埼玉・塩ラーメンの極致の実力

 ラーメン戦国時代に生き残るのは大変だと思う。かつて彦作村長は荻窪の「中華そば 春木屋」の大ファンで、東京で一番美味いと思っていたが(今でもその確信はほとんど変わらない)、ラーメンブームに乗って、次々に美味い店が登場。テレビや雑誌のラーメン特集などでこうした老舗の中華そば屋を見る機会がどんどん減っている。メディアは新しいスターを求める。その情報消費の恐るべきスピードには違和感を覚える。

          めんじゃらけ① 
         これがラーメン屋?

埼玉の久喜市菖蒲にある人気店「中華そば めんじゃらけ」もその新しいスター(平成12年創業)だったが、たった12年ほどで「埼玉の老舗の名店」と言われるまでになった。この店の「塩ラーメン」は評論家が選ぶ埼玉の塩ラーメン部門で1位になったり、テレビなどでも取り上げられて、埼玉屈指のラーメン店となっている。

          めんじゃらけ② 
          ノレンがいい

土日などは駐車場はいっぱいで、行列に並ばないとありつけない。行列が大の苦手の彦作村長は平日の午後1時半過ぎ、駐車場が開いていることを確認してから、この店の噂の「塩ラーメン」を食べてみようと思い立った。店はかわら屋根の古い一軒家で、一見すると、ここが人気の中華そば屋だとは思えない。ただの民家かうどん屋のよう。

         めんじゃらけ③ 
         噂の塩ラーメンを・・・

自販機で評判の「塩ラーメン」(700円)を注文することに。店内は広く、見事な自然木の一枚板のテーブルとカウンター席。右奥は小上がりになっている。10分ほどしてから、美味そうな匂いとともに「塩ラーメン様」がやってきた。まず、チャーシューのデカさに仰天する。ローストビーフかステーキのよう。厚さが1センチくらいありそうだ。それが黄金色の半透明のスープにゆったりと入浴している。スープは鶏がらベースの品のいい奥深い味わい。じんわりと滲みこむ美味さ。この独自性と味だけで、人気が高いのが理解できる。

          めんじゃらけ④ 
          シンプルな構成

麵はストレートの細麺。最近の塩ラーメンに多い細いけどコシがあるタイプ。悪くはないが、チャーシューのあまりの存在感に比べて、やや影が薄い。シナチクも普通の美味さ。この店のウリがこのチャーシューにあることはすぐにわかる。チャーシューは「豚のブロック肉」を赤ワインでじっくり煮込んでいるようで、そこがこの店の秘伝のワザでもある。この特大チャーシューファンも多い。

          めんじゃらけ⑨ 
          仰天のチャーシュー
          めんじゃらけ15 
          歯切れのよさの秘密

かじると柔らかい。サクサクしている。この食感は何かに似ている。このチャーシューから豚肉本来の味がイマイチ伝わってこない。それ以外の何か別の美味さを追求した結果こうなったというような味。村長の味覚がヘンなのか。マグロの佃煮のような食感。いやいや、これは西洋料理の煮込み料理のような、少なくとも中華系のチャーシューとは違うと思う。肉の繊維を見事に利用した歯切れのいい独自の煮込みチャーシュー。そのオリジナリティーに疑う余地はない。

          めんじゃらけ⑥ 
          細麺で品のいい味

良くも悪くもすべてがこのチャーシュー中心に回っている。超ワンマン社長のいる会社。エースで四番打者が中心のチーム。もちろんスープの美味さも麵もレベルが高いが、このラーメン戦国時代の中では特別に「すごい!」とは感じられない。このチャーシューの発見によって、「めんじゃらけ」は行列のラーメン屋の輝ける地位を守り続けているのだと思う。そこまでの道筋は大変な努力があったと思う。それを承知で正直に言うと、村長はこのチャーシューには驚嘆はしたが、美味さはあまり感じなかった。



本日の大金言。

ラーメン戦国時代のメディアとは何か。特にテレビという怪物にとってはあらゆるものはその一瞬だけが重要で、消費され、忘れ去られるためにある。ラーメンを食べながら、牧伸二さんの死を知る。合掌。



                    めんじゃらけ13
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評判の立ち食いそば屋に突入

立ち食いそば好きの彦作村長が最近、気になる店がある。メディアなどで取り上げられる機会も増えている。かき揚げなど天ぷらのスケールといい、そばといい、つゆといいレベル以上で、立ち食いそば屋なのにカレーも本格的で、今や「ここを知らなきゃモグリだよ」という輩さえいる。花のお江戸での出稼ぎ仕事の合間を縫って、怪しい姿でちょいと足を運ぶことにした。

          よもだそば① 
          ここを知らないとモグリだとォ?

東京駅八重洲口から日本橋方面へ歩いて5分ほど。その噂の店の名は「よもだそば」。ここは第一号店だが、銀座店も昨年オープンしている。「よもだ」とはおかしな名前だが、愛媛県松山地方の方言で「いいかげん」とか「悪ふざけ」とかの意味で、「しょうがないねえ、憎めないよ」というニュアンスの言葉だという。しょうがねえだとォ?

ここは立ち食いそばの激戦区で、隣は「蕎麦 一心たすけ」。老舗の「やぶ久」もある。「よもだそば」という看板と同時に、「自家製麵と本格インドカレーの店」というほとんどミスマッチなキャッチフレーズが目に入った。このギャグ感覚は好感が持てる。店の前でしばし観察する。メニューがやたら多い。さすが人気店、客がひっきりなしだが、自販機の前で、「何にしようかな」と迷っている人もいる。迷わせるのもよもだ、ということか。

          よもだそば③ 
          葉にんにく天そばの誘惑

彦作村長も迷いに迷ったが、「葉にんにく天そば 第1弾」という写真入りのおすすめに従うことにした。390円ナリ。「東北牧場直送の天然山菜 完全有機栽培野菜」という説明は悪くない。こういう宣伝上手の店はハズレということもある。まだかすかに残っている記者魂が悪魔のように「ホンマかいな?確かめてみることにしようぜ」とささやいた。一緒に評判の高い「よもだ半カレー」(260円)もセットにしてもらう。合計650円。

         よもだそば④  
         ミスマッチ?

並んでしばし待つ。スタッフは4人ほど。呼ばれてお盆に乗った「葉にんにく天そば」とご対面となった。「葉にんにくの天ぷら」のデカさは想像を超えていた。下のそばが見えない!厚さも4、5センチはあろうかという仰天ぶり。揚げ置きなのが少々残念だが、にんにくになる前の葉にんにくの強烈な匂いが村長を鷲づかみにした。カラッと揚げられた、というよりゴツゴツとした、難攻不落の巨大なかき揚げのよう。その下からは地黒の田舎娘・・・じゃなかった自家製そばが湯気とともにチラチラとうまそうな匂いを放っている。刻みネギがどっかと乗っかっている。さらに「よもだ半カレー」が、見た目もスパイシーさも本当にインドカレーのように控えている。よーく考えればおかしな立ち食いそば屋である。これってアリか?

          よもだそば⑤ 
          葉にんにく天に仰天

おぬし、できるな。正体を見せろ。そう独り言を言いながら、天ぷらを崩しにかかる。下の部分が次第につゆを吸って、柔らかくなり始めている。葉にんにくが野性的で、固めのコロモと強力タッグを組んで、官能的な風味をぐいぐいと押し立ててくる。見た目よりもうまい。いいかげんだが、うまい。そばは田舎そばの細い乾麺を茹でたような食感だが、ぼそっとしていてコシもあり、自家製麵というのもなるほどという味わい。立ち食いそばのレベルは超えていると思う。つゆは鰹節など魚介系の出汁がほんのりと効いていて、返しとのバランスもいい。甘さもほどよくて、自然でやさしい旨味がじんわり滲んでくるようだ。これもレベルを超えている。

         よもだそば⑦ 
         地黒の自家製麵
         よもだそば⑨ 
         香辛料が半端じゃない

見た目のサプライズとは裏腹な、自然で本格的な旨さとのギャップがこの店の人気の秘密だと思った。時間が経ってくると、天ぷらと地黒そばがつゆに浸食されてブヨヨンとなってくる。ここは早めに食べた方が無難だ。「よもだ半カレー」は確かに本格的なインドカレーで、香辛料がかなり効いている。たぶんヨーグルトだろう酸味も強く、むしろ単品で頼んだ方がいいと思う。そばとのセットだと、両方の味を殺し合う。場外乱闘戦が好きな人はいいだろうが。普通ならあり得ない立ち食いそばと本格インドカレー。これもよもだ、ということなのか。
だが、よーく見ると、どちらの味も真面目(まじめ)すぎるくらい真面目な研究の跡が垣間見える。どうやら隠し味は「オオマジメ」。よもだそば、恐るべし。



本日の大金言。

立ち食いそばの世界もどんどん進化する。キーワードは自然な旨味と意外性。世も末だ、世もまだだ、よもだ・・・。




                    よもだそば10 

牛乳パンとメロンパンの至福

 「麻布十番 モンタボー」がアリオに入ってからというもの、彦作村長は、その前を通るたびに、いい匂いが鼻先をかすめていくのを黙って耐えていた。匂いだけでがまんする。匂いだけで食べた気分になる。ほとんど「長屋の花見」の世界・・・。
モンタボーはオープン当初から混み合い、土日の夕方などは、長い行列ができるほどだった。それが、最近は落ち着き、村長は思い切って、以前から気になっていた「北海道牛乳パン」(1個367円)と「職人のこだわりメロンパン」(1個168円)を買うことにした。

          モンタボー③  
          いい匂いが・・・

モンタボーは麻布十番に本店があり、首都圏を中心に全国展開中のパン屋さん。値段が少々高いのが難点だが、材料へのこだわりが徹底しているので、それも仕方がない。円安で小麦粉が値上がりしてもいる。

ウマズイめんくい村の朝はなぜかパンとコーヒーで始まる。どちらも村民2号の好み。「北海道牛乳パン」はモンタボーの目玉商品で、一つがデカい。カップケーキを巨大にしたような作りで、こんがり焼けた渦巻き状の表面から、何とも言えない練乳とバターの香りが漂ってくる。焼き立てが一番うまいのだろうが、半日経っても風味に衰えはない。ちぎる時から、しっとり感ともっちり感が半端ではないことがわかる。口に入れた途端、ふわああああ~、と練乳ミルクの香りが広がった。パンのしっとり感もかなりのもの。

          モンタボー⑨ 
          直径14センチ、高さ7センチの世界
          モンタボー12 
          パンドラの箱ではない
          モンタボー10 
          マーガリンを付けてみる

これはパンというよりお菓子ではないか? 甘い郷愁のようなものが、口中でどんどん広がり、それが頂点に達すると、スーッと溶けていく。これは何だろう? 村長はしばし考えた。外国の絵本に出てくるようなお母さんのおっぱいの匂いではないか?本店が麻布十番という場所柄、芸能人のファンも多いという。芸能人にはマザコンが多い。

         モンタボー② 
         メロンパンの極致?
         モンタボー⑤ 
         いい香りが立ってくる

メロンパン好きの村長は「職人のこだわりメロンパン」にも注目した。メロンパンは明治から大正にかけて日本で発明された菓子パン。あんパンもそうだが、日本人の1+1を3にする能力は天才的だと思う。モンタボーのメロンパンはかなり洗練されたもので、香ばしい匂いにまず惹かれる。表面のビスケット生地にアーモンドの粉を入れているそう。レモンの皮のすりおろしも入れているというが、そう言われればそうかもな、というくらい。ビスケット生地はサクッとしていて、何よりもこんがり焼かれた手づくり感が特徴だと思う。牛乳パンと同じように風味が際立っていて、中のパン生地もふわっとして、しっとり感もある。

どちらもレベル以上の美味さ。食欲をそそるネーミングといい、これだけの世界を維持するのは大変だろうな、と思う。しかし、とさらに思う。これは一つの極みだと思うが、村長は、ビスケット生地がゴツゴツしているメロンパンの方にシンパシーを感じてしまう。北海道牛乳パンも至福の時を与えてくれるが、なぜかマーガリンを塗ってしまう。これは単に育ちのせいかもしれない。せっせとマーガリンを塗る村長を尻目に、村民2号が優雅にコーヒーを飲みながら、何もつけずに、このミルキーなパンを楽しんでいるのだった。


本日の大金言。

人はパンのみで生きるにあらず。しかし、パンがなければ生きられない。イエス・キリストの時代の人が日本のパン屋さんを見たら、どう思うだろうか。タイムマシンでメロンパンを届けてみたい。




                  モンタボー13 

これぞ異次元?下町の仰天今川焼き

 たい焼きに押されて、このところ影が薄くなりつつある今川焼き。発祥は江戸時代の神田今川橋付近。そこかから「今川焼きという名称になったという。地域によって呼び方が違うが、彦作村長は今川焼きへの思い入れが強い。このブログでも栃木「冨士屋」のじまん焼きや姫路「御座候」の赤あんなど絶品の今川焼きを取り上げたが、とうとうその頂点とも言うべき今川焼きに出会った。

伏線がある。先月、彦作村長は北千住で、町屋に凄い今川焼きがあることを聞きつけた。
「あれっ村長、知らないの? 田舎もんだなあ」
グ、グヤジイ。だが、それは本当だ。
日を改めて、その凄い今川焼き屋「博多屋」に出かけた。東京の下町で「博多屋」とは、ハカラレはしまいか。

         博多屋⑤ 
         客が途切れることはない

駅に隣接したビルの1階に「名物今川焼 博多屋」の看板が見えた。下町のおばはんが3人ほど並んでいた。ひょいとのぞくと、2人の白衣の職人が見事な手さばきで今川焼きを焼いてた。もう一人女性店員が客の注文をテキパキとさばいていた。今川焼きは村長がこれまで見たものとはあきらかに違っていた。まず大きさ。ひと回り大きく見える。だが、それは厚みのせいであることがわかった。分厚いのである。しかも焼き色がまだらで、見るからに手づくり感にあふれていた。

         博多屋③ 
         見事な腕さばき

メニューが「粒あん」一種類というのも驚き。1個120円ナリ。今川焼きにしては高めだが、後でそれは大間違いであることを思い知らされた。3個買って、熱々のうちに食べようと近くの喫茶店に入った。コーヒー皿に置いてしばし眺めた。身を任せたくなるほどの圧倒的なボリューム。フウフウしながら両手でもって割ってみる。皮は予想以上のもっちり感。強力粉を使っているか、あるいは米粉を入れているのではないかと思うほど弾力性があり、びゅんと伸びて、簡単には切れない。この皮だけでも十分に美味い。

         博多屋⑧ 
         今川焼き界の横綱
         博多屋⑨ 
         皮もあんもケタ外れ

驚くべきは中の粒あん。見事な小豆色がギッシリという表現など無意味なほど詰まっていた。粒あんは柔らい。ふくよかな圧倒。村長がこれまで見た粒あんの量をはるかに超えている。糖蜜のテカリ。これはオーバーな表現ではない。気を取り直して、ひと口口に入れる。やや甘めだが甘すぎず。いい小豆特有の風味がふわりと立ち上がってきて、口中の粘膜という粘膜に密着してくる。「わちきのお味はいかがでありんす?」それが鼻腔へ、脳天へと抜けていく。これもオーバーな表現ではなく、感覚的な食感を表現してみた結果なのである。

         博多屋1 
         言葉はいらない

名曲を聴き終えたように、1個を食べ切り、しばし満足感に浸る。これは一度に1個以上食べてはいけない種類のものだと思う。ウマズイめんくい村に帰って、温め直してから残りを賞味したが、美味さはほとんど変わらなかった。

小豆が気になって、電話して聞いてみたら、北海道産富良野産のえりも小豆を使っていると教えてくれた。なるほど、と村長は思った。風味の一端は理解できたが、それ以外は教えてはくれなかった。当然の話だが。ひょっとして黒糖も隠し味として少し加えているのかもしれない。

博多屋の由来は店主の出身地だそう。「50年以上、町屋で今川焼きを作っているんですよ」電話の向こうで、店主なのか、店の人が笑った。村長は50年もこの店の今川焼きを知らなかったことを、ただただ悔やんだ。



本日の大金言。

世の中を知ったつもりが池の中。今川焼きは日本のスイーツの宝だと思う。それもB級の。





                博多屋⑥

広大な屋敷内に謎の隠れそば屋

 こういうそば屋ってアリか? 東北道をプカプカ南下中に彦作村長は埼玉・加須インターで降りることにした。美熟女の村民2号の情報で「北埼玉に面白い不思議系のそば屋さんがあるらしいわよ。広大な邸宅の中でひっそりと店をやってるんだって。それもお昼時だけ。一度行ってみたら?」が頭に入っていたからである。

加須インターを降りて、大桑交差点周辺をウロウロしながら、その不思議系のそば屋さん「そば処 たて野」を探し当てた。高速道路沿いは一軒家と田園が混在していて、こんな場所にそば屋があるとは思えない。広大な畑の奥にそれらしき幟(のぼり)が立っていた。それが「たて野」だった。

         たて野① 
         ここにそば屋が?

もともと大地主なのだろう、石の正門の下に「営業中」という木札が置いてあった。それがなければ、田舎の広大な邸宅としか思えない。そのまま車で入る。広い敷地の中に比較的新しい建物があり、「たて野」という地味な看板が。もし都内にこれだけ広いそば屋があったらかなりの料金を取られるだろう。第一、門から入って、オーバーではなく100メートルほど進まないと店にたどり着かないのだ。こりゃあまるで隠れ家だよ。こんな不思議なそば屋が現実にあるなんて・・・。

          たて野② 
          屋敷の中のそば屋
          たて野③ 
          メニューは多くない

ちょっとした料亭にでも入ったような気分でメニューを見ると、「せいろそば 小盛り600円 普通盛り700円 大盛り900円」と書かれていた。「季節の天ぷら 各種2個100円 さつまいも、かぼちゃ、はす、しゅんぎく、まいたけ」と実にシンプルな表記。天ぷらが2個100円というの珍しい設定だ。彦作村長は奥さんらしき女性に「せいろそば 普通盛り」(700円)とさつまいもとまいたけの天ぷらを注文した。合計800円なりはそう高くはない。

         たて野④ 
         まずは揚げそば
         たて野⑤ 
         揃い踏み

まず「揚げそば」が前菜として出てきた。お茶を飲みつつポリポリ。続いて「せいろそば」と天ぷらが置かれた。料亭のような広い座敷にテーブルは四つ。床の間には季節の花が飾られている。ホタルブクロとカスミソウ。風流な丸窓も情緒を盛り上げる。まるで隠れ屋敷でもいるような、キツネにでもつままれ気分。尻のあたりがムズムズしてくる。

         たて野13  
         挽きぐるみの二八そば

見事な細切りのせいろそばだった。挽きぐるみの二八そばで、グレーがかったところに黒い星が点々と入っている。まるで機械で打ったようなエッジの立った見事なそば。店主の腕前の確かさを表していた。北海道幌加内産の玄そばを使い、挽き立て打ち立てにこだわっているという。店主の顔が見たくなったが、お顔が見えない。

         たて野⑨ 
         見事である
         たて野12 
         つけ汁も隙がない

そばはコシがかなり強い。風味もこの季節にしては十分で、千利休でも潜んでいそうなつけ汁に付けて口中に運ぶと、幸せな気分がじんわりと立ち上がってくる。つけ汁はカツオと昆布の出汁と返しが絶妙で、甘すぎず辛すぎず。天ぷらもカラッと揚げられていて美味い。失礼ながら、こんなド田舎にかようなそば屋が潜んでいようとは、お釈迦様でもご存じあるめぇ、という気持ちになってくる。

ただ少々気になったのは、メニューの酒が人気の「八海山」で、いかにもという世界。村長は八海山も嫌いではないが、すべてが出来過ぎの世界・・・。尻のあたりがムズムズしているのはそのせいかもしれない。

         たて野⑧ 
         ま、ひと口ズズッと

店主はとうとう顔を見せなかった。隠遁者の気配。奥さんによると、趣味でそば作りをしていて、それが高じて55歳で会社を辞め、6年前に自宅の敷地内に店を開いたそう。「江戸東京そばの会」に通ったともいう。よくあるパターンでもあるが、それでこれだけの高レベルのそばを打つというのは、努力の他にもともとセンスがあったとしか思えない。脱サラしてそば屋を開く人は多いが、ここまでこだわる店はそう多くはないと思う。広大な自宅という運もあるかもしれない。店主の顔が見たい、そう思った。



本日の大金言。

そば屋を開いて第二の人生へ、という中高年は多い。そば打ちは比較的手軽に勉強できるが、成功するのはそう簡単ではない。そば屋を出す前にご本人が女房から追い出されることだってある。打つ前に妻に打たれるソバ修行、なんてね。




                   たて野11 


予想外の会津B級ドンブリめっけ!

 「あぶら麩丼(あぶらぶどん) 500円」。桜が満開の会津に記録的なみぞれ雪が降った翌日、彦作村長はトボトボと竹田総合病院からメーンストリートの神明通りへと向かっていた。遅い昼食を取るためである。午後1時半過ぎ。腹の虫がぎゃあぎゃあ鳴いていた。

                会津 
         満開の桜と4月の雪

有名な「田季野(たきの)」で高い輪箱飯(わっぱめし)でも食べようかどうしようか迷っていると、視界の隅に「あぶら麩丼500円」というやや心細げな文字が入ってきた。あぶら麩丼って何だ? 500円? へそ曲がりのB級の虫が「回れぇ、左!レッツ、ゴー」とささやいた。村長は観光客でにぎわう立派な建物の老舗を横目に「麦とろ」という看板の古い、寂しげな一軒家のノレンをくぐることにした。

         麦とろ②  
         あぶら麩丼っって何だ?

時間が時間だけに(?)客は一人もいなかった。店主らしい老夫婦が黙々と遅い昼食を取っていた。これはハズレかも。逃げるわけにはいかない。年季の入ったL字型の木のカウンターと小上がりがシンとしている。ま、人生は当たりばかりではない。ハズレもまた楽し。そう思い直して、「あぶら麩丼」(500円)を注文した。

カウンターの目の前が広い厨房になっていて、老店主はそこでタマネギを切り始めた。このわびしげな手づくり感は悪くない。その店主とポツリポツリと会話する。
「あぶら麩丼って、珍しいねえ。500円というのが素晴らしい。会津の郷土料理ですか?」
「宮城の登米(とめ)つうとごの名物なんだし。麩(ふ)を油で揚げだもんでトンガヅの代わりにあぶらぶ使っでるんだ。これが案外うめえ。ここは会津だがら、それを会津風に味付けして作ってみだんだ」

         麦とろ④ 
         お呼びじゃない?

てんこ盛りの菜の花のおひたしとみそ汁とともに「あぶら麩丼」がドンと登城してきた。見た目は煮込みかつ丼か親子丼のよう。タマネギとあぶら麩、それに豚バラ肉も入っている。溶き卵が雲海状にきれいにかかっていて、いい匂いが立ち上ってくる。予想外の展開となってきた。これで500円とは・・・。これは当たりかもしれない。みそ汁はダシが効いていて、具まで菜の花というくどさは気になったが、作り立てのいい味だった。

         麦とろ⑤ 
         B級ドンブリの新たな発見

「あぶら麩丼」はあぶら麩にダシの効いた甘辛醤油の煮汁がよく滲みこんでいて、タマネギと溶き卵とのバランスがいい。豚バラ肉がおまけの役割を担っている。ご飯にやや課題があると思うが、そんなぜい沢を押し倒すほどの絶妙な味わいがガブリ寄ってくる。どんどん箸が進む。これはひょっとしてB級の極めつけの美味さかもしれないぞ。「むむむ」が「おおおお」へと変換していった。その途中で、店主の言う「会津風の味付け」の意味がわかった。ソースの風味が混じっていたからである。「ソースかつ丼」は会津の名物ドンブリで、それを取り入れているというわけである。「ソース煮込みかつ丼」も会津ならではの味でファンも多い。

          麦とろ⑥ 
          これがあぶら麩
          麦とろ⑦ 
          豚バラ肉入り

意外な味覚の発見だった。酸いも甘いも滲みこんだ味わい。
軽い驚きとともに、この店に夜来たくなった。年季の入った店と店主。メニューの中に「馬刺し」と「鯨汁」「ニシンの山椒漬け」があった。
「おめ、エラそうにハズレだどが言ってだげど、失礼でねえがし。店も人も外見で見ちゃいげねえべ」
綾瀬はるか演じる山本八重に叱られた気がして、外に出た途端、くしゃみが出かかった。



本日の大金言。

きれいな店が美味いとは限らない。一見きれいではない店に思わぬ発見もある。おメーン一本。B級グルメ道の奥は深い。




               麦とろ⑧ 


桜舞う「白河ラーメン」の新しい味

 白河小峰城を見てから白河ラーメンを食べる。ポンコツの愛車で東北自動車道を走りながら、彦作村長の脳裏にそんな不埒(ふらち)な考えが浮かんだ。白河小峰城は先の東日本大震災で約400年続いた美しい石垣の一部が崩れ落ち、未だに復旧工事中。福島に何度も行っている作家の浅田次郎さんは3.11後、戊辰戦争でも崩れなかったこの石垣の崩落を見てショックを受け「こうした歴史的な文化財にも目をやらなければならない」と話していた。

          白河ラーメン④ 
          傷跡が残る白河小峰城と桜

桜が白河小峰城の三重櫓(天守閣)を背景にして少し散り始めていた。一部シートで覆われた石垣がどこか痛々しく、今回の大震災がいかに巨大なものだったかを無言で語っているようだった。

時計を見ると、午前11時半。頭の中は、白河ラーメンに切り替わっていた。白河は今や喜多方に並ぼうという東北のラーメン王国。市内には70軒近いラーメン店があり、日本全国からラーメン好きを集めている。

          白河ラーメン② 
          「いまの家」の二代目

へそ曲がりの彦作村長はもっとも有名な「とら食堂」を避け、上り坂のラーメン店に目を付けた。駅前に近い「二代目いまの家」へ。まだ早い時間なのに、すでに7人くらいの先客がいた。メニューを見ると、「ラーメン」(650円)と「支那そば」(650円)がある。わかりにくい。スタッフの女性に聞いてみた。「ラーメン」の方が定番の白河ラーメンだった。むろん、こっちを注文した。

          白河ラーメン11 
          あでやかな器
          白河ラーメン⑤ 
          このそろい踏み

店内はまだ新しく、店主もスタッフも若い。人気店「いまの家」の息子さんがノレン分けした店で、麵からスープからすべて自家製というこだわりぶり。化学調味料も使用していないという。その志がここちいい。10分ほどで、大きな有田焼風の中華どんぶりがやってきた。醤油ベースのスープはかなり濃い目で透き通っている。鶏油(ちーゆ)が浮いていて、大きめのチャーシューが3枚。それも縁が赤いバラ肉ともも肉の2種類という凝りよう。ナルト、海苔、シナチク、貝割れ、刻みネギというオールキャスト。東京ラーメンや喜多方ラーメンと似ているが、それとも違う。

          白河ラーメン⑨ 
          チャーシューもこだわる
          白河ラーメン⑦ 
          この麺はすごい

何よりも圧倒的なのは太い縮れ麺。毎朝5時間かけて打っているという。見るからにうーむと唸りたくなる出来で、実に美味そうである。この店だけなのか、喜多方ラーメンよりもコシがかなり強く、歯ごたえも十二分にある。加水率が高いのだろうモチモチ感もある。そこは好き嫌いの問題だが、村長の好みである。チャーシューもいい歯ごたえで悪くない。問題はスープ。会津産の地鶏を使った醤油ベースの鶏がらスープが濃すぎて、奥深いまろやかさもあるのに、それがじんわりと広がってこない。美味いのは美味いのだが、何かが足りない。そのこだわりぶりがやや空回りしているのではないだろうか。何かが何かはわからない。

         白河ラーメン10 
         鶏がらスープ

「濃かったら、言ってくださいね」
感じのいい女性スタッフが来る客にそう言い添えていて、濃いというのは自覚しているのがわかる。「濃い」という人にはスープを入れて薄めてくれる。それでも、この濃厚を続けるのは店主のこだわり以外に考えられない。
「本家よりも素材にはこだわりを持っています」
若い店主はそう言ってさわやかに白い歯を見せた。そのこだわりに円熟味が加わる日を待ちたい、と思った。その時、最強の白河ラーメンが誕生するかもしれない。



本日の大金言。

二代目が初代を超えることはそう簡単ではない。だが、と思う。志と努力さえ失わなければ、初代の土壌にさらにきれいな花が咲くはずだ。



                     白河ラーメン12 

渋沢栄一の街で絶品塩豆大福

 かつて中山道の宿場町として栄えた深谷の街をぷかぷか歩いていると、彦作村長のセンサーがピピピピと反応した。埼玉県深谷市は現在の日本経済の基礎を作った立役者の一人・渋沢栄一の出身地で、人口14万人弱のローカル都市。古い街並みには大都市中心のメディアでは捉えきれない、意外な発見があったりする。これがまた面白い。深谷でも?

         浜岡屋④ 
         センサーにピピピ

「塩豆 明治大福」と書かれた幟(のぼり)が視界に入ったのだ。「浜岡屋」という古い看板。洋菓子も売っていて、ローカル都市で「老舗和菓子」の看板を守っていくことの困難をまず感じた。店に入ると、美味そうな「さくら餅」「草もち」が目立つところに置いてあった。その隣に「塩豆 明治大福」が・・・。午後2時過ぎなのに、残り少なくなっていた。すべて1個137円なり。女将さんらしき感じのいいおばさんが一人。

         浜岡屋① 
         ふむふむ

「明治大福って面白いネーミングですね」
と怪しさを笑顔でカモフラージュしながら村長が話しかける。
「私の主人が三代目でもう高齢なんですけど、店の創業が明治30年ごろで、明治大福って名付けたんですよ。お陰様で贔屓(ひいき)にしてくださる方も多いです。今は4代目と一緒に朝の5時から昔とまったく同じ製法で餡づくりをしてるんですよ。ええ、毎日です(笑い)。餡づくりはものすごく手間のかかる仕事で、ここまでやってる店は少なくなっていると思います。こしあんまで自家製は本当に少ないと思います」

          浜岡屋⑥  
          意外な発見

村長のピピピが当たりの予感。明治大福と草もちを二つ、それにさくら餅を一つ買って、何だか得した気分でウマズイめんくい村に持ち帰って、さっそく賞味することにした。添加物などは使っていず、そのために「本日中に食べてくださいね」と言われたからである。

         浜岡屋12 
         只者ではない
         浜岡屋⑧ 
         言葉は不要

「塩豆 明治大福」は軽い衝撃だった。大きさは普通だが、包みを解いて、口に含んだとたん、餅の柔らかさと粒あんの風味が同時にふわっと広がった。使用している小豆は北海道産で甘さは控えめ。いい小豆特有の高原の涼風が脳天へと抜けていく。。赤えんどうの大きい塩豆はやや固めできりっとしている。塩豆をここまでしっかり作るのは相当な熟練のワザが必要だと思う。全体のバランスがいい。埼玉では梅林堂の塩豆大福が有名だが、村長の個人的な感想ではそれを超えていると思う。埼玉のド田舎(失礼)深谷にかような店があるとは・・・。だが、待てよ。この絶妙な美味さ、どこかで味わった記憶がある・・・。

         浜岡屋11 
         こだわりが半端じゃない
         浜岡屋⑨ 
         こしあんの凄味

調べてみたら、この店の三代目は若い頃、どうやら三ノ輪の老舗で修業したようだ。なるほど、と思う。深谷の発見。「草もち」も「さくら餅」もかなりのレベル。どちらもこしあんで、品のいい小ざっぱりした甘さ。その手間ひまをかけた熟練の風味がとてもいい。草もちのよもぎの立つような香り。さくら餅のさわやかな香り。手づくりのワザが滲みこんでいるようだ。

深谷で一個137円という価格設定は高めかもしれない。東京なら三割高くても売れる味だと思うが、ローカル都市で和菓子職人としていい仕事を続ける困難をつい思ってしまう。彦作村長は突然貧乏になってしまったために、少ししか買えない。それでも毎朝5時に作業を始めて、「浜岡屋」のノレンを守り続ける。137円に明治から続いている和菓子職人の意地と誇りが詰まっている。



本日の大金言。

名ばかりの老舗が多くなっている中で、たまには地方都市に行ってみよう。マスコミが伝えない路辺にこそ宝石が潜んでいるかもしれないのだ。



                     浜岡屋② 



マックもしぼむ下町の仰天ハンバーガー

 三島由紀夫が自決した翌年の1971年、東京・銀座に日本マクドナルドが第1号店を出した。それから早42年の歳月が流れてしまった。ハンバーガーは日本の食文化にすっかり溶け込んでしまったが、赤羽彦作村長はいまだにハンバーガーが苦手である。ポパイにもブルータスにもなれそうもない。それでもたまに美味い店に出会うことがある。

          蜂の巣② 
          ここからバーガー劇場の始まりィ~

その極めつけが、居酒屋の街・北千住で起きてしまった。噂には聞いていたが、夕刻、ふと立ち寄ってみた。北千住らしからぬカフェバー「HACHI no SU(蜂の巣)」のハンバーガーである。意外に思われるかもしれないが、北千住には美味いハンバーガー屋が多い。その頂点に位置していると言われているのがこの店のハンバーガーだった。

         蜂の巣③ 
         まだ客のいないカウンターに座って・・・

カフェバーというより、店内の雰囲気は英国風のパブと言った方が近いと思う。世界の主なビールが取り揃えられていて、ウイスキー類も豊富。料理やツマミ類も揃っている。だが、ここの名物は何と言ってもハンバーガーである。村長はロンドンの下町にでもいるような気分で、カウンターに座ると、定番の「ハンバーガー」(880円)を注文した。むろんビールを頼むことも忘れない。ウェイターのイケメン君に「ギネス!」と渋くく叫んだ。1/2pint 600円なり。

         蜂の巣④ 
         ムムムの世界

注文してから作り始めるようで、カウンターの奥でハンバーグを焼いているいい匂いが村長の鼻腔をくすぐる。ギネスを飲みながら10分ほど待つ。イケメンウェイター君が見事なハンバーガーを運んできた。高さは10センチは優にある。マックのハンバーガーに慣れてしまった村長の目が点になる。手づくりの5階建ての宮大工ハンバーガー! いい焼き色のバンズ(丸いパン)の間には分厚いレディ・ガガのようなビーフハンバーグがトマトとピクルスとレタスを従えて「アーユーレディー?」と微笑んでいるではないか。オニオンソースと肉汁がじゅわりと滴っている。こんなのってアリか?「オールライト!レッツ、エンジョイ!」夕方5時過ぎたばかりで、まだ客がいない中で、村長の一人芝居が始まる。

         蜂の巣⑥ 
         アーユーレディ?

肉汁がこぼれないようにハンバーガーをペーパーの中に入れて、かぶりつく。自家製ハンバーグは国産ではなくオーストラリア産ビーフだそう。味付けはよほど自信があるのだろう、塩と黒コショウのみ。それを前面に打ち出したハンバーガーである。マヨネーズも使っているが、いい焼き具合のビーフの味が肉本来の甘みとともに口中に広がっていく。素材の味を生かした実にシンプルな美味さ。特筆したいのはバンズだ。特注の酒種バンズを使っていて、そのこだわりぶりがすぐに理解できる。テッペンにはケシの実が乗っかっている。村長はこのケシの実に弱い。銀座木村家のアンパンもこのケシの実がなかったら、香りのない吟醸酒のようなものになってしまうと思うほど。このバンズが只者ではなく美味い。

          蜂の巣⑦ 
          ちょいと失礼いたします
          蜂の巣⑨ 
          あら乱れてしまって・・・

レタスの量が村長にはちょっと多すぎるが、見た目も含めて、これだけの見事なハンバーガーに出会ったことはあまりない。ポテトフライを合いの手にギネスを飲み飲み、ハンバーガーにかじりつく。村長が好きなジミ・ヘンドリックスは子供の頃「ハンバーガーを腹いっぱい食べることが夢だった」とインタビューで答えている。そのジミヘンも今はいない。北千住の特製ハンバーガーを最近出始めた腹に収めて、村長は空になった皿を見つめた。夢から覚めた皿、それも悪くはない。



本日の大金言。

アメリカはハンバーガー、日本は焼きおにぎり。日米軍事同盟ではなく日米B級グルメ同盟というのもアリだと思う。




                    蜂の巣10

動物園と安曇野そばのミスマッチ

 突発的に動物園に行きたくなることがある。上野動物園へ行くか東武動物公園へ行こうか、迷っていると、村民2号がツツと近寄ってきて言った。
「お金がもったいないわよ。無料の動物園があるのよ。ライオン、キリン、象もいるわよ。村長そっくりの猿だっているわよ」
「タダ?まさか?」
「何でもお金を払えばいいってもんじゃないのよ。私も久しぶり。象やペンギンちゃんに会いに行こうかしら」

           桐ヶ丘動物園① 
           ライオンだって寝たい
           利平② 
           象の孤独

ポンコツ車をふっとばして、村民2号の故郷・上州、桐生郊外の「桐生が岡動物園」へと向かった。無料は本当だった。遊園地と併設していて、チケット売り場がない。首都圏からあまり離れていない場所にこんな立派な動物園があったことに驚いた。市営の動物園だった。市の財政は大丈夫だろうか、心配になるほど。ライオンは寝ている。象はデッカいウンチをしていた。ペンギンはタキシードを着たままだった。

          利平③ 
          めっけ!

ランチタイムを過ぎていた。動物園にはレストランがなかったので、仕方なく、桐生市街へと出ることにした。長崎屋近くで、いい雰囲気のそば屋を見つけた。「そば利平」という看板。「信州安曇野蕎麦」とも書かれていた。入り口が小さいので、きっと中も狭いだろうと思って入った。だが、広かった。古民家を移築して新しくデザインしたような見事な設計で、一枚板のテーブル席と板張りの座敷がゆったりと広がっている。壁には大谷石が配置されていて、和とモダンが融合したような、何やら建築雑誌のグラビアにでも出てくるような造りだった。

         利平12  
         メニューは少ない

ここは昼のみ営業(11時半~14時)というそば屋さん。ギリギリ間に合った。メニューは多くない。「とりそば」(750円)を注文した。ちなみに「もりそば」は500円とそう高くはない。店の造りから見て、むしろ良心的な価格設定。スタッフは3~4人ほど。奥に店主らしき人がいて、かなりご高齢に見えた。余計なことは言わないよ、そばだけを楽しんでってください、背中がそう言っているようだった。悪い感じではない。

          利平⑦ 
          そろい踏み

10分ほど待つと、きんぴらの小皿とネギ・わさび・ほうれん草の小皿がやってきた。きんぴらとは珍しい。続いて、いい海苔(のり)が多めにかかったもりそばととり汁が登場。そばの量はむしろ少なめだが、見事な細切りの信州そば。多分二八か。一番粉に全粒粉を少々入れたような、白くてきれいなそばだった。香りはあまり感じなかったが、コシのあるそば。店主のこだわりが伝わってきた。

         利平⑧ 
         見事な細切り
         利平⑨ 
         普通に美味い

付け汁の温かいとり汁には長ネギとシイタケ、それに鶏肉が3~4個。出汁は弱めで、返しも薄め。それが品のいい味というより、村長にはやや物足りなく感じた。
「建物も店内も雰囲気も素晴らしいけど、このとりそばはまあ、普通の美味さかな。動物園の動物たちを見てから、この小ぎれいなそばを賞味する。ちょっとミスマッチだったかもね」
「どういう意味?」

「たまには野生に帰れ、ということよ。それができっこない。だから悲しくなる」
「意味がわからん・・・」



本日の大金言。

動物園の動物だけではない。人間だって見えない檻の中にいるのかもしれない。象のウンチの真実。

  

                     利平11 

最中のエノケン、「都電もなか」の郷愁

 「都電もなか」を初めて見たとき、「駄菓子屋で売っていたおまけつきキャラメル」を連想してしまった。パッケージといい、都電の形そのまんまといい、最中(もなか)という和菓子の伝統とはイメージのギャップがあり過ぎたからだ。飲み会の席にテレビ界のご意見番・梅谷プロデューサーが手土産として持参してくれたときのこと。
「これ、知りませんか? 都電・荒川線の梶原駅で降りて買ってきたんですよ。下町の名物でもあるんですよ」
そう言って梅谷プロデューサーは独特の表情でシニカルに笑った。梅谷プロデューサーは下町育ちだった。

          都電最中⑧ 
          包装がシャレている

「おもしろーい!」
北海道育ちのイケイケ商社ガールが素っとん狂な声を上げた。その場で、食べると、これがパロディーっぽい外見とは違って、本格的な最中で、中に求肥(ぎゅうひ)が入っていて、かなり甘かったが、予想外の美味さだった。アンコ好きの村長の沽券(こけん)に係わる小さな衝撃だった。これは現場に行かなければならない。田舎育ちゆえに「都電もなか」なるものを知らなかったことも少々恥ずかしかった。グ、グヤジイ~。

          都電最中① 
          久しぶりの都電に乗って

東京で唯一残っている都電荒川線。久しぶりに町屋から早稲田行きに乗って、梶原駅で降りた。昔より都電がきれいになっていることに戸惑いながら「都電もなか」を製造発売している「菓匠 明美」はすぐにわかった。佇まいからして老舗の菓子屋さんで、都電の全面撤廃が決定したことがきっかけで、何とか都電の面影を残そうと、昭和52年(1977年)にこの「都電もなか」を考案して発売したという。第24回全国菓子大博覧会で厚生大臣賞も受賞している。今では「下町の東京土産」としてファンもついている。

          都電最中②  
          只の老舗じゃない?

「都電もなか 10輌入り」(1450円)を買い求めた。10個と言わず、10輌。ばら売りもしているというのが下町の駄菓子屋風で、隣から「こち亀」の両津勘吉が出てきそうだった。ウマズイめんくい村に戻って、賞味することにした。包装がシャレていて、遊び心がいたるところに感じられる。「9001」「8502」など5種類の車両のパッケージ。野暮を承知のこの凝り方が小粋である。中にチャプリンやエノケンが乗っている錯覚に陥った。

         都電最中② 
         見ているだけでチンチン
         都電最中 
         こんな最中ってあり?

和紙に包まれた最中は皮が柔らかめ。最中特有の焼いた餅粉の香りがプンと広がってくる。手で割る。中から北海道産のいい小豆が顔を出してくる。求肥(ぎゅうひ)がビューンと伸びる。添加物は使われていない。都電の夢を乗せた最中をまずはひと口。あんはつぶし餡で、甘めだが風味は十分。口中で求肥の柔らかなモチモチ具合とよく合う。

          都電最中⑤ 
          ズズとひと口・・・

最高峰の美味さではない。皮はもう少し固めの方が村長の好みだが、そんなこと以上に「都電もなか」の存在自体にささやかに敬意を表したくなった。偉大なる超B級の最中。A級に脱線しないことを祈りながら・・・。



本日の大金言。

チャプリンやエノケンの世界にも通じている都電もなかのペーソス。「街の灯」のラストシーンで遠ざかるチャプリン。「洒落男」のエノケン。それは単なるノスタルジーかもしれないが。




                都電最中⑨ 

B級キング「北千住いもや」の天丼

 宮仕えしていた時代、マスコミ関係者の知人数人と「北千住いもや」で待ち合わせたことがある。その中のテレビマンがこの店の常連だった。彦作村長はこのすぐ近くに住んでいたこともあり、名前くらいは知っていた。北千住では知る人ぞ知る店だったからである。夜の8時過ぎには灯りを落とすので、深夜帰宅が多かった村長にとっては、近くて遠い店だった。

                 いもや15 
       下町の天ぷら屋

L字のカウンターと奥座敷だけの店だが、下町の匂いが残る飾り気のない店で、ビールを何本も抜いた後で、そのテレビマンが当然のように締めに「天丼」を注文した。驚いた。やってきた天丼は天ぷらがドンブリのふたからはみ出るほどのボリュームだった。ビールですでに一杯になったお腹にようやっと詰め込むことに成功したが、美味いというよりそのボリュームに驚いた記憶が残っている。

         いもや② 
         敷居が低い

午後2時ちょっと前。今回は「天丼」だけを目的に再チャレンジしようと思った。カウンターに腰を下ろす。上天丼ではなく、安い方の天丼(750円)を注文する。常連らしいお客が年季の入った店主とその奥さんと雑談していた。息子さんだろうか若い男性も控えている。
「神田のいもやは酒類を置いてないし、ここに比べると、味も落ちるよ。オヤジさんみたいな腕はなかなかないよ」
常連客が話している。

よく見ると、店主は柳家小さんのような雰囲気。奥さんは内海好江みたいだった。天ぷら一筋の夫婦人生。それがこの店の味を作っているんだろうな。そう思いながら、先に出されたみそ汁と白菜のお新香を賞味する。わかめと豆腐のみそ汁はダシのよく効いた美味いみそ汁だった。東京の濃い味を予想していたが、じんわりと体全体に滲みこむような優しい味だった。

          いもや③ 
          天丼キングの登場

注文してから目の前で店主が天ぷらをじっくり揚げていく。油は白絞油とゴマ油をブレンドしているようだ。「自由に見ておくんなさい」という静かな自信が店主の全身にみなぎっている。10分ほどであの天ぷらがドンブリからはみ出た「天丼」が目の前に置かれた。ふたを取る。この瞬間がたまらない。エビ、イカ、かき揚げ、ナス、大葉・・・見事な天ぷらが幾重にも重なっているよう。

         いもや⑤ 
         言葉はいらない

天ぷらは洗練という言葉が無意味なほどの下町の熟練の味わい。コロモははカラッとしていて、しかもしっかりと付いている。天種がいいことが噛んだ瞬間にわかる。エビと紋甲イカの甘み、なすの鮮度、かき揚げのネギの何とも言えない甘み・・・。天つゆは思っていたほど濃くはない。甘辛のちょうどいい手触り感のある旨味。それが多めにかかっていて、人によっては多すぎると感じるかもしれないが、村長の範囲である。感心したのはご飯の旨さ。ちょうどいい固さ。それが艶々していて、立っている。

          いもや⑥  
          エビデンス
          いもや12 
          絶妙なバランス

A級ではない。これは天丼ワールドのB級キングだよ。洗練を超えた野暮と粋の混然一体の味わい。前回と違って、あっという間にぺろりと平らげてしまった。胃袋と脳天を満足感と幸福感が支配した。世界に何が起きても大丈夫。北のドンより「いもや」の天丼。北千住の青い空を見上げて、たとえ北鮮からミサイルが飛んできても撃ち落としてやる。理由もなくそんな気分になるのだった。



本日の大金言。

世界がたとえ明日終わっても、下町の天丼に終わりはない。




                    いもや14 

「ユーミンお気に入りのかりんとう」の中身

 かりんとうの世界にも新しい波が押し寄せているようだ。村長の第二の故郷、北千住の商店街をぷらぷら歩いていると、「革命的かりんとう」というおシャレな幟(のぼり)がはためいていた。「油で揚げていないこの食感が新しい」という文字も見えた。油で揚げていないかりんとうだって? それでかりんとうと言えるんだろうか? 北千住にいつのまにこんな店ができたんだろう。 「菓寮 花小路 北千住店」という看板も和のテイストを押し出したクールなデザイン。近づいてみると、驚いたことに「松任谷由実さんのお気に入り!」という雑誌の切り抜きのようなものも見える。

         花小路① 
         老舗風の店構え

根がミーハーな彦作村長はユーミンのお気に入りというだけで立ち止まって、店内に入った。小ぎれいな店内。どうやら「油で揚げていない」ことが「革命的」ということらしい。「やさしさに包まれて」や「ルージュの伝言」をポンコツ車に搭載している彦作村長だが、これは「かりんとうの伝言」ではないだろうか、と苦笑した。

                花小路③  
          高いか、安いか

「焼かりんとう」(1袋200グラム630円)を二つ買い求めた。一つは近くの「おじゃら画廊」女主人でユニークな活動を続けるおじゃら・りかさんへの手土産、もう一つはウマズイめんくい村に持ち帰って賞味しようと思った。おじゃら・りかさんは前衛アーティストで、「FM北千住」のパーソナリティーもこなす才人。アトリエ兼画廊でお茶をごちそうになりながら、とりとめのない話をして、ウマズイめんくい村に帰村した。

「焼かりんとう」は小麦粉と米粉を使って焼き上げている。沖縄産の黒糖を煮詰めてまぶす。見た目も食感も「やさしさに包まれ」るような味わい。油で揚げていない分、軽くて、何よりも食感がサクッとしていて、かりんとうというよりもむしろ麩菓子(ふがし)のような歯触り。いい黒糖の自然な甘みが口中に広がる。それがすーっと溶けていく。たしかに新しい食感で、悪い感じではない。

         花小路⑥ 
         やさしさに包まれて・・・

「ヘルシーな雰囲気で女性をターゲットにしたかりんとうね。小腹がすいたときにちょっとつまむにはいいかもしれないわ。でも、私はげんこつみたいな、黒糖でゴツゴツしたかりんとうが好き。悪いけど、これはかりんとうという気がしない。値段も高いと思う」
赤城おろしの中で育った村民2号がズバッと言った。

          花小路⑦ 
          美味そうだが・・・
          花小路⑨ 
          油で揚げていない

「この物足りないほどの食感と味わいがいいのかもしれないぞ。村上春樹の小説にも通底している儚さ(はかなさ)とか切なさの世界を感じる。そう言えば村上春樹の新作がすごい話題になってる。出版の世界も宣伝戦略が上手くないと売れない時代なんだよ。このかりんとうも村長は味よりも宣伝の上手さに感心するよ」
「飛躍しすぎよ。昔読んだ『ノルウェーの森』はよかったわあ。新作も買わなくちゃ」

「菓寮 花小路」は平成17年に誕生している。まだ7年ほどの歴史しかない。それで、全国に約50店舗という急成長を遂げている。B級好きの彦作村長は歯ごたえのない小ぎれいな焼かりんとうをポリポリ食べながら、B級の手触り感がどんどん地上から遠ざかっていく今の日本をジョージ・オーウェルの「1984」の世界に重ね合わせるのだった。



本日の大金言。

たかがかりんとう、されどかりんとう。一個のかりんとうに世界を見ることは可能だろうか?





                   花小路⑤  

昭和の洋食屋の絶品ヤキメシ

 「焼き飯」「やきめし」「ヤキメシ」・・・彦作村長にとって、中華料理のチャーハンとはひと味違う「ヤキメシ」は特別の存在である。関西ではお好み焼き屋で「焼き飯」で食べることが多いが、関東では洋食屋である。「ピラフ」という店の方が多いが、村長にとっては昭和の洋食屋は「ヤキメシ」でなければならない。その4文字から立ち上がってくるラードとバターとタマネギの、あの何とも言えないいい匂いは格別である。そこに少々の肉とガーリックが入れば、ほとんど完ぺきである。

         いしだ① 
         この店構え

東京・赤羽を散策中に、これぞ昭和の洋食屋という雰囲気の店を発見した。東口から歩いて10分ほどの住宅地。白いペンキ塗りの看板は少々剥げかかり、古ぼけた薄い茶のノレンには「洋食 いしだ」という白文字。村長の目がウルウルしてきた。今では地方に行かなければ見れなくなってしまったロウ細工の古ぼけたショーケースが。「ハンバーグ」「トンカツ」「オムライス」「スパゲティ」などメニューの見本が置いてけぼりを食わされたように並んでいる。そこに「ヤキメシ」が・・・。

          いしだ③ 
          昭和のコック

調べてみると、この店は創業が昭和55年。33年ほどの歴史しかないが、赤羽周辺では知る人ぞ知る洋食屋さんだった。中に入ると8人ほど座れるカウンター席と3席ほどの小上がりだけ。午後3時過ぎだというのに、お客が5人ほどいる。カウンターの中が全面開放の厨房になっていて、ちょうどそこで「ヤキメシ」を作っているところだった。旨そうな、いい匂いが充満している。カウンター席に腰を下ろしてから、村長は迷わず「ヤキメシ」(500円)を注文した。

         いしだ④ 
         思わず正座

使い込んでいい具合に黒光りしたフライパンを動かしながら、店主がちらりとこちらを見た。白いコック帽に白いエプロン。年のころは70歳前後だろうか。一瞬ニヤッとしたように見えた。そのお顔がビートルズの晩年のジョージ・ハリソンそっくりだった。調味料に六代目三遊亭圓生を加えたような、ある種の只者ではない雰囲気を醸し出していた。一心にヤキメシを焼くジョージ。黙々とヤキメシを作る圓生。

          いしだ⑤ 
          なぜだ?ひと味違う
          いしだ⑧ 
          ライスに魔法をかける?

見事なヤキメシだった。タマネギ、ニンジン、ピーマン、卵、粗挽きウインナーソーセージ。見た目はピラフだが、年季の入ったフライパンで炒められたライスは一粒一粒に旨味の魂が入ったようだった。スプーンで口中に運んだとたん、ラードとタマネギの甘みと多分オイスターソースの旨味が混然一体となって、怒とうのがぶり寄りを仕掛けてくるよう。粗挽きウインナーソーセージと卵がいい具合に絡まってくる。これほど美味いヤキメシはそうはないと思う。かつて宮仕え時代にホテルニューオークラの「鉄板焼 さざんか」で食べた「ガーリックライス」と同じくらいの感動といってもいい。ただ一点、スープがないのが残念である。不満はそれだけ。

         いしだ⑦ 
         ま、ひと口・・・

「何か秘伝があるんでしょうね」
あっという間に平らげてから、村長は店主にさり気なく聞いてみた。
「何にもないですよ。特別なものなんて使っていませんよ。ただ、ライスを焼いてあげる。あまり動かさずに焼いてあげる。それがコツなんですよ」
ジョージ・圓生がニヤリとしながら答える。
ライスを焼いてあげる? その言い方でこのヤキメシの秘密の扉が少しだけ開いたような気がした。



本日の大金言。

「洋食屋のヤキメシ」という言葉から立ち上がってくるB級の頂点の匂い。昭和の匂い。人間の匂い。清潔シンドロームの中で忘れてはならないもの。



                     いしだ11

「隠れた栗ようかん」の驚き

 東京・三鷹に住んでいた時代の友人がウマズイめんくい村に立ち寄って、久しぶりに昔話に花が咲いたが、そのとき手土産に持ってきてくれたのが知る人ぞ知る「菓匠 こしの」の羊羹(ようかん)だった。「菓匠 こしの」は吉祥寺ハーモニカ横丁の中にある小さな和菓子屋さんで、月・火・水しか営業していない。それも午後1時から夕方の5時まで。ここの羊羹は行列ができることでも知られている。すぐ近くの「小ざさ」があまりにも有名なために、イメージ的には地味系で少々損をしているが、「小ざさ」に勝るとも劣らない味だと思う。

          こしの① 
          栗と粒のそろい踏み

持ってきてくれたのは「栗羊羹(ようかん)」(1本380グラム850円」と「粒羊羹」(同670円)。友人は「ボクは小ざさよりもこっちの方が好み。とにかく食べてみてくれよ」と言い置いて帰っていった。彦作村長は「小ざさ」の羊羹を食べたことが何度かある。オーバーではなく「虎屋の羊羹」より美味いと思った。1本580円という安さにも驚いたが、一日150本しか作れない、というだけあって、その洗練された味わいは特筆ものだった。「虎屋」より甘さが控えめで、こしあんの風味が際立っていた。それよりも美味いなんてありえない。

「こしの」は本店がひばりが丘にあり、羊羹はそこで作られているが、吉祥寺ハーモニカ横丁の出店の方が有名になってしまった。「小ざさ」も工場は三鷹にあり、そこで作られたものが吉祥寺の店で売られている。


         こしの④  
         言葉はいらない

さて、ここの人気ナンバーワン「栗羊羹(ようかん)」を賞味することにした。「小ざさ」は練り羊羹一本勝負なので、栗羊羹はない。紙の箱を開けると、ずっしりと重い銀紙に包まれた栗羊羹が・・・。この瞬間が羊羹好きにとってはたまらない。銀紙が午後の光のなかで鈍い光を発している。包丁を入れると、まず栗の大きさに驚かされる。まわりをきれいな練り羊羹がぎっしりと包んでいる。

          こしの⑤ 
         この圧倒・・・
         こしの⑦ 
         見事な大栗・・・

栗以外は小豆、双目(ざらめ)、寒天しか使っていない。銀紙をとると、糖蜜がじゅわりとにじみ出てくる。光りにかざすと、いい小豆色が半透明になっいく。満月のような栗がどこを切ってもどかどかと丸ごと存在している。これはすごいことではないだろうか?

ひと口。栗は炊き立てのような新鮮な風味が際立っている。その栗の美味さが、控えめでまろやかな甘さの練り羊羹とよく調和している。その絶妙。そのふくよかな圧倒。美味い。彦作村長の栗羊羹キャリアの中でトップ3に入る美味さだと正直に思った。口中で風味が立ってくる。

          こしの⑨ 
          かのこ豆の粒羊羹
          こしの⑧ 
          半透明の誘惑

「小ざさとは単純には比較できないけど、本当に美味いわねえ。粒羊羹もかのこ豆がいっぱい入っていて、品のいい甘さといい、風味といい文句のつけようがないわ」
「昔絶賛していた虎屋の羊羹と比べてどうだい?」
「虎屋の羊羹は美味いのは美味いけど値段が高すぎる。それと甘みもやや強め。名前が先行しすぎていると思う。このこしのの羊羹は私にとっては発見と言いたくなるくらいよ。特に栗羊羹は絶妙な美味さとしか言いようがない」
「確かに。看板と実力は案外比例しないのかもなあ」
「だけど、こしのに一つだけ言いたい。パッケージのデザインがよくない。安っぽすぎると思う。私がデザインしてやりたいくらいよ」
さすが村民2号。甘口だけでは終わらなかった。



本日の大金言。

「小ざさ」と言い、「こしの」と言い、まだ日本にはいい羊羹職人が残っている。アベノミクスがこうした本物の職人をどうとらえているか、それが問題だ。カブを持つより羊羹を持てと言いたい。



                貴美代③ 




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アキバに江戸の立ち食いそば屋

 今ではどこにでもある「立ち食いそば屋」。もともとは江戸時代の屋台そばにルーツがある。落語の定番でもある「時そば」も屋台そばが話の舞台となっている。手軽で安い、というのが立ち食いそばのポジションだが、江戸の昔の面影を感じさせる立ち食いそば屋がアキバにある。電気街、オタクのメッカ、AKBの出発点。そのアキバの中に、立ち食いそばファンの隠れメッカが・・・。

          二葉11  
          ただの立ち食いそば屋じゃない

三井記念病院の途中にある「二葉(ふたば)」だ。入り口からして、雰囲気が違うのがわかる。「江戸茶」のノレンに白字で「そば処 味の店 二葉」と染め抜かれている。それがこれ見よがしではなくさり気ない。江戸しぐさの伝統。木の引き戸。入り口には寄席の演目のように「アサリかき揚げ 150円」「貝柱かき揚げ 150円」「かけ 250円」「木くらげ 100円」などと書かれた白札が掛けられている。メニューからして江戸の延長線上である。

         二葉③ 
         立ち食いそば界の歌舞伎座?

彦作村長は宮仕え時代に三井記念病院へ何度か通っていたので、いつもこの店が気になっていた。調べてみると、創業は昭和42年(1967年)ごろ。ごろと書いたのは、ここの女将さんがご主人と始めた正確な日時を覚えていないからである。老舗の有名チェーンの「名代富士そば」の原点の立ち食い屋が渋谷で産声を上げたのが昭和41年(1966年)だから、ほとんど同じ時期に当たる。約45年ほどの歴史だが、東京でもかなり古い歴史の立ち食いそば屋だとわかる。

立ち食いそば屋の必修アイテムでもある自販機も置いていない。木の引き戸を開けて中に入ると、団十郎茶(柿色)の見事なL字型の木のカウンターが無言で「らっしゃい」。その質素できれいな照りが江戸の面影を感じさせる。椅子がない。本当の立ち食い。給食おばさんのようなお方が2人。その一人が女将さんだった。

         二葉④ 
         いよっ、助六の登場

かけそばに「貝柱かき揚げ」と「木くらげ」を注文する。合計で500円ナリ。立ち食いそば屋でこういうメニューは初めての体験である。ここは「アサリのかき揚げ」も目玉である。2~3分で大きめのドンブリに黒い木くらげがどっさり乗ってやってきた。赤唐辛子をかけると、助六登場のよう。刻みネギが新鮮でこちらもどっさり。「貝柱のかき揚げ」もかなりデカいのに、木くらげと刻みネギに隠れてしまっている。何というボリューム。

         二葉⑦ 
         貝柱のかき揚げと木くらげとネギ

そばつゆは濃いめで関東だが、鰹の出汁と返しのバランスが効いていて、見た目よりもやさしい味わい。添加物の匂いがしない女将さんによると「毎日、しっかり作っているんですよ。割に合わないけど」。そばは残念だが茹でめん。量も多い。それでもしっかりした茹でめんで悪くない。貝柱のかき揚げはタマネギが多めで貝柱は少ない。木くらげの食感が全体のバランスをとる上で意外な効果を演じている。つゆがそばの量と比べて少なめなのが気になるが、かなり熱い。それも江戸風で、ふうふう言いながら食べ終えると、お腹の底から「ああ食ったァ食ったァ」という言葉が自然に漏れてきた。

         二葉⑨ 
         茹でそばとは思えない

ここで気を付けなければいけないのは、早めに食べること。時間を置くと、かき揚げは崩れてきて、そばはゆるくなってくる。そばをのんびり食うなんて冗談云っちゃあいけないよ。村長はそれが江戸っ子の長所でもあり欠点でもあることを思い出して苦笑するのだった。



本日の大金言。

頑なに味と風情を守り続けること。消費社会でこの一点を守り続けることは大変なことだと思う。立ち食いそば界の団十郎に拍手を送りたい。



                    二葉10 

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赤羽人気居酒屋のスーパーな夜

東京・赤羽と言えば、北千住と並び都内有数の居酒屋地帯。台風並みの低気圧が西から押し寄せる中、かの有名な「まるます家」目指して7人の粋人が集まった。「まるます家」は昨年の12月、夕方5時に入ろうとしたのに、「満員です」と断られた居酒屋。「夕方5時からこんなに混んでいるなんて日本はおかしい」「今度は朝の9時から並ぶしかないぜよ」想像だにしなかった事態に、自分たちのことを棚上げにして罵詈雑言を浴びせたものだった。

         まるます家② 
         リベンジなるか?

あれから4か月、今回はそのリベンジ。スウェーデンから北欧瘋癲(ふうてん)先生が一時帰国したので、その慰労を兼ねて、その時のメンバーだったブログ界のキング・渓流斎日乗先生、情報工学の権威・山石博士、テレビ界のシーラカンス・梅谷プロデューサー、それに赤羽彦作村長が赤羽に集合した。今回は新たに、商社ガール・谷川姐御、出版社の愛田編集長も加わった。総勢7人。さらにとんでもないお方がビッグサプライズで現れる、いう情報も飛び交っていた。あのオリバー君を日本に呼んだ伝説上の大物プロデューサーも参加する、というのである。まさか?

前回の失敗があったので、今回は呼びかけ人の渓流斎先生が2階の座敷を予約していてくれた。できるお方なのである。

          まるます家⑤ 
          いい雰囲気である

「まるます家」は「鯉とうなぎ」が看板だが、メニューが豊富で、居酒屋の範疇に入れた方がいいB級の老舗。昭和25年創業。マスコミなどで居酒屋特集をすると必ずと言っていいほど大きく取り上げられる。朝の9時から営業しているというのが仰天ものだが、夜9時半には店を閉めてしまう。

ビールで乾杯の後、村長は「鯉のあらい」(400円)と「牛すじ煮込み」(450円)を注文した。2階の大広間は年季の入った造りで東京下町の料理屋の風情が色濃く漂っていて、実にいい雰囲気である。午後5時前だというのに客で満杯状態だった。窓がガタガタ揺れ始めていた。外は雨と風が次第に強くなってきているのがわかる。伝説の大物プロデューサーはまだ来ない。

         まるます家 
         目玉の鯉のあらい
         まるます家⑦ 
         牛すじ煮込みのお成り~

代わりにオリバー君がやってきた。目の錯覚だった。無表情なおばさん店員が、「鯉のあらい」と「牛すじ煮込み」を運んできた。愛想がないところが村長の気に入った。これは人気居酒屋の本道の一つである。だが、料理は期待していたほどではなかった。「鯉のあらい」は作り置きだと思う。まずくはないが、期待していたほどの味ではない。「牛すじ煮込み」も見た目は実に美味そうだが、煮込みの深みが感じられない。北千住「大はし」の「肉とうふ」と比べると、横綱と小結くらいの違いがあると思う。もちろん、これは村長にとっての味覚である。

気を取り直して、この店の隠れた名物「自家製ジャンボメンチカツ」(550円)を注文した。来た。デカい!まずはそのデカさと多分注文してから揚げているのだろう見事なジュウジュウ色に見とれてしまった。新鮮なキャベツの千切りとトマトソース、マスタード、生レモンの配置も唸りたくなるほど。

         まるます家⑧ 
      隠れ名物ジャンボメンチカツ    

期待を込めてかぶりついた。ん?一瞬、無重量状態に置かれたような錯覚に陥った。肉の旨味が伝わってこない。
半透明のタマネギとひき肉が実に美味そうなのに、見た目の美味さが口中の粘膜に愛をささやいてこない。期待していた肉汁がじゅわじゅわ来ない。これはどうしたことか?村長の味覚がおかしくなってしまったのか? ソースをかけて再びがぶり。それでも見た目の美味さの半分くらい。

「ジューシーじゃない。こんなメンチカツはスウェーデンにもないぞ。ガッカリだ」と北欧瘋癲先生が叫ぶ。
「スウェーデンにメンチカツってあったっけ?」と彦作村長。
「期待が大きすぎるからよ。私はこんなもんだと思うわよ。十分美味いわよ」と谷川姐御。

         まるます家⑨ 
         生つばゴクリ

村長は脇に添えられているトマトソースを付けて、三度目のがぶり。今度はうまい! うーむ。これはかなりの高等テクニックではないだろうか。トマトソースも自家製だと思う。肉とタマネギの旨味の物足りなさをこのトマトソースを加えることによって、魔法のごとく、ジューシーさが出てくる。まるが増していく。まるますや。

         まるます家11 
         トマトソースの魔法

伝説の大物プロデューサーはついに現れなかった。代わりにオリバー・・・じゃなかった無表情のおばさん店員がやってきて「次のお客が待ってます。お勘定をお願いします」。「えっ?」。「皆さん、2時間半でお帰りになります」。2時間半がこの店のルールだったのである。ルールには黙って従う。7人の粋人はすっくと立ち上がり、次の店へ向かって、嵐の中へと降りていくのだった。金はないが、傘はある。



本日の大金言。

メディアで超人気の居酒屋と爆弾低気圧。伝説の人は現れなくても、こんな素晴らしい夜になるのである。



                      まるます家14

上野アメ横で昭和のB級まんじゅう

 友人の放浪作家がベネズエラから一時帰国したので、それにかこつけて出版社の編集者とイラストレーターと連絡を取り合い、久しぶりに怪しい4人が東京・上野に集合した。
「チャベスが死んで選挙が始まったので帰ってきたんですよ。選挙の結果がどうなるのか、しばらく日本にいて、またベネズエラに出稼ぎに行ってきますよ。向こうには愛人が2人、ボクを待っているんですよ」
ヒゲだらけの国籍不明顔でニヤリとした。どこまで本当なのかは不明だが、憎めないキャラだ。スペイン語がペラペラでチャベスのブレーンだったこともあるという不思議な男である。

                 都まんじゅう外観① 
          いい店構え

飲み屋に行く前にアメ横をぶらぶら。その途中で「かるた家」が目に入った。「都まんじゅう」の幟(のぼり)と看板。昭和28年創業のこれぞ上野のB級という和菓子屋さんだ。もともとは上野公園の西郷さんの下のあの「上野のれん街」で営業していたが、取り壊されることになり、8年前にアメ横に移転してきた。土日などは行列のできる店でもある。テレビや雑誌に取り上げられることも多い。

          都まんじゅう⑥ 
          思わず引き込まれる

どこか戦後の夜店のアセチレンランプの匂いがするような、懐かしさを覚えてしまう。人形焼きのように器械が一個一個焼き上げていく。見た目はまんじゅうというより今川焼きのようだが、外側はカステラ生地で、中は北海道十勝産の手亡豆(白あん)が入っている。器械で焼き上げていくのだが、その作業過程は、からくり人形でも見ているみたいな、手づくり感が漂っている。

          都まんじゅう⑤ 
          B級の老舗

「10個入り600円」を買い求めた。それをバッグに入れて、すでに葉桜になってしまった上野公園の桜を見ながら、宴会となった。

「本が売れない。何かいい企画はありませんか?」と編集者。

「ニッポンの名器」というのはどう? BCな話の著者に書いてもらったら、面白いんじゃないか、と村長。ストラディバリウスみたいに名器の謎を探る。図書館に置けるような、ハイレベルの知的なエンターテインメント本にする必要がある、と村長。
「面白い! 売れたらシリーズにして、『フランスの名器』とか『中国の名器』とかね。『ベネズエラの名器』はぜひボクに書かせてほしい」と放浪作家がニヤリとする。目がマジになっている。
「県別にしてこれぞホントの秘密の県民ショーなんてのもいいね」

取らぬ狸の皮算用で、怪しすぎる宴会が盛り上がる。葉桜のような皮算用。イラストレーターがトイレに行ったまま帰ってこない。話に夢中になって、誰も心配しない。20分ほどしてから真っ青な顔でふらふら状態で戻ってきた。「久しぶりに街に出たのでちょっとクラクラした」。村長は立ち上がって、お開きを宣言した。

          都まんじゅう② 
          見事な色と風味
          都まんじゅう⑥ 
          ひと口、やってくんない

ウマズイめんくい村に戻って、「都まんじゅう」を賞味してみた。焼き色が見事なきつね色。器械の腕前は職人芸かも。「都まん」という焼き文字が粋である。小麦粉、卵、上白糖、ハチミツなどを使ったカステラ生地は意外にしっとりしている。何とも言えない焦げたような甘い匂いが漂ってくる。中の手亡豆(てぼうまめ)の白あんはこしあんで、甘さは控えめ。添加物を使っていないことに好感が持てる。味はメチャウマではく、まさにB級のうまさ。辛口に品評すると、カステラ生地の存在が大きすぎて、白あんの存在があまりに薄いのではないか。村長の好みとしては白あんの量をもっと増やしてほしい。

          都まんじゅう⑧ 
          カステラ生地と白あん

だが、と思い直す。この店の佇まいと歴史と上野という飛び切りの下町の香りを考えると、これはこのままがいいのかもしれない。アメ横の怪しい坩堝(るつぼ)の世界をこよなく愛する彦作村長にとって、この「都まんじゅう」はそのネーミングとともにおいそれと品評できない不思議な位置を形作っているのだった。



本日の大金言。

世の中には理屈で割り切れないものがいっぱいある。B級グルメの世界にも宇宙の価値観を変える「暗黒物質」があるかもしれない。



                 上野公園2  



上州で見つけた妙な隠れ茶屋

上州にいる 87歳の大叔母の様子がおかしい。たまたま電話した村民2号が日ごろの毒舌を忘れて、「ちょっと様子見に行ってみない?」。
「どう変なんだい?」
「うまく言えないけど、変なのよ」

ポンコツ車を飛ばして駆けつけると、大叔母は家の中で一人カラオケを唄っていた。音程がズレテいたが、どうやら「氷雨」のようだ。村長と村民2号に気づくと、唄の区切りを付けてから、ドスの利いたしゃがれ声で言った。
「こりゃ珍しいお客さんだよ。一体、どうしたんだい?」
「どうしたんだいって?こっちが聞きたいくらいよ。朝電話したら、私のこと、どちら様ですか?って言ったでしょ?何度も」
「ああ、ちょっとお前をからかってみたんだよ。来てくれてあたしゃァうれしいよ。ちょうどよかった。昼めし、どうしようかって思ってたんだよ」

         古代の茶屋⑥ 
         これは当たりかハズレか?

雨が降っても槍(やり)が降っても落ち込むということのない大叔母だが、87歳で一人暮らし。寂しくなる時があってもおかしくはない。最近物忘れもひどくなっているらしい。村長は久しぶりに赤城神社へドライブがてら、美味いめし屋を探すことにした。赤城神社でお参りした帰り、国道353号線(赤城南面道路)をみどり市方面へと下っているときに、その店を発見した。「田舎そば 古代乃茶屋」という看板。まるで隠れ里の古民家だ。何やら柳生但馬守でも脇からぬっと出てきそうな佇まい。

          古代の茶屋④ 
          隠者の隠れ家?

茶室もあるらしく、入り口には蹲(つくばい)まであった。これは新たな発見かもしれない。上州にはうまいそば屋が多いが、このワビさびの気配はただごとではない。
「あたしゃあ、気に入ったよ」
入るとすぐ、囲炉裏があり、8人ほど座れる。奥には一枚板のいかにも古そうなテーブルがいくつかあった。なぜか昨年亡くなった作家・藤本義一の古い色紙が飾ってある。この店を贔屓(ひいき)にしていたということか。

かなり奇妙なそば屋だった。メニューを見ると、そばは「もり一枚」(500円)が基本で、大盛りはなし。最初に一枚とか二枚とか三枚とか注文しなければいけないようだ。「追加はしていません」とも書かれている。「そばの香りを楽しむ方は一枚、昼食代わりの方は二枚、そば通の方は三枚」とわざわざ表記してある。なんだこりゃ?

          古代の茶屋③ 
          何というシンプル

こういう店には逆らってはいけない。少々腹が立つが、流れに身をゆだねることがマナーである。大叔母は「天もりそば」(1300円)、村長と村民2号は村の財政事情から「もりそば一枚」(500円)をそれぞれ注文した。

               古代の茶屋⑨ 
        ゆったりとした時間が流れる

待ち時間は15分ほど。「もりそば」は挽きぐるみの10割そばで、こげ茶色がかった見事な細切りだった。この時期のそばにしては香りもまずまず。コシも強めで、ややぼそっとした食感のいいそばだった。村長の好みのそば。感心したのはつけ汁である。鰹と昆布の出汁と返しが絶妙で、風味がじんわりと底から立ち上がってくるような、自然の味わい深さ。

          古代の茶屋16 
          10割の挽きぐるみ
          古代の茶屋11 
          つけ汁に感心

「甘くもなく辛くもなくちょうどいい。こんなところにこんなそば屋があるなんて、上州生まれの私も知らなかったわ。でも、美味いけどそばの量が少ない。今はダイエット中だからいいけど、二枚食べたら1000円はそば好きじゃないとたまにしか来れないわ」
村民2号が言うと、大叔母が遮るように言った。
「この雰囲気が気に入ったよ。天ぷらもコロモが多いそば屋の天ぷらだけど、実にサクッとしていて品がある。まるで、あたしみたいだよ」

           古代の茶屋13 
           この天ぷらぶり

美味いそば湯を飲みながら、村長は首をひねった。そば屋なのにどこを探しても酒類がない。そばと酒は切っても切り離せないものだと思う。この一点だけが不満だった。



本日の大金言。

同じような店ばかりより、おかしな店や変な店があった方が面白いと思う。面白くなき世を面白く。



                     古代の茶屋14

夢か幻かシャトーペトリュスの夜

 たぶんこれは現実ではない。B級グルメの本道から少々外れてしまう出来事が起きてしまった。小雨の中、ウマズイめんくい村にとんでもないスペシャルゲストがやってきた。これは書かずばなるまい。こんなことがこの世にあっていいのか? シャトーペトリュスがご降臨したのである。彦作村長の苦しい「アヒルの水かき生活」を慰めるかのように、かつてのワイン仲間がやってきた。人生の半分をワインに注ぎ込むプロフェッサーの加ノ山氏、酒屋の若旦那でワインアドバイザーの資格を持っている山ン中氏、ドラマーでもある数学者の佐ノ佐氏。その中の加ノ山プロフェッサーがあのペトリュスを持ってきたのである。ビンテージは1984年。村長はその実物を目にした途端、オーバーではなく、泡を吹いて卒倒しそうになってしまった。

          ペトリュス10 
          これは現実か?

遠い昔のエンターテインメント新聞社時代。担当していた作家先生の影響もあり、ワインに少々ハマってしまった時期がある。大ボスのカバン持ちで普通なら行けない店で接待したり、反対にごちそうの末席に加わったこともある。仕事ゆえ、神経は張りつめていたが、オーパスワンやシャトーマルゴー、シャトーラフィット・ロートシルトといった極上のビンテージワインを賞味したこともある。今から思うと「大ばか者」だったかもしれない。フール・オン・ザ・ヒル。

それでも手が届かないワインがいくつかあった。シャトーペトリュスはロマネ・コンティと並んで生涯飲む機会は来ないだろうな、という特別なワインだった。エベレストの頂上に咲く花。開高健の小説などで妄想するしかない。宮仕えを終えてからは飲むワインは1本580円のメルシャンの無添加ワインと決めている。それが・・・何という夜だろう。

          ペトリュス12  
          コルクがボロボロ・・・

29年もの時を超えて、そのシャトーペトリュスが目の前にある。世界中のワインを飲みほした加ノ山プロフェッサーも飲むのは初めてだという。すでに4本のワインを開けている。ワインアドバイザー氏が慎重にコルクを抜き始めた。だが、なかなか抜けない。コルクがボロボロになっていて、普通なら数秒で抜栓するスゴ腕の山ン中氏が、15分もかかってしまった。

「ペトリュスに君たちが私を飲むのは早すぎると言われたみたいだよ」
と彦作村長。
「ペトリュスですからねえ」
と山ン中氏。そのため息のようなセリフに全員うなずくのだった。

          ペトリュス⑧ 
          29年の眠りから目覚める
          ペトリュス④ 
          やすやすとは開かない・・・

気を取り直して、5つのボルドーグラスに注がれた濃厚な赤紫をテイスティングする。ボルドーのポムロール地区の奇跡と言われるペトリュスはメルロー種がほとんど。カベルネ・フランが少々入ることもある。1984年というビンテージはグレイトビンテージではない。だが、しかし。ペトリュス、である。しばしの沈黙の後、それぞれが口を開いた・・・。

「抜栓したばかりかもしれないけど、力強さはそれほど感じない。やわらかな酸味も感じる。まだ固い気がする。今のところ華やかさも期待していたほどではないかな。まろやかさはさすがだけど」
「土の湿ったようなブーケっていうのか、メルローの最高峰の感じはある。もう少し、空気となじむと味が変わってくるんじゃないかな。どんどん変身していくかも。トリュフのような官能的と言われる匂いもこれからかもね」
「ちょっと待ってくださいよ。加ノ山さん手料理の和牛のステーキと実によく合う。肉の甘みとペトリュス、1+1が3になっていく。脳がとろけるような感覚・・・」
「あまりにも期待値が大きすぎると思う。オーパスワンとかムートンみたいなわかりやすさはない。本物って案外こういうものかもしれないよ」
そんな会話がぐるぐると続く。誰の発言なのか、わからなくなって行く。

                ペトリュス⑤ 
         黒毛和牛のステーキ

時計を見ると午後10時を過ぎていた。延々約6時間に渡った夢のようなワイン会は、ペトリュスのふくらはぎをほんの少しだけ垣間見て終わった。まずは何よりも加ノ山プロフェッサー、そして山ン中若旦那に感謝することにしよう。この先、村長がペトリュスの全貌を見ることは多分不可能だろう。桜が散ってしまった後のような宴の後を眺めて、村民2号がポツリと言った。これで村長の人生の運はほとんど使い果たしてしまったわね・・・。グスン。



本日の大金言。

偉大なるペトリュス。その余韻に比べれば、人生は軽すぎるかもしれない。ペトリュスに近づきすぎてはいけない。



                 ペトリュス③ 

創業明治半ばの人間国宝級「肉とうふ」

 赤羽彦作村長の第二の故郷・北千住は居酒屋の街でもある。「天七」「永見」、最近では「徳多和良」など安くてうまくて味のある店も多い。元々が「江戸の北の出入り口」で、日光街道の宿場町として栄えた土地柄だけに、江戸から明治、大正へと続く江戸庶民文化が2013年の現代にもわずかだが残っている。

                北千住① 
        宿場の面影?

宿場町通りにある居酒屋「大はし」は北千住でも別格の店だと思う。東京で一番古い居酒屋と言われる神田「みますや」(明治38年創業)より古いとも言われる。一説には明治の半ばにはすでに店を出していたという説もある。現在の当主は3代目と4代目。親子で店を切り盛りしている。この3代目がかなりのご高齢なのに背筋がシャキッとしていて、動きもほれぼれするほどきびきびしている。客の注文に「はいよっ!」とか「おいきた!」と受け答えする姿は人間国宝ものだと思う。

彦作村長が宮仕え時代に北千住に住んでいたころ、ひそかにこの3代目を「スターウオーズ」のC-3POと呼んでいた。「お勘定」というと、「はいよっ!」という掛け声とともに手品のごとくさっと五玉算盤(そろばん)を取り出し、ぱちぱち弾いて、「○○○○円!」。その姿見たさに「大はし」に来る客もいるほどだ。安倍首相は背番号3と背番号55に国民栄誉賞を検討すると発表したが、村長は大はしの3代目に「ウマズイめんくい村 特別栄誉賞」を贈りたい気分だ。(そんなものをもらっても何の価値もないが)。

         大はし⑥ 
         いなせな佇まい

北千住への用事のついでに、久しぶりにふらっと「大はし」に立ち寄った。「肉とうふ」(320円)を食べたくなったからだ。いや、それ以上に3代目を見たかった。相変わらずの混み具合で、7~8年前に改装した店内も落ち着いてきていた。「はいよっ!」3代目はお元気だった。3代目の凄いところは、行列のできる店になっても、メディアに取り上げられても、態度や立ち振る舞いが変わらないことだと思う。ちょっと人気が出ただけで態度が変わる店が多い中で、これは余程の修練がなければできることではない。「千住で2番」という看板は、「お客が1番」という意味だそうで、その姿勢が一貫している。「看板に偽りあり」が当たり前の時代に「看板に偽りなし」なんてアリか?

          大はし① 
          牛にこみ

まずはこの店の名物「牛にこみ」(320円)とキリンビールのビール大びん(500円)を注文。「牛にこみ」は牛のすじ肉とカシラを甘辛醤油でじっくりと煮込んだもの。江戸前のやや濃い味付けだが、おそらく明治以来の秘伝のタレを隠し味として使っているのではないか。もともとがすき焼きなので、ご飯のおかずにしてもうまいだろうな、と思ってしまう。肉はやや固め。うまみが滲みこんでいる。歯ごたえを楽しみながらビールで流し込む。

          大はし④ 
          肉とうふを食わずして・・・
                
ついでもう一つの名物「肉とうふ」(320円)を注文。今度は息子の4代目がきびきびやってきて、「はいよ!」。村長は実は「肉とうふ」の方が好みである。これほどさり気なくうまい肉豆腐はないと思う。つるりとして崩れのない豆腐と牛肉の相性が実にいい。甘い醤油だれの煮汁に融け込んだ牛の脂が口中にちょっとした「B級の極楽」を作る。この「ちょっとした」が粋なのである。仕事の疲れや日常の煩わしさがその時だけどこかへと飛んでいく。これだこれだ、明治の昔の宿場町とスターウォーズのSFが交差する。一点に交差する。ちょっと得した気分。生きてることは悪くない。村長はアホ顔を帽子で隠しながら、そう実感するのだった。
 


本日の大金言。

人間という生き物は性悪かもしれない。だが、ときに「人間ってヤッパリイイナ」と思う瞬間もある。ほんの時たまだが。




デパ地下で見つけた口あんぐり生菓子

会津から帰国後、彦作村長は 友人との花見会に出席するために久しぶりに東京・池袋に立ち寄った。西武池袋本店のデパ地下をウロウロしていると、花見客を当て込んだ弁当類やツマミ類がずらりと並んでいた。だが、和菓子マニアの村長の視線の先に、「土鍋あん くるり餅」という聞きなれないが、いかにも美味そうな文字が飛び込んできた。土鍋あん?くるり餅? 店舗はあの「叶匠寿庵(かのうしょうじゅあん)」だった。

         くるり餅① 
         限定品どす


創業は昭和33年とさほど古くはないが、滋賀県大津市に本店を置き、日本橋高島屋など老舗の有名デパートに進出、あっという間に「老舗」の座をつかんでしまった。和菓子界の戦国大名みたいな店。彦作村長は小豆の王様・丹波大納言を使った「あも」が大好きで、宮仕え時代にはちょいちょい高島屋に足を運んだりもした。

見ると、「店舗限定販売」と表記されていた。「よもぎ」と「さくら」の2種類あり、そのほとんどが売り切れていた。限定販売という言葉に弱い村長はすぐに「よもぎ」を買い求めた。1本840円という価格設定もリーズナブルだと思った。意味不明だが、いかにも美味そうなネーミングにも感心した。中身を試してみたいという衝動もある。

         くるり餅② 
         完売の文字が・・・

「土鍋でコトコト炊いた浅井大納言を使ってます。近江・浅井の大納言で、丹波大納言と同じ貴重な小豆です。あもとはまた違うおいしさですよ」(店員さん)
その大納言をわらび餅とよもぎ餅で包んだのが「土鍋あん くるり餅」だそう。
十勝大納言が柔らかめなのに対して、浅井大納言(丹波大納言)は形がしっかりしていてツヤが秀でているのが特徴。京都の老舗和菓子屋「亀末広」などは丹波大納言にこだわり続けている。

賞味期限がたった2日間だったので、翌日、ウマズイめんくい村で品評会となった。包装を解くと、見事なよもぎの生菓子が現れた。美女の寝姿のような魅力的なボディー。思わず壇れいを想像してしまった。6本の白糸がセットされていて、それでその甘いボディーを7等分する仕掛けになっている。その自然な風合いと仕掛けににドッキリしながら、糸を順々に交差していく。断面からギッシリと詰まった大納言、それを包み込むわらび餅、よもぎ餅のお姿が・・・。

         くるり餅② 
         ごくり・・・見事な寝姿
         くるり餅③ 
         糸で切る幸せ~

自然の素材を厳選しているという割にはトレハロースや調味料、乳化剤など添加物が使われているが気になった。
「限定品とか土鍋とか浅井大納言とか能書きが多いことがプラス面マイナス面、両方あるね。期待が大きかった分、食べた感想としては、あれ、こんなもんかなって感じだよ。まずくはないけそれほど美味くもない。あもの方が全然美味いよ」

         くるり餅⑥ 
         ひと味違う浅井大納言
         くるり餅⑨  
         3層構造どすえ

「大納言小豆は本当にうまい。甘さは控えめで、何よりも形がしっかりしていて、食感と風味がひと味違う。でも、餅は柔らかすぎ。手にくっつくのも気になるし、ちょっと自然じゃない感じもする。ここまで凝る必要があるのかしら。アイデアは面白いけどアイデア倒れでは? ネーミングに惹かれた買ってきた村長の負け~」
村民2号が締めくくった。桜はすでに散り始めていた。



本日の大金言。

外見と中身は比例しないこともある。本物の職人、本物の老舗。消費社会においてはこの二つを両立させることは極めて困難なことだとは思うが。




                    くるり餅⑧
プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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