立ち飲みワインと豚バラの出会い

 6年ほど前、エンターテインメント新聞社時代のこと。大ボスが茶目っ気たっぷりに、「キミ、知ってるか? 八丁堀に面白い立ち飲みのワインバーがあるぞ。酒屋の直営で、ビックリするほど安くて、料理も美味い。穴場だ。一度行ってみたらどうだ」そうのたまった。
それが「maru(マル)」だった。
大ボスほどの超ド級のグルメが「安くて美味い。穴場だ」というからには行かねばならぬ。

          まる② 
          どんどん客が入る

確かに、にわかには信じがたい店だった。JR八丁堀駅出口のすぐのところに「宮田屋酒店」があり、世界中のワインや酒類をリーズナブルな値段で扱っている。輸入チョコレートなども所狭しと置いてあった。「マル」はその宮田屋の直営店。1階がバル(立ち飲み)になっていて、2階は座れる炉辺のカウンター席、3階はビストロというユニークな造り。いつ行っても混んでいて、美味いワインなど酒類が驚くべき安さで提供されている。メニューの豊富さも半端ではない。村長は一度で気に入ってしまい、以来、幾度となく通うハメになった。魅入られてしまったのだ。東京広しといえども、「マル」は別格だと思う。

          マル③   
          嘘みたいなコスパ

金曜夜、村長は久しぶりに「マル」で友人と合流することとなった。村長は1階の立ち飲みバルが特に好きで、長いムクの木のカウンターの隅っこに陣取り、「本日のグラスワイン」(300円)を赤白2種類頼んだ。ツマミは「豚バラ煮込み」(400円)と「自家製ローストポーク」(480円)にした。「カジキマグロのマリネ」(380円)や「カワハギ刺身」(780円)も気になる。キリがない。ラテンの音楽が流れ、若くて愛らしい女性スタッフが、混雑の中をスイスイと動き回っている。まるでスペインかイタリアの裏通りのバルにでも紛れ込んでしまったような錯覚に陥る。

          まる③  
          計700円の陶酔

ワインと「豚バラの煮込み」がやってきた。赤ワインは南アフリカのメルロで、吹き上がるアロマと豊饒なまろみに感心した。これが300円とはとても信じられない。白ワインはスペインのミュスカデで、酸味が強くすっきりした味わい。赤ほどの感動はなかったが、まずまずの美味さ。

          まる④ 
       豚バラの煮込み

「豚バラの煮込み」は4切れほど。これが絶品だった。1枚が8ミリほどの厚さで、脂身と肉身のバランスが絶妙というしかない。甘いソースがかかっていて、マスタードを付けて食べると、脳天までとろけそうになる。冷えた白ワインで陶酔を静める。

          まる⑦  
          自家製ローストポーク

「自家製ローストポーク」が大分遅れてやってきた。こちらも分厚いのが4切れ。ガーリックソースがローストポークの肉自身の旨味を引きたてる。こちらは脂身がほどんどない。柔らかい肉質で、これを奥歯で甘噛みしながら、メルロを流し込むと、メルロの果実味とポークの旨味とガーリックが混然一体となって、村長の身体を金縛りにするようだった。脳内エンドルフィンの噴出。この値段で、これだけの至福はあり得ない。大ボスにも足を向けては眠れない・・・。

          まる⑨ 
          トーキョーの奇跡

その後、脳天が開いた状態で、彦作村長の止まり木・北千住に途中下車した。ジャズバー「ゆうらいく」へ。ちょうどライブの真っ最中だった。ボーカルとピアノとベースとドラムという構成。これがグルーヴだった。客が少ないのが不思議なくらいの熱演で、村長の浮揚する夜は終電まで続くのだった。


本日の大金言。

人生は悪いことばかりは続かない。神様のいたずらで、スーパーな夜に包まれることもある。




             ゆうらいく① 

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旨いのの宝庫、デパ地下のおやき

 デパ地下は彦作村長にとっては「夢のワンダーランド」。定番の店の他に期間限定の旨いものイベントがある。これがたまらない。その日は「秋の信州 味の旅」と題して、東京・日本橋高島屋のB1で信州の食のイベントをやっていた。駒ヶ根の「ソースカツ丼」や「鯉のうま煮」や「野沢菜」など村長のセンサーをくすぐる実演販売を行っていた。その中で、ひときわお客を集めていたのが「信州・鬼無里(きなさ) 炉ばたのおやき」だった。1925年(昭和元年)創業の老舗「いろは堂」の手づくりおやき。

          いろは堂① 
          デパ地下の至福

おにぎり大の見事なおやきが次々と鉄板で焼かれていた。いい匂いが辺り一面に漂い、それらが10種類ほどの木の箱に収められている。1個180円。気が多すぎて迷い癖のある彦作村長は、10分ほどあれこれ迷った末に、今が旬の「辛みなす」と「野沢菜」、それに「粒あん」を買い求めた。合計540円の夢の買い物。

               いろは堂 
          フライパンの至福

ウマズイめんくい村に持ち帰って、店の人に教えられたとおりに、レンジで30秒~1分ほど温めてから、フライパンで焼く。いい色の焦げ目とキツネ色の豊満なボディ。小麦粉とそば粉で作った皮から香ばしい匂いが立ち上がってくる。村長はここが炉辺だったらなあ、と思った。地酒をちびちびやりながら、絣の着物姿の女性とふうふうしながら、こんがり焼けたおやきにかぶりつく。外は満月。オオカミに豹変するのも悪くない。あら、およしになってぇ。そんな妄想・・・。ガチャンと音がした。

村民2号が皿を用意していた。
「まだできないの? 早く食べたい」
夢と現実の間で、3種類のおやきを賞味することにした。

         いろは堂② 
         お見事!
         辛みなす② 
         旬の辛みなす

まずは「辛みなす」。包丁で割ると、唐辛子いりの味噌で炒められたなすが湯気とともに現れた。もっちりして外がパリッと焼かれた皮の旨さにまず感心する。辛みなすは中華のような濃厚な辛さで、味噌の風味も悪くない。
「これ、私の好み。皮がいい。具がその皮によって引き立てられている感じ。私と村長の関係みたい」
なす好きの村民2号ならではのピリ辛の感想。

          野沢菜① 
          定番の野沢菜

次に「野沢菜」。本場信州の野沢菜ならではの色合いと旨さで、思ったよりも塩辛さがない。それが皮といい相性となっている。村長は「辛みなす」よりこちらに軍配。
「このやさしい味わいがいいよ。日本の田舎って感じだなあ」
「悪かったわね。やさしけりゃいいってもんじゃないわよ」
「・・・・・」
         粒あん② 
         粒あんがぎっしり

最後に村長のイチオシ「粒あん」。あんこがぎっしり詰まっているのがいい。この手のものはケチってはいけない。甘さはかなり抑えられていて、パリッとしていて中はもっちりの皮とのいい相性が、あんこ好きにはたまらない。実に素朴な田舎の粒あんの世界。
「カロリーが心配よ。これ以上太りたくないわよ。村長はやっぱり変。酒飲みのくせに大のあんこ好き。サッカーならレッドカードよ。もうついていけない。一発退場!」
村長はあわてて妄想の世界に逃げ込むことにした。


本日の大金言。

おやきとやきもち。どこか通底している。鬼無里のおやき。そこは男にとって人生の桃源郷かもしれない。なんてね。





                  いろは堂④ 

昭和の半チャンラーメンの金字塔

 「半チャンラーメン」は彦作村長にとっては思い入れが深い。ラーメン好きで炒飯好き、しかもお金がない。そんな時に「半チャンラーメン」ほど頼りになる存在はない。「半チャンラーメン」を初めてメニューにしたのは東京・神田の「さぶちゃん」と言われているが、それが事実だとしても、たかだか47年ほどの歴史しかない。東京オリンピックを成功させ、日本が高度経済成長時代へと突入していた時代である。

彦作村長は宮仕え時代、有楽町ガード下にある「谷ラーメン」が好きで、ここの名物「半チャンラーメン」が絶品だった。ここも早いころから半チャンラーメンを出し始めている。

友人と赤羽で一杯やっているときに、「埼玉に絶品の半チャンラーメンがある」という情報を聞きつけたのは、最近のことである。そこは創業63年の古い大衆食堂で、大宮に住むその友人はしたり顔で「とにかく行ってみなよ。ラーメン、炒飯、餃子、玉子丼・・・何でもうまいよ。ザ・大衆食堂と頭にザを付けたくなる店で、お世辞にもきれいとは言えないけど、行ってみる価値はあるよ」とのたまったのだった。

          多万里 
          タイムスリップ!

その店が「食堂 多万里(たまり)」だった。大宮駅東口「高島屋」の裏手。そこだけ時代の流れから置いてきぼりされたみたいな佇まいの食堂だった。入ると、すぐ左に食券売り場あり(自販機ではない)、そこに女将さんだろうか、戦後のままの白衣のお姿で注文を取っていた。実用的な安テーブルが14~5ほど、次々と訪れる客でにぎわっていた。奥が厨房になっていて、そこからいい匂いが流れてくるようだった。迷うことなく「ラーメン+半チャーハン」(850円)を注文。

          多万里③ 
          この生活感
          多万里④ 
          うむむむ

12~3分ほどでおばちゃんスタッフが「半チャンラーメン」を運んできた。ひと目見て、村長はウームと唸った。ラーメンは見事な東京ラーメンで、ラーメンというより東京の正統派中華そばと言った方がぴったりくる。黄色い極細麵、薄いが見事なチャーシュー、ダシ醤油で煮込んだシナチク、鮮やかなナルト、四角い海苔・・・醤油ベースのスープが多分鶏がらの脂をうっすらと浮かべてゆったりと控えていた。その隣の半チャーハンは作り置きではなく、明らかに注文してから作った「うまそう光線」を放っていた。小皿のお新香も好感。

          多万里⑤ 
          正統派中華そば
          多万里⑥ 
          奥深いスープ

まずはスープ。自然に「うんめ~」という声が漏れてきた。多分イリコの出汁と鶏ガラの出汁中心の、まろやかでジワジワくる絶妙な旨味だった。懐かしさだけでなく、これだけのスープに出会うことはあまりないと思う。麵は極細でコシもあり、スープとよく合っている。だが、すぐに食べないと、みるみるスープを吸って、伸びるのが早い。ここだけが注意点。

          多万里⑧ 
       チャーシューさま

チャーシューは手抜きがない。薄いのにうまい。シナチクは量も多く、一見味が濃そうだが、まろやかでシャキッとしたいい食感。多分すべてが自家製だろう。見えないところでの店主のこだわりを感じる。ここにもいぶし銀の職人がいる。

          多万里10 
          すご腕半チャーハン
          多万里⑨ 
          あ~ん

半チャーハンはごま油の香りがフワッとして、いい塩加減の、かなりのレベルのうまさだった。フライパンの熱が伝わってくるプリッとしたライス、刻まれたチャーシュー、卵、ネギ、ナルト、それにグリーンピースがふんだんに使われている。半チャーハンでこれだけの味。村長がこれまで食べた中では、有楽町ガード下の「谷ラーメン」の半チャーハンと双璧ではないかと思う。「谷ラーメン」の半チャンラーメンは強気の1000円だが、ここは850円。大宮にかような店があったとは・・・。彦作村長はドンブリの底が見えるまでスープを飲み干し、半チャーハンを最後のひと粒までお腹に収め、ツマヨウジをくわえると、大いなる満足で外に出るのだった。太陽が半バカめ、と叫んでいた。



本日の大金言。

半チャンラーメンは昭和40年代以降のサラリーマンにとって、昼メシの大定番のひとつでもある。これで、長い午後を乗り切る気分にさせてくれた。日本経済の陰の功労者であると思う。



                  多万里12 

絶景かな、駿河屋の「氷富士」

 残暑の中、久しぶりに大宮そごうをぶらついていると、いつの間にか5階奥にある「甘味処 駿河屋(するがや)」にたどり着いてしまった。これは甘い運命の糸かもしれない。ふと見ると、かき氷のメニューが・・・。その中の一点「氷富士」の写真に目が釘付けになってしまった。頂上から小豆が溶岩のように流れ落ち、その上から練乳がトロリとかかっていた。ふもとの部分は宇治茶の緑でおおわれていた。遅ればせながら「冨士山の世界遺産登録バンザイ!」と叫びたくなった。危ない危ない。

          駿河屋2 
          素晴らしき世界遺産

「駿河屋」は横浜そごうにもあり、ルーツをさかのぼると、京都・伏見の駿河屋総本家(旧鶴屋)にたどり着く。創業は寛正2年(1461年)。天正17年(1589年)に練り羊羹を創案、豊臣秀吉が開いた北野大茶会にその紅羊羹が出され、好評を博したという。駿河屋はその後、関西を中心にノレン分けをし、そごうの甘味処は大阪本店の喫茶部として現在に至っている。北野大茶会から424年後。会津藩足軽の末裔が駿河屋で「氷富士」(683円)を賞味することになろうとは、お釈迦様でもご存じあるめえ。

時間が午後3時ということもあり、ゆったりとしたテーブル席は見事に女性ばかり。旦那は今ごろ何をしているのだろうか? 日本橋高島屋の「梅園」もそうだったが、午後の甘味処は「オーバー50」の憩いの場となっている。10分ほどで、「氷富士」がやってきた。熱い焙じ茶も付いてきた。お盆の上の南極と赤道直下の出会い。絶景である。

          駿河屋⑤ 
          夢かうつつか
          駿河屋⑦ 
          溶岩に呑まれたい

透明なガラスの容器。写真で見たマーベラスな世界が現実となって目の前にある。きれいな小豆は多分大納言。一粒一粒がくっきりしていて、かき氷の頂上から大量に雪崩れ込んでいる。練りミルクがその上から夢のようにかかっている。その下には抹茶の緑の世界。見ただけでため息が出そうだった。誰がかようなアイデアを思いついたのか?

          駿河屋10 
          大納言と練乳と宇治と

まずはスプーンでひと口。甘い蜜とミルクと宇治のバランスは悪くない。氷はざくっとしていて、人形町「初音」のようなデリカシーさはない。だが、大納言小豆は塩加減が効いていて、小豆の風味と甘さをより引き立てている。ミルクと宇治と大納言。三味一体で、村長の口内を攻め上がってくる。冷たい至福。全体としては絶品というよりも珍品という印象。村長の好みから言えば、小豆は柔らかめのつぶし餡の方がいいと思う。あるいは、上下半々にする。

         駿河屋13 
         飛び込みた~い

「富士山の世界遺産登録記念ですか?」
感じのいい女性店員さんに聞いてみた。
「いいえ、昔からあるメニューなんですよ。私が来て20年になりますが、その時からありましたよ。だから世界遺産になって、みんな喜んでるんですよ」
し、知らなかった。失礼しました。村長は早々に引き揚げることにした。かき氷の世界遺産登録がないことが残念だった。



本日の大金言。

かき氷は日本人の発明の中でも特筆ものだと思う。B級スイーツの一つの頂上。



                     駿河屋15 

蝉しぐれと藤圭子とさぬきうどん

 「藤圭子自殺」のニュースは、彦作村長にとってもある種の衝撃だった。テレビのワイドショーでは連日、死の真相をめぐって、あれこれ司会やコメンテーターと称する人などが深刻そうにしゃべっている。死の真相はたぶん誰にもわからない。宇多田ヒカルの傷ましい文章だけが、18歳でいきなりスターとなり、「時代と寝てしまった」藤圭子の、その後の不可解でやっかいな人生を、海底から少しだけ逆照射しているように思える。痛ましすぎる。冥福を祈るしかない。

         さぬき麵屋① 
         さぬき麵屋

蝉しぐれの中を村長は以前から気になっていた埼玉・久喜のアリオにある「さぬき麺屋」へとポンコツ愛車を走らせた。何だか無性にさぬきうどんが食べたくなったからだ。3Fのフードコート。ちょうど正午とあって、混み始めていた。「ざる」(並380円)を注文してから、「なす天」(110円)と「イカ天}(110円)をピックアップする。合計600円ナリ。

         さぬき麵屋④ 
         これこれ

さぬきうどんが全国区となったのはここ10年くらいではないか。本場・香川県内と同じようにセルフ方式をひっさげ「丸亀製麺」と「はなまるうどん」がその牽引車となった。さぬきうどんの全国制覇。今ではどこに行ってもそこそこうまい「さぬきうどん」を楽しめる。

          さぬき麵屋⑦ 
          〆て600円ナリ

おろしショウガと揚げ玉(無料)をツユに入れて、テーブルへ。さぬきうどんのウキウキする瞬間である。箸で小麦色の太めでエッジの立ったさぬきうどんを濃いめのツユに付けてから、ズズと行く。コシが強くて、しかももっちりしたさぬきうどん特有のいい感触が口中に広がる。小麦の風味もある。これだこれだ。なす天とイカ天のカリッと揚げられたコロモの感触もいい。作り置きなのにこれだけうまい天ぷらはさぬきうどんの成果だと思う。

          さぬき麵屋  
          コシともっちり感
          さぬき麵屋10 
       ま、ズズーと

あえて言うと、半熟の茹で卵の天ぷらがないのが残念だ。もうひとつ濃口のツユから化学調味料の匂いがかすかにしたことも。惜しい。やや興醒め。

全体としては高レベルでフツーにうまい。だが、食べ進むうちに、この味わい、どこかで体験した気がしてきた。「うまげな」そっくりではないか。麺が気持ち細めで、食べやすくなっていることくらいしか違いがないのではないか。天ぷらもそっくりである。調べてみたら、どちらも同じ「はなまるうどんグループ」であることがわかった。つまり、吉野家グループ。吉野家は牛丼オンリーからどんどんシフトを広げ、今ではそば屋まで傘下に納め、海外にも進出している。

          さぬき麵屋11 
          なす天とイカ天

忍法七変化みたいな戦略・戦術。気になって、本部にケイタイで電話してみた。どこがどう違うのか?
「恐れ入ります。『はなまる』と『うまげな』と『さぬき麺屋』は基本的には同じですが、店の大きさや麺の量、ネギの出し方など若干違います。麺が『うまげな』よりほんの少し細いのはその通りです。ダシ(つゆ)は同じものです」
「ま、値段も高くないし、うまいからうどんファンにとっては悪いことではありませんよ」
村長はエラソーに言って電話を切った。

頭の中で「新宿の女」が回っている。新宿も遠くなりにけり。彦作村長は蝉しぐれに向かってアクセルを踏んだ。ぎっくり腰が再発しそうだった。



本日の大金言。

1970年代、チェーン店展開する前の吉野家が新橋にあった頃、牛皿と牛丼は高かった。瓶ビールを飲みながら、それを突つくのが最高のぜい沢だった。藤圭子の唄が流れていたように思う。




                     さぬき麵屋12 

あり得ないそば屋「六四ド田舎そば」

「 隠れたうまいもの探し」をスタートさせて1年を超えたが、改めて日本は思っていた以上に広いと思わざるを得ない。こんな場所にこんな店があったとは・・・と驚かされたこともたびたび。今回ご紹介するそば屋は、天然記念物並みの希少な、いわゆる美味いそばという概念を根底から揺るがす不思議なそばである。これがそばと言えるのかどうかすら、正直村長も迷うほど。

          一茶① 
          外観からしてミョーな味

麺類シンジケートからの情報で、彦作村長はホワイトタイガーで有名な東武動物公園駅へと向かった。目指すは「一茶 宮代」。西口から歩いて3分ほどの場所に壁面に「昔の味 純手打ちそば 一茶」と大書された一軒家が見えた。そのあまりのベタさ加減に、村長はある種の感動を覚えた。スマホの時代にドンキホーテのように立ち向かう「昭和の岩窟王」の匂い。隣駅の和戸に本店があり、創業40年ほどの歴史がある。

          一茶② 
          いらっしゃい

宮代店は午後3時までしか営業していない。時計を見ると午後2時半過ぎ。白地の暖簾をくぐって中に入ると、店内は意外に広く、テーブル席が8つほど。右手が広い調理場になっていて、その中に田舎のおばちゃんが3人ほど。時間的に忙しさのピークを越えて、ゆったりと佇んでいるようだった。メニューの中から、村長は「冷したぬきそば」(600円)を選んだ。ちなみにもりそばは350円。この安さは好感が持てる。

          一茶④ 
          田舎のそば屋

5分ほどで「冷したぬきそば」が登場。陶器のドンブリがどこか懐かしい。千切りのキュウリ、鮮やかな色の生ワカメ、煮含めたシイタケ、ナルト、その上にはちょこんとすりおろしたショウガが乗っかっていた。その合間に揚げ玉がパラパラと散りばめられていた。村長は思わずうーむと唸った。水彩画のような鮮やかな色彩のバランス。「これはイケるかも」という確信のようなものを村長に抱かせるに十分だった。

         一茶⑥  
          ひと目見てイケるかも

調理場の奥からの視線を感じながら、村長は箸を入れた。何という太さと意図的な乱切り。一瞬、東京・三ノ輪の「角萬」のそばを思い出した。だが、よく見ると昔の「角萬」よりもぶっ太くて、柔らかい印象。グレーがかった中には黒い星もある。挽きぐるみのような色味。

          一茶⑧ 
          これはそばか?

まずはひと口。もそっとしたそばがきのような食感。コシというものがほとんどない。そばというより地粉の田舎うどんのような、素朴で不思議な食感。だが、これが予想以上にうまい。村長の頭の中が混乱してきた。ツユは出汁とかえしのバランスがよく、そこに酢が入っていて、甘辛さと酸味が絶妙で奥深い旨味を作っていた。キュウリや生ワカメ、煮シイタケ、天かすなどの具も手抜きというものが感じられない。頭ではこれはそばと言えるのかと思いながら、体がその熟女のような魅力に抗しきれない。押し倒される予感。田舎そばのあり得ない完成形。

          一茶10 
          しっかりとした絶妙
          一茶11 
          ツユにも感心

洗練、高級化に向かっていく蕎麦道というものから見れば、ここのそばは明らかに異次元のそばである。おばさん店員に「二八ですか?」と聞いてみると、恐るべき答えが返ってきた。
「うちのそばは六四です。小麦粉が六でそば粉が四。これを毎日毎日、疲れますけど足でこねて、手作業で打っているんですよ。そば粉は北海道のそば粉ですが」

村長の頭がさらに混乱した。これはそばというより「うどんそば」ではないか? 想像外の麺類。赤塚不二夫のウナギイヌに近い驚きと余韻。それでいて、また来たくなるうまさ。こういうそばがあってもいいのだ。調理場の奥で赤塚不二夫が微笑んでいるような気がするのだった。


本日の大金言。

洗練と野暮。それはひょっとしてコインの裏表かもしれない。どちらかではなく、二つが共存して初めて世界が豊かになる。



                     一茶12

浅草の老舗「あわぜんざい」の微妙

「 浅草梅園(うめぞの)」といえば、創業が安政元年(1854年)の甘味処の老舗。この店の「粟(あわ)ぜんざい」は甘党なら一度は食べてみたい定番メニューである。創業以来、梅園の看板として、固定ファンも多い。少し前、京都・北野天満宮で「澤屋」の粟餅(あわもち)の美味さに仰天した彦作村長は、改めて、この東京の老舗の「粟ぜんざい」を食べてみたくなった。

          梅園② 
          穴場の「浅草梅園」(日本橋高島屋店)

思い立ったが百年目、村長は騒々しい浅草本店を避けて、日本橋高島屋7階にある「浅草梅園」で賞味することにした。場所柄、いい身なりの中高年客でほどほどに賑わっていた。見渡すと、女性ばかりで男性は村長だけ。「甘いハーレム」ではなく「渋いバアレム」も悪くない。かき氷にもそそられたが、やはりここは「あわぜんざい」(756円)。女性店員の感じは下町風でとてもいい。

          梅園④ 
          甘い誘惑

出されたお茶をひと口ふた口ほど飲んでいると、黒い漆器盆に乗って「あわぜんざい」が登場した。漆塗りのお椀がいい。ふたを取ると、黄色い粟餅とその上にどっかと乗った見事なこしあんが「おいでなんし」と現れた。湯気が立ち上がり、熱々であることがわかった。小皿に添えられたしその実の塩漬けも老舗甘味屋の伝統である。何という素晴らしき世界。なぜか頭の中でルイ・アームストロングの歌が流れた。

          梅園⑥ 
          見事なお姿

まずはひと口。こしあんは多分北海道産のいい小豆で、甘さは控えめだが、さっぱりとしたいい風味。さすがに「梅園」のベースと思う味わいだった。だが、期待が大きかった分、粟餅に少々がっかりした。あんに対して量が多すぎると思う。それは単に好みの問題かもしれない。20年ほど前に食べたときはもう少しあんの量が多かった気がする。あるいは粟餅の量が少なかった。粟餅とあんの比率が微妙に変わっていないか、気になった。

         梅園⑦ 
         ま、お食べになって
         梅園⑧ 
         絶妙なこしあん

調べてみると、粟餅ではなくキビ餅を使っているとのこと。どちらもうまいが、京都の「澤屋」で江戸の昔のままの手づくり作業を見ていたので、時代の流れとはいえ、元和元年(1682年)から一か所で同じ味を守り続けている店と、店舗をどんどん広げている店とを比較すること自体が無理だと思い直した。「あわぜんざい」ではなく「きびぜんざい」。

          梅園13 
          微妙なキビ餅

キビ餅は粒つぶを残していて、それがいい食感で、見事なこしあんと合わせて口に運ぶと、普通に美味い。だが、と村長は一拍置く。美味いには美味いが、食べ進むうちにキビ餅の単調に次第に飽きがきたことも告白しなければならない。むろんキビ餅がこのくらいあった方がいい、という人も多いだろう。評価はまだ早すぎるかもしれない。粟は食べても泡を食ってはいけない。次は上野・みはしの「あわぜんざい」を賞味したくなった。



本日の大金言。

老舗とは何か。京都と東京の二都物語。京都「出町ふたば」の豆餅と虎ノ門「岡埜栄泉」の豆大福。それもまた。





                     梅園10 

シンプルな職人ワザ、老舗の「鯛丼」

 東京でも人形町から水天宮にかけては彦作村長の好きな散歩コースの一つである。江戸の情緒がいたるところに残っている。その水天宮のはずれ日本橋箱崎町に「鯛丼(たいどん)の美味い店がある」という情報を耳にしたのは3~4年前。夜は高いので、思い切って、ランチタイムに暖簾をくぐることにした。あの「美味しんぼ」にも登場した和食の老舗である。

          鯛ふじ① 
          この佇まい

午後1時半。ぎりぎりセーフで滑り込んだ。戦前の面影を残す木造二階建て。「鯛ふじ」と染め抜かれた青藤色の暖簾。入った瞬間、この店が「只者ではない」雰囲気を発光しているのがわかった。1階は10人ほどしか座れない年季の入ったL字型の木のカウンターのみ。目の前が広めの厨房になっていて、そこで板前さんが静かに魚を焼いていた。炭火とウチワの世界。村長はうーむと唸った。いぶし銀の世界。

         鯛ふじ③ 
         老舗の風格

「鯛茶漬け」(800円)にも食指が動いたが、ここは初志貫徹、「鯛丼」(1000円)をお願いした。気さくな女将さんが焙じ茶を運んできた。10分ほどで煮物の小鉢と鯛のうしお汁、鯛丼、大根の浅漬けの順でやってきた。主役の鯛丼は村長がこれまで食べたものとは少々違った。見事な漬け丼だが、天然の鯛の上に削り立ての鰹節が春の雪のようにかかっていた。千切りの青じそ、万能ねぎ、それにちょこんと添えられたワサビ。削り節をこれほどかけた漬け丼は初めてだった。まるでまかない料理のよう。

          鯛ふじ④ 
          めで鯛丼、お待ちイ~
          鯛ふじ⑤ 
          シンプルの極致?

まずはひと口。醤油だれがかなり濃いめ。村長がこれまで食べた漬け丼は味りんなどで甘みを付けているが、その甘さをわざと加えていないように思えた。薄切りの鯛のいい歯ごたえと自然な甘み。炊き立ての銀シャリとともにかっ込むと、その醤油だれの濃さの中から、鯛の素材のよさが立ち上がってくるようだった。口中に広がる鰹節のいぶった風味。すべてが野暮と隣り合わせの、計算され尽くした構成であることがわかった。

          鯛ふじ⑧ 
           天然鯛の漬け

ぶっきらぼーと紙一重のシンプルは、甘めの漬け丼に慣れた味覚には「もう少しやさしくしてよ」と言いなくなるかもしれない。銀シャリも固めで、それは村長の好みだが、人によってはもう少しふんわり感が欲しい、というかもしれない。だが、この江戸前の、素材勝負の味付けこそがこの店の伝統とワザだと思う。シンプルな豊饒(ほうじょう)。好き嫌いの分かれ目。

         鯛ふじ⑦ 
         絶品のうしお汁

それは「うしお汁」でわかった。新鮮な鯛のアラからにじみ出た出汁が、実に絶妙な旨味となって、そのままストレートに伝わってくる。村長はその薄味のまろやかな美味さに驚嘆した。鯛の腹身の脂が三つ葉の間でキラキラと浮いている。小鉢の煮ものと大根の浅漬けもバランスがいい。炭火で魚を焼く板前のすっきりとした後ろ姿が、「百の言葉より、とにかく食べてみてくださいな」、そう言っているようだった。今度馬券が当たったら、着流し姿で夜に来てみよう。村長はアホ顔でそう決意するのだった。



本日の大金言。

日本人ほど鯛好きの国民はいない。めでたい席や祝い事に鯛は欠かせない。鯛を食べるといいことがありそうな気がする。




                     鯛ふじ11 



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五百円で2杯食える妙な手打ちうどん屋

 最近、このブログも少しずつ知られるようになって来て、「村長、こんな店ありますぜ」という極秘情報が寄せられるようになってきた。「うまずい味シュラン」の刊行に向かって、着々と地下工事も始まっている。このところ土台の水漏れがひどいが。

「北埼玉の羽生にネギ天うどん250円の店があるのを知ってますか? ほとんどが地元の客で、メニューはネギ天うどんただ一種類だけ。何というかちょっと信じられない不思議なうどん屋です。B級の星です。村長が絶対に行くべきです」
隣村のうどん通の激辛美女からそんなメールをもらった。うろんな奴め。

         とちぎや① 
         隠れた名店?

確かに不思議なうどん屋だった。羽生駅東口・古江神社近くのちょっとわかりにくい場所にその店「とちぎや」が暖簾を下げていた。佇まいはローカルなうどん屋そのもの。悪くない風情。時計を見ると、午後1時半。ガラガラっと戸を開けると、中はテーブルが4つ。小上がりの座敷もあり、そこにはテーブルが3つ。家族連れや地元の客(?)で満員だった。店主がサッカー好きらしく、JリーグやセリエAのユニホームが壁いっぱいに飾られていた。ロベルト・バッジオの写真とユニホームも。

          とちぎや③ 
          これがメニューとは・・・

メニューらしきものはない。「並250円」「大300円」「特大370円」「超特大370円」と書かれたものだけ。どういうこと? アリスの気分。まわりのお客を見ると、器の大きさはバラバラだが、天ぷらの載ったうどんをうまそうに食べていた。なるほど、そういうことか。村長は見当を付けてから「大300円」を頼むことにした。「温にしますか冷にしますか?」と聞かれて、「冷でお願いします」。「温と冷」の二者択一。面白い。家族で営んでいるようで、アットホームな明るい雰囲気が隠し味になっているようだ。

          とちぎや④ 
          大300円ナリ
          とちぎや⑨ 
          地粉のうどん

15分ほどで、主役がやってきた。黒いどんぶりに盛られたやや茶色がかった手打ちうどん。その上に乗った長ネギのかき揚げ。あまりの素朴さに拍子抜けしてしまうほど。つけ汁がたっぷり入っているのが好感が持てる。うどんは武蔵野うどんのようにぶっとくない。すぐ近くの加須うどんとも違う。幾分細めで、口に運ぶと、それなりにつるっとしていて、噛むと歯ごたえもほどよくある。地粉を使っているそう。ツユはかつおより煮干しの出汁のいい風味が出ている。自然でやさしい旨味。見た目にはオーラというものがない。田んぼのあぜ道で、田舎のやさしい叔母と出会ったような、素朴でまろやかな感動にじんわりと包まれてくるのを感じた。

          とちぎや⑧ 
          出汁の効いたツユ
          とちぎや⑦ 
          ずずずっと
          とちぎや⑤ 
          冷めたネギ天だが・・・

長ネギのかき揚げは、残念ながら作り置きで、カラッともしていない。かような天ぷらを堂々と出す店も珍しい。だが、つけ汁を付けて食べているうちに、その洗練とは無縁の冷めたべチャっとしたネギ天が愛おしくなってきた。メチャウマではないが、まずくもない。ツユとの相性がいい。まさにウマズイ味わい。村長は次第に、この素朴過ぎる田舎うどんがいぶし銀の光を発してくるのを感じた。

店主は現在3代目。「とちぎや」という店名通り、ルーツは栃木県小山市だそう。これで300円という、驚くべき価格設定を維持しているこの店もまた「心意気の店」にちがいない。「並」を2杯食べても500円。これは毎日来たくなる店だ。財布の底をのぞきながら、村長はいい店を発見した気分に浸るのだった。



本日の大金言。

うどんの世界も宇宙より広い。讃岐うどんや武蔵野うどんだけがうどんではない。




                      とちぎや11 






焼きまんじゅうの老舗の味

 上州生まれの村民2号にとって「焼きまんじゅう」は酸素みたいなもの。ときどき食べないと呼吸困難になる。大腿骨骨折というアクシデントから立ち直り、少しずつ大好きなお酒も楽しめるようになってきた大叔母へのお見舞いの帰り、「やっぱり今日は焼きまんじゅうね」と明るく言った。真夏の太陽を見て、焼きまんじゅうを思い出したのかもしれない。

焼きまんじゅうは群馬の郷土料理の一種で、それがなぜうまいのか、群馬県人にしかわからない。会津藩足軽出身の末裔でもある彦作村長には、あんこや具の入っていないまんじゅうのどこがうまいのか不思議だった。ほとんど小麦粉だけのまんじゅう。しかも4つほど串刺しにして焼き、味噌ダレを付けて食べる。シンプルだが、ややこしい。

          山田屋本店① 
          この開放性

太田市の「呑龍(どんりゅう)さま」で有名な大光院の門前にある「山田屋本店」。ここは群馬でも老舗の焼きまんじゅう屋さん。江戸時代後期に、越後からこの地にやってきて、店を構えたという百年以上の歴史を持つ。元々が麹(こうじ)専門店で、その麹作りの技術が焼きまんじゅうにも生かされている。最中(もなか)もこの店の名物で、6代目の店主が毎日銅鍋で昔のままの丁寧なあんこづくりに励んでいる。

「どうせ食べるなら、うまい店にしましょ」
本物志向の強い村民2号が選んだ店がここだった。「上州名物焼きまんじゅう」という看板。開けっぴろげの店内にはテーブルが二つと縁台が三つほど。門前の甘味屋特有の打ち水の涼しい匂いがする。かき氷も出している。右手に焼きまんじゅうのコーナーがあり、そこで専門の職人さんが炭火で焼きまんじゅうを焼いていた。香ばしい味噌ダレの匂い。村長の好きな世界だった。

          山田屋本店③ 
          焼き方は熟練のワザがいる

1本(4個)180円。種類は味噌ダレのみ。味噌ダレ一本勝負の店は珍しい。よほど味に自信があるのだろう。それを2本と「ラムネ」(1本100円)を注文した。村民2号は「呑龍最中」(1個160円)も注文した。5分ほどで見事に焼き上がった焼きまんじゅうが大皿に乗ってやってきた。焦げ目と味噌ダレの風味が食欲中枢をくすぐる。

         山田屋本店⑤ 
         味噌ダレの香ばしさ
         山田屋本店⑥ 
         食いねえ食いねえ

「これよこれよ。焼き立てが一番うまい」
と村民2号がすぐにかぶりついた。村長も負けじと竹串から外して、がぶり。こってりとした甘い味噌ダレと小麦粉に自家製の麹(こうじ)を加えたまんじゅうのふわりとした食感。蒸しまんじゅうを焼いたような、そうでないような不思議な食感。絶妙としか言いようがない。小麦粉は数種類ブレンドしているそうで、味噌ダレとともに秘伝だそう。添加物のない自然な色と味。北関東で唯一のラムネメーカー「マルキョー」のラムネで合い間にノドをうるおす。ラムネはガラス壜(びん)でなくっちゃ。

         山田屋本店⑨ 
         独特の旨味

「ああ、ニッポンの夏!」
「というより上州の夏」
「どう、焼きまんじゅうも侮れないでしょ?」
「ただ一点注文。あんこ入り焼きまんじゅうもやって欲しいなあ」
呑龍最中のあんが素朴なうまさだったので、もったいないと思ったからだ。

女将さんに聞くと、「あんこが間に合わないんですよ。最中で手一杯なんです。毎日、主人が昔ながらの銅鍋で手づくりしているので、大量に作れないんですよ」という。そう言えばかき氷にも小豆がなかった。その頑固なまでの老舗の矜持(きょうじ)に、村長は前言撤回、返って爽快な気分になるのだった。


本日の大金言。

群馬エリアの焼きまんじゅうだが、本物を食べると、そのシンプルな奥深さに胸を打たれる。たかが焼きまんじゅう、されど焼きまんじゅう。






                 山田屋本店10 


昭和の不思議、北千住のオムライス

 彦作村長の大好きな街・北千住をいつものようにぶらぶら歩きしていると、「レストラン ニューあわや」という不思議な雰囲気の店が彦作村長のハートを捉えた。「千住ほんちょう商店街」の中ほど。すぐ近くには村長の行きつけのジャズバー「ゆうらいく」がある。何度もこの前を通っているはずなのに、気づかなかった。何ということだ。

          ニューあわや12 
          昭和は死なず?

「あれっ、ニューあわやを知らなかった? 村長はやっぱり田舎もんだよ。昼間歩かないからだよ」
千住の友人に笑われたが、どうしてこの昭和レトロの洋食屋に気づかなかったのか不思議だ。
創業が1938年(昭和13年3月)で、当初は和菓子屋だったという。それが戦後、レストランに衣替えして、カレーライスやオムライス、スパゲティ、ステーキ類などを出すようになった。だが、入り口では今でもあの懐かしいソースせんべいや菓子類も売っている。戦後の下町の駄菓子屋の雰囲気も残す不思議なレストランである。

          ニューあわや① 
          不思議な洋食屋

ここのオムライスが安くてうまい、というシンジケートの情報を聞きつけて、午後1時半過ぎに飛び込んだ。昭和40年代にタイムスリップしたような気分だった。
「暑いですねえ」
ご高齢のご主人と女将さんがそう気候のあいさつをしながら、水とおしぼりを持ってきてくれた。メニューの中から、「オムライス」(650円)を選んだ。すると、「サラダとコーヒーを付けると850円ですが」というお言葉。この店のサラダは自家製ドレッシングが格別にうまいと聞いていたので、「ではお願いします」と即決。しばらくすると、サラダが登場した。タマネギをすり下ろしたホワイトドレッシングが確かに美味だった。

          ニューあわや④  
          本格的なメニュー
          ニューあわや⑤ 
          思わず正座

店内は意外に広くてテーブルが8つほど。有名人の写真や取材に来たTV番組のパネルが飾られていたりする。この素朴なベタ感は悪くない。奥が厨房になっていて、息子さんだろうか、コック姿の太めの男性の姿が見えた。じろりとこちらを観察しているのがわかった。厨房からいい匂いが漂ってきて、目の前に見事な正統派オムライスがやってきた。グラマラスなボディ。これで単品で650円というのは驚く。多分卵2個分の黄色みの強い薄焼き卵。その上にかかったトマトケチャップ。添えられたサラダとオーロラドレッシング。見た目からもいい洋食屋の条件が整っていることがわかった。

          ニューあわや⑦ 
          言葉を超える?

ステンレスのスプーンでまずはひと口。チキンライスはトマトケチャップの色がほとんどない。まるでバターライスのようで、口に入れた瞬間、ふわりと何とも言えない絶妙な風味が広がった。うむむむ。ごろっとしたチキンと飴色のタマネギ、それにライスの一粒一粒がプリッとしていて、コックの腕前がかなりのものであることがわかった。ほのかにガーリックの香りも。やや薄味だが、それをトマトケチャップが調整する。このトマトケチャップだけは自家製ではないそう。それが少々残念。

          ニューあわや⑧ 
          ま、まずはひと口
          ニューあわや⑨ 
          チキンとライス

添えのサラダのオーロラドレシングの濃厚な甘みと旨味がひと味違った。駄菓子屋と本格的な洋食屋が渾然一体となっているような、この不思議な昭和のレストラン。最近多い小ぎれいなカフェレストランとは対極の世界。村長がよく行く老舗ジャズバー「ゆうらいく」は昼間はラーメン屋である。北千住の底力の恐るべき曼荼羅(まんだら)もよう。村長は心の中で、改めて脱帽するのだった。



本日の大金言。

オムライス2000円の時代に650円の満足。下町にはまだ心意気が生きている。





                     ニューあわや11 

「ぼてぢゅう屋台」のモダン焼き

 フードコートは彦作村長にとって、デパ地下と並ぶ「ワンダーランド」である。何よりも価格を低く設定しているのがいい。子どもが走り回ったり、老人が誰かの悪口を話しながら讃岐うどんを頬張っていたり、若いカップルがクールなファッションでパスタやハンバーグなどを食べている光景を見ると、それだけで幸せな気分になってくる。動物園にいる感覚。埼玉・久喜市にある「アリオ」の2階のフードコートで、彦作村長は「道頓堀 ぼてぢゅう屋台」で浪花の味を楽しむことにした。

          ぼてぢゅう① 
          屋台?に並ぶ

「道頓堀 ぼてぢゅう」は大阪に行ったときに何度か入っている。思ったよりも値段が高く、ここの「お好み焼き」はもはや庶民の食べ物ではない、と思ったりした。比較的値段の安い「豚肉モダン焼」(950円)を食べることが多かった。お好み焼きにマヨネーズを使った最初の店としても有名で、そのさわやかなこってり味は、「大阪コテコテ文化」を象徴するようで、それなりに旨かった。

          ぼてぢゅう②  
          見事な手さばき

「ぽてぢゅう屋台」はぽてぢゅうグループが大型フードコート中心に展開する「大衆版」で、お好み焼きばかりでなくタコ焼きや焼きそばなど、昭和21年に創業した当時の味と雰囲気を売り物にしている。鉄板焼きのスタッフが、注文してから焼き始め、行列に並びながら、その見事な腕さばきを見ることができる。ぼてっと落としてぢゅーと焼いていく。ソースのいい匂いがあたり一面に漂う。村長は大阪・道頓堀で食べた「豚肉モダン焼」と同じものだろう、と見当を付けて「おおさかモダン焼」(720円)を注文した。道頓堀本店よりは安い。安いといってもフードコートの中では比較的高い。

         ぼてぢゅう③ 
         どや、「おおさかモダン焼」やでェ~
         ぼてぢゅう④ 
         どやどや、浪速やでェ~

出来上がった「おおさかモダン焼」に花ガツオをと青のりをパラパラとかける。テーブルに運んでから、鉄板の上でぢゅうぢゅう言っているモダン焼きをしばし観察する。大きさは道頓堀本店とそう変わりないように見えた。切り込みの間から、てんこ盛りのキャベツとぶっとい焼きそば、豚肉も一枚ほどドヤ顔で「うまいに決まってるやろ」とコテコテで囁いているようだった。まずはひと口。甘いオリジナルソースと「伝説の白マヨソース」が、この埼玉の地で、濃厚な浪花のお好み焼きの世界を演出している。具の焼きそばもぼてぢゅうのオリジナルで、味わいに厚みを増している。

         ぼてぢゅう⑤ 
         白マヨもあるでェ~
         ぼてぢゅう⑧ 
         モチモチした太麺
         ぼてぢゅう⑨  
         何すんのや、こんな姿撮るんやない!

ふと見ると、大阪のお好み焼きに不可欠の肉カスも散らばっていて、これが味にいい変化を付けている。普通に旨い。だが、道頓堀本店で味わった「豚肉モダン焼」とは同じようでいて何かが違う。「伝説の白マヨソース」の量が少なすぎる。薄い豚肉が1枚というのも哀しい。これをあと1.5倍ほど増やしてくれたら・・・。それでこそあの「道頓堀 ぼてぢゅう」になるちゅうもんや。もちろん、これはこれで普通に旨い。だが、とまたも思う。屋台の原点の意味・・・。「あんはん、そりゃ無理言うもんですわ。儲かりまへん。第一、客が昔と違いまっせ」西川のりおが、横からそう言っているようだった。



本日の大金言。

浪花のコテコテを埼玉で味わう。そんなことが本当に可能なのか? ぼてじゅう屋台の挑戦は続く。




                     ぼてぢゅう11 

酷暑に冷たい栗蒸しようかん

 宇都宮で餃子を食べまくったたついでに、ちょいと北上して、白河の関まで足を延ばした。
あんこシンジケートから「首都圏ではほとんど知られていませんが、絶品の栗蒸しようかんがあります。天皇・皇后両陛下も白河にいらっしゃったときに食べておられます。石川県の松葉屋の栗蒸しようかんにも負けない味です」という情報を仕入れていたからである。

           清壽2 
           いい店構え

情報源はときどき誤報も出す。ダメ元期待半分で白河インターで降りて、駅近くの駐車場にポンコツ車を置いて、その隠れ名店「御菓子司 清壽(せいじゅ)」に向かった。カトリック白河教会の近くに白壁の一軒家があり、それが目的の店だった。創業60年ほどの和菓子屋さんで、水ようかんや大納言鹿の子、さらには手の込んだ上生菓子も作っている。

           清壽③ 
           うーむ、半分半分

店主は愛想がなかった。だが、それも和菓子職人としては悪くはない。要は味で、美味かったら、愛想のなさもいぶし銀の輝きとなる。目当ての栗蒸しようかん「みちのく白河 奥州路羊羹」(1本1050円)を買い求めた。安くはない。

発狂したような灼熱の空の下、ウマズイめんくい村に持ち帰ると、すぐに冷蔵庫に入れて冷やした。十分に冷やしてから賞味となった。見事な本竹皮に包まれた栗蒸しようかんは長さが20センチほど。大栗がゴロッゴロッと入っていて、手づくり感にあふれていた。材料は小豆、砂糖、栗、小麦粉、食塩のみ。栗は蜜煮したものだが、形が凛としていて崩れていず、いい小豆の風味とともに、「おぬし、只者ではないな」という雰囲気を放っていた。これは当たりかもしれない。新たな発見か?

          清壽③ 
          期待が高まる?
          清壽④ 
          何というお姿
          清壽⑤ 
          隠れた逸品か?

百の言葉よりまずはひと口。蒸しようかん独特のもっさりした歯ごたえ。甘さはかなり控えめ。品のいい甘さ。北海道産の小豆から作ったこしあんと小麦粉、くず粉がいいバランスで練り込まれ、竹皮の中で蒸され、田舎娘が妙齢の美女へと変身していったような感覚。大納言小豆が大栗の一歩後ろでところどころに散りばめられているのがわかった。栗のいい歯ごたえとともに口の中で溶けていく小豆の風味。ほのかな塩味。その感触は悪くない。それどころかしばし目をつむりたくなるほどの絶妙な美味さだった。

          清壽⑦ 
         冷たい至福

扇風機をかけながら、猛暑に冷たい栗蒸しようかん。本当は美女の膝枕でウチワをひらひらさせてもらいながら、この冷たい小さな至福を味わいたかったが・・・。
「私の分もちゃんと取っといてね。いつも一人で食べちゃうんだから」
ドアの陰から大の字になった村民2号のお姿が視界の隅に入った。夢と現実。村民2号もきっと同じことを考えているに違いない。


本日の大金言。

隠れた名品を見つけたときの喜びは何物にも代えがたい。自分の足で歩き回らないと、苦里無視よう食わん、となってしまう。ありゃりゃ。





                    猪苗代湖

餃子の街・宇都宮で餃子を食いまくる

 あまりの暑さにショック死しそうになった彦作村長は、突然「餃子(ぎょうざ)を食いまくる」ことを思いついた。元々が餃子大好きで、千葉県市川市に住んでいた時は「ひさご亭」のモンスター餃子にハマってしまい、食べた後はしばらくは誰も近づいてこないことも何度かあった。ピロシキのような巨大な餃子が6個。ニンニクが強烈で、そのうまさにハマると、病み付きになり、1週間に2度は食べたくなる。人間関係まで寸断させてしまうほどの、恐ろしい餃子だった。

この猛暑を乗り切るには「餃子しかない」。そうだ、餃子の街・宇都宮に行こう。あきれる村民2号を尻目に、ポンコツ車をぷかぷか吹かして、東北道を北上、宇都宮に滑り込んだ。宇都宮には餃子を出す店が約200軒あると言われている。数年前に彦作村長は超人気店に行ったが、行列が半端ではなく、「1時間待ち」と言われて逆上。空いてる店を探して入ったところ、ただの感動のない餃子で、「これで餃子の街とはちゃんちゃらおかしい。もう二度と来ないぞ」と捨て台詞を吐いて出てきたものだった。 

それなのになぜか宇都宮。「みんみん」は有名過ぎるので、地元の人が一押しの店「正嗣(まさし)」に向かった。時計を見ると、午後1時を回っていた。だが火曜日はお休みだった。逆上の記憶が頭をよぎった。
「村長みたいなわがままな人向きの餃子スポットがあるわよ。宇都宮の名店の餃子を何種類も味わえる。そこにしましょ」
しぶしぶ付いてきた村民2号がさらりと言った。

          宇都宮餃子① 
          一度に数店味わえる「来(き)らっせ」

宇都宮市役所近くのビルの地下ににその「来らっせ(きらっせ)」があった。「宇都宮餃子」の幟(のぼり)があり、11店舗の餃子がそこで味わえるというのである。悪くない。店内は広い。半分くらい客で埋まっていて、11店舗の餃子がパネル付きで壁に紹介されている。村長はメニューの中から「中華トントン」(ジャンボサイズ3個300円)と「めんめん」(6個350円)を選んだ。

          宇都宮餃子④ 
          中華トントン(左)とめんめん(右)の餃子対決!

15分ほど待たされて、いい匂いとともに二つの店の餃子がやってきた。まずは「中華トントン」のジャンボ餃子。デカくてグラマラス。餃子の専門職人が焼いた餃子は焦げめがパリッとしていて、ラー油を垂らした酢醤油に付けて食べると、もっちり感が十分にあり、中の具はキャベツ、ニラ、白菜、白美人ネギなどでぎっしりと詰まっていた。肉は少ない。さっぱりしていて、野菜のジューシーさにあふれている。これはイケる。村長の評価=5点満点で4点。村民2号の評価=4.3。

          宇都宮餃子⑤ 
          グラマーな中華トントン
          宇都宮餃子⑦ 
          地場の野菜がぎしっしり

続いて人気店の一つ「めんめん」の餃子。本店より羽根は少ないが、コクのあるいい味だった。この店の餃子は白菜とニラ中心で、ガラスープを加え、隠し味に味噌と紹興酒を入れている。豚肉も多い。かすかにショウガの香りも。本店より羽根が少ないというのに、普通の餃子よりも羽根が多い。手の込んだ味。村長の評価=4点。村民2号の評価=3.8。

          宇都宮餃子⑥ 
          コクのあるめんめん
          宇都宮餃子⑧ 
          隠し味が・・・

もう一店「とんとっき」の餃子(6個300円)を追加注文した。「栃木県産の豚肉が一杯入っていて、肉好きにはおすすめです」と女性スタッフ。この餃子は確かに肉が多く、ジューシーさも十分だが、「めんめん」よりあっさりしている。皮はパリッとして固め。村長の評価=3.8。村民2号の評価=3.6。

         宇都宮餃子⑨ 
         とんきっきの肉餃子
         宇都宮餃子10 
         地場の豚肉

今回初めて宇都宮餃子の実力がかなりのものであることを知った。思い込みはいけない。逆上の記憶も飛んで行った。あと197店の餃子を食べなければならない。目の前に餃子がロング・アンド・ワイディングロードとなって広がっているようだった。猛暑などどうってことない。



本日の大金言。

浜松市と餃子の街チャンピオンの座をかけてしのぎを削っている宇都宮市。酢だけで食べるのが本来の食べ方だそう。夏バテに宇都宮餃子、というのも確かにアリだ。




                      宇都宮餃子11 

うさぎに負けない「すずめやのどら焼き」

 「村長、最近どら焼きを書いてませんが、東京・池袋にきらりと光るどら焼き屋があるのを知ってますか? もちろんご存じだとは思いますが」
そんなイヤミなメールが、村長のポンコツパソコンに届いた。北千住に住むスイーツ好きの知り合いだった。
「きらりと光るどら焼き?」
「うさぎや亀に負けないすずめや。名前も志しがあってよろしい。とにかく行くべきです」
そんなやり取り。うさぎとは「うさぎや」、亀とは「浅草の亀十」のことだった。どちらも老舗中の老舗で、日本どら焼き界の最高峰に位置する名店である。こりゃ、行くっきゃない。ギックリ腰を両手で持ち上げるようにして、電車に飛び乗った。

            すずめや① 
            ちゅんちゅん

「すずめや」は東京・池袋駅東口から歩いて10分ほど、南池袋郵便局の近くにあった。そこだけ京都の町家のようで、隣はそば屋。建物は昭和の匂いのする、間口一軒ほどの古くて実に小さな店だった。木片に手書きの墨文字で「どらやき すずめや」と書かれていた。「すずめや」とはよくぞ付けたり。午前中で売り切れることもある、という情報だったので、電話で予約をしておいた。電話の感じはよかった。

         すずめや② 
         小さな宇宙

草庵のような狭い店内。どら焼きの他に練り切りなど本日のメニュー見本。黄色い土壁は悪くない。狭いながらもかなり凝った造りで、焼き上がったどら焼きの入った木箱がきちんと置かれている。声をかけると、奥から「お待ちしておりました」と店主らしき中年男性が出てきた。どら焼き6個入り一箱900円(1個150円)と水ようかん3個(1個200円)を受け取る。どら焼きは賞味期限が2日。水ようかんは本日中。

         すずめや③ 
         水ようかん
         すずめや⑤ 
         清流の味わい

あまりに暑かったので、近くの喫茶店に入って、水ようかんを賞味することにした。良い子は真似をしてはいけません。これが絶品だった。アイスクリームのカップのような紙のカップに入っていて、紙のスプーンまで付いていた。古さと新しさ。

北海道十勝産の小豆を使ったこしあんと寒天の調整がかなりのレベルで、繊細できれいな味わい。よほどいい水を使っているのだろう、人の入らない清流のような余韻が口中に残った。甘みはかなり抑えている。村長はもう少し甘い方が好みだが、これはこれで一つの見事な世界だと思う。

          すずめや 
          うーむうむむ

「どらやき」はウマズイめんくい村に持ち帰って翌日の賞味となった。上野のうさぎやなどは焼き立てが売りだが、村長は1日置いたどら焼きの方がしっとり度が深まって好みなのである。

うさぎやよりもひと回り小さいが、きれいなきつね色。包みを取ると、はちみつと砂糖と小麦粉の甘い焦げたようないい匂いが立ち上がってきた。中央が盛り上がっていて、中にあんがたっぷり入っていることが見て取れた。

         すずめや② 
         姿が只者でない?
         すずめや④  
         この盛り上がり
         すずめや⑤ 
         絶妙な形と色合い

ひと口。皮は弾力があり、しかもしっとり感もある。上野うさぎやに近い感触。中のあんは柔らかな粒あんが半分くらい形を留めており、いい小豆の風味がふわりと口中で立ち上がってきた。このふわっとした感触。緻密な計算と腕を感じる。やや甘めで、それは村長の好み。皮との相性も20年寄り添った夫婦のような阿吽(あうん)の味わいで、確かにうさぎやや亀十にも負けない美味さだと思う。

何よりもこれで1個150円とは驚く。うさぎやは1個200円、亀十は315円。もちろん一概には比べられないが、村長はこの小さな店に相当な志しを感じた。帰り際に店主に聞いてみると、「店はまだ10年になったところです。はい、うさぎやで働いていました」。修業と言わずに「働いていました」。すずめの志し。久しぶりに村長の心にハートマークが灯った。



本日の大金言。

どら焼きの隠れた名店、埼玉・春日部郊外の「細井」もうさぎや出身。どら焼き職人の未来はまだ明るい。




               すずめや⑥ 

青山で香港本店の味「マンゴプリン」

 このところなぜか不釣り合いな東京・青山に行く機会が多い。エンターテインメント新聞社時代の恐るべき上司であり、いまやすぐれたエッセイストでもあるKさんを囲んで久しぶりに食事することになった。Kさんは42歳で新聞社を辞め、出版プロデューサーとして、ミリオンセラーを3冊ほど出し、ベストセラーは数知れず、その後は生活経済評論家、エッセイストとして著作に励み、これまでに150冊以上も出版している。そのほとんどが増刷以上という出版界のモンスターの一人でもある。

彦作村長はこのお方の後ろを追おうと思った時期もあるが、時代を見通す目とその企画力の切れ味とスピードに追いつけず、別の道を歩むことにした。10年ほど前に聞いた「野垂れ死にしてもいい」という人生哲学と「今、何やって遊んでる?」という毎年の年賀状。それがここ数年の村長の支えの一つだった。「男の品格」「みっともない老い方」(PHP新書)など壁にぶち当たった時などに読むと、不思議とどこかから力が湧いてきた。村長にとっては心のバイアグラみたいな、唯一の師匠なのである。

         糖朝① 
         青山限定メニューとは?

集合時間までにはまだ時間があったので、鼻をぴくぴくさせながら青山通りを歩いていると、「糖朝(とうちょう) 青山店」というチャイニーズレストランが見えた。「糖朝」は香港に本店があり、医食同源を基本理念に点心や一品料理、さらにデザートの美味しい店として、世界でも知られたレストラン。彦作村長は「青山限定 糖朝特製マンゴプリンセット」(1050円)というメニュー板に自然と目が吸い寄せられた。

「マンゴプリン」は香港本店でも人気のメニューで、村長も一度は食べてみたいというスイーツだった。マンゴーではなくマンゴ。フィリピン産の完熟マンゴーを丸ごと1個使ったぜい沢なプリンで、セットにはさらに蒸しまんじゅうと紅茶も付いている。安くはないが、まずは飛び込め。

         糖朝11  
         香港本店と同じマンゴプリン

店内はゆったりしていて、しかも高級感がある。低級な村長ではあるが、ここは見栄を張るしかない。おしぼりと鉄観音茶を出され、16~7分ほど待たされたが、待たされたことにすぐに納得がいった。蒸しかごに入った白いまんじゅう。この小さな一個のために、大きな蒸し器で時間をかけてじっくり蒸していたのである。皮のモチモチ感がまるで違った。柔らかくないのに、しなやかでもっちりした歯ごたえがいい。香港と同じ作り方をしているそう。中のあんは黄色いカスタードあん。甘さがかなり控えめで、ココナツの風味もかすかに感じる。こういうあんを作れる中華に脱帽。粒あんマニアの村長も唸ってしまうほどの予想外の美味さ。香港恐るべし。

          糖朝③ 
          ニーハオ
          糖朝④ 
          素朴なハートマーク
          糖朝⑥ 
          日本にはない食感

本命の「マンゴプリン」は日本のなめらかなプリンとはまるで違った。まず大きさが直径12センチはあろうかというほどデカい。完熟マンゴーが角切りで入っていて、ひと口、スプーンで運ぶと、固い杏仁豆腐のような食感。完熟マンゴーの自然な甘みが口中に南国の風を運んでくるようだ。ココナツ風味の練乳がかかっていて、しっかりとした重厚な美味さと表現したくなる。だが、食べ進むうちに、そのボリュームに圧倒され始めた。日本の繊細なスイーツとはまったく違う大陸的な大構えの味わい。村長はその大きな風にしばし身を任せることにした。「後100円安いといいんだがなあ」とつぶやきながら、レジに向かった。久しぶりにK師匠にお会いできる。完熟マン・ゴー!ダメだこりゃ。




本日の大金言。

K師匠は昔と同じように山頭火の話をした。どこか重なる。うしろすがたのしぐれてゆくか。うしろすがたのはぐれてゆくか。






                    糖朝10 

なか卯の新メニュー「衣笠丼」品評

 緊急地震速報の誤報で大揺れの前日、ウマズイめんくい村はすでに揺れていた。京都のグルメ仙人から緊急グルメ速報があったからだ。ひょっとして、気象庁の地震計はこのグルメ仙人の声に反応したのではないか。出がらしのような渋すぎる声で、人によってはセクシーに聞こえる。地下のなまずのセンサーもおかしくなっているかもしれない。
「あーたねえ、なか卯って知ってる?」
「ああ、牛丼とうどんのチェーン店ですね」
「あそこが、衣笠丼を始めてね。一ぺん、いらっしゃったらよろしい。B級の村長にピッタリですよ、ひっひっひっひ」

          なか卯④ 
          東京の衣笠丼!

彦作村長はエンターテインメント新聞社時代の天才的見出しマンの退任慰労会に出席するついでに、池袋で途中下車して、「なか卯(なかう)」の「衣笠丼(きぬがさどん)」を賞味することにした。豊島区役所前店。幟(のぼり)やポスターもあり、「衣笠丼」に力を入れていることがわかった。

          なか卯③ 
          いい雰囲気だ

「衣笠丼」は古くからある京都の家庭の味で、おあげ(油揚げ)と青ネギ(九条ネギ)を出汁を利かせた甘辛醤油で軽く炊き(煮込み)、最後に卵でとじるドンブリ料理。これがメチャうまい。村長も去年、京都で賞味してその美味さに舌を巻いたことがある。安いというのも好感が持てた。ちなみに「衣笠丼」の由来は、見た目が衣笠山に雪がかかった景色に似ていることからそう命名されたというのが定説である。

          なか卯⑥ 
          来た来た

自販機で「衣笠丼」(並390円)を押し、テーブルで待つこと5~6分ほど。黒い和のトレーに乗って、衣笠丼がしずしずと登場した。刻み野沢菜と京風山椒とお茶が乗っている。雰囲気作りがうまい。「なか卯」の和風の戦略は悪くない。京都で賞味したものとほぼ同じだが、色合いが少し派手である。青ネギの緑とおあげのキツネ色、それに卵の色味が強い。

          なか卯⑧ 
          いい景色

山椒をパラパラと振ってから朱塗りの和匙でひと口。甘辛の度合いが強めで、出汁感があまりない。京都で本物を食べていなかったら、普通にうまいと思うような味。ネギは青ネギだが、九条ネギではないのではないか。九条ネギのようなしなっとしたぬめり感と自然な甘みがない。普通のネギの青い部分をぶつ切りした感じ。おあげもきれいに短冊切りにしているが、油抜きと出汁の浸みこみが足りないと思う。

ご飯は固めで村長の好み。卵も健闘はしているが、ふわり感が足りない。ふと、村長の頭の中に「これはひょっとして関東用に味付けを濃いめにしているのではないか」という疑念が浮かんだ。イメージ的には衣笠丼としてよくまとまってはいる。390円という価格も好感が持てる。

          なか卯⑨ 
          悪くない

「なか卯」は元々は大阪でスタートした「和風牛丼とうどん」の全国チェーン店。ドンブリチェーンの中では村長の好みの店である。関西と関東で味に少々変化を付けている可能性はあると思う。ということは関東ではこれは成功するかもしれない。まったりの衣笠丼ではなく、野暮な衣笠丼でいいじゃないか。お茶をがぶっと飲んでから中満足で外に出ると、京都のグルメ仙人の声が空から落ちてきた。
「どないですか? 東京の衣笠丼のお味は。箱根を越えると高尾丼になる、ということですわ。ひっひっひ」


本日の大金言。

本物の衣笠丼は京都で食べるに限る。だが、なか卯の挑戦にも拍手を送りたい。もう少し出汁感があれば、だが。




                なか卯12 

森の中の洋館のシフォンケーキ

 那須高原はスイーツのメッカでもある。この道は避けては通れない。ウマズイめんくい村ご一行は「美味いスイーツ」を探すことにした。那須高原には隠れたスイーツの名店があるはず。彦作村長は目をハートマークにして探索に乗り出すことにした。いつも「ショウゾウ カフェ」では芸がなさすぎる。突然、村民2号が言い放った。
「やっぱりショウゾウにしましょ。ちょっと高いけど、コーヒーがうまいし、スコーンやシフォンケーキもうまい。何よりも雰囲気がステキ。ヒコサクとはえらい違いよ」

長いものには巻かれるしかない。那須街道を「NASU SHOZO CAFE」へ。だが、駐車場は満杯で、アリも入り込む隙がない。メディアがいつも取り上げる超人気店とはいえ、これはおかしい。過剰だ。メディアの情報をうのみにするな。それでも村民2号はあきらめない。10分ほど待っても空きが出ない。コーヒーが切れると、イライラが募る村民2号がついに白旗を上げた。「他の店、探しましょ」。

          ドミアン② 
          看板がポツンと

以前から気になっていた隣の店に行くことにした。隣といっても、林を隔てていて、距離がある。「Cafe Domjan(カフェ ドミアン)」という看板だけがポツンとあるのが不思議だった。外からは建物が見えない。ポンコツ車を止めて、歩くことにした。森の中の洋館、そんな形容詞がぴったりの、どこかヨーロッパの貴族の別荘のような建物が見えた。それが「カフェ ドミアン」だった。

         ドミアン① 
         森の中の不思議な洋館

白を基調にした部屋がいくつかある。オープンテラスもある。それぞれが広くてゆったりしていて、貴族趣味的な落ち着いたインテリア。暖炉まである。
「すごいわねえ」
村民2号がゴージャスな雰囲気にのまれている。客は一組しかいないことが不思議だった。値段が高いのか、あるいは味がイマイチなのか? 村長のそんな懸念はすぐに吹っ飛んだ。
メニューの中から村民2号が「ブレンドコーヒー」(580円)を選んだ。村長も追随。安くはないが、「ショウゾウカフェ」とほぼ同じ。スイーツも売り物のようで、「無敵シフォンケーキ」(セット価格で400円、単品だと480円)を頼んだ。すべて手作りで、パスタやサンドイッチ類もうまそうだった。そちらは今回は我慢がまん。

          ドミアン③ 
          すべて手作りのスイーツ類

イケメンのスタッフと雰囲気のある女性が「無敵シフォンケーキ」とコーヒーを交互に運んできた。白磁の見事な皿に乗った黄色いシフォンケーキ。こんがり色の外側。生クリームとメイプルシロップ、銀のフォークとスプーン。甘い匂いとコーヒーの香ばしさが部屋いっぱいに広がるようだった。ここは日本ではない。

          ドミアン12  
          無敵のシフォンケーキ
          ドミアン⑨ 
          自然な甘い香り

穴場を発見した気分だった。シフォンケーキはふわりとしていて、しかも風味がひと味違った。聞いてみると、卵はフランスのお菓子用に特別に飼育したものを使っているそう。砂糖はブラウンシュガー、それに菜種油でふんわりしっとり感を出しているそう。食材のこだわりが半端ではないことが見て取れた。ほのかな塩分が効いている。生クリームとメイプルシロップもかなりのレベル。

         ドミアン⑧  
         むふふふ

「最初は入りにくかったけど、こんな店があるとはね。世の中ってわからないものね。客が少ないのが不思議。コーヒーも美味い。ドミアンという名前もハンガリーの木版画家の名前から取ったらしいわよ。あまり有名ではない画家の名前を付けるなんて、この店のオーナーはどんな趣味人なのかしら。村長より変人かも」
「手を抜いていない。ホント、不思議な店だよ。ひょっとして、キツネにでもダマされているんじゃないか。生クリームとメイプルシロップで甘さを調節できるようにしてあるのもさり気なく深い。超人気店より上ではないか」
ウマズイめんくい村一行約2人は、ほっぺたを何度もつねるのだった。


本日の大金言。

隠れた名店は確かにある。自分の目と足と舌で確かめること。そこから何かが始まる。




                    ドミアン10 

那須高原「かあちゃんカレー」のしみじみ

 夏は那須高原に限る。彦作村長は久しぶりに村民2号を伴って、豪雨と猛暑を繰り返す日々から脱出するように、ポンコツ車を北へ向かって走った。ガソリン代が高くなっているのが少々腹立たしい。台所も火の車に向かっている。
「あそこにしましょ」
村民2号が那須高原で一番安い穴場で昼メシを取ることを提案した。
「同じことを考えていたよ。ぜいたくは敵だ!」
村長はアホ顔で叫んだ。このところボケの度合いが進んでいる。

          かあちゃんカレー② 
          ぜいたくは敵か?

「道の駅 友愛の森」。そこの農産物直売所入り口にある「軽食コーナー」。ここはコロッケやすいとん、カレーなどが安くて旨い。那須高原の侮れないB級の穴場である。料理しているのは地元のおばさんたち。ここで「かあちゃんカレー」(400円)を食べようというのである。文字通りの田舎のかあちゃんカレーで、不思議な説得力のあるカレーである。

          那須高原・かあちゃんカレー① 
          那須高原の穴場

野菜も豚肉も米もすべて那須の地場産を使っている。5~6人の行列に並んで、「おからコロッケ」(100円)も注文した。曇り空のもと、白いテーブルで「かあちゃんカレー」とご対面。懐かしい黄金色のカレー。ジャガイモと人参、タマネギ、それに豚肉がドカドカと入っている。ライスは那須のコシヒカリで、メロン型で型抜きしてあるのが感動ものである。鮮やかな福神漬けが多めに添えられている。これだ、これだ。「かあちゃん」とは何か、ということをB級グルメの角度からよく研究している。キュウリの塩漬けが付いているのも悪くない。

         かあちゃんカレー③ 
         かあちゃんカレーの衝撃
         かあちゃんカレー④ 
         これだ、日本のカレー!
         かあちゃんカレー⑥ 
         お久しぶり
         
ステンレスのスプーンでひと口。懐かしい甘口のカレーが口中いっぱいに広がる。続いてほのかな辛み。ざく切りのジャガイモと人参、タマネギが「かあちゃんカレー」を引き立てている。これぞニッポンの正統派おふくろのカレー、と太鼓判が押されてあるよう。白いテーブルではなく、できればちゃぶ台で正座して食べたい。素材がすべて地場産ということもあり、野菜も豚肉も新鮮で旨い。粋とか洗練という価値観を無化するB級ゴッドマザーの味。ルーは市販のものを何種類かブレンドしているそう。そこが少々残念だが、戦後の高度成長期の味であることに変わりはない。ライスはやや固めだが、村長の好み。極上ではなく中ぐらいのレベルのコシヒカリであることが、「かあちゃんカレー」に説得力をもたらしていると思う。

         かあちゃんカレー⑨ 
         ただ者でないおからコロッケ
         かあちゃんカレー11 
         おからだっぺ

「結構ボリュームがあるわ。本当に家庭の味ね。400円という安さがいい。豚肉もそれなりに多いし、素材がいいせいか、結構イケる」
「おからコロッケも揚げ立てで、このコロモのサクサク感はいいね。中のおからも全部手作りだそうで、薄味が付いている。ソースをかけなくても旨い。でも、以前食べたポテトコロッケの方が好みだよ。もう1個食べようかな」
「ぜいたくは敵でしょ。那須高原のこの空の下で、素朴な『かあちゃんカレー』を味わえることに感謝しなきゃ」
村民2号もすっかりかあちゃんになっていた。体形までも。



本日の大金言。

大震災の影響で観光客の減少が心配される那須高原だが、少しずつ戻っているようだ。地場のかあちゃんたちの底力にも期待したい。日本を支えるかあちゃんパワー。




                      かあちゃんカレー13 

具のない「足利シュウマイ」と花火

 関東の古都・足利が年に一度華やぐ日がある。渡良瀬川河川敷で行われる足利花火大会である。毎年、約35万人ほどが観賞にやってくる。隅田川花火に負けない見事な花火が2万発打ち上げられる。関東でも指折りの歴史のある花火大会だ。
「たまにはパーッと行きましょ」
パッとしてない彦作村長と村民2号は隣村の、パッとしている友人夫妻を誘って、電車で、足利にやってきた。駅に降りた瞬間、見物客でごった返していた。浴衣姿のカップルやファミリーが目につく。日本は平和でいいのう。

意外に気が利く(?)村長は、事前に「花火の見れる居酒屋」を予約しておいた。当てずっぽうで電話したら、たまたま4人用の席だけ開いていたのだった。「3000円の特別弁当」がこの日のメニューだった。だが、彦作村長は、単品メニューの中に、「足利シュウマイ」(540円)と「足利揚げシュウマイ」(540円)が入っていることを抜かりなくチェックしていた。

          足利・樹洞(うろ)① 
          門をくぐると、そこは・・・

予約したのは「酒菜 樹洞(うろ)」という店。入り口が門と階段になっていて、居酒屋というよりはシャレた和風レストランだった。席に着くと、3000円の特別弁当が運ばれてきた。かなりのボリューム。生ビールで乾杯してから、すぐに「足利シュウマイ」を頼んだ。「足利揚げシュウマイ」も追加注文。

            足利  
            特別弁当

「足利シュウマイ」は「ジャガイモ入り焼きそば」とともに、足利が売出し中のB級グルメ。実に不思議なシュウマイで、片栗粉とすり下ろしてペースト状にしたタマネギだけしか入っていない。それを地元の月星ソースで食べる。村長は何度か足利に来ているが、説明を聞いただけで食べる気がしなく、これまでむしろ避けてきたB級グルメである。元々の発祥は屋台のラーメン屋が戦後に考案したシュウマイというのがどうやら定説である。豚肉が高かった時代で、安くてそれなりに旨いシュウマイを編み出したその努力には敬意を表したい。だが、具のないシュウマイなんてありか?という根本問題はある。

          足利シュウマイ③ 
          これが噂の足利シュウマイ
          足利シュウマイ④ 
          具がない?

蒸したての「足利シュウマイ」がシュウシュウと湯気を立ててやってきた。崎陽軒のシュウマイよりもひと回り大きい。それが6個。焦げ茶色のスパイシーな中濃の月星ソースがたっぷりとかかっていた。醤油ではなく堂々とソースをかけて出すシュウマイは世界中探しても足利だけかもしれない。その大雑把な強引さは、栃木・群馬文化の凄味でもあると思う。ひと口。ムニュっとした蒸し団子のような食感。もっちり感もある。うーむがムムムに変わる。意外とうまい。片栗粉とタマネギのペーストから不思議な旨味がにじみ出てくる。何か隠し味でもあるのかもしれない。

         足利シュウマイ① 
         こちらは揚げシュウマイ

「足利揚げシュウマイ」は2個ずつ串に刺されて登場。月星ソースとマヨネーズが控えめにかけられていた。足利シュウマイを油で揚げたものだが、皮がパリッとしていて、シュウマイ自体のムニュモチ感を引きたてている。こちらも意外にうまいが、A級ではなくB級のうまさ。マヨネーズも効いている。

「見た目よりもうまいわね」
「意外だけど、中濃ソースと合う」
「540円はちょっと高いかもね。具がないんだから」
特別弁当そっちのけで足利シュウマイ談義が続く。

そのうち、花火が上がる時刻、午後7時になった。店の屋上に上がる。すでに夕闇に染まっていた。渡良瀬橋の向こう側で、花火が打ち上げられ始める。夜空に大輪の花が次々に咲く。一瞬遅れの豪快な音と繊細な一瞬の美。それを見上げる約35万人の眼差し。それだけの数の人生。それだけの数の胃袋。村長は頭がクラクラしてきた。

               足利花火④ 
        一瞬の夢?

本日の大金言。

夜空に咲く花火を見ると、なぜか心が洗われる。花火の前には善人も悪人もない。心の洗濯に花火。





              足利花火 

深夜の絶品「冷やしたぬきそば」

ある時はどうしようもない酒飲みで 、ある時は「冷やしたぬきそば」マニアでもある彦作村長がハマった、ほとんどカウンターだけのそば屋がある。店を開くのがなんと午後9時。それからほとんど明け方まで営業している。村長は「真夜中の蕎麦(そば)屋」と勝手に命名している。北千住に住んでいた7~8年前、仕事柄深夜帰宅が多かった。午前3時を超えることもあった。仕事で熱くなった頭を静めるために、灯りのすっかり落ちた飲み屋街を歩いていると、一軒だけポツンと明るい店があった。それが「そば酒房 碧夢(へきむ)」だった。

                そば酒房⑧  
         青い石の夢

冷やしたぬきそばが旨かった。ぐでんぐでんに酔っぱらっても、「碧夢」のそばで締めると、身体まで締まるような気がした。店主は寡黙で必要以外はほとんどしゃべらない。だが、「そば酒房」を名乗っているだけに、ツマミ類もレベルが高かった。今回取り上げるのはこの店である。

都内での飲み会の後、久しぶりに、途中下車して、ふらりと立ち寄りたくなった。午後10時を過ぎていた。飲み屋街は猥雑で明るく、酔っ払いの声があちらこちらの店から聞こえてくる。若いOLも増えている。村長の好きな世界である。「そば酒房 碧夢」はまだ店を開けたばかりのようで、7人ほどしか座れないカウンター(奥に小さなテーブル席もある)には客が一人しかいなかった。

         そば酒房① 
         侘びのある雰囲気

店主は相変わらず一人で、寡黙な職人のように、客の肴(さかな)を作っていた。無愛想と紙一重。村長は「冷やしたぬきそば」(650円)を頼んだ。すると、店主が「ワンドリンク、お願いします」。ン?少々ムッときたが、よく考えてみると、タクシーの深夜料金みたいなもので、この小さな店を維持していく上では致し方ないことかもしれない。お通しと考えれば、ムッとくる方がおかしい。アルコール類は臨界点に近かったので、一番安い「緑茶」(200円)にした。ちなみに「生ビール」は500円。ベラボーではない。

         そば酒房⑥ 
         せいろ500円

「冷やしたぬきそば」がやってきた。黒天目の器に、揚げ玉がどっさり乗っていて、キュウリと板わさ、それに刻み海苔が隙のない盛り付けでアクセントを付けている。昔と同じだった。

         そば酒房 
         揚げ玉好きにはたまらない
         そば酒房④ 
         締めのB級キング

揚げ玉好きの村長の好みの姿。そばは江戸前の極細打ちで、コシが強い。これだこれだ。ツユは辛めだが、ダシが効いていて、全体をぎゅっと締めている。特筆すべきは揚げ玉。ただの揚げ玉ではなく、多分、エビの殻などが点々と入っている特別製。これがカラッとしていて、いい歯ごたえと風味をかもし出す。お宝鑑定団の中島誠之助ではないが、「いい仕事してますねえ」と言いたくなる。村長にとって、ハシゴした後の最後の締めとしては、これ以上のものはなかなかない。B級の最後のオアシス。

          そば酒房③ 
          コシの強い極細

「もう10年になります」
寡黙な店主が、少しだけ口を開いた。
「そうか、10年か」
村長も10年の歳月を思った。常連らしい3人連れの酔っ払いがドドドと入ってきた。店主は変わらず寡黙なままだった。



本日の大金言。

そば屋の原点の一つは、江戸の昔の夜鳴きそば。屋台で主にかけそばを売っていたようだが、真夜中のそば屋の伝統は意外な形で生きている。

  


                     そば酒房⑤ 


上野で食べた韓国冷麺の味

 このところ日韓の摩擦が激しくなっている。韓国から日本に帰化して、鋭い評論活動をしている呉善花さん(拓殖大学教授)が、親戚の結婚式に出席しようと渡韓したところ、仁川国際空港で入国拒否された一件や、サッカー東アジア選手権の日韓戦で起きた韓国サポーターによる反日横断幕の一件など、日本人から見ると、あまりに硬直した姿勢に「おいおい、そこまでやるかよ」と違和感を覚える。「話せばわかる」が日本文化だが、呉善花さんは、「韓国の儒教文化は話してもわかろうとしない文化で、顔は似ていても全く異質な文化であることを直視すべき」という意味のことをおっしゃっている。韓国の歴史認識についてもズバリと斬り込む。その論調はスルドイ。

         土古里10 
         韓国冷麺、恐るべし

鋭さの足りない彦作村長はB級グルメの角度から韓国を理解しようと思い立った。昼飯どき東京・上野周辺を歩き回り、旧聚楽台が新しいきれいなビルに変身したが、そこで「元祖こだわりの冷麺」というメニューが目に入った。「オモニの味を楽しめる 韓国家庭料理 土古里(とこり)」という店だった。「辛冷麺」とか「丸ごとトマト冷麺」「抹茶冷麺」など種類が多い。ここにひょっとして日韓の新しい可能性があるかもしれない。エレベーターで3階にある「土古里」に向かった。

         土古里② 
         シャレてる店構え

都会的な韓国料理レストランだった。「元祖こだわりの冷麺」を注文。一番安かったのと、冷麺など素材は韓国から直輸入している、という説明が気に入った。950円だが、ランチタイムなので900円だった。それほど安くはない。15分ほどで本場の冷麺がやってきた。金属製の器と金属製のなが~い箸。食器類も同じようでいて異質だ。白く濁った牛のスープ、小麦粉とそば粉とさつまいもでんぷんで作られたグレーの細麺。どっかりのったキムチ、薄く切ってリンゴ酢に漬けた大根とリンゴ、キュウリ、ゆで卵。それはシンプルな韓国の冷麺で、冷たい金属製の箸とスプーンで食べ始めると、日本のある意味で柔らかい、繊細な味とは別の、酸味と辛みと牛の出汁の旨味が五臓六腑に滲みこんでくる。

         土古里④ 
         元祖こだわりの冷麺
         土古里⑤ 
         和とは別の世界

麵は想像通りの強いコシがあり、その食感は村長の好みの範囲ではある。本場の韓国でも冷麺は食べやすくなっているのか? ジャガイモのでんぷんで作ったハムフン系の冷麺より食べやすい。エンターテインメント新聞社時代にハムフン系の冷麺を食べたことがあるが、もっと黒くて、その固さはオーバーではなく針金を食べているようだった。アゴが疲れたが、意外やそれが旨かった。「土古里」のキムチはさすがに本場の味で、かなりの辛さだが、甘みもあり、牛のスープとの相性がいい。

         土古里⑥ 
         本場の冷麺
         土古里⑦ 
         牛から取ったスープ

酢漬けの大根もまずまずの味。食べ終えてからスープを飲み干すと、ズシリとした重い満足感が金属の冷たさとともに村長の全身を包んだ。チェリーとパイナップルと鶏肉がないのが残念だが、そうぜい沢は言えない。夏の冷麺は悪くない。この店は「盛岡冷麺」もメニューに加えていた。B級グルメの世界では「共存」が実現しているのに、国と国になると、感情が爆発する。一方が100%正しいなんてことはあり得ない。韓国の恨みの文化と日本の水に流す文化。盛岡冷麺にひょっとして未来があるかもしれない。



本日の大金言。

日本人と韓国人。合わないから引っ越しましょう、とはいかない。共存へ盛岡で麺類サミットでも開催したらどうだろう。



                     土古里⑨ 




プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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