ゴッホの後の「スフレパンケーキ」

 芸術の秋である。ウマズイめんくい村の怪しい一行は、思い立って、東京六本木の国立新美術館へと向かった。村民2号が大の絵画好きで、「印象派を超えてー点描の画家たち」を観たいと言い出したからだ。泣く子と村民2号には勝てない。「いいね」と村長。だが、村長の狙いはむろんそんな芸術にはない。この際、星乃珈琲店の「スフレパンケーキ」を賞味してみようと思った。

         新美術館 
         芸術の秋か食欲の秋か

新美術館を出ると、時刻は午後1時半を回っていた。
「スーラは好きだけど、ゴッホとモンドリアンがよかったわ」
「腹減ったね」
「すっかり忘れてたわ。コーヒーのうまい店がいい」

          星乃珈琲② 
          星乃珈琲店(六本木)

シメシメ、描いていた通りの流れになった。今年5月にオープンした「星乃珈琲店」六本木店へ。シックな店内。チョコレート色のソファの席に腰を下ろし、目的の「窯焼きスフレパンケーキ」(ダブル680円)を注文。村民2号は「海老とアボカドと玉子のトーストサンド」(680円)を頼んだ。まだランチタイムなので、飲み物がプラス300円。このところ体調不良の村長はオレンジジュース、村民2号はむろんのこと「星乃ブレンド」にした。

          星乃珈琲③ 
          スフレパンケーキ

「窯焼きスフレパンケーキ」はこの店の目玉で、オーブンで焼くために「20分ほどお時間をいただきます」というややこしい代物。シロップはメープルを選んだ。18分ほどで二段重ねのスフレパンケーキが登場した。うひゃー。直径11センチほどで、1枚の厚さは4センチほど。それが2枚。見事なきつね色で、何とも言えない甘いいい匂いが周囲1メートルを支配した。頂上にはホイップバターが鎮座していて、それが溶岩のように溶け出していた。

          星乃珈琲⑦ 
          二段重ねでムムムの登場
          星乃珈琲④ 
          海老とアボカドと玉子のトーストサンド

ナイフで切り、口に運ぶと、表面はややパリッとしていて、中がふわりと柔らかい。スフレというのはダテではない。村長はこれまで美味いパンケーキは結構食べているが、スフレは初めて。パンケーキ(ホットケーキ)の王道から見れば、いわば邪道のスイーツだが、お腹にどっしりとくるあの感動ではない、ほんわりとした別の感動がある。ホイップバターの塩分とメープルの甘みがスポンジに滲み込み、それが舌の上で溶けて行く。これはこれでありだと思う。

         星乃珈琲⑧ 
         高さ8センチのスイートルーム?

「これ、どうやって作ってるの?」
と村長が女性スタッフにズバリ聞いてみた。
「メレンゲを使ってるんですよ。後は企業秘密です」
「はちみつも使ってるでしょ?」
「ナイショ、です」

         星乃珈琲⑨ 
         バターとメープルとの合体

「トーストサンドも美味いわ。でも量が少なめなのが難点かな。コーヒーはこの前行った那須高原のショウゾウカフェより美味い」
コーヒーとパン好きの村民2号がチクリと蜂の一刺し。
「パンケーキは1枚だと530円。安くはないし、ボリュームも茅場町の珈琲家ほどの圧倒はない。同じパンケーキでも全然違うね。でも、このスフレもいい世界を持ってる」
「ゴッホを観た後のランチとしては案外いい選択だったわ。パンケーキの世界も印象派を超えて、ということかもね」
「さすがの締め方。ごっつあんでした。ゴッホゴホ」
「そうはいかないわよ、モンドリアン。もんどりうってバタッ」
「・・・・・・」


本日の大金言。

パンケーキの世界は新しい次元に突入している。スイーツの世界からバラエティーの世界へ。まさに印象派を超えて、の世界に入っている。



                      星乃珈琲10
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会津柳津の元祖あわまんじゅう

 「そ、村長、大変よ。会津柳津の元祖あわまんじゅう屋さんが火事になったらしいわ。テレビのニュースでその映像が流れてビックリ。この前行ったあの岩井屋みたいなのよ」
村民2号が、ほろ酔い気分でウマズイめんくい村に帰ってきた彦作村長の下に飛んできた。ネットで調べたら、ホントにあの「岩井屋」が火事で全焼してしまったことを告げていた。昨日未明の出火。何ということだ。190年もの歴史を持つあの岩井屋が・・・。元祖あわまんじゅうの店が・・・。村長もしばし呆然自失した。

少しでも早く立ち直ってほしい。そこで、今回は特別編。火事お見舞いを兼ねて、この素朴な人情味あふれた老舗をご紹介しようと思う。ウマズイめんくい村村長としてできることはあまりにもささやかだが・・・。

         柳津①  
         岩井屋の外観も今や・・・

先月末、柳津が生んだ世界的な版画家の作品を集めた「斎藤清美術館」に行くついでに、「岩井屋」にも立ち寄った。会津若松市内からポンコツ車で1時間ほどの距離。柳津には7軒のあわまんじゅう屋さんがある。岩井屋はその中で最も古い。柳津は最澄や空海と論争した名僧・徳一が807年(大同2年)に創建したと伝えられている円蔵寺の門前町として栄えた歴史を持つ。あわまんじゅうは江戸時代の文政、天保年間に多発した火事や災難を何とか鎮めようと、岩井屋の祖先が円蔵寺に祈願をこめて奉納したことから始まった。粟(あわ)で作ったまんじゅうに「災難にアワないように」という願いを込めたもの。

          岩井屋⑦  
          昔ながらの手作り

村長と村民2号が訪れたとき、店には客は2組ほど。奥からあわまんじゅうを蒸す水蒸気が立ち上っていた。老舗という格式ばったところがまるでない。実にのどかで、村長と村民2号は、店の左手にあるちょっとした木のテーブル席に腰を下ろした。すると、店のおばさん(女将?)が「どうぞ」とお茶を運んできてくれた。小梅のカリカリ梅干しも「よかったら食べてくなんしょ」とふたを開けてくれた。無料のおもてなし。

          岩井屋⑥ 
          店内ものどか

「ここで食べてもいいですか?」
と聞くと、どうぞどうぞ、と今度は店の中をウロウロしていたおじいさん。どうやら4代目当主らしい。ばら売りもしているというので、「あわまんじゅう」(1個85円)を2個頼んだ。お土産に4個入り箱詰め(350円)も忘れない。栗まんじゅうや鮎もなかも和菓子ファンの間では評価が高い。

          柳津③ 
          お茶と梅干しはサービス

蒸かし立てのあわまんじゅうは皮が粟(あわ)ともち米で作られていて、黄色みがきれいだ。京都・北野天満宮門前「澤屋」のあわ餅とほとんど同じ色。熱々を少し冷ましてから、割ると、中から見事なこしあんが現れる。皮のほどよいモチモチ感と粟の風味が実にいい。こしあんはやや甘めで、それがもっちりした皮と一体となって、口中で溶け合い、脳天へと吹き抜けて行く。村長はこのあわまんじゅうを全国展開したら、かなりのファンが付くと思う。

         岩井屋② 
         見事なあわまんじゅう
         岩井屋③ 
         蒸かし立ての美味

以前「小池屋」をご紹介したことがあるが、元祖の「岩井屋」は柳津の店をかたくなに守っている。それが火事に遭ってしまった。何とか立ち直ってほしい。文政・天保年間の災難から祖先が立ち上がったように。岩井屋の元祖の味を待っているファンも大勢いる。


本日の大金言。

いつどこでどんな災難に遭うかわからない。あわまんじゅうはそのための祈りでもある。あんこマニアの希望の星でもある。





                     岩井屋④ 




手搗き餅屋の「田舎しるこ」

 東京・三ノ輪から南千住方面に向かっていく途中にアーケードの商店街「ジョイフル三の輪」がある。下町も下町、このあたりを歩いていると、原東京の生活がそのまま息づいているような気分になる。京都の錦市場にもどこか通じているような、魚屋や練りもの屋や惣菜屋、パン屋、日用品店やなどを冷やかしながら、ふと先を見ると、餅つきの本格的な木臼が見えた。正月でもないのに木臼! 餅好きの彦作村長のアンテナがキューンと反応した。

         月光⑨ 
         ジョイフル三の輪!

それが「お餅と日本茶の喫茶 月光」だった。入り口でチェックすると、「きなこもち」(280円)、「ごまもち」(280円)、「からみもち」(300円)などもち料理と日本茶のカフェだった。村長の大好物「あんころもち」がないのが寂しいが、「田舎しるこ」に目が止まった。

          月光② 
          木の臼がいらっしゃい
          月光③ 
          もちメニュー

店内は和風ムードで、すだれや半纏(はんてん)などがレイアウトされ、テーブルが4つほど。奥が厨房になっていた。若い女性店員さんに「田舎しるこ」(ほうじ茶付き620円)を頼んだ。「当店の餅は手搗(つ)きで300回以上搗いています」というウソみたいなことが書かれていた。まさか。

          月光④ 
          田舎しるこの登場
          月光⑤ 
          そおっと開けろ

10分ほどでお盆にのって「田舎しるこ」が登場した。朱塗りのお椀とその横にシソの実の塩漬け、それにほうじ茶。いかにもの定番の光景だが、ふたをそおっと(おしるこの場合はそおっと、でなければならない)取る。湯気と共に淡い色のつぶあんと見るからにふんわりとした大きめの餅が2個。入浴中の美女を覗いてしまったようなドギマギ感に襲われる。この初恋感は悪くない。

          月光① 
          ただの餅ではない

小豆は甘さがかなり控えめで、柔らかく炊かれていて、あっさりとした風味。村長の好みはもう少しトロミがあった方がいいのだが、これはこれで一つの考え方だとは思う。餅が絶品だった。「300回以上」はダテではなかった。柔らかさとつるっとしたきめ細やかさに感心した。村長がこれまで食べた餅の中でもベスト10に入る。これで、あんこがもう少しとろっとしていたら、脳天がシビレタはずである。

         月光⑥ 
         十勝産小豆

シソの実の塩漬けで箸休めをしながら、香り高いほうじ茶をすする。ほとんど「天国まであと一歩」の世界・・・。気になって、若い店主にぶしつけに聞いてみた。元記者の得意技の一つである。
「杵(きね)で300回搗く(つく)ってホント?」
「本当はもっと搗いているんですよ。場合によっては400回くらい搗きますよ」
「筋トレだね」
「木臼と杵で300回以上毎朝搗くなんてことをやっているのは都内では多分うち以外にないと思います」

「もち米の種類は?」
「青森の五所川原産のあかりもちという品種で、縁があって、小野さんの農場から直送してもらっているんですよ。甘みがあるのが特徴です」
「ふーん。で、何であんころもちはメニューにないの?」
「最初はやってたんですけど・・・」
「ぜひ復活してほしいなあ」
「考えときます(笑)」

店はオープンして丸9年目だそう。エンターテインメント新聞社時代にたまたま漫画家の谷岡ヤスジさんと飲んだ時に「脚光を浴びてすぐ消えて行った才能を一杯見てきた。おれは10年やり続けたら初めて認める」と話していたことをなぜか思い出した。ニャロメが懐かしい。


本日の大金言。

10年ひと昔ではなく、10年でやっと一人前のプロフェッショナル説。辛抱が薄れつつあるネット社会の中で、これは一つの卓見かもしれない。





                     月光⑧ 

風が立った後の醤油ラーメン

 宮崎駿監督・最後の長編アニメ「風立ちぬ」。すでに興行収入は114億円を軽く突破して、ロングラン上映となっているが、彦作村長はもう一度、この作品を観ようと思い立った。関東大震災の圧倒的な描写や背景の「時代の風」が気になったからである。ラストの「おいしいワインがある」というカプローニのセリフも引っ掛かる。で、まだ一日2回上映しているシネプレックス幸手へとポンコツ車を飛ばした。

ジブリプロデューサーの鈴木敏夫が「ロッキング・オン」の渋谷陽一のインタビューで、ラストシーンは当初の案はまるで違っていたと明かしている。主人公の堀越二郎も死んでしまい、カプローニと共に煉獄(れんごく)にいる設定だったという。菜穂子のセリフも「いきて」ではなく「きて」だったと。宮崎駿が「きて」の前に「い」を入れたことにビックリしたと語っている。「おいしいワイン」はその方が説得力があったかもしれない。しかし、彦作村長は、「い」を入れた瞬間、宮崎駿が自分自身と観客(未来の観客も含めて)を救ったことになったとも思う。「い」の意味と天才的な変換。もし「い抜き」だったら? 芸術作品としての完成度は上だったかもしれないが、生活者の視点では希望がなくなる。芸術と生活のギリギリの葛藤の中で、アニメ監督宮崎駿は死ではなく生の側、生活者の側に立つ、と宣言したのではないか。凡夫の想像力はこの程度である。日ごろ考えないことを考えると疲れる。

          武① 
          シャレた外観

「あのワインは本当においしいワイン」なのか、そんなことも考えながら、二度目の「風立ちぬ」を観終わり、やはりこの作品が傑作であることを確認した。なにやら「ウマズイめんくい村」らしからぬ出だしになってしまったが、いざ生きめやも。第二部B級グルメ編に移ろう。映画館のすぐ近くで遅いランチを取ることにした。以前、何度か入っている「中華厨房 武(チャイニーズキッチン タケ)」が今回ご紹介する店。

         武③ 
         餃子(3個)250円
         武④ 
         皮がパリっ、中はモチモチ

シ ャレた外観と吹き抜けのような天井の高い店内。ここの「醤油らぁめん」(520円)が値段の割には安くて美味いのだ。手づくり餃子3個(250円)も一緒に頼んだ。まだオープンして5年ほどだが、通りを挟んで客が一杯のチェーン店「幸楽苑」に対して、横浜などで修業した若い店主が腕で勝負している。12~3分ほどで餃子と「醤油らぁめん」が登場。こんがり焼けた餃子は皮がモチモチしていて、ニラ、キャベツ、白菜、豚ミンチなどがギュッと詰まっていて、ジューシーさは「上」だと思う。

          武⑤ 
          520円とは思えないこだわり
          武⑦ 
          これで太麺

「醤油らぁめん」は細麺と太麺を選べる。今回は太麺を選んだ。白い陶器のドンブリのデカさがこの店のこだわりを表している。手切りのチャーシュー、メンマ、分葱(わけぎ)、刻みネギ、大きい海苔。透き通った醤油ベースのスープ、その下にゆったりとたゆたっている中太麵。鶏ガラの脂とネギ油がキラキラ浮いた醤油スープを白いレンゲでまずはひと口。スッキリした中に奥深いじんわり感のある味わい。甘みがほのかにあるのは、さり気なく置かれた焦がしネギのためかもしれない。520円でこのこだわり方に軽く驚かされる。麵は太麺と言っても中太で、つるつるしていてコシもいい具合にある。チャーシューはたぶん豚もも肉だろう。柔らかくはないが肉肉している。

          武⑧ 
          この手切り感
          武⑥ 
          スープの旨味

全体的に今風の店構えで、それ故に、軽い感じに見えるかもしれないが、この若い店主はなかなかの腕前だと思う。厨房の奥から「いらっしゃいませ~」とか、「ありがとうございましたあ~」などと甲高い、歌うような声が聞こえてくる。料理すること自体が楽しくてしょうがない、そんな感じが見て取れる。若い女性スタッフも明るい。微笑ましいよ。案外、埼玉中華界の新しい風、になるかもしれない。


本日の大金言。

チェーン店より個人の店。マニュアルより職人の腕と勘。そういう世界も大事にしたい。



                      武10 

プラットホームの中華そば屋

 東京スカイツリーライン、というより東武伊勢崎線と呼んだ方がなじむ西新井駅。関東厄除け三大師の一つ西新井大師を擁したこの駅のプラットホームに1969年(昭和44年)創業の立ち食いラーメン屋がある。立ち食いそばはいくらでもあるが、40年以上の歴史を持つ立ち食いラーメン専門は少ない。

          西新井② 
          プラットホームの立ち食いラーメン

彦作村長は宮仕え時代に帰宅ラッシュの車内から時々このラーメン屋をながめていた。サラリーマンや競馬新聞を持ったオッサンなどが旨そうにラーメンをすすっていた。北千住の帰り、ふと立ち寄ってみたくなった。下り3、4番線の暗いプラットホームに途中下車。白地の電光看板にピンクの文字で「らーめん」という文字が浮かんでいた。その右上に小さく「西新井」。オッサンや30代くらいの職業不明の若い男、それにかなり年配のおばさんがラーメンをすすっていた。村長の好きな世界。

        
          西新井①  
          老舗の味わい

「カレーライス」にもひかれたが、自販機で「ラーメン」(450円)を押し、食券を渡す。社員食堂のおばさんのような女性が3人でフル回転していた。大きな湯鍋から平ザルで麺を湯切りする姿は堂に入っている。5~6分ほどで「ラーメン」がひょいと置かれた。ラーメンと言うより懐かしい東京の中華そば。ドンブリも正統派の東京ラーメンどんぶりである。湯気とともに懐かしいいい匂いが立ち上る。

          西新井③ 
          東京の中華そば!
          西新井④ 
          少し縮れた細麺

醤油ベースのスープは濃いめの色。黄色い細麵がその下に控えている。ナルト、チャーシュー、ワカメ、刻みネギがいい彩りで配置されている。できればワカメでなくホウレンソウで、四角い海苔とゆで卵の輪切りが乗っかっていたら、村長は恍惚オヤジになるのだが、ぜいたくを言っている場合ではない。

          西新井⑤ 
          しっかりしたチャーシュー

スープは少なめだが、一口すすってみると、実にまろやかな味わい。見た目の濃さとのギャップが心地いい。細麺はやや縮れてはいるがほとんどストレート麵で、コシもいい具合にある。チャーシュー、ナルトも旨いにはうまいが、メチャウマというわけではない。だが、風情という隠し味がある。これが絶妙なのだ。昭和40年代からそのままタイムマシンでひょいと出前されたような味わい。過去から「オメーン一本!」取られた感じ。あっという間にスープまで完飲みしてしまった。じんわり感とほどよいボリューム。

つい最近、50円値上げしたようだが、それでもラーメン一杯450円という価格はありがたい。ちょうどいい腹加減で、下り電車を待つ。妙齢の女性が歩いてきた。ラーメン一杯のドラマが始まる・・・はずはない。バカ者め。


本日の大金言。

プラットホームには乗降客の数の分のドラマがある。そこにラーメンのドラマだってあるはず。半沢直樹よりもラーメン好きの小池さん。




                       西新井⑧ 

下町・立石の珍なる「揚げだんご」

 東京・立石と言えば、下町の居酒屋王国として北千住と並び称される存在だが、あんこマニアでもある彦作村長は「秘密ペンクラブ」の編集会議の帰りに、ふとここで「甘味屋」を探してみることにした。大型カップル台風が日本列島に近づいているのにいい気なものである。京成立石駅で降りて駅周辺をぶらぶらする。たい焼き屋の「たい夢」などもあったが、村長のセンサーにビビビとくる甘味屋がない。

                わかば10 
         左党の街の甘い止まり木

立石はこと和菓子に関してはハズレだな。あきらめかけていた時に、手書きで「当店名物 揚げだんご」と書かれた看板と「大人気 草もち」の看板が目に入った。敷居の低い、いかにも下町のべたな店構えが気に入った。それが「味処 わかば」だった。

         わかば① 
         ようやくめっけ
         わかば② 
         揚げだんごって何?

「揚げだんご」は中華料理の点心のイメージが強いが、この店の「揚げだんご」はそんなものではなかった。竹串で刺された4個の団子(だんご)は、一見すると焼きだんごだが、油で揚げられ、特製の醤油だれをくぐらせたもの。彦作村長はかような団子を見たのは初めてだった。1本90円。すぐに2本買って、揚げたてを店の横の雑然とした縁台で賞味することにした。「草もち」(1個110円)を3個ほど手土産にすることも忘れない。

         わかば⑧ 
         むふふふ
         わかば⑨ 
         イケてる

「揚げだんご」は外側がカリッとしていて、中がもちっとしていた。焼きだんごと明らかに違う食感。醤油だれはダシの効いたいい風味で、見た目以上に美味かった。表面の焦げ目とブツブツ感がどこか人の手を感じさせて悪くない。
「この揚げだんご、珍しいね」
二代目なのか若い店主に尋ねてみた。
「うちのオリジナルなんですよ。テレビで取り上げられたこともあります。団子は上新粉を使って、二度揚げしてるんですよ。醤油だれにも工夫がありまして。でもそれは秘伝です」
香ばしい醤油の香りの谷間からどこか鰹の出汁のような甘みが鼻腔と口中に残る。村長にとっては、ささやかだがB級グルメの新たな発見だった。

          わかば① 
          本日中にお召し上がりください
          わかば④ 
          自然な風味

ウマズイめんくい村に帰ってから、「草もち」を賞味。賞味期限が本日中で、添加物類などは使っていないようだ。草もちは春にとれたよもぎを瞬間冷凍したものを使っているので、このシーズンでもよもぎの香りがする。中の粒あんはぎっしりと詰まっていて、北海道産小豆を使用した自家製。柔らかく炊かれていて、ほどよい風味と甘さ。悪くない。洗練さはないが、手づくり感にあふれた生活感のある生菓子のうまさ。居酒屋の街・立石の敷居の低い和菓子屋に焼酎で乾杯したくなった。


本日の大金言。

東京の下町には人の手の夢がまだ残っている気がする。数字のビジネスではなく、地に足の着いた物づくりの匂い。地道な手作業が日本のよき伝統であることを忘れがちだが。




                     わかば④ 



那須高原人気カフェの卵サンド

 那須高原の「SHOZO CAFE(ショウゾウカフェ)」といえば、今や那須を代表するシャレたカフェで、テラスを備えた建物はもちろんのこと、自家製のスコーンやケーキ類も充実していて、ここでコーヒーを飲みながらスイーツ類を賞味し、別荘地の世界を満喫する。それは那須高原において、ある種の夢の定番となっている。だからいつも混んでいる。彦作村長も2度ほど入れずに「ケッ、人気カフェなんて」などと毒づいて別の店に行ったほど。

          ショウゾウ① 
          那須高原の超人気店
          ショウゾウ12 
          紅葉が始まっていた

だが、この日は平日ということと台風の影響もあってか、比較的駐車場が空いていた。むろん、入ることにした。といっても店内は3分の2くらいの混み方。若いカップルや女性客が多い。時刻は12時50分。
「そばとかラーメンばかりじゃあきちゃうわ。ちょっと高いけど、たまにはショウゾウでランチしたいわ」
コーヒー好きの村民2号のたっての希望で、久しぶりに天上煽がゆっくりと回るウッディーな世界に腰を下ろした。BGMも癒し系で、落ち着く。

         ショウゾウ② 
         最高の雰囲気

ランチメニューの中から、村長は「焼きたて卵のサンド」と説明書きされた「サンドウィッチセット」(1200円)を選んだ。飲み物は「アッサムミルクティ」にした。村民2号は「ピザトーストセット」(1000円)。飲み物は「森ブレンド」。10分ほどで白い磁器皿に円形にきれいに盛り付けされた5切れの卵サンドが登場した。「アッサムミルクティ」は陶器製の黄色いポットに入っていて、3杯分くらいはありそう。那須高原のミルクも「足りなかったらおかわりしてくださいね」と女性スタッフ。ふと見ると、ブリキ製のアンティークな入れ物があり、開けてみると2個ずつ紙に包まれた角砂糖が納まっていた。さり気ないところにもこだわりが行き届いている。これも人気の秘密なのだろうな。村長は改めて感心しきり。

         ショウゾウ④ 
         見事なデザイン力

卵サンドは関西風の卵焼きで、地場のチーズ、トマト、キュウリ、それに珍しい大葉がサンドされていた。まずはひと口ガブリ。味がかなり薄味。パンはまずまず。東京有楽町「はまのパーラー」の卵サンドを食べている村長の舌には、どこか物足りない。焼き卵は那須御用卵を使っていて、見事な色味といい風味。だが、きっちりと焼いてあり、好みの問題かもしれないが、もう少し半焼きの方がいいと思う。卵のジューシーさが足りないのは、そのせいかも。よく見るとバターもマヨネーズも気配がない。

          ショウゾウ⑥ 
          まずはガブリ
          ショウゾウ⑦ 
          関西風の卵焼き

パンには真っ赤な梅ペーストが薄く塗ってあり、それが唯一の味付けのようだ。素材勝負ということなのか。見た目とヘルシーさを重視した卵サンドで、それはそれで一つのポリシーではあると思う。だが、村長には物足りない。「アッサムミルクティ」が美味しい分、少々残念。見事にデザイン化された卵サンドの70点の空虚感。もう一種類コテコテの卵サンドを作ってほしいくらいだ。

「ピザトーストはうまいわよ。コーヒーも文句なし。何よりもこの雰囲気よ。少々高くてもずっといたくなるわ」
「何だかお尻がムズムズしてきたよ。村長はすぐにB級の店に行きたい」
「いいわよ。1時間後に迎えに来て。ここでゆっくりと絵本を読んでるから」
「・・・・・・」


本日の大金言。

きれいと美味いは線引きが難しい。グルメ道においておや。そこにどこか職人の匂いがあるかどうか。


 


                     ショウゾウ11

「スープ入り焼きそば」の行列

 このところ体調に異変が生じている彦作村長は、それを口実に栃木・那須に湯治に出かけることにした。ウマズイめんくい村の財政危機などどこ吹く風である。そろそろ紅葉でもある。台風27号も接近しつつある。
「村長の本当の狙いはスープ入り焼きそばでしょ?」
ギクリ。村民2号をダマすことは不可能のようだ。
「うむ。前回は那須高原SAでスープ入り焼きそばを初めて賞味したが、ひどいものだった。本物を食べなければ、スープ入り焼きそばに失礼というもの。このままでは末代まで禍根が残る」
「苦しい理屈ねえ」

で、ポンコツ車で東北道をひた走り、西那須野塩原インターで降りて、国道400号を塩原温泉方面へ飛ばした。時計を見ると午後1時ちょい前。「スープ入り焼きそば」は戦後から塩原で食べられていたB級グルメ。ラーメンのスープに焼きそばを入れたもので、どう考えても、ミスマッチで、到底うまいとは思えない。だが、2軒ある元祖の店(これもヘンな話だが)は、メディアでの評価も高く、一度食べるとヤミツキになるという人も多い。

          こばや食堂①  
          こばや食堂

彦作村長はその2軒、「こばや食堂」と「釜彦」を入念に調査した。こばや食堂のほうが100円安かった。決まり! 台風の影響か、雨が降り始めていた。塩原温泉郷の途中に「こばや食堂」の目立つ建物が見えた。白地の壁にオレンジ色で「スープ入り焼きそば こばや食堂」とクールな表記。駐車場は混み合っていて、道路沿いの店の前には傘をさした長い行列ができていた。

         こばや食堂 
         雨にもマケズ

村長はブツブツ文句を言いながらも並ぶことにした。15分ほどで中に入れたが、そこにも待ち人が。何という人気だ。さらに10分ほど待って、小上がりの座敷に腰を落ち着ける。カウンター席(5人)と4人用テーブル席が5つほど。おばちゃんスタッフが忙しそうに動いている。むろん、「スープ入り焼きそば」(並600円)を注文。メニューには「しょうゆラーメン」(500円)や「チャ-ハン」(600円)「カレーライス」(600円)などもあるが、ほとんどのお客は「スープ入り焼きそば」を注文していた。

         こばや食堂② 
         ミスマッチ?

さらに20分ほど待たされて、ようやく外側が朱色の定番のラーメンどんぶりに「スープ入り焼きそば」がやってきた。見た目は野菜ラーメンのようだが、ほのかにソースの甘い香りが立ち上ってくる。具はキャベツと豚肉のこま切れだけ。

         こばや食堂③ 
         甘い匂い
         こばや食堂⑥ 
         コシのある細麺
         こばや食堂⑦ 
         意外な絶妙

まずはスープをひと口。意外にもまろやかだった。鶏ガラなどの出汁が効いた醤油ラーメンスープ。そこにソース焼きそばを入れている。甘いソースが見事に溶け込んでいる。麵は黄色みがかったストレート細麺で、コシがあり、いい歯ごたえだった。全体が絶妙なバランス感覚。那須高原SAで食べたものとは比較にならない。イケる。じんわりと染み入るうまさ。B級の味としては合格。

「キャベツは高原キャベツで味も量もいいし、想像していたよりソースの風味に違和感がない。来てよかったよ」
「だけどこの混み具合はどうにかならないかしら。車が通るところを外で待つのもつらいわ」
「それはしょうがない。一つ言わせてもらえば、肉が少なすぎ。豚こまなんだから、あと30グラムは入れてもいいと思うよ」
「もう一つの店、釜彦は豚肉ではなく鶏肉らしいわ。700円とここより100円高い」
「よし、ハシゴするか」
「お一人でどうぞ」
「・・・・・・」


本日の大金言。

スープ入り焼きそばというより、焼きそば入りラーメンが実態に近い。そのうちスパゲティラーメンが誕生するかもしれない。




                     こばや食堂10  


長屋古民家の味噌プリン

 「そこがみそプリン」というギャグみたいなプリンを見つけたのは、ちょうどティータイムだった。「富士屋」のカレーライスを堪能したウマズイめんくい村の怪しい一行は、「富岡製糸場の世界遺産登録へ」で盛り上がる富岡市内をぶらぶら歩いた。歩数計が約8000歩を指し示したあたりで、「そろそろコーヒーが飲みたくなったわ。さっきいいカフェがあったわ。目を付けといたのよ」と村民2号。食に関しては抜け目がない。

街のはずれからもう一度富岡製糸場方面に向かった。
「ここよ、ここ」
それが明治8年(1876年)建築の古民家をリフォームした「カフェ ドローム」だった。
元々は富岡製糸場の工員が住んだ長屋で、そのうちの一軒を原形を残しながらリフォームしたもの。その入り口に「そこがみそプリン」のポスターが貼ってあった。村長はプリンは嫌いではない。かつて「なめらかプリン」にハマり過ぎて、血糖値が「要注意」に上がったほどだ。

          カフェドローム① 
          この奥が別世界

入り口はさほどの感動はなかったが、中に入ると、天井から床まで見事なリフォームぶりで、2階もあり、明治8年当時のままの梁(はり)や土壁が残されている。アンティークなテーブル・椅子類はイタリア製。陶器や小道具類はわざわざフランスのリヨンまで買いに行ったという。「ドローム」という店名も、富岡製糸場のお雇いフランス人ポール・ブリュナの出身地から取ったというこだわりぶり。BGMはシャンソン。女性スタッフは黒のベレー帽に白いシャツ姿で、何やらパリか東京・青山あたりにでもいるような錯覚に陥る。お尻のあたりがムズムズしてくる。

         ドローム11  
         和洋の出会い
                ドローム12 
          2階が明治8年の世界

村長は「そこがみそプリン」(単品450円)を注文。村民2号は「ブレンドコーヒー」(500円)。やがて透明なガラスの容器に入った「そこがみそプリン」が登場。牛乳も卵も砂糖も味噌もすべて地産地消にこだわったもので、プリンは一番底のカラメルソースに自家製の味噌がブレンドされている。表面にはバーナーで焦がした砂糖がパリッとした茶色い膜を作っていた。生クリーム、抹茶の粉、砕いたナッツ、その下に横たわっているクリーム色のプリン。それらが透明なガラスの容器の中でポエムな世界を作っていた。

         ドローム⑦ 
         そこがみそプリン
         ドローム⑧ 
         利休もビックリ?
         ドローム10 
         味噌の香り

ますはひと口。プリン自体は甘めでクリーミィで、まずまずの美味さ。底の味噌カラメルソースをすくい取る。プリンと一緒に舌の上に運ぶ。味噌の風味がぶわんと広がった。意外に合う。悪くない。甘めのプリンと味噌カラメルの塩分を含んだ甘みが調和している。まるでスイーツ版富岡製糸場ではないか。ガラスの中の小さな和洋の融合。

「コーヒーは雰囲気込みでうまい。この店はこの建物とインテリアが秀逸。プリンもコーヒーも引き立て役に過ぎないわ。村長と私の関係と同じ。そこが本当のみそ、というわけね」
村民2号がクールに言い放った。


本日の大金言。

古民家カフェは全国あちこちにあるが、明治8年建築の珍しい長屋仕立ての古民家は貴重だと思う。投資に見合う回収の行方も見守りたい。


  
                       ドローム 


「世界遺産級」カレーライスとあずきアイス

 「富士山に続け」と、世界遺産登録を目指してどんどん盛り上がっている群馬県・富岡製糸場。まだちょんまげが横行していた明治5年(1872年)に明治政府の肝いりで建てられた、レンガ造りの洋式工場である。木の骨組みにレンガを積むという珍しい工法で、フランス人の技術協力を得て完成したもの。現在は国指定の重要文化財でもある。ウマズイめんくい村の怪しい一行は、「世界遺産登録前」に覗くことにした。もう一つの目的はB級のうまいもの! こっちが本命だが・・・。

          富岡製糸場② 
          富岡製糸場

ボランティアのガイドが付いて、場内を案内してくれる。まだ「ほとんど江戸時代の富岡」によくもまあ、こんなすごいものを作ったなあ、と脱帽したくなる構内を見終わってから、怪しい一行は、目を付けていた「冨士屋」まで歩いて行った。「高田食堂」も有名だが、村長のセンサーは「富士屋」を指していた。B級地下組織からのメールで「ここのカレーライスとあずきアイスは絶対に外すな」という情報を仕入れていたからである。

         富士屋① 
         世界遺産級「富士屋」

富士屋食堂の外観にまずシビれた。ペンキ塗りの看板はすっかり剥がれており、「喫茶 富士屋」という文字が目を凝らすと何とか見える程度。喫茶というより食堂と言った方が実態に近い。紺地のノレンをくぐると、そこは昭和30年代のまま時間が止まった世界だった。本物のレトロ。ガランと広いセピア色の空間に、テーブルが6つほど。今では珍しいタイル張りの仕切りのレジとその奥には広い厨房。昔美人が3人ほどと高齢のご主人の姿がちらりと見えた。

          富士屋③ 
          うーむの世界

ちょうど昼時。村長は「カレーライス」(700円)を注文。村民2号も同じもの。さらに、「あずきアイス」(200円)も食後にと頼んだ。15分ほどで「カレーライス」がやってきた。ひと目でそのカレーライスが只者ではないと直感した。どっかと乗っかったカレー。鈍色がかった膜が張っているような、ドシッとした存在感。福神漬けがどっさりと添えられ、いい匂いを発散していた。昭和30年の創業からまったく同じ作り方で、小麦粉を炒めて、カレー粉を加え、ルーを作る。タマネギと豚バラ肉を秘伝のスープでじっくりと煮込む。その気の遠くなるような繰り返し。

         富士屋④  
         ドヤ?本物でっせ
         富士屋3 
         あーん
         富士屋4 
         ライスがいい

コップに入ったスプーンで、まずはひと口。厚みのある懐かしい味。辛さはそれほどない。タマネギと豚ばら肉とルーのバランスが絶妙で、ところどころに浮いている焦げ玉が、昔ながらの手作りのカレーライスってこういうもんだぜ、とささやいているよう。炊き立てのライスの旨さも並を超えている。食べ終えて余韻に浸っていると、村民2号が、「あずきアイス、忘れてるんじゃない?」

                富士屋⑧ 
           新大陸、発見!

「すいません、忘れてました」と昔美人。だが、そのあずきアイスは特筆ものだった。二段重ねになっていた。シャーベットのようなざらりとした食感で、自家製あずきのすき間から、ミルクとバニラの香りがふわりと立ち上がってきた。甘さは控えめ。美味い。上野みつばちの小倉アイスに勝るとも劣らない。正直にそう思った。これも創業当時のままの作り方だそう。200円という価格も好感。  

         富士屋11 
         ざらりとした絶妙

「富岡製糸場の女工さんがよく食べに来たらしいわよ。カレーは本当に懐かしい味ね。でも炒飯についてくるようなスープは合わない。それを止めて、650円にしてくれた方がいいと思うわ」
「確かに。でも、あずきアイスには驚いた。こんな場所にかようなあずきアイスが隠れていたとは。世の中は広い」
「今度来たら、焼きそばも食べてみたいわ。隣の客が旨そうに食べてたから」
食欲の秋は始まったばかりである。


本日の大金言。

富岡製糸場と同時に富士屋も世界遺産に登録できないものか。B級の食の世界遺産。




                      富士屋⑦ 

下町が滲みる「鴨せいろ」

 超大型台風26号が来る前に、彦作村長はぎっくり腰を前後させながら、京成線・千住大橋駅周辺をウロ歩きすることにした。この一帯は再開発の波が押し寄せているが、昭和が踏ん張るように残っている。「ときわ」や「八ちゃん」など居酒屋も14~5軒ほどあり、すぐ近くを流れる隅田川と日光街道が往年の人の行き来を思い起こさせる。松尾芭蕉の「奥の細道」の句碑も近くにある。約324年前の元禄2年3月末、芭蕉は門人の曾良を連れて、みちのくへと旅立った。

         そば七① 
         奥のそば道

芭蕉がその時に詠んだのが「行く春や鳥啼魚の目は泪」。村長は「ウオノメハナミダ」という語感が好きで、それが魚なのか足にできる「魚の目」なのかいまだにわからない。そんなくだらないことを考えながら改札口を出ると、「ラーメン二郎」の前に並ぶ行列が見えた。そこだけ今どきの光景。へそ曲がりの村長はその行列を素通りして、その先にある「十六文そば そば七」のくすんだ、「今どき」に背を向けたようなそば屋を見据えていた。そこだけセピア色に見えた。

          そば七② 
         もったいないの極致?


「当店の一番人気 鴨せいろ」という文字。お世辞にもきれいとは言えない古い店構え。だが、苔(こけ)色のノレンは清潔で、村長のセンサーにビビビと反応した。いい職人がいそうな気配。「営業中」の札がガムテープで止められていたことも気に入った。これぞもったいないの精神。

         そば七10   
         いいそば職人がいる

店は12席のカウンターだけで、目の前が調理場になっていた。白衣姿の店主と娘さんなのか若い女性と切り盛りしていた。下町のいい匂い。店主の立ち姿に、いい食職人特有の背筋のピンとした清潔感があった。多分そば職人一筋。「かつ丼」(800円)もうまそうだったが、ここはやはり「鴨せいろ」(800円)。目の前には見事な桧の蓋の大釜があり、湯気が立ち上っている。そばを茹で上げ、すぐに冷水で〆る。隙のない作業。12~3分ほどで、「鴨せいろ」がやってきた。

         そば七③ 
         人気1位
         そば七⑦ 
         細切り
         そば七⑧  
         鴨つけ汁の旨さ

そばは手ごねの更科系細切りだった。コシはまずまず、それを熱々の鴨つけ汁に付ける。この鴨つけ汁が絶品だった。出汁と合鴨の旨味がやや甘めのかえしと絶妙に溶け合っていた。ざっくりと切られた白ネギがそこに加わって、ゴロリゴロリと沈んでいる合鴨から出た脂がキラキラと浮いている。合鴨は柔らか煮。そこに白ネギの甘み。細切りの繊細なそばにつけ汁がよくからむ。こういうのをヤミツキになりそうな味というのかもしれない。

あっという間に食べ終わり、そば湯を飲む。お代を払う時に、「うまかった」と率直に言うと、店主がちょっとだけうれしそうな顔をした。行く秋や鴨食べ亀の目は泪。だめだこりゃ。


本日の大金言。

新しくすればいいというものではない。ガムテープの真実。その裏に深い人生があるかもしれない。






                      そば七⑨ 

立ち食い「常陸秋そばと安納芋」

「常陸(ひたち)秋そば」はそば好きの間でも評価が高い。彦作村長も古河市のそば屋で一度だけ食べたことがあるが、素朴な色味と甘みの香る風味で悪くなかった。 「結い市」で賑わう茨城県結城市。「アド街ック天国」(テレビ東京)では「そば 赤ざわ」を常陸秋そばを食べれる店として紹介していた。ミーハーな村長は足を運んだ。だが、店の前は大行列。改めてテレビの影響の大きさに驚きながら、へそ曲がりがむくむくと顔を出した。「新そば前なのに並んで食べるほどではない。バカバカしい」などとほざいて、その場を立ち去った。

ポンコツ車を飛ばして、「JA北つくば」が運営する農産物直売所「きらいち」へと移動した。野菜好きの村民2号は鼻歌を歌っている。時刻は午後1時半過ぎ。広い駐車場に車を止めて、ふと見ると、「常陸秋そば」の幟(のぼり)が見えた。ン? 近づいてみると、「きらいち」の立ち食いそば屋。風雪にさらされた簡易テーブルも並んでいた。まさか。

         きらいち① 
         まさかの常陸秋そば

「かけ・うどん 300円 天ぷらそば・うどん 350円」という実にシンプルなメニュー。中でおばちゃんが2人、「きらいち」のレジ兼任のようで、忙しそうにしていた。まるでローカルな駅そばのような雰囲気。
「あのう、本当に常陸秋そばなの?」
「ええ、そうですよ。でも生そばを冷凍したものですよ。新そば? 今月末ですよ」
即決。この際、常陸秋そばなら冷凍でもいい。立ち食いそばは村長の世界でもある。さっきの態度は一体なんだったのか、村民2号があきれる変身ぶり。

         きらいち④ 
         B級の素晴らしき世界
         きらいち⑤ 
         バカにしないでよ

「天ぷらそば」(350円)を注文。手間がかかるのか、10分ほど待たされて、「常陸秋そばの天ぷらそば」がやってきた。そばは挽きぐるみのようで星があり、冷凍にしてはコシもあり、立ち食いのレベルとしては申し分ない旨さ。ツユもダシがよく効いていてやさしい味。天ぷらは赤い干しエビが一杯入っていて、表面はサクッとしているが、時間が経つとグズグズっと崩れ落ちた。天かすも多すぎる。だが、お代も含めてB級の旨さとしてはピカイチだと思う。刻みネギなどはさすがJAと思わせる鮮度だった。かまぼこ2枚も悪くない。

ふと、村民2号の姿が消えた。と思ったら、入り口で実演販売していた「石焼きいも」を手にしていた。
「安納芋(あんのういも)って書いてあったからびっくりしたわ。種子島でしか栽培されていない幻のさつまいもなのよ。それを石で焼いていた。これは凄いことよ」
村民2号が珍しく興奮していた。小さいのを2本、220円で買えたと喜んでいる。

         きらいち⑨ 
         まさかの幻のさつまいも

すぐに試食。1か月寝かせてから、1時間くらいかけて石で焼くという「きらいち」の安納芋は、熱々で、割ると、中からはちみつ色の黄金の世界が現れた。そのビジュアルにまず驚く。さらに、その味に驚く。ホクホクとは違う、ねっとりとした濃厚な甘み。スイートポテトを食べているような美味さだった。

         きらいち10 
         オレンジがかった黄金色
         きらいち11    
         ふうふう

「今日の最大の収穫はこれね。偶然とはいえ、まさかここで安納芋に出会えるとは。しかも焼き方も手間ひまをかけている。ツイてるわ。どう、村長?」
「種子島って、鉄砲ばかりじゃないんだね。サツマイモ苦手の村長もこの甘い一撃にはやられたよ。バタリ・・・」
「だめだこりゃ・・・」


本日の大金言。

一瞬先に何が起きるか、誰にもわからない。不運の後に幸運が控えていることだってある。






                     きらいち13 

味噌蔵で味わう絶妙「みそおでん」

 たまたまテレビで「アド街ック天国」(テレビ東京)を見ていた彦作村長は、目が釘付けになった。「蔵の街 茨城県結城(ゆうき)市」を取り上げていた。「蔵の街大好き」の村長だが、結城市には行ったことがない。「結城紬の街」くらいの印象しかなかったが、出てくるわ出てくるわ、江戸から明治にかけて建てられた見事な「見世蔵」が。これは行くっきゃない。

         結城市① 
         見世蔵の街

「見世蔵(みせぐら)」とは表が店舗で奥が住居になっている蔵のことで、人口5万ほどの小城下町・結城市に、なんと30もの見世蔵がある。上州の実家に蔵がある村民2号にとっても、蔵は特別な存在でDNAに刷り込まれている。次の朝、青いポンコツ車が結城の街をウロウロしていた。たまたま3連休で「結い市」が開かれていた。観光客で結構な賑わい。車から降りて、街中をぶらぶらする。蔵の街・川越を凝縮したような街並みだった。

         秋葉③ 
         秋葉糀味噌醸造
         秋葉④ 
         いい匂いが・・・

すると、いい匂いが村長の鼻のあたりをくすぐった。甘い味噌の匂い。「みそおでん1皿2本 150円」と書かれていた。天保3年創業の「秋葉糀味噌醸造」の見世蔵だった。「国登録有形文化財」の指定も受けている現役の見世蔵。観光客で混み合っていたが、突撃。もみくちゃにされながら、1皿ゲットした。黒光りした見事な甘だれ味噌にくぐらせたこんにゃくは白と黒の2種類。茨城はこんにゃくの産地でもある。     

                 秋葉12
 
           味噌蔵の奥の別世界

奥は空いていて、そこに巨大な大釜やふかし桶が昔のままの姿で置いてあった。その一角に腰を下ろして、湯気が立った味噌おでんをがぶりと行った。甘だれ味噌は無添加の伝統味噌に砂糖、みりん、卵の黄身などを加えて作ったもの。こんにゃくのどっしりとしたボディと濃厚な甘だれ味噌は絶妙な旨さだった。黒こんにゃくにはひじきが練り込まれていて、風味と歯ごたえがひと味違う。味噌おでんにうるさい村民2号も、「これは番付で言うと大関格ね。あと一歩で横綱というところ」と奇妙なホメ方。

         秋葉⑨ 
         甘だれみそとこんにゃく
         秋葉⑧ 
         黒こんにゃくの食感

天保年間の味噌蔵の奥で味わっていると、遥かなる江戸・明治にタイムスリップした気分。しばらくの間、妄想の世界に漂っていると、村民2号が声を上げた。
「あら、村長、シャツにべたっと味噌が付いてるわよ」
我に返って、見ると、紺色のシャツの胸元にべっとりとおでん味噌が付いていた。
「さっきもみくちゃにされた時に付いたのね。ほんとドジなんだから」
「最後にミソが付いちゃった・・・」
「村長の味噌漬けなんて、シャレにならないわ」
「・・・・・・」


本日の大金言。

味噌蔵には心を落ち着かせる何かがある。人生の壁にぶち当たったときは味噌蔵を覗け。味噌は人生の味噌に通じている。なんてね。




                  秋葉① 

「天使の食卓」の人気カレーパン

 軽井沢で「幻の三笠ホテルカレーパン」1個(350円)の見かけ倒しに失望した彦作村長は、しばらくカレーパンから遠ざかった。だが、埼玉久喜市・菖蒲モラージュ1Fにある「アンジェターブル」で再びハートに火が付いた。「ただいま揚げたて」というメッセージとともに、大きな鉄鍋に美味そうなカレーパンが並んでいた。「アンジェターブル」は「ポンパドウル」の姉妹店で、東京・大泉学園前や東陽町にも店がある。村長はここのフランスパンが大好きで、たまに買いに行ったりする。値段が内容の割に高くないのも好みだった。

         アンジェターブル② 
         アンジェターブルの灯り
         アンジェターブル④ 
         誘惑

「カレーパン」は1個178円。三笠ホテルカレーパンが約2個買える値段。、彦作村長の考えるカレーパンの値段は200円が上限で、その適用範囲だった。さっそく3個買って、「揚げ立て」を賞味することにした。カレーパンの良さはどこでも食べれること。ショッピングモールの雑踏の中でソファに腰を下ろして、紙袋を開けて、ガブリと行く。

         アンジェターブル⑥ 
         もそっと近くに

まず外側のパン生地のサクサク感に軽く驚く。カレーパンは油でベチョッとしたものも多い。それはそれで村長の好みの範囲だが、このふっくらと揚げられたサクサク感は際立っている。油の余分な浸透がない。揚げ立て故か、空洞も。中の具は野菜カレーで、ジャガイモ、人参、タマネギ、豆類などの姿が見える。濃厚でマイルド。辛さが抑え気味だが、しばらくすると、口中にスパイシーさが広がってくる。イケる。

         アンジェターブル⑦ 
         かじられたい・・・

パン生地のサクッとしたもっちり感について店員の女性に聞いてみると、「実はフランスパンの生地を使っているんですよ。食感が違うのは多分そのせいです。中のルーにはチーズも入れてるんですよ」とひと味の秘密を教えてくれた。アンジェターブルはポンパドウルと同じパン作りをしていて、冷凍生地を使わずに、その店その店でパン生地の仕込から成形、発酵、焼き上げまでの複雑な工程を行うのが特徴。その工程をガラス張りにして、ショーのように見せている。それを楽しみに見ている子供も多い。

         アンジェターブル⑧ 
         6時間後
         アンジェターブル⑨ 
         かじりたい・・・

残りの2個をウマズイめんくい村に持ち帰って、半日後に賞味してみた。外側のサクサク感は時間が経ってもほとんど変わらなかった。オーブントースターで温めると、その美味さはさらに増す。
「この味なら人気があるのはよくわかるわ。具も肉を使っていないのに濃厚なのは、その分を豆とチーズが十分に補っているからだと思う。でも、一つだけ。ルーの量がもう少し多い方がいい」
と辛口の村民2号。
「そうだね。具をあと10%増量したら、ほとんど完ぺきだね」
と村長。
「値段もそのままでね。アンジェターブルって天使の食卓という意味らしいわ」
「我々も天使ってこと?」
「村長が天に昇る日が近いって意味かも」
「・・・・・・」


本日の大金言。

カレーパンも日本人の天才的な変換能力の産物。鹿鳴館文化のB級グルメにおける華麗なる成果。




                 アンジェターブル12

シフォンケーキと煮小豆の至福

 夕暮れの東京・北千住は風情がある。TDU(東京電機大学)のモダンな高層ビルができた東口商店街方向から駅の高架を見た彦作村長は、思わずカメラのシャッターを切ってしまった。夕焼けが青空に滲み込み始めていて、下町の古い商店街とのコントラストがクールだった。気分だけ着流しの村長はその足で、「和雑貨・カフェ 大黒屋茶論」へ。夜が帳を下ろすまで、ここでスイーツを賞味しようかと思ったからだ。いい気なものである。

         大黒屋         
         甘いオアシス

久しぶりなので、店がなくなっていないか心配だったが、入り口のアプローチにはアズキナシの木が生い茂り、「大黒屋」と墨文字で書かれた木の立て看板。癒し系の開放的でシャレた店は健在だった。入ると入り口周辺は陶器類や衣類など和雑貨が置いてあり、その奥がゆったりとしたカフェになっている。吹き抜けの天井。中二階もあり、そこでも食事ができるようになっている。

         大黒屋③ 
          シフォンと煮小豆の出会い

彦作村長はメニューの中から「シフォン あ・ら・モード」(あずき 550円)を注文した。セイロンティー(セットにするとプラス300円)も一緒に。見渡すと客は女性ばかりだった。何となくご近所の主婦が多い。10分ほどで白い陶器皿に乗った「あ・ら・モード」がやってきた。オーガニック系のシフォンケーキ2切れといい色味の小豆あん、生クリーム、それに抹茶アイスという構成。

          大黒屋④ 
          ま、お座りくだされ
          大黒屋⑤ 
          食べておくんなまし
          大黒屋⑦ 
          ふわふわ

この店のスイーツの売りは、シフォンケーキと自家製の煮小豆。シフォンケーキは名古屋の「フレイバー」から焼き立てを取り寄せているという。「バターやマーガリン、サラダオイルも使用してない」そうで、卵白とメイプルシロップで丹念に手作業で作ったものだそう。

確かに油を使っていないのにふわふわとしていて、のびやかで、しかもしっとり感もある。メイプルの甘くていい匂いが立ち上がっている。だが、あんこマニアの彦作村長の狙いは自家製の煮小豆。見た目も風味も上出来だった。甘めだが塩分もいい具合で、大納言小豆のしっかりした食感ととろみがフワーッと広がった。その食感が絶妙だったので、女性スタッフに聞いてみると、「北海道産の小豆と大納言を一緒に煮るとこうなるんですよ。仕入れ先の築地のおばあちゃんから教わったんです」と教えてくれた。ざらめと三温糖と上白糖の3種類をブレンドしているというのもかなりのこだわり。

          大黒屋⑥ 
          大納言の絶妙
          大黒屋⑧ 
          ハアハア

シフォンケーキに小豆と生クリームも乗せて口に運ぶ。バニラとメイプルと煮小豆のハーモニーは悪くない。さらに抹茶アイスも乗せてみる。これが意外にも合っていた。抹茶アイスの緑の冷たさが、バラ色になりかけた村長の脳髄に新たな刺激を与える。気球に乗ってどんどん空高く舞い上がっていく。真下にオアシスが見えている。そんな気分・・・。
最後にひと塩。シャレたフォークとナイフがセットされたが、スプーンも欲しかったなあ。ナイフとフォークで抹茶アイスはすくいづらい。救われないアイ・・・ス。


本日の大金言。

スイーツの世界は和洋折衷。世界を驚かせた豆腐のスイーツなど、日本の変換能力という武器が未来を変えるかもしれない。

 


                      大黒屋11

佐野ラーメンの異端「青ねぎラーメン」

 ラーメン屋の数200店以上という関東のラーメン王国・栃木県佐野市。彦作村長はこれまで何度も足を運んでいるが、体験的にほとんどハズレはなかった。その意味で、全国のラーメン地帯の中でも群を抜いていると思う。その中で、気になる店がある。「青ねぎラーメンの店」として、メディアにも取り上げられる機会が多い人気店「太七」だ。ドンブリ一杯に敷き詰められた青ねぎのビジュアルは衝撃的で、一体どんな味なのか? ウケ狙いの匂いも感じる。

          太七① 
          正午前なのに20分待ち

「ちょいと青ねぎラーメンの正体でも探ってみるか」
彦作村長は畑仕事を中断して、杉作・・・じゃなかった村民2号を引き連れて、ポンコツ車を走らせた。
「佐野は久しぶりね。森田屋以来かしら。佐野ラーメンは青竹打ちの麺も鶏ガラスープもすっきしていて好き。最近は脂ギトギト系が多いけど、体にはよくないし美容にもよくない。値段も高すぎる。あれは中華そばの伝統から外れていると思うわ」
と、美容をほとんど気にしない村民2号。

予定より早く堀米町交差点近くの「太七」に到着。平日の正午前だというのに広い駐車場は3分の2くらい埋まっていて、店の前には7~8人ほど並んでいた。さすが人気店。20分ほど待ちでテーブル席に案内された。村長は目的の「青ねぎラーメン」(750円)と餃子(5個350円)を頼んだ。醤油と塩があるがむろん「醤油で!」。村民2号は「ラーメン」(580円)。

         太七④ 
         グリーングリーン?

10分ほどで餃子が到着。続いて「青ねぎらーめん」がやってきた。写真で見た通りの一面青ねぎ! その合間から湯気がゆっくりと立ち上っていた。中央には白ネギがひと掴み草原のうさぎのように鎮座していた。青ねぎは九州産の万能ねぎで、穴の開いた青ねぎラーメン専用のレンゲですくってみると、厚さは5~6ミリはありそうだった。何という恐るべき徹底。これはありか?

          太七⑤ 
          敬礼ーっ!


レンゲはもう一つあり、それでスープをすくって口に運ぶ。佐野ラーメンの本流のすっきりとしたシンプルな味わい。鶏ガラ出汁が奥に潜んでいる慎み深い醤油スープで、化学調味料の匂いはしない。青ねぎの下から麵を箸で取り出すと、見事な太縮れ麺が現れた。これまで食べた佐野ラーメンの中では一番太く、その平縮れ麺はひらひらしていて、しっかりとコシがあり、しかもツルッとしていて、いい食感だった。青竹打ちの佐野ラーメンとは違う。聞いてみると、「さぬきうどんの製麺機で作ったものを手打ちにしている」そう。うーむ。コシの強さとモチモチ感がどこかさぬきうどんと通じている。

         太七 
         太打ち縮れ麺
         太七⑨ 
         あっさり系のスープ
         太七⑧ 
         隠れてないで出てらっしゃい!

チャーシューやメンマ、ナルトが青ねぎの下に隠れていて、それを探し出す楽しみもある。だが、と彦作村長は思う。目玉であるはずの青ねぎがすべてを犠牲にしているのではないか? 個性的なラーメン故のパラドックス。旨味はそれなりに実感できるが、この青ねぎが次第に邪魔になってくる。「奥へどうぞ」と言われながら、入り口で終わってしまうような隔靴掻痒(かっかそうよう)の感じ。

「ラーメンの方がよかったでしょ? ラーメンは森田屋に負けないくらい旨いわ。餃子はフツーかな」
「色白は七難隠す、ではなくて、青ねぎは旨さを隠す」
「女房はへそくりを隠す」
「亭主は頭を隠す」
「笑えない」
「・・・・・」


本日の大金言。

際立った個性は他の長所を殺してしまう。だが、その個性が人を引き付ける。ラーメンの世界も同じだ。




                     太七11

「立石の伝説」鳥カラと再会

砂漠に陽が落ちる頃、東京の下町・立石は居酒屋の街に変貌する。彦作村長は約10年ぶりに京成線立石駅に降り立った。周辺の居酒屋をしばらく散策してから、目的の「鳥房(とりふさ)」を目指す。ここの「若鳥唐揚げ」は、あのケンタッキー・フライド・チキンが「立石だけは鳥房があるから出店を見合わせた」という、ウソか誠かわからない伝説を持っているほど。10年ほど前、今は京都にお住いの調布先生たちと10人ほどで繰り出したことがある。そのときの驚きは今でも覚えている。ジューシーなどという言葉では到達できない旨さだった。

          鳥房⑨
          時代劇の世界?

今回の立石ツアーはメディア界のカミツキガメ氏の音頭で、跳び蹴り女史も参戦した。彦作村長はこのところ「胃変」で節酒中だが、「鳥房」の名前に惹かれて、胃薬をがぶ飲みしてから参戦したのだった。「鳥房」は10年前とほとんど変わっていなかった。昭和の下町がそのまま残っている。駅前商店街の通りに面して表が鶏肉専門店、その並びが居酒屋になっている。江戸茶のくすんだ暖簾(のれん)と障子戸に大きな墨文字で「鳥房」と描かれている。何やら時代劇のセットの中にでも紛れ込んでしまったような錯覚に陥る。

         鳥房10
         下町価格

時刻は午後6時半過ぎ。10年前は行列状態だったが、混み合っていたものの、スッと入れた。座敷の手前を指定されて、そこに陣取る。ほぼぎゅうぎゅう詰め状態。瓶ビール(560円)と本命の「若鳥唐揚げ」(時価)を注文する。「今日は630円と650円、どっちにしますか?」と店の名物おばさん。「若鳥唐揚げ」は半身のデカさで、これを一人一人前食べることが暗黙のルールになっている。戦後すぐからのこの店の看板メニュー。「20円の違いは何?」と彦作村長。「肉の量です」「20円分?」「そうです」。このシュールな会話がたまらない。「では650円の方お願いします」。

          鳥房④
          この付き出しが絶品

注文してから揚げるので、時間がかかる。その間、付き出しの「鳥皮の甘辛煮」をつまむ。肉の付いた鳥皮と生姜を甘辛く煮たもので、これが絶品。ご飯が欲しくなるが、我慢がまん。20分ほど待って、何とも言えないいい匂いと共に「若鳥の唐揚げ」がズシンと登場。国産の若鳥を下味を付けてから三度揚げして出すという手間ひまをかけているそうで、見るからに旨そう光線を放っていた。半身揚げなのでそのデカさに目を見張らされる。キャベツの千切りパセリとレモンがいい合いの手で、レモンをギュッと絞ってから、熱々の半身を箸でさばく。ほとんど格闘。よだれが出かかる。

         鳥房⑤
         このデカさとボリューム
         鳥房⑦
         匂いが伝えられないのが残念

ガブリと行く。コロモはない素揚げで、まず表面のパリパリ感が秀逸。調味料は塩だけという話だが、村長はかすかに醤油と何かの隠し味を感じた。その何かはわからない。絶妙なジューシーで旨味がにじみ出てくる。だが、しばらくすると、村長の舌に変化が起きた。単調な味に飽きが来始めたのだ。どうしたことか? 10年前のあの感動がない。村長の舌がおかしいのか? カミツキガメ氏は完食。跳び蹴り女史は半分残し。何故だ? 村長は呆然と残った唐揚げを見つめた。だが、我に返ると、もったいないので、名物おばさんに「お土産」で包んでもらい、外に出た。立石慕情。次の暖簾の灯りが「おいでおいで」していた。


本日の大金言。

立石では長居をしてはいけない。サッと飲んでサッと切り上げる。この立石ルールを知らないと、親父や女将にとっとと追い出されるので注意が肝要。江戸っ子の原点のような気風に怒ってはいけない。





                  鳥房③

からむし織の里の十割そば

ウマズイめんくい村の怪しい一行はポンコツ車をぷかぷか吹かして、福島・奥会津にある昭和村の「からむし織の里」まで足を延ばした。彦作村長にとっては初めての地。本州では唯一ここでしかからむし織は伝承されていない。イラクサ科の宿根草を木の遠くなるような手順と技術で編み上げる。それで作られた布地は百年は持つと言われる。そのため値段も安くはない。

          昭和村①
          山奥の美味へ

午後1時半に到着。見渡す限りの山また山。彦作村長の本当の目的はからむし織よりも「十割そば」。昭和村は知る人ぞ知るそばの産地で、ここのそばを食べに首都圏からも大勢押し寄せる。今月末の新そば、紅葉の時期には全国のそば通が集まったりする。食い意地の張った彦作村長は、その前に事前調査することにした。広々とした敷地内にある郷土食伝承館「苧麻庵(ちょまあん)」があった。巨大な古民家風の建物を背景に、「手打ちそば」という幟がはためいていた。そこに草鞋を無ぐことにした。

         昭和村②
         モダンな意外性
         昭和村③
         安くはない

店内はモダンな造りで、木造と大谷石が見事に融合していて、手前がテーブル席、奥が座敷という構成。ぎっくり腰の村長はテーブル席に腰を下ろして、メニューの中から「せいろ蕎麦」(850円)を注文。さらに「天ぷら盛り合わせ」(小250円)も頼んだ。「高遠そば」を楽しみにしてきた村民2号だったが、残念ながら「売り切れ」。ブツブツ文句を言いながら、同じものを注文した。

          昭和村④
          素朴と洗練
          昭和村⑦
          素朴な十割そば

待つこと14、5分。見るからに素朴な茶グレーがかった、やや太打ちのそばとカゴに盛られた天ぷら盛り合わせ(小)がやってきた。薬味と抹茶塩も。十割そばは一番粉と二番粉、三番粉を使用しているそうで、つなぎはお湯と水だけ。まずはひと口。ゴワゴワした食感で、コシが強く、新そば前だというのに、風味もそれなりにある。洗練でななく山奥の香り。ツユは昆布とカツオの出汁が効いていて、あっさりとした薄味。悪くはないが、インパクトを求める人にはやや物足りないかもしれない。

          昭和村⑧
          地場野菜の天ぷら

天ぷらはこれで「小」かというほどの量で、コロモがカラリと揚げられていて美味い。しめじ、カボチャ、エゴマの葉など地場の食材が新鮮で、抹茶塩を付けて食べると、洗練すら感じる。そばの素朴と天ぷらの洗練。このアンバランスがモダンな建物と不思議に調和している。

「新そばの時期にまた来ましょう。今度は高遠そばを何としてでも食べたいわ。それとメニューにあった凍み餅も食べてみたい。からむし織は高いから断念するけど、その分は別のものでカバーしてね」
奥会津の青空と深い山々に心を洗われたウマズイめんくい村一行は、波乱含みで昭和村を後にするのだった。


本日の大金言。

雑踏の孤独もいいが、たまには山奥の孤独も悪くない。出来れば高速道路を使わずに曲がりくねった山道を走る。皮膚感覚が研ぎ澄まされる。




                      からむしの里②

東京ソラマチの仰天「ひやにく」

 東京スカイツリーがオープンして、約1年4か月以上経った。
「ぼちぼち東京ソラマチでも覗いてみるか。美味いものはあるかいな」
ミーハーなくせにへそ曲がりの彦作村長は、端唄(はうた)のようなミョーな口調で独りごちながら、東京ソラマチに向かった。

         業平③ 
         看板と暖簾

平日の午後2時を過ぎているのに、老若男女、外国人、都会風、田舎風・・・さまざまな人で賑わっていた。312もの店がテナントとして入っていて、活気があり、彦作村長はキョロキョロするばかり。ウエストヤードの3階「タベテラス」で「ひやにく」の暖簾(のれん)を見つけた。「ひや肉」といえば、三ノ輪の「角萬(かどまん)」。それが「業平(なりひら)」という店名で、「業平名物 肉そば」という看板を掲げていた。「角萬のひや肉」とは別物だが、その写真が美味そうだった。「石臼手挽き」という文字も食欲をそそった。ここで遅い昼食を取ることにした。

         業平④ 
         ビックリの登場
         業平⑧ 
         海苔と白髪ねぎの層

10分ほどで呼び出しベルがカタカタ振動して、村長は若い女性スタッフから「業平名物 肉そば」(850円)を受け取った。何というお姿か。刻み海苔(のり)が山のようにかかっていて、下が見えない!驚き桃の木スカイツリー。箸を入れて探ると、今度は白髪ネギの分厚い層。パラパラと白ゴマがかかっている。さらに分け入ると、ようやくそばが現れた。ややグレーがかって、挽きぐるみの黒い星が点々としていた。かなりの細切り。その圧倒的なビジュアルに感心した。変な例えだが、Kポップの少女時代のよう。

         業平⑤ 
         トンでる?

隣の器には豚肉とニラがたっぷり入った熱々のつけ汁がいい匂いを放っていた。まずはそばをつけ汁に付けてひと口。そばは多分手打ちではなく、機械切りだろう。コシはそれほど強くない。つけ汁は甘辛が強めで、出汁感もほどほどにある。何よりも豚肉の量が半端ではない。脂身もほどよくあり、柔らかさもある。たぶん肩ロース肉を使用しているのではないか。フツーにうまい。どんどん箸が進む。

         業平⑨ 
         食べておくんなまし

だが、食べ進むうちに、海苔とネギが多すぎて、そばの存在よりも上回っていることが気になってきた。ビジュアルを優先しすぎて主客逆転現象が起きているのではないか? うまいには美味いが、「角萬」のような野暮ったいがズシンとくるうまさではない。ウケることを計算しつくして作られた、きれいで人工的な肉そば。かすかにバーチャルの匂い。少女時代のファンでもある彦作村長は、これはこれでありだとは思う。観光客にもウケるだろうし、東京ソラマチという人工の街にはよく合っている。

80パーセントの満足感。20パーセントの空虚感。彦作村長はツマヨウジをくわえると、「MR.TAXI」を口ずさみながら、エスカレーターを降りて行った。日本は平和である。


本日の大金言。

「名物」という言葉は歴史と伝統があって、初めて実体を持つと思う。業平の肉そばが本物の名物になる日が待ち遠しい。




                      業平13 









「宇都宮餃子ドッグ」と「ジャズまん」

 餃子の街・宇都宮はジャズの街でもある。渡辺貞夫の出身地なのだから、それは当然としても、餃子とジャズ。チャーリー・パーカーが餃子を食っている姿は想像できない。サラ・ボーンが歌の合い間に餃子を食べている姿も想像できない。よく考えると、あり得ない二つの概念だが、元々ジャズが西洋楽器と黒人ブルースの融合から始まったことから考えると、これもアリかもしれない。ジャズの世界においてはあり得ないことが起きても不思議はない。

         上河内 
         あり得ない展開

そのフツーならあり得ないB級のコラボを東北道・上河内SA(下り)で見つけた。餃子の名店「豚嘻嘻(とんきっき)」の経営母体フタバ食品のコーナーの一郭。「宇都宮餃子ドッグ」(350円)と「ジャズまん」(150円)が突如、流し目を送ってきた。方や20センチはあろうかというホットドッグ型の白い蒸しまんじゅう。方や10センチほどの丸い茶色の蒸しまんじゅう。こんなところで味なジャムセッションをしてたとは、珍しもの好きの村長もオッたまげた。

          上河内④ 
          デカさとクール
          上河内⑥ 
          とんきっきの餃子が・・・

一体どのような味なのか、すぐにゲットした。合計500円のランチ。蒸かし立ての「宇都宮ドッグ」は目の前で見ると、そのデカさが実感できる。真ん中で割ってみる。ふわふわした肉まんじゅうのような分厚い生地の中から餃子の具が現れた。「豚嘻嘻の餃子」の具と同じものだそうで、豚肉、白菜、ニラ、キャベツなどがこじんまりと納まっていた。生地が巨大すぎて、具が少ないように見えた。食感は肉まんとほぼ同じ。具がもう少し欲しいところだが、食べてみると、具のジューシーさが見た目以上にあり、悪くない。醤油と酢とラー油(あるいはマスタード)を付けてくれるともっといいと思うのだが。少々残念。

          上河内⑨ 
          ジャジーやでぇ
          上河内10 
          ピリ辛どす

次に「ジャズまん」へ。村長はこちらの方が気に入った。表面に「JAZZ]と焼き文字が押されているのがクール。真ん中で割ると、中から地場産の小松菜と少々の牛肉、それに白いプルルンとしたものが現れた。この白いぷるるんの正体はホワイトソース。チリソースで炒められた具はピリッと辛い。それをホワイトソースがまろやかに調和する。ディジー・ガレスピとビル・エバンスのB級グルメにおけるセッションかァ? 生地も餃子ドッグよりも弾力がある。150円というお代も健気である。

お茶は無料サービスのものを利用。ワンコインでそれなりの満腹感を覚えながら、ジャズの精神がここまで及んでいることに天国のマイルス・デイビスはどう思っているのか、少々気になった。



本日の大金言。

B級からすべてが始まる。A級よりも未来がある。むろん滑り落ちることもある。



                     上河内11

オーガニックな満腹「ひよこ豆カレー」

 「オーガニック」とか「マクロビオティック」という文字を最近よく耳にするが、彦作村長はかつて週刊ポスト元編集長が主催していた「スローヘルス研究会」のメンバーだったこともあり、ちょっぴりかじった時期がある。食品の安全が脅かされている時代だからこそのトレンドだが、農薬や化学肥料、添加物を使った食材を極力排除して、有機栽培の作物を中心に据えている考え方は共通している。その「マクロ」系のライターから久しぶりにメールが入った。「三ノ輪に面白いパン屋さんがありますよ。女性客でいつも一杯です。村長のお好きな世界でしょ(笑い)」。

3時間後、彦作村長の怪しい姿が三ノ輪駅前の交差点に立っていた。ぎっくり腰とは思えない素早い身のこなし。明治通りを100メートルほど歩いた右手にに、その面白いパン屋さん「むぎわらい」があった。「ぱんや」と書かれた小さな看板と植物に覆われた入り口。そこだけオアシスのよう。村長流にいうと、三ノ輪のニューギニア。

          むぎわらい① 
          三ノ輪のオアシス?ニューギニア?

入るとすぐ左側がパン屋になっていて、天然酵母と国内産の小麦を使ったパン類が美味そうに並んでいた。スタッフは女性ばかりで、なぜか天然系の美人が多い。右手がカフェになっていて、カウンター席とテーブル席が4つほど。絵本に出てくるようなアンティークでウッディーな世界。村長はまたもお尻がムズムズしてきた。天然素材の石鹸の中に、間違って紛れ込んでしまった砂利のような気分。

          むぎわらい12 
          美味そうな天然酵母パンがズラリ
          むぎわらい② 
          1000円の満腹へ

客は確かに女性ばかりだった。時刻が午後2時を過ぎていたせいか、中高年と若い女性が4~5人がほど。内心の動揺に気づかれないように、村長はゆっくりと腰を下ろすと、メニューの中から「ひよこ豆のカレーセット」(1000円)を選んだ。「お肉や小麦粉を使わない自家製カレー」と書いてあったからだ。小麦を使わないカレー? そんなことが可能なのか?マズイに決まっている。値段が高いのは仕方がないとしても、それを確認するために食べる、というのもありだと思う。

         むぎわらい③
          バラエティーとボリューム
         むぎわらい⑧  
         主役はパンだ?

15分ほど待たされて、白い陶器皿に乗った「ひよこ豆のカレーセット」がやってきた。カレーを囲むように、5種類の天然酵母パンがなぜかトーストされ、マーガリンを塗られた姿で艶然と横たわっていた。いい風味が漂っている。サラダの他に玄米まで小さな山を作っている。この手の店は量が少なめと相場が決まっているのに、この炭水化物系の圧倒的なボリュームは何だ?

          むぎわらい④ 
          ひよこ豆カレー

まずはスープ。自然なやさしい味で、この店のポリシーがわかる。ひよこ豆のカレーはひよこ豆がどっさりと入っていて、口に入れると、濃厚でスパイシーな辛みがじわじわと吹き上がってきた。小麦を使ってないとは思えないボソッとしたトロ味で、よく見るとトマト、タマネギ、人参、トモロコシ、雑穀類が入っていた。ひよこ豆の量が多すぎると思うが、予想よりイケた。

         むぎわらい⑤ 
         パンでひと口
         むぎわらい⑨ 
         玄米でふた口
         むぎわらい⑥ 
         クルミ入りパンの美味

天然酵母パンのうまさには正直に感心した。トーストしてあるので外側がパリッとしているのは当然としても、中のしっかりとしたモチモチ感はこの店の人気の秘密でもあると思う。村長は特にクルミ入りのパンが気に入った。クルミが惜しげもなく入っている。カレーを付けて食べてもうまい。帰りにお土産で買っていこうっと。

パン5枚を食べ切った時点で、腹が一杯になってしまった。玄米はやや固めだが、ホクホクと炊かれていて、フツーに食べてもうまい。だが、半分まで食べて、無念のギブアップ。ボリュームがありすぎる。マクロビオティックで満腹になろうとは・・・。これで健康になるのか。村長はナイーブな胃袋が気になった。


本日の大金言。

オーガニックもマクロビオティックもコストが高い分、値段もやや高めになる。お金をかけないと健康を維持できない時代というのは、幸福なのか不幸な時代なのか。





                     むぎわらい10 

彼岸花と和蔵の生パスタ

 埼玉・幸手市の権現堂は春は桜の名所だが、秋のこの季節は彼岸花(ひがんばな)で賑わっている。テレビでその様子を見た村民2号が村長の耳元でささやいた。
「彼岸花の花言葉は悲しい思い出と情熱なのよ。彼岸花を見て、もう一度、村長に出会う前の情熱を取り戻したいわ。で、その後、幸手駅近くにいい蔵のカフェがあるらしいのよ。そこでランチ。江戸時代末期の蔵は会津に負けてないかもよ。いいアイデアでしょ」
これ以上情熱をもたれたら、ウマズイめんくい村は財政破たんしてしまう。村長は複雑な思いで、使い古した越中ふんどしを締め直してから、うむと立ち上がった。

         権現堂②   
         延々と続く権現堂の彼岸花

ポンコツのティーダをぷかぷか吹かしながら、真っ赤に染まった権現堂に到着。彼岸花、別名マンジュシャゲの危険な赤を堪能してから、幸手駅近くの「上庄(うえしょう)かふぇ」に車を止めた。駐車場が狭いのが気になるが、何とかギリギリでポンコツ車を滑り込ませた。切妻造りの黒い瓦屋根と白壁。旧日光街道の宿場町として栄えた幸手宿のシンボルだった築180年以上の醤油蔵をそのまま再利用したカフェだった。「上庄」は旧屋号だったそうで、オープンしたのは約2年前の11月。埼玉では今や知る人ぞ知る存在になりつつある。

         上庄かふぇ12 
         蔵と生パスタの出会い系

「生パスタ」とスイーツが売りのようで、最近よくある古民家再生の先端を行く店のようだ。ゆったりした店内は「クロワッサン」あたりの女性誌にでも出てきそうだった。2人用の木のテーブルが6つほどきれいに並んでいた。村長は背中がムズムズしてきた。村民2号は鼻歌気分で、「気に入ったわ。コーヒーがうまそう」とのたまった。勝負あり。

         上庄かふぇ② 
         ランチメニュー

村長はランチメニューの中から「和風生ハムジェノベーゼ」(サラダ、飲み物付き980円)を選んだ。村民2号は「イタリアンハンバーグ」(同980円)。12~3分ほどして、白い陶器皿に盛られた「和風生ハムジェノベーゼ」とミニサラダがやってきた。ジェノベーゼとはジェノバのバジルペーストを使ったソースのことだとか。その緑のソースがさわやかで、その上に乗っかった生ハムが可憐だった。オリーブオイルとニンニクの香りが立ち上がってきた。

          上庄かふぇ⑤ 
          和風生ハムジェノベーゼ
          上庄かふぇ⑧  
          まいう~かボーノか?

細麺の生パスタは実にモチモチとしていて、麵同士がくっつきそうなほど。オリーブオイルが仲介役となって、そこに三つ葉が絡む。薄い塩味がベースで、その食感は「今風」でヘルシーでもある。きれいな生ハムは3枚ほど。その旨味と塩分がいいアクセントとなっている。ひよこ豆もいい脇役になっている。ふと見ると女性客が多い。カップルの姿も。近くで90歳になるというお婆ちゃんが、かくしゃくとして、一人で「ぜんざい」を食べていた。築180年の旧宿場町の和蔵で、期せずして世代のリレーを見る思い。

          上庄かふぇ10  
          生パスタのモチモチ感

「ハンバーグはまずまずの美味さだけど、コーヒーが美味いわ。全体的に料理の量が少なめで、それが物足りないと思うか、雰囲気込みで満足かの分かれ道になってる。私は今日はもっとボリュームが欲しい気分」
「彼岸花を見た帰りだからかな。おおコワ~。村長にとってはほどよいボリュームだなあ。ドクターからイエローカードを突き付けられている身としてはこの店は雰囲気込みで大マル」
「ラケット!」
「古い~っ。ではお返しに、ここで一句。彼岸花ふんどし弛む枯れ尾花」
「レッドカード!」


本日の大金言。

蔵や古民家の再利用が町おこしの切り札の一つになっている。郊外ばかりでなく都心でもこうした動きが活発になっている。アメリカンスタンダードではなく、足元の温故知新は悪くない。


                    上庄かふぇ11 




プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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