指したのは「蕎麦のメッカ」日光例幣使そば街道。かつて天皇の勅使が日光東照宮に供物を納めるために通った街道でもある。この通りにはうまいそば屋が数多くある。彦作村長はうまいそばが食いたくなると、ポンコツ車をぶっ飛ばして、やって来たりするのだった。途中で、見事な虹が出ていたが、一行の関心はそんなところにはない。

         那須の虹 
         虹の架け橋、いずこへ?

今回の目的は「水無湧水庵(みずなしゆうすいあん)」。地元のタウン誌が行ったそば人気ランキング1位のそば屋である。以前土曜日に来てあまりの混みように入ることを断念した記憶がある。今回は平日の木曜日。しかも午後1時半を過ぎている。あまり待たずに入れるチャンスではないか。
「アタシャあ、10分以上待たされるのは嫌だよ。きのうは久しぶりにカラオケで31曲歌って気分がいいから、少しは我慢するけど、そば屋と歌の順番だけは10分以上待たされるのは御免こうむるよ」
87歳の大叔母が都はるみ調のこぶしを利かせて言った。

         湧水庵① 
         地元のそば人気1位

「水無湧水庵」は平屋建ての古民家。駐車場は平日の午後1時半を過ぎているのに混み合っていた。4人用のテーブルが4つ。座敷もあり、そちらはテーブルが6つほどある。ほとんど満席で、従業員のおばはんたちが忙しく動き回っていた。運よくそれほど待たずにテーブル席が空いて、そこに村長と村民2号と大叔母が同時に「よっこらしょ」と腰を下ろした。

メニューから「3合そば」(1700円)と「天ぷら盛り合わせ」(450円)を注文した。もりそば1枚が600円なので、別々に頼むよりも3人分合計で100円安上がりになる。それともう一つ、「3合そば」だとそれぞれの食欲と競争能力が食べる量の勝敗を決する。最後に笑うのは誰か? 一瞬にして、3人のそれぞれの思惑が、表の笑顔とは裏腹に波乱含みで一致した。

          湧水庵② 
          この見事な二八そば3合

大きな竹ざるに見事な色黒の手打ち二八そばが乗っかってやってきた。食べやすいように小さな山が7つ。そばは地粉を使った挽きぐるみの細打ちそば。栃木・粟野で食べた「永野のそば」に似ている。
「さすがにいいツヤね。新そば祭りはあと2週間先だから、まだ新そばではないけど、それでもほのかにいいそばの香りがする。そばつゆは少し甘めかな。多分かつおダシ。あまり濃くはない。私にはちょうどいい」
村民2号が素早くチェックする。

         湧水庵③  
         もそっとソバに・・・

「天ぷら盛り合わせ」はなす天2本、大きなかき揚げ、まいたけ天、チクワ、ピーマン。かなりのボリューム。天ぷらがテーブルに載った途端、静かにゴングが鳴った。
3人同時にそばに箸を延ばした。
「これだけ細打ちなのにコシがある。ノド越しも合格。この店は名前でわかるように湧水を使っている。この周辺ではこの店だけで、この水の素晴らしさが特徴だね」
彦作村長が余裕を見せながら寸評する。

         湧水庵⑤ 
         天ぷらの盛り合わせ

「天ぷらも結構うまい。でも、コロモが厚めで、時間を置くとベチャッとしそう。要は早く食べろということね。天つゆは甘め。ソバとの相性を考えると、いいバランスね」
村民2号が冷静に分析する。
「ただ一つ、気にくわないのがワサビ。これだけいい水で、裏庭にはワサビ畑もあるのに、粉ワサビを水で溶かしたものを使っている。なぜだ、と叫びたい気分だ」
「決まってるでしょ。いちいちワサビをすり下ろしていたら、これだけのお客をさばききれないし、第一、この値段も維持できないわよ。仕方ないわよ」
「惜しいなあ。この店は平成12年に地元の農家が共同で作ったのが始まり。そう考えると、まあよくやっているということなのかなあ。画龍点晴を欠く、というのはそば職人にささげる言葉ということなのかな」

        湧水庵④ 
        湧水と地粉の結婚

黙々と食べることに専念していた大叔母が箸を置いた。タッチの差で村民2号と村長も箸を置いた。大ざるはきれいになっていた。天ぷらがピーマンだけ1個残っていた。
「まあ、こんなもんじゃろ。アタシャあ、うどんの方が好きだね。ソバはみみっちくてイケない。村長、あんたの仲間が残ってるよ」
そばを一山多く食べた大叔母がツマヨウジをくわえながら、勝利のドヤ顔で言った。
「ピーマンのことよ。残り物に福よ。村長、早く食べてね」
村民2号も笑みを浮かべて相槌を打った。村長は冷たくなったピーマンに手を伸ばした。



本日の大金言。

そばにとってワサビは、オーケストラにおけるシンバルのようなものかもしれない。シンバルのひと叩きが曲全体を左右することだってある。


                 湧水庵⑨  

隠れた絶品すいとんと紅葉の至福

 ウマズイめんくい村の御一行3人を乗せたポンコツ車が、紅葉に染まった那須街道をひた走る。運転するのはもちろんぎっくり腰の赤羽彦作村長である。後ろには最近肥満気味の村民2号とその隣には「上州のゴッドマザー」87歳の大叔母が鼻歌まじりで、「やっぱり那須の紅葉はいいわ。また冥途の土産ができた。これで村長の稼ぎがいいともっといいんじゃが」などと話している。

「ぼちぼち昼飯ね。お腹の虫が鳴いている」
「アタシの腹の虫は暴れ始めているよ。村長、いい店、探してあるんじゃろ?」
午後1時を過ぎていた。彦作村長は、こっくりとうなずいて、とっておきの店の前に車を止めた。那須街道沿いにある平屋建ての一軒家。「ごはん 平林」という紺地に白抜きのノレンが下がっている。

         那須・平林① 
         隠れすいとんの術・・・

「ここのすいとんは絶品です。大叔母が終戦直後に食べていたマズいすいとんとはまるで別物です」
村長が言うと、村民2号が相槌を打った。
「2年前に初めてきて、驚いたわね。とにかくうまかった。那須はすいとんの隠れた本場でもあるのよ。お祭りなどでたまに食ったすいとんしか知らなかったから、期待していなかった分、感動もひとしおだったわね」
大叔母がつまんなそうに鼻毛を抜いてボソッと言った。
「村長も村民2号もホントのすいとんを知らん。でもまあ、そこまで言うなら食べてみよう。その代わり今夜はカラオケ30曲は歌わせておくれよ」

         那須・平林⑧ 
         紅葉の癒しの効用

古民家をそのまま利用した落ち着いた雰囲気の座敷。床の間には掛軸と花瓶。3人用のテーブル六つと6人用のテーブルが一つ。縁側の向こうには庭の紅葉が見える。
メニューは「とろろ膳」(1400円)、「ポーク煮込み膳」(1700円)、「すいとん膳」(1300円)など7~8種類ほど。ぜんざいなど甘味もある。全体の構成からさりげないこだわりが行き届いているのがわかる。
 
彦作村長は「すいとん」の単品(700円)を注文。村民2号も「安いというのもいいわ」で同じメニュー。派手好きの大叔母は「たまには豪勢にいかないとね。ウッキャッキャ」で「すいとん膳」(1300円)にした。

          すいとん①   
          すいとんは偉大である
         那須・平林③ 
         こちらはすいとん膳

庭の紅葉を楽しみながら、待つこと15分ほど。お盆に載った「すいとん」がやってきた。見るからにいいダシで取った醤油ベースのスープに楕円のすいとんが白い雲のように浮いている。細切りのシイタケ、ニンジン、白菜、タマネギ、刻み葱が控えめに「那須のすいとん、どうぞお味わいくださいね」とささやいている。

レンゲでスープをひとすくい。キノコとイリコなどのいい香りとともに、実にまろやかな旨味が口中に広がってくる。
「このダシが好き。どちらかというと薄味だけど、ちょうどいい濃さ。じんわりと体に染み入ってくる感じね」
辛口の村民2号が、珍しく納得の表情で言う。

          那須・平林⑥ 
          只者でないすいとん

すいとんはツルッとしているのに、噛むとモチモチしている。この何とも言えないモチモチ感は、ひょっとして山芋でも入っているのだろうか? 何か特別な地粉でも使っているのかもしれない。 これだけのすいとんはあまりないと思う。
「シイタケの香りがスープをさらに引き立たせている。干しシイタケも使ってるね。すいとんとのバランスが1+1が3の世界を作り出している。村長がぜひ大叔母に、とこの店に連れてきた理由がわかるでしょ?」
村長がなぜか正座しながら、自慢げに言う。ふんどしがズレタからである。

「ま、アタシが作るすいとんよりはうまい。だけどこれは本物のすいとんじゃないよ。本物はもっとマズい。こんなにうまいすいとんは昔のすいとんに失礼ってもんじゃよ。アタシャア声を大にして言いたい。戦中・戦後の体験があったからこそ、こういうすいとんがこの世に存在していられる。アタシもすいとんみたいなもんさ」
大叔母がおかしな理屈を展開する。村長も村民2号もただただうなずくばかり。当たらぬ神に祟りなし・・・。

         那須・平林④ 
         ご飯だって立ってる

「すいとんもいいけど、この炊き立てのコシヒカリのご飯が絶品よ。ご飯が立ってる。少し食べてみる? おしんこ、煮物、煮魚、すべていい味」
村民2号が、話題を変えようとした。村長がここぞと手を伸ばした。その瞬間、大叔母の箸がトンビのようにコシヒカリをさらっていった。村長と村民2号は口を開けたまま固まってしまった。
「戦後生まれに負けるわけにはいかないというもんだよ、ウッキャッキャ」
大叔母が元気でいることが「ウマズイめんくい村」の平和につながっているかもしれない・・・。


本日の大金言。

紅葉と大叔母。偉大な自然と先達を忘れてはいけない。すいとんの歴史と新しい可能性にも。


                那須・平林⑨ 





「のぼうの城」とデカ餃子の味わい

 和田竜原作・野村萬斎主演の邦画「のぼうの城」が公開中だが、その舞台となった埼玉県行田市の「忍城」は赤羽彦作村長の好きなお城でもある。映画では石田三成が率いる豊臣軍約2万に対して、たった5百の軍勢と農民で忍城を守り切った「のぼう様」こと成田長親の奇想天外な戦いぶりをドラマチックに描いている。のぼう様とは「でくのぼう」の意味で、天才なのか、ただの「でくのぼう」なのか、わからないという点もいい味付けになっている。

         大勝軒13 
         山岸一雄の大勝軒が・・・   
   
その忍城見学の帰り。行田バイパス沿いにあのラーメン界のカリスマ「山岸一雄」の写真とともに「大勝軒満帆」の看板がすっくと立っていた。前から気になっていた店である。大勝軒といえば、「もりそば」が有名だが、「特製餃子」も評判が高い埼玉餃子ランキングでもかなりの高得点を得ている。

この店は「東池袋大勝軒」で修業した岡氏が群馬で開業した「満帆」の3号店。大勝軒と満帆のいいところをそれぞれメニューに生かした店でもある。店内は広々としていて、長いカウンター席とラーメン屋とは思えない真っ赤なテーブル席が並んでいる。
大勝軒の味を再現したという「もりそば」(700円)と「餃子」(5個350円)を注文した。満帆系の「つけそば」(700円)もあるが、とりあえずは山岸一雄に敬意を表して、「もりそば」にした。

         大勝軒④ 
         ジャンボ餃子の風格

待つこと12~3分。まず餃子がやっきた。デカい!のぼう様のようだ。目測では長さ10センチ、幅3センチほど。 普通の餃子の2倍近くはある。表面がこんがりしていて、いい餃子の焼き方である。餃子は見た目も大事。まずは合格点。アツアツを口中に運ぶ。表面がパリッとしている皮が薄く、具がぎっしり詰まっている。キャベツ、白菜、タマネギ、ニラなど野菜類と多めのひき肉が一体となって、ほのかな甘さを発散させながら舌の上で踊る。香辛料は強め。

          大勝軒③ 
          こんがりの皮と中身

「香辛料がちょっと強すぎるかな。気持ち甘みが足りない。もう少し味に奥行きも欲しい」
村民2号が辛口の評価。
「このデカさと焼き方がいいと思う。期待値が10だとすると、まあ7か8くらいかな。これだけの餃子は埼玉にはあまりないと思うよ」
村長が冷静に分析する。
「まるでのぼう様みたいね。天才なのか大味なのかわからない(笑い)。のぼう餃子と名付けたら面白いんじゃない?」
村民2号の辛口は続く。

         大勝軒⑥ 
         もりそばの登場

「もりそば」が石田三成軍のようにズズズとやってきた。そばはストレートな太麺。つけ汁は大きなチャーシューと半熟の煮卵、それにシナチクとナルトが浮かんでいる。海苔が半分沈んでいる。げんこつ、豚足、鶏、それに鰹などで取った出汁をベースにした醤油スープは半濁していて、きざみネギが浮いた姿はまさに大勝軒そのもの。半熟煮卵がなぜか三成の水攻めにもついに沈まなかった「忍城」に見えてきた。

         大勝軒⑧ 
         大勝軒そのまま

         大勝軒⑦ 
         小麦色の太麺

ツルツルしていて噛むともっちりした太麺はいい歯ごたえである。アツアツのつけ汁は濃厚でコッテリしているのに酸味があり、すっきりとした後味。何とも言えない甘みもある。多分甘酢を入れて味を調整しているのだろう。麵との相性がさすがで、確かにこれは大勝軒そのままの味と言っていい。チャーシューが柔らかくてうまい。煮卵も元祖の味。シナチクもまずまず。

「もりそばは私の好きな味で、以前、山岸一雄製麺所で食べたものより全然うまいわ。山岸一雄製麺所は脂が浮いていて、コッテリしすぎ。こっちの方が体にじんわりと滲みこむようで健康にもいいと思う」
「山岸一雄はやっぱり大勝軒ブランドだよ。彼の弟子や孫弟子、さらにはひ孫弟子が関東を中心に次々と店を開いて、昔のような元祖の味は薄れてきていると思う。山岸一雄はこれだけ増えてしまった自分の分身を本当はどう思っているのかな」

食べ終えて外に出ると、山岸一雄の看板。その姿が秀吉に重なってきた。秀吉かのぼう様か。耳を澄ますと、422年前の忍城をめぐる激しい攻防が遠くから聞こえてくるようだった。



本日の大金言。

「のぼう様」成田長親は武士の意地と気骨を持った天才的なトリックスターだった。小田原城が秀吉の軍門に下った後、忍城も開城。その後は会津の蒲生氏郷に仕え、さらに尾張国で晩年を過ごし、68歳で亡くなった。戦国の隠れた風雲児の生涯を想う。


               大勝軒① 

新装東京駅で食ったバリ風混ぜごはん

 東京駅丸の内駅舎が完全復元したのはつい先日の10月1日。多くのメディアに取り上げられて、1914年(大正3年)当時そのままの荘厳で華麗な姿を現出した。
テレビで見ていた、華麗というより加齢な美熟女の村民2号が、ため息をついてボソッと言った。
「見たいわー。復元に5年半の月日と約500億円もの工事費をかけたんでしょ。ライトアップした姿を見たいなあ。村長だって、去年まで近くで宮仕えしてたんだから、完成した姿を見たいでしょ?」

         東京駅① 
         ライトアップされた東京駅舎

ウマズイめんくい村から江戸までは早馬で約1時間ほどの距離。彦作村長にとって、東京駅周辺は勝手知ったる場所である。エンターテインメント新聞社時代には「オレの庭」などと吹聴していたこともある。5年半前の工事スタートからようやく完成したその姿を見ないわけにはいかない。

「では行くとするか。ついては東京駅一番街でメシを食べよう。女子がいっぱい群がっている店がいい。B級グルマンとしては女子のうまい物センサーを研究しなければいけないからのう」
「見え見え。理屈は後からついてくる、だわね。でもフンドシだけはずり落とさないでね。恥ずかしいから」

ライトアップされた駅舎を堪能してから、ラーメンストリートもあるグルメスポット一番街にやってきた。その1階であちこちのぞき回るウマズイめんくい村の怪しい一行約2人。村民2号が村長から少し距離を置いているのが気になる。
「うむ、ここにしよう」
そこはほどほどの混み具合。3~4人しか並んでいない。しかも、若い女性客が多い。「CAFE&ごはん スプーンスタイル」という看板のファストフード風の店構え。

          東京駅② 
          女子猫が1匹、2匹・・・いや3人、4人

店内はかなりキツキツで、中央に対面式カウンター席。それに壁際に2人用テーブル席が10個ほど。収容人数はせいぜい30人くらいだろう。お客の7~8割は若い女子。カフェめしがメーンで、紅茶やちょっとしたドリンク類もある。
メニューから「元祖バリごはん」(Mサイズ730円)と「生ビール」Sサイズ(480円)を選んだ。ビールでも飲んでないと、この店の女子力に対抗できない。村民2号は「海老アボバリごはん」(Sサイズ830円)とコーヒーを注文した。 

ヘンな店である。元祖バリごはんって一体何だい?

 店員に聞いてみると、「まあ、インドネシア風と言いますかバリ風と言いますか、そんな感じのカフェめしです。当店のオリジナルです」。うむ。元祖とはこの店だけ、ということらしい。元祖という言葉をそんな簡単に使ってはいかん。いかん、いかん、いかの盲腸。

          東京駅④ 
          元祖バリごはん

待つこと数十秒。ほとんど待ち時間ゼロで、直径30センチほどのデッカイ調理用ボウルがやって来た。サニーレタス、赤キャベツ、ひき肉の肉みそ、細切りのキュウリ、それに海苔が乗っかっている。その下には温かいごはん。スプーンとわかめスープが付いている。ビールをぐびっと飲んでから、スプーンで混ぜ混ぜする。何やらエスニック風のビビンバみたい。ひと口。甘辛だれの肉みそがごはんと具にからまって、それなりにうまい。しかし、どう見ても料理用のボウルにしか見えない器で混ぜごはんを食べている姿は複雑な気分になってくる。何だかノラ猫にでもなった気分。花の東京駅でノラ猫になった村長・・・。

         東京駅⑦ 
         村長に混ぜごはん

「こっちはうまいわよ。アボカドは4~5切れ。それにムキ海老が4つ。これが入っただけで、凄くリッチな気分になる。添加物は少ないんじゃないかな。サニーレタスとか赤キャベツとか野菜が多いのもいい。体にもよさそうで、女性に人気があるのがわかるわ。村長は妙なプライドがあるからいけないのよ。今いる場所を楽しめ、よ」
「ノラ猫に徹することにしよう。そうだ、そうだ。激辛のサンバルソースをかけてみよう。まあ、これはチリソースだな」

         東京駅11 
         こちらは海老アボバリごはん

真っ赤なサンバルソースをドバドバとかけてみる。混ぜる。うーむ。味に深みが出てきた。次第に辛さが口内に広がってくる。バリダンスというよりサルサでも踊り始めたような刺激的な味わい。か、からーい。あわててビールでノドを洗う。

         東京駅⑥ 
         激辛ソースをドバドバ・・・

目をつむったら、脳内にインドネシア風の月が昇ってきた。華麗な東京駅で加齢で辛いフルムーン。何だか昔のCMみたいな気分。目を開けて周辺を眺めると、若い女性客が楽しそうにスプーンで「猫ごはん」を味わっている。一瞬、日本の近未来が見えた気がした。


本日の大金言。

復元された東京駅丸の内駅舎。だが、そこにいるのは2012年の日本人たちである。これはパロディーなのだろうか?


             東京駅⑧ 

吉田沙保里の甘い秘密「天文19年」の対決

 天文19年(1550年)といえば、織田信長が桶狭間の戦いで華々しく戦国デビューする10年も前の時代である。創業がなんとその天文19年という恐るべき老舗が「なが餅 笹井屋」だ。

先日たまたま日テレ「スッキリ!!」を見ていたら、女子レスリング金メダリストで国民栄誉賞をもらった「霊長類最強の乙女」吉田沙保里が出演していた。彼女の母(ソックリ!!)が駆けつけて、お土産として「なが餅」を持参してきた。三重県出身の吉田は「なが餅」が大好物で、みるみる表情が崩れるのがわかった。ビューンと伸びる長い餅の中には小豆あんが入っていて、テリー伊藤や加藤浩次や葉山エレーヌも交って、みんなでうまそうに食べていた。彦作村長は食べたことがなかったので、TVの前でよだれを一滴二滴垂らしながら歯ぎしりするだけだった。
         なが餅① 
         まさかの「なが餅」登場

そのなが餅の中でも最も歴史が古い元祖「笹井屋」のなが餅が目の前に現れたときは仰天した。江戸で仕事にもまれて、次第に凛々しくなってきた娘のキオが土日の休みに久しぶりに「ウマズイめんくい村」に帰ってきた。その手に笹井屋のなが餅がぶら下がっていた。「おみやげよ」。多分、村長と村民2号のカラオケの順番をめぐっての「オケハサミの戦い」の激化を心配してフラリとやってきたのだろう。

ウマズイめんくい村には神様が付いている。竹包みを開けると、なが餅が7本。それが一つ一つパッケージされている。630円ナリ。添加物を使用していないので「開封後はその日のうちにお召し上がりください」と表記してあった。その日どころか、10分もあれば食べてしまう。

          なが餅⑦ 
          一つ一つ包まれている

          なが餅② 
          意外と小柄でほっそり。粒あんが透けて見える

大きさは意外と小ぶり。測ってみたら、長さ8センチ、幅3センチ、厚さは5ミリくらい。中のあんこが透き通っている。表面の焼き焦げも食欲をそそる。まずは村長がひと口。
「うむ。まずはビューンと伸びるこの何とも言えない餅に惹かれる。小豆あんは甘さがかなり控えめだな。村長としてはもっと大胆に小豆があった方が好みだが、ま、これはこれで一つの世界だと思う」
村民2号が、思いきり餅をビューン、ビューンと伸ばした。
「すごい! 30センチは伸びそう」
キオも負けじとビューンと伸ばす。
「確かに。吉田沙保里もこれが好きだったかもね。小豆あんも含めて全体的に品のいい味。ダイエット中の私にとってはちょうどいい量というのも気に入ったわ」
「私もダイエット中だからこのくらいがちょうどいい。私の好み。第一、創業が1550年とはね。いまから462年前とはビックリ! まだナポレオンも坂本龍馬も生まれていない」
ウマズイめんくい村の知的レベルがバレてしまう素っ頓狂な会話が続いた。
 

もう一つの甘いゲストは、渋谷の東横のれん街で買ってきた「榮太楼総本舗」の「つぶ焼大福」(1個210円)。榮太楼の創業は安政4年(1857年)。まさに幕末の真っただ中。キンツバで有名だが、大福にも定評がある。「つぶ焼大福」は昔の味をそのままリメイクして、期間限定で売り出しているもの。普通の大福と違うのは、もち米を粗くひいた道明寺粉を使っていること。京都の桜餅は道明寺だが、食感がつぶつぶしていて実にうまい。「つぶ焼大福」は表面をこんがり焼いているのも特徴。この姿が何とも言えない風情をかもし出している。こちらも添加物を使用していないので「本日中にお召し上がりください」と書かれている。

          榮太楼⑧ 
          おおっと、珍しいつぶ焼大福

まずは「白」を賞味。粒あんがぎっしり詰まっていて、道明寺のもちもちツブツブ感がいい歯ごたえである。こちらも甘さは控えめで素朴な味。
「うまいけど、小豆がこじんまりしている。先日京都で食べた出町ふたばの豆餅がスゴすぎたので、それと比べると、あんも餅も月並みに感じてしまうわ。ちょっと贅沢な話だけど」
村民2号が辛口の評論。
次に「草」。こちらは中がこしあん。よもぎのいい匂いが道明寺とマッチしていて、こしあんのすっきりした甘みと絶妙なバランス。村長はこっちの方が好み。
「私もこっちの方が好き。道明寺っていい食感ね」

          榮太楼⑦
          道明寺と粒あん
          
          榮太楼⑥ 
           こちらはよもぎとこしあん

キオが割って入った。江戸に帰る時間が近づいていた。
「なが餅とつぶ焼大福、どっちに軍配を上げるの? そろそろ結論」
彦作村長が村長としての威厳を込めて言った。
「あんこの量から言って、つぶ焼大福の草に1票。野暮ったいところも好みだよ」

「私は笹井屋のなが餅に1票。気品がひと味違う。榮太楼には悪いけど、ずんぐりと停滞した味で、大福のうまさが立ち上がってこない。ここが残念ね」
キオの1票が勝負の分かれ目となった。
「そうね、私もなが餅に1票。乙女にはちょうどいい量だし、餅と粒あんに本当に品がある。村長には物足りないかもしれないけど、吉田沙保里が国民栄誉賞をもらったことだし、園遊会にも出たことだし、ここはやっぱりなが餅のフォール勝ち」
ウマズイめんくい村の最強の熟女と最強の乙女のタッグでは村長に勝ち目はない。ソンチョウヲナンダトオモッテイルノダ・・・ここはつぶやきシローになるしかない・・・。



本日の大金言。

天文19年にとって、安政4年は「一人前になるには、まだ300年早い」世界である。300年の気の遠くなるような修業。山あり谷あり。たかが小豆菓子に日本の歴史が詰まっている。



               榮太楼③ 




時代は郊外、絶品珈琲とスイーツの穴場発見!

 「すっかり天高く馬肥ゆる秋ね」
晴れ渡った11月の空を仰ぎながら、美熟女の村民2号がつぶやいた。
「天高く豚も肥ゆる秋」
村長もつぶやいた。
「うまいスイーツとうまいコーヒーを飲みたい気分にならない?」
こういう時は逆らってはいけない。村民2号は胃袋の欲求をロマンチックに変換する名人である。

         伊東屋① 
         わざわざ越後の古民家を移築

ポンコツ愛車を駆って、「ウマズイめんくい村」の一行約2人がやってきたのは群馬県・桐生市の郊外にある「伊東屋珈琲」。今回はご近所の文吾ジイも付いてきた。寂しがり屋の大酒飲み。波乱の予感がする。
「ここに来たかったのよ。ずっと前から目を付けてた」
上州生まれの村民2号は大のコーヒー好き。一日3杯はうまいコーヒーを飲まないと、途端に機嫌が悪くなる。
「ワシは毎日酒を最低でも3合飲まないと暴れたくなる」
文吾ジイが聞きもしないのにのたまった。

                伊東屋14 
          ここはどこ?

古民家を使った見事な建物。新潟からわざわざ移築したというから驚きだ。桐生の郊外にこんな店が存在していることに驚かされる。「伊東屋珈琲」という看板、入り口横には珈琲豆の麻袋が何気なく積まれてる。見るからにコーヒーへのこだわりが読み取れる。中に入ると、巨大な焙煎機が目に飛び込んでくる。実用とオブジェ、両方が共存した空間。テーブルは6~7つはある。アンティークなインテリアで、店主のこだわり方が半端ではないことが理解できる。

「うれしいわ。こういう店が私の好み」
「ワシは全然うれしくない。日本酒が置いてない」
メニューの中から村民2号が選んだのは、有機農法の「ガテマラ」(410円)と「ガトーショコラ」(380円)。村長は「アメリカン」(410円)と「ブルーベリーチーズケーキ」(380円)。どちらも店主夫人の手づくり。
「日本酒はないの?花菱がないとは・・・ワシは水でいい。ワラー一丁」
一杯飲もうと思って付いてきた文吾ジイが、目算が狂って、すっかりへそを曲げてしまった。

         テイク①   
         ビターな誘惑

ガトーショコラはチョコレートが濃厚で、多分ビターチョコレートを使っているのだろう甘さが控えめ。生クリームを付けて食べながら、村民2号が鼻歌混じりに品評する。
「私が作るのよりうまいのは確か。自然なうまさで那須高原の『SHOZO CAFE』の味に似ている。ま、大人の味って感じ。それよりコーヒーが気に入ったわ。この自然なまろやかさはコーヒー好きの私でさえ唸りたくなる。ま、このくらいの味は店構えで予想していたけど、ちゃんと答えてくれた。上州の郊外にこんな店があるなんて、私にとっては大発見」
コーヒーカップと皿もアンティーク。それにスティール製のプレスポットがいい雰囲気を醸し出している。2杯分は十分にある。

          伊東屋⑨  
          はい、チーズ!

ブルーベリーチーズケーキは断面が赤紫色と濃い紫色とチーズ生地のまだら模様になっていて、見るからに手づくり感がある。パウダーシュガーが赤城山の初冠雪の風情。
「この甘酸っぱさはブルーベリーだけじゃないね。レモンかな。これもさわやかな濃厚で、酸味がきれい。大人の味だなあ」
村長が言うと、すかさず村民2号が手を伸ばして、ふた口、三口。
「こっちの方がガテマラには合うみたい。取り換えっこしましょ」
否も応もない。ガトーショコラはほとんどなくなっていた。本日は村民2号の日ということか。

          伊東屋⑥ 
          されどコーヒー
         
「ワシ、暴れたくなってきた」
文吾ジイがボソッとつぶやいた。村長はウマズイめんくい村の平和のために、決断せざるを得なくなってきた。
「ハシゴすることにしよう。赤城山の飲めるいい居酒屋がある」
文吾ジイの顔の皺(しわ)がゆるんだ。決まり。
「ホントは自分が行きたいんでしょ。可愛いお姉さんもいる、あそこでしょ? 私はここにいる。2人で行って来れば?」
「うむ」
ウマズイめんくい村の平和を守るために、村長は「1時間だけ」と言って、おもむろに立ち上がった。背中に羽根が生えていた。


本日の大金言。

時代は郊外へ、である。小泉改革(改悪)と野田無策などで、地方経済はどん底。うまいコーヒーでゆっくり考える時間も案外重要かもしれない。


               伊東屋15 






























渋谷に立ち続けるラーメン界のゾウガメ「喜楽」

 ブルーのスニーカーを履いて、久しぶりに江戸は渋谷に足を延ばした。気鋭のジャーナリストとダジャレ好きの気象予報士が主催する「パンダの会」に出席するのが目的だった。とはいえ、「ウマズイめんくい村」村長が花の渋谷に行くからには、ラーメンの一つや二つは賞味しなければならない。そうだ、喜楽へ行こう! どこかのCMに触発されて、突然ひらめいた。かつて彦作村長がよく通った百軒店通りに昔からあるラーメン屋だ。創業は1953年(昭和28年)。ラーメンとは言わず、中華そばとも言わず、中華麵と言い続ける頑固な店。時代の流れなど眼中にないかのように昔からの味を守り続けている店である。

         渋谷② 
         渋谷は百人百色、いずこへ?

午後2時ちょい過ぎ。ギャルの本場だなあ、かっこいい女子がエロー多いなあ、などと怪しげにつぶやきながら、渋谷駅から道玄坂を上って、右手の百軒店通りに入る。ストリップ劇場「道頓堀劇場」のピカピカ看板がすぐ視界に入る。ここはかつて浅草のコメディアン・杉兵助が所属していて、その弟子筋にあたるコント赤信号やダチョウ倶楽部も修業した老舗のストリップ小屋だ。今では信じられないかもしれないが、ストリップの幕間にお笑い芸人が登場して芸を披露するのが定番だった。客のほとんどはストリップが目当てなので、芸人のしゃべくりなど見向きもしない。強烈なヤジが飛んだりする。その試練を乗り越えて初めて芸人として力が付いてくるというわけである。無名時代のビートたけしや萩本欽一なども浅草ロック座で修業をしている。

                渋谷③ 
       裸で歩いてはいけません

百軒店にはジャズ喫茶「スイング」やロックカフェ「BYG」「ブラック・ホーク」などもあり、彦作村長にとってはかつてはよく通ったなつかしい場所だ。「喜楽」は道頓堀劇場の斜め向かいにある。汚なかった店(愛着をこめて)がすっかりきれいな茶色いビルになっている。かつてと同じように、ランチタイムを過ぎても、4~5人ほど並んでいた。相変わらずの人気である。

                喜楽⑨ 
         午後2時過ぎでも混んでいる

入り口にかなり年季の入ったお婆ちゃんがいて、客をぼそぼそとした声でさばいている。このお婆ちゃん、只者ではない。1階と2階があり、1階は7人ほどしか座れないカウンター席。村長はお婆ちゃんからジェスチャーで「カウンターへ行け」と指示される。目の前が厨房になっていて、フライパンが忙しそうに動き、麵をゆでる蒸気が立ち込めている。これまた年季の入ったオヤジ料理人3人が昔ながらの手際で一定の動作を行っている。なぜか独り言のように「カウンターは無理ムリムリ」とか「まだまだだよ」とか「どうしちゃったんだい」とか意味不明の言葉をつぶやいている。それが面白いリズムになっている。まるでチャーリー・ミンガスのベースのようだ。

         喜楽② 
         昔と同じいい匂いが

ここは「湯麺」(750円)や「五目麵」(850円)など人気メニューがあるが、村長は迷うことなく「中華麵」(650円)にした。目の前のコック帽を被ったオヤジ料理人の立ち居振る舞いに見とれていると、「ハイッ」と中華麵が置かれた。いい色の醤油ベースのスープ、黄色い太麺、湯がいたもやし、大きめのチャーシュー、半分に切った煮卵。それらが一つの円環世界となってうまそうな匂いを放っている。昔と同じだ。

         喜楽⑦ 
         奥深いスープ、赤タマネギの甘み

まず琥珀色の半濁スープ。柔らかなアタック。じんわりと体に滲み通ってくるような深みのある甘い味わい。この実に深いコクとこの甘みはここだけの味だろう。よく見ると、干しエビの殻のようなものが浮いている。その正体は焦がした赤タマネギ。これがこの店独特のスープを作っている秘密の一つでもある。

         喜楽⑥ 
         黄色い太麺がたまらない

麵は黄色い小麦色のストレート麵で札幌の西山製麺の麺をもう少し太くしてストレートにしたような感じだ。もっちりしていてコシもある。これも独特のうまさ。煮卵は完ゆで。今流行りの半熟ではない。チャーシューは厚めで大きい。固くも柔らかくもない。もやしの量は多め。すべてが料理人の汗と手を通った昔のままで、すべてに喜楽印のハンコが分からないように押してある。この頑固さ。頑固さという言葉さえ裸足で逃げてしまうほどのこの店にとっては「当然のスタイル」。

         喜楽④  
         頑固なチャーシュー

村長のボケかかった頭にあのガラパゴス諸島のゾウガメの姿が浮かんだ。偉大なるロンサム・ジョージ。ゾウガメのいない地球なんて地球ではない。

どんどん客が来る。お婆ちゃんがさばく。サラリーマンならとっくに定年を終えたようなオヤジ料理人が独り言をつぶやきながらハラワタに滲みとおるようなベースを弾く。彦作村長はスープまできれいに飲み干してしまった。今どきのラーメン屋にないうまさと雰囲気。そこに若い客がどんどん入ってくる。柄にもなく、なぜか日本はまだ大丈夫だ、と思ってしまった。



本日の大金言。

流行の最先端の街・渋谷でもゾウガメは負けない。世の中がたとえひっくり返ってもゾウガメはひっくり返らない。


            喜楽① 
プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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