会津で銀座9丁目の焼きおにぎり

 GW、久しぶりの会津若松。鶴ヶ城で満開の八重桜を見てから、その足で、市内をぶらりと歩いた。駅から繁華街に向かう大町通り沿いで、「銀座9丁目」と書かれたスタンドバーのタテ看板を見つけた。銀座9丁目だって? ジョークかいな。去年はNHK大河ドラマ「八重の桜」で観光客がどっと増えたが、ことしはどうか気になった。GWの真っ最中の午後5時過ぎだというのに人通りは多くない。  

           会津①  
           ソメイヨシノは終わり、八重桜が満開(鶴ヶ城)
           会津若松 スタンドバー 
           会津の銀座?

スタンドバー=立ち飲みは嫌いではない。店の女性がその入り口で炭火で焼きおにぎりを焼いていた。よく考えると、不思議な光景。会津の銀座九丁目の焼きおにぎり・・・これは入るっきゃない。ロック系ファッションの若者が3人ほど楽しそうにビールを飲んでいた。村長は「焼きおにぎり」(1個200円)をまずは注文。それからメニューを見て、「あらばしり、カスモチ原酒(純米活性にごり酒)、純米酒」の地酒三種セット(1000円)を頼んだ。ついでに「イカ人参」(500円)も追加注文。芸能リポーターの東海林のり子のようなママさんらしき女性ととつい雑談。

           会津① 
           このレトロ感

「会津で銀座九丁目とは面白いね」
「今年の1月に始めたので、まだ半年も経ってない。銀座で仕事してて、会津に帰ってきてこの店を始めたのよ」
「へえー、山本八重は京都に行ったまま戻ってこなかったけど、あなたは帰ってきたんだ」
「まあね」
そんな会話を楽しんでいると、カクテルグラスに入った3種類の日本酒がカウンターに置かれた。最近の会津の地酒はレベルが高い。会津酒造の「あらばしり」がすっきりしたかやや辛口で村長の好みだった。純米酒はやや甘口。大和川酒造の「カスモチ原酒」は活性にごり酒だが、栓を抜いてから時間がたっていたせいか、発泡感がほとんどなかった。

           会津⑦ 
           日本酒3種とイカ人参

「イカ人参」を肴にしてチビリチビリ。「イカ人参」は会津の郷土料理で、千切りにしたスルメと人参に醤油と味りんを加えて寝かせたもの。ちょっとした酒の肴にはなるが、村長にとっては、にしんの山椒漬けほどの感動はない。量は少ない。これで500円はどうかなあ、などと考えていると、「焼きおにぎり」が登場。こちらも小さめだが、手間ひまを考えるとリーズナブルか。

           会津⑧ 
           焼きおにぎりさま
           会津10 
           素朴な味わい

焼きおにぎりはシンプルで美味だった。会津産コシヒカリを使っているそう。炭火で焼いた焼き加減がいい。ほのかにカツオの香りがした気がして、「カツオ節も使ってる?」と東海林のり子さんに聞いてみたら、「あら、残念、ハズレ~。醤油だけよ。醤油がいいのよ。だって会津の醤油だもの」。次第にほろ酔い。ふと、振り返って外を見ると、夕暮れが忍び寄っていた、なんてね。


本日の大金言。

ブームの後がむずかしい。リピーターを増やすには、観光資源はもちろんだが、いい店を増やすしかない。会津裏名物、ぶっきら棒の深い味わい。





                       会津11
スポンサーサイト

那須高原のプレミアムメロンパン

 美味いメロンパンを提供してくれるパン屋が多くなった。GWの明け方、久しぶりに東北自動車道をご先祖の眠る会津に向かって飛ばした。モーニングをどこで取るか、ウマズイめんくい村村民の意見が珍しく一致した。「空気がいいし、那須SAにしよう」「ラーメンもあるしね」「コーヒーと美味いパンで安く上げたいわ」などなどピーチクパーチク。共通しているのは、安く仕上げること。しかも美味くなければならない。

           那須SA① 
           高原ベーカリー

村民2号はこの那須SAのパン屋さん「高原ベーカリー」でサンドウィッチ(320円)を買った。キオは「白河ラーメン」(620円)。気が多いくせに注文の多い村長は、迷った末に、「高原ベーカリー」で、「プレミアムメロン」(1個308円、税込み)を選んだ。以前立ち寄った時に、このメロンパンの前に行列ができていたことも頭の隅にあった。もう一つ、ここでパンを買えば、自家焙煎のコーヒーが「通常195円のところなんと100円!」。その表記を村民2号がめざとく見つけてきた。コーヒーサーバーの前には行列ができていた。

           那須SA③    
           焼きたてパンのいい匂い
           那須SA②
  
           モーニングはメロンパン
           那須SA④ 
           めっけ!

那須高原SAにはレストラン、フードコートの順で「お金持ちヒラエルキー」が存在している。だが、安くて美味い、裏ワザ的な楽しみ方として、村長は高原ベーカリーで焼きたてのパンを買って、100円の挽きたてコーヒーを楽しむのもおすすめしたい。フードコートの広々としたテーブル席は自由に使える。プレミアムメロンを目の前に置いて、安くてリッチなモーニングタイムが始まった。

          那須SA⑥  
          この存在感
          那須SA⑦ 
          横から見てもデカ~

「プレミアムメロン」は直径20センチはあろうかというデカさ。表面のビスケット生地は、海老名SAの「プレミアムメロンパン」のような格子状の溝はない。キラキラ輝く砂糖のざらざら感もない。それがこのプレミアムメロンの特徴で、高級な洋菓子のようである。しっとりとコーティングされたメロン色のなめらかなビスケット生地。むふふという笑みを抑えながら、それを二つに割る。自然な白さのパン生地と、赤メロン色のカスタードクリームが現れてきた。何というアートな世界。

          那須SA⑧ 
          エロティックな光景
          那須SA⑨ 
          あら失礼

ひと口。メロンそのもの何とも言えない風味がふわっと口中に広がった。高原の風。「メロン果汁を練り込んでいる」ことを実感できる味わい。パン生地のしっとりしたふわふわ感が秀逸。それにメロンクリームの熟したメロンそのもののような味と食感が調和している。村長はビスケット生地がもう少し固い方が好きだが、これはこれでありだと思う。コーヒーで静かに感動を静める。外は那須高原の新緑の世界。合計408円のリッチなモーニング。

「朝からでっかいメロンパンって変よ」
「周りの人はちゃんとフツーの食事をいているのに、恥ずかしいわ。村長って、多分長生きできないわね」
ピーチクパーチクも気にならない。


本日の大金言。

メロンパンはあんぱんとと共に、日本ごちゃまぜ文化が生んだ大傑作だと思う。メロンパンは闇夜の満月である。





                          那須SA13

京都老舗「ぼた餅」の微妙

 和菓子の本場は京都であることにむろん異論はない。いい素材と伝統のワザに裏打ちされた味の数々は筆舌に尽しがたい。京都にお住いの調布先生によると、「あちこちに店を出すようになったらお終いですよ。本物は亀末廣のように、デパートからいくら声が掛かっても、絶対に出店しまへん。老舗とはそういうものです」とか。なるほどそういうものか、と妙に納得する。

          仙太郎② 
          行列の意味

東京の老舗デパ地下を散策中に、行列の和菓子屋と出会った。虎屋など有名老舗はさほど混んでいないのに、これはどうしたことかと覗いてみたら、「仙太郎」だった。上菓子ではなく、生菓子専門の京都の老舗。老舗と言っても、1886年(明治19年)創業なので、奥の深い京都では老舗とは言えない。

村長は取り敢えず並ぶことにした。「ぼた餅」や「ご存じ最中」などが売れ筋のようで、実に美味そうに並ぶ生菓子を見ながら、「ぼた餅」を2種類(あんこときなこ、それぞれ260円)買い求めた。260円という価格は安くないが、1個の大きさと見事な風格に敬意を表することにした。「おはぎ」と言わず「ぼた餅」と言ってるのもさすが京都、と感心。商売の上手さも感じる。

          仙太郎④  
          包みを解くと・・・

賞味期限が本日中だったので、大急ぎでウマズイめんくい村に持ち帰って、賞味することにした。先日、東京・有楽町の「おかめ」で、瘋癲北欧先生がこの店の名物、特大おはぎを美味そうに食べたので、そのことも頭にあった。包みを開けると、見事なぼた餅が現れた。だが、店で見たよりもほんの少し小さく見えた。「おかめ」よりもひと回り小さい。目がおかしくなったのかもしれない。
            

まずは定番のあんこを賞味してみた。外側を包む粒あんは見事な色合い。小豆界の最高峰と言われる丹波大納言小豆を使用し、砂糖は北海道産のグラニュー糖、熊本産天草の天然塩を使用というのはダテではない。さらに中の八分づきのもち米に目を見張らされる。半透明でつややか。点々と青じそが入っている。ほどよい甘さと青じそのかすかな風味、ほんのりと塩加減。だが、と村長は思う。あんこの量がもう少しあった方が、ぼた餅という名前にふさわしいのではないか。底にあんこがないのも気になる。

          ぼた餅②  
          ごくり
          仙太郎13 
          見事なもち米

次にきな粉へと移った。村長はこちらの方が好みだった。かなり多めのきな粉がいい。揺すると、きな粉が崩れる。中のあんはほどよい甘さのこしあん。こしあんを包むもち米にはやはり青じそが点々と入っており、それらがきな粉の立ち上がるような風味とケンカしていない。それどころか、三位一体となって、口中の粘膜に「どうどす、どうどす、おいしいですやろ?」とささやいてくるよう。確かに美味。脳がシビレテくる・・・。だが、と村長はまたも思う。

           ぼた餅④  
           多めのきな粉がいい
           仙太郎⑦ 
           中はこしあん
           仙太郎11 
           青じその風味も

雰囲気と洗練をとるか、コスパを取るか。ハムレットの心境で、村長は大いに悩んだ。ぼた餅本来の意味を考える。1個260円ナリの意味。デパ地下の行列の意味も考える。高くて美味いは当たり前、安くて美味いこそウマズイめんくい村の本道と思い直す。村長にとって、仙太郎のぼた餅は微妙である。


本日の大金言。

いい素材を使えば高くなる。見かけがよければ、さらに心が動く。だが、そこに見失ったものが潜んでいることだってある。




                      仙太郎14 









アニメの聖地で「680円天もり」の至福

 アニメ「らき☆すた」で一躍有名になった埼玉・久喜市鷲宮町の鷲宮神社。今でもアニメファンの聖地として、宇宙人みたいな若者が集ったりしているが、元々は関東最古の大社で、何を隠そう彦作村長もこの神社に二、三度行ったことがある。村長のB級地下ネットワークの友人から、この神社近くに「アンビリーバボーな安くて美味いうどん・そば屋があるよ」と聞き、よっこらしょと腰を上げた。

           鷲宮神社② 
           鷲宮神社

オバマ米大統領来日のために首都圏がピリピリする中、「明日は明日の風が吹く」とばかりにポンコツ車が県道をひた走る。「純手打ちうどん・そばの店 のんき家」はすぐにわかった。鷲宮神社へと続く町のメーンストリート沿いに「のんき家」という看板が見えた。どこか田舎町の食堂のような店構え。出前もやっているらしく、店の前には雑然と自転車やスクーターが置かれていた。

           のんき家① 
           のんき家

あまり期待せずに中に入ると、これは、と軽く驚いた。テーブル席と奥が座敷になっていて、右手には5人ほどだ座れる年季の入った木のカウンター席。何よりチラッと見えたその向こう側の板場に目が釘付けになった。昔ながらのいいうどん・そば屋の世界だった。大釜からは水蒸気が立ち、その奥に打ち場が。長靴姿のこちらも年季の入った女性が3人、忙しそうに働いていた。

           のんき家③ 
           安くて美味いか?

村長はテーブル席に腰を下ろして、メニューを見た。うどんにしようかそばにしようか迷った。友人の情報によると、そばは地粉を使っているが、去年の収穫はあまりよくなく、他の地域の玄そばを使っているそう。迷った末に「天もりうどん」(野菜天ぷら盛合せ付き 680円)を頼んだ。うどんも国産小麦を使っているそう。これが当たりだった。

           のんき家⑤ 
           うむむの世界
           のんき家⑥  
           野菜天ぷらの圧巻

うどんは細めの手打ちうどんだが、コシが強めで、つるりとしたノド越し。この細さでこれだけのコシを出すにはかなりの力技が必要だろう。ひょっとして讃岐うどんのように足踏みしているのか? ツユはカツオと昆布の出汁が効いていて、かえしがきつくなく、あまり甘くないのがいい。あっさりした自然なツユ。薄味なので物足りないと感じる人もいるかもしれない。

          のんき家⑦ 
          細いがコシが強い
          のんき家⑧ 
          ツユの底力
          のんき家11 
          かき揚げの一部

野菜天ぷらの盛合せはカボチャ、ピーマン、サツマイモ、それに海苔と大きなかき揚げの五種盛り。コロモがしっかり付いたそば屋の天ぷらで、まずそのボリュームに圧倒される。うどんの合い間につけ汁を付けて食べる。揚げ立てで、カラッとした食感。量が多いので、天ぷらが苦手な人は注意が必要。別売りのかき揚げ(100円)だけで十分かもしれない。とはいえ店構えからあまり期待しなかったことを反省。予想外のB級の美味。この価格でこの満足感は村長にとっては一つの発見だった。かき揚げは大きすぎるためか3つに包丁が入っていた。おぬし、やるのう。村長は、厨房に向かってそうつぶやいた。


本日の大金言。

ローカルのB級の美味の発見。それが安くて手抜きがないほど、日本はまだ大丈夫だと思う。どうだね、晋三君。





                      のんき家12

原点の味わい「大宮の田舎大福」

 これまで美味い豆大福や草餅を食べまくってきたが、埼玉・大宮西口のソニックシティホール裏通りを散策中に面白い店を見つけた。そこだけローカルな昭和がそのまま取り残されたような店の佇まい。およそ外見を飾りたてるという気配もない。売れ残った弁当、おにぎり、いなり、のり巻き、団子などが雑然と並べられていた。それが「かどや」だった。「昔ながらの手作りの味」というベタな文字が見えた。

           かどや1 
           この店構え

午後3を過ぎていた。ふと立ち止まって張り紙を見ると、マジックで「お餅・大福 きねと石うすでついているからコシがあり、おいしい!」とか「よもぎをたっぷり入れ色付けはなし」などとも書かれている。メーンのケースの中はほとんど売り切れていて、この店が意外な人気店であることもわかった。草餅を買おうと思ったが、店主らしい快活な中年男性が「きょうは売れ切れちゃったよ」

          かどや3 
          ほとんど売り切れていた
          かどや② 
          このベタさ

村長は残り少なくなっていた「草大福」(1個130円)と「大福」(130円)をそれぞれ2個ずつ大急ぎで買い求めた。
「添加物なんて使っていないから、早めに食べてくださいよ。あんこ? 北海道産の小豆を毎日炊いてるんですよ。それにこしあんを混ぜてね。粒あん3、こしあん7の割合でね。ここでもう50年以上やってるよ。北千住のかどやとの関係? 全然ないよ」
店主らしい男性が隠すことは何もないとばかりにくったくなく話す。

          かどや③ 
          草大福と大福

ウマズイめんくい村に持ち帰って賞味することにした。村民2号は上州のゴッドマザーのお世話に行っていて留守。しめしめ、オニノイヌマノイノチノセンタク・・・などとつぶやきながら、お茶を入れ、改めてその外観を眺めた。どっしりとした大きさ。岡埜栄泉や瑞穂のなど洗練された豆大福を見慣れた目から見ると、どこか田舎の大福そのもの。埼玉の中心とはいえ、大宮が改めてローカル都市であることを実感する。それは悪い感触ではない。

           かどや④ 
           ぢっとよもぎを見る
           かどや⑥ 
           うむむの世界
           かどや⑦ 
           あんこと餅の存在感

草大福は、最初の一噛みで餅の存在感が実感できた。よもぎの風味もあるにはあるが、それ以上の噛みごたえ。柔らかさよりもコシの強さが際立っていた。あんこは多めのこしあんと粒あんのブレンド感が悪くない。この構成は珍しい。「かどや」独自のブレンドだろう。やや甘めだが、ほどよい塩気。江戸の昔に腹持ちがいいことから、「大腹餅」と呼ばれていたことを思い起こさせる味わい。洗練ではなくどっしりとした素朴。

           かどや⑧ 
           大福は大腹である

「大福」はよもぎがない分、餅がさらに前面に出てくる。ガブリ寄りの大福。大福の原点を見る思い。合い間にお茶をすすりながら、村長は「大腹餅」が「大福餅」へと変換していった庶民の遊び心とその奥にある願掛けを思った。オバマと会談する前に、何かが欠けている安倍首相にこの大福を食らわせたい、そうも思うのだった。自戒を込めて。


本日の大金言。

はたらけどはたらけど・・・「一握の砂」の世界が今の世界に重なる。永田町の定数削減と歳出(給料)カットは一体どこに行ってしまったのか? ぢっと手を見てほしい。




                     かどや10

喧噪の中の別世界チーズケーキ

 最近、東京・新宿で見つけた隠れ家的な地下の喫茶店の話。
「割烹中嶋」の美味くて安い絶品ランチを堪能した後、新宿御苑をぶらぶら散歩。八重桜の見ごろが続いていた。村民2号はゴッドマザーの身の回りのお世話や何やらで目の下に隈が出来ている。足が棒になりかかったあたりで、コーヒーを一日3杯は飲まないと発狂する村民2号がさり気なく言った。

「伊勢丹の近くにステッキ―なカフェを見つけたのよ。この前、キオと散歩中に入ったら、これがいい店だった。コーヒーが美味いうえに、レアチーズケーキが絶品だったわ。ちょっと贅沢だけど、そこ行かない?」

           八重桜  
           新宿御苑の八重桜

それが「炭火珈琲 素多亜(すたあ)」だった。大正モダニズム風のレトロな入り口。ドアを開けると地下へと階段が続いていた。パリの下町にでもいるような錯覚に陥りそうになった。店内はアイボリーの壁とダークブラウンの木のテーブルと床。アールヌーヴォー風のさり気ない、趣味的な世界。2人用のテーブル席が7つほど、8人ほど座れる大きなテーブルが一つ。ほぼ満席だった。

                 素多亜① 
            この入り口の地下の別世界

何よりも8人ほど座れるカウンターが目を引いた。そこで白シャツに黒い蝶ネクタイ姿の初老のマスターが注意深くコーヒーを淹れていた。隣りには奥さんらしき女性。たまたま空いていた席に腰を下ろすと、苦学生のようなどこかぎこちない動きのウェイターが注文を取りに来た。爆笑問題の太田光をつい連想してしまった。飲み物はコーヒーだけという徹底ぶり。村長はブレンド(670円)とレアチーズケーキ(330円)、村民2号はブレンドとチョコレートケーキ(330円)を注文した。ケーキはリーズナブルだと思う。

          素多亜② 
          スイーツはこの2種類だけ

このチーズケーキが確かに美味だった。クリームチーズをそのまま固めたようなレアチーズケーキで、口に入れた途端、濃厚な甘みとほどよい酸味が思い切り広がった。そのねっとりとした冷たい塊が舌の上で溶けていく。快感。ジャージー牛の牛乳でも使っているのかもしれない。ブレンドコーヒーは苦みと酸味とまろみのバランスがいい。

           素多亜④ 
           いい眺め
           素多亜⑦ 
           レアチーズケーキか?
           素多亜10 
           チョコレートケーキか?

「ロースト感がいいでしょ? 香りもいい。カップも皿もウェッジウッドよ。あのマスター、かなりの使い手だわ。一杯670円は安くはないけど、この味わいなら仕方ないと思わせるものがある。このチョコレートケーキも中がムース風で、ところどころにクルミの粒が点々と入っていて、かなり甘いけど美味いわ。でも、私はチーズケーキの方が好みかな。取り換えましょ」

ケーキが自家製なのか、太田光君にこっそり聞いてみた。「いえ、自家製ではないです。特別なところのものです」。それ以上はわからないようだった。新宿の喧騒の中の別世界のひとときは謎を残したまま、終わったのだった。後日、電話で聞いてみようとしたが、誰も出なかった。


本日の大金言。

デパ地下もいいが、洒落たマスターのいるレトロな地下のカフェも悪くない。たまには大人の隠れ家で読書を楽しむのもいいかもしれない。




                        素多亜12 




ミシュラン一ツ星の800円昼めし

約 2年前に61歳で亡くなった知人の画家・今村圭さんの回顧展を観に、新宿三丁目の「ギャラリー絵夢」に行く。今村さんのご主人T氏は村長の三鷹時代からの友人で、有能な編集者でもある。絵心のある村民2号も付いてきた。今村さんの作品を生で見るのは久しぶり。大作が多く、いわゆる抽象画だが、その煌めくような鮮やかな色彩の世界は異様な高みに達していて、見る者の心を釘付けにする力がある。T氏と近況などを雑談してから、外に出ると、腹の虫がキュッと鳴いた。

          今村圭絵画展⑤  
          今村圭回顧展(ギャラリー絵夢)

腕時計を見ると、午後1時を回っていた。どこに入るか、いつものようにあっちウロウロこっちウロウロしていると、BEAMSを右に入った辺りで、行列が見えた。ラーメン屋ではない。「割烹 中嶋」という渋い看板。並ぶのが嫌いな村長だが、店は地下にあるようで、狭い螺旋階段に折り重なるように14~5人が順番待ちしていた。調べてみると、ミシュラン一ツ星の料理屋だった。

          中嶋① 
          行列の意味

昼定食は鰯(いわし)料理のみで、「刺身定食」「フライ定食」「煮魚定食」が800円、「柳川定食」のみ900円という店の格を考えると、ちょっと信じられない安さ。店主の中嶋貞治氏は和の達人の一人で、その祖父はあの北大路魯山人が主宰となった伝説の料亭「星ヶ岡茶寮」の料理長だったこともわかった。これは何かある。村長は腹を決めて、ぎっくり腰を抑えながら並ぶことにした。

          中嶋③ 
          ようやく入り口
          中嶋② 
          うーむという舌代

都合30分ほどで、L字型の白木のカウンター席に案内された。半個室がいくつか見えた。白衣と和帽子のきりっとした板前さんが7~8人ほどテキパキと働いている。修業中の女性板前もいる。ピリッとしたムードが伝わってくる。村長は「フライ定食」(税込800円)、村民2号は「刺身定食」(同)を頼んだ。多分夜くると、一人1万円では済まないだろう。

          中嶋⑦ 
          フライ定食
          中嶋15 
          こちらは刺身定食

「フライ定食」はさすがの代物だった。有田焼の大皿にキツネ色に見るからにサクッと揚げられた三枚おろしのフライが5枚。カレー粉で湯がかれたモヤシと酢揉みされたキャベツと青菜が添えられていた。それに炊き立てのご飯とみそ汁、お新香という構成。レモンを絞ってから、鰯(いわし)のフライを賞味。小骨はきれいに抜かれていて、下味が付いていた。脂ののった鰯の食感の具合がいい。ほのかな甘み。手抜きがない。

          中嶋⑥ 
          シンプルだが隙がない
          中嶋⑧ 
          レモンを絞る
          中嶋10 
          まずは、ひと口

醤油好きの村長は醤油を垂らす。年配の板前がじろりとこちらを見た気がした。味噌汁にはミョウガが入っていて、いい出汁が口中に広がる。ご飯がやや固めだが、出色の美味さで、2杯まではお代わり自由というのも好感(3杯以降は有料)。全体としてさり気ないプロの料理で、これが800円とは驚きと言わざるを得ない。混み合ってはいても、和のノブレスオブリージュを感じさせる、気持ちのいい店だった。「得した気分ね」辛口の村民2号も満足げ。ミシュラン一ツ星はダテではなかった。

           中嶋⑨ 
           ご飯の美味

本日の大金言。

暖簾のある店がランチを安く提供する。いろいろな見方があるが、それを続けるのは簡単なことではない。確かに継続は力、である。




                      中嶋12 



超人気店の濃厚つけ麺に挑む

 濃厚な豚骨魚介スープと極太麵という組み合わせは「六厘舎」が確立したスタイルだが、村長は、この手のカロリー過多ラーメンにはなるべく近づかないようにしている。だが、埼玉・鴻巣周辺をぷかぷかドライブ中に気になる店を見つけた。今にも崩れ落ちそうな古い建物の前に凄い行列ができていた。「中華そば・つけめん 次念序(じねんじょ)」と昭和レトロな看板が掲げられていた。店の佇まいが気になった。昭和レトロは演出か? 調べてみたら、埼玉の超人気店で、「六厘車」の暖簾分けであることもわかった。

           次念序① 
           昭和レトロの匂い(こちらは入り口)
           次念序1 
           こちらは出口

並ぶのが嫌いな村長は、日を改めて、平日の午後1時過ぎにポンコツ車を飛ばした。入り口と出口が別になっていて、入り口から入ると、がらんとした待合室があって、そこに券売機があり、5~6人のサラリーマンがスマホを見ながら呼ばれるのを待っていた。奥がL字のカウンター席で、10席ほどしかない。覗くと満杯だった。対面が厨房で、黒いTシャツ姿の男性2人が黙々とそれぞれの作業に没頭していた。

           次念序② 
           つけめんにしようっと

村長は定番の「つけめん」(300グラム750円)を選んだ。女性スタッフがやってきて、つけめんの食券を持っていった。ラーメン屋で待合室というスタイルは、何やら昔の遊郭の料理屋のようで、村長の胸がピコピコ高鳴った。5~6分で、「どうぞ」と呼ばれて、カウンターの端っこに案内された。

さらに15分ほど待っていると、極太麵が盛られた器とつけ汁が入った小どんぶりが旨そうな匂いとともにやってきた。茶色い極太麵は茹で上げてから冷水で締めたもの。これなら時間がかかるのも納得せざるを得ない。熱々のつけ汁は見るからに濃厚で、脂と焦げ茶の魚粉がまだら状に浮いていた。ざく切りのネギと小さなナルトが可憐に浮いている。その下に自家製チャーシューが数個ごろっと沈んでいた。

           次念序⑤ 
           定番のつけめん
           次念序12   
           自家製の極太麵
           次念序⑦  
            つけ汁とチャーシューの旨味

まずはひと口。自家製極太麵は野性的でコシがかなり強い。モチモチ感はあまり感じない。それをつけ汁に付けて食べると、最初のアタックは味の濃さ。これは体によくないかも、と思いながら箸を進めていくと、濃厚の奥から旨味がじゅわりと滲み出るように口中を支配し始めた。「ふん」が「ふむふむ」に変わりやがて、「うむむむ」に変わっていくのがわかった。豚骨・鶏がらベースで鯖節や煮干し、カツオ節などを長時間煮込んでいるそう。

           次念序⑨ 
           麺とよく絡む
           次念序10 
           飛び込みたい・・・

濃いが旨い。旨いが濃い。ほんのりと甘みとかすかな酸味が悪くない。極太麺との相性がとてもいい。チャーシューの存在感と海苔とメンマの存在感の無さ。あっという間に300グラムを平らげてから、スープ割りを頼む。これはくせになる味だな。遊郭の匂い。村長はこの店の人気の秘密がわかった気がした。


本日の大金言。

濃厚つけ汁と極太麵の組み合わせはある種のブームだが、そろそろ本物だけが残り、後は淘汰されていく時期に来ていると思う。



                      次念序11 





そば好きの隠れメッカ「粟野そば」

 エンターテインメント新聞社時代の友人夫妻に誘われて、栃木・粟野(あわの)へ行ってきた。粟野町は2006年(平成17年)鹿沼市に編入されたが、そばの産地として、そば通の間では知られつつある地区である。友人はそば好きで、以前このブログでもご紹介した「そばの里 永野」もこの地区にある。「粟野そばの会」には18軒のそば屋が名を連ねているが、友人によると、ここのそばは東京では信じられないほどの安さで、しかも跳び上がるほど美味いとか。まさか。

そばを食べてから、日光のつつじの湯で一風呂浴びる、というスケジュール。今回のターゲットは「峠の味どころ 大越路(おおこえじ)」。栃木インターを降りて栃木粕尾線を30分ほど走って、くねくねした道を大越路峠へと上っていく。トンネルが出来てからは峠に行く車はほとんどない。うっそうとした杉木立の世界。まさかこんなところにそば屋があるとは思えない。「土日はいつも一杯で入れない。今回は平日だから、多分大丈夫だと思うよ」と友人。

          大越路① 
          峠のそば屋

突然、ロッヂ風の巨大な一軒家がぬっと現れた。それが「大越路」だった。10台ほど止まれる駐車場はほとんど満杯で、この店のファンの多さがわかる。路肩にも数台の車が駐車していた。「大越路」は1977年(昭和52年)創業。今年で37年目になる。そばばかりでなくメニューには中華料理まである。数年前に建て替えたようで、建物は比較的新しい。入り口には清涼飲料水の自販機が置いてあった。まるでそこだけ観光地のレストランのようでもある。これはハズレかも。渋好みの村長は内心あまり期待せずに入って右奥の座敷のテーブル席に腰を下ろした。

          大越路② 
          広い店内
          大越路③ 
          コスパは?

豊富なメニューの中から「もりそば」(550円)と「旬の野菜天(一口盛り)」(300円)を選んだ。村民2号も同じもの。友人が「山ふぐ刺(こんにゃくの刺身)」(450円)を追加注文した。醤油におろしショウガで食べるのだが、これが実に美味だった。クルマなので日本酒が飲めないのが悲しい。その後に、主役の「もりそば」と野菜天がやってきた。

          大越路⑤ 
          山ふぐ刺の圧倒
          大越路⑥ 
          地粉100%

もりそばはグレーがかった茶色で、太さもまちまち。水切りもいい。それが手打ち感を漂わせていた。星もところどころにある。これが予想以上の味だった。コシが適度にあり、風味、ノド越しともにマル。ツユはかえしが強めで辛めだが、カツオの出汁が効いていて、いい後味が口中に残る。人も店も見かけで判断してはいけない。ただ、薬味のネギとワサビ(練りワサビ)があと一つ。

          大越路⑦  
          粟野そばの世界
          大越路⑨  
          豪快に行け

そばは二八かと思っていたら、店の人によると「七三です」。「つなぎには卵白も使っていますが、二八よりも七三のほうがノド越し歯触りともにいいと思います。100%地粉です。玄そばから毎朝石臼で挽いて、三番粉までいろいろブレンドして、この形にしたんですよ」とか。水も天然の地下水を漉(こ)して使っているそう。

           大越路12  
           秀逸な旬の野菜天

「旬の野菜天」はコロモがカラリと揚がっていて好感。山ウド、ふきのとう、明日葉(あしたば)など5個もあり、これで300円とは驚く。特に山ウドとふきのとうが風味十分で美味だった。
「そばも野菜天も値段を考えると感動ものだわ。ここに来るまでの満開の桜にも驚いたけど、東京ではまず味わえない。安くて美味い。粟野はそばの隠れ里といったところね」
勘定を済ませて、外に出ると、村民2号がぴょんと跳び上がった。


本日の大金言。

探せば安くて美味い店はまだまだある。そば道の奥は深い。もり一枚1000円の有名店もそれなりにいいが、メディアの情報に惑わされないで、のんびりといい店を探すのもいい。隠し味は高原の新緑の風。




                     大越路11 





東京交通会館地下の豆かん

 いつから甘味屋が女性のたまり場になったのだろう? と書くのにはわけがある。スウェーデンから一時帰国された北欧瘋癲先生と東京・有楽町で待ち合わせた。目的の一つは甘味屋。才気煥発な北欧瘋癲先生はワイン好きでグルメだが、最近、「大の甘党」でもあることを知った。そこで、村長は思案した。「虎屋」では高すぎる。プランタンでは軽すぎる。で、交通会館地下にある民芸喫茶「甘味おかめ」にご案内することにした。以前ここで賞味した「蔵王あんみつ」に感動したからである。

           おかめ① 
           甘味おかめ(東京交通会館店)

「甘味おかめ」は戦後間もない昭和22年((1947年)麹町で創業、東京交通会館ができた昭和40年(1965年)に交通会館店をオープンした。当時は展望回転レストラン(現在は銀座スカイラウンジ)が話題を呼んだが、甘党にとっては地下の「甘味おかめ」も話題になった。名物のおはぎは特大サイズで、小豆、ごま塩、きなこの3種類あり、フツーの人なら、これを1個食べれば、「ノーサンキュー」となる。

           おかめ④ 
           むむむの世界

暖簾をくぐって、六つほどある白木のテーブル席に、大の男が向かい合って腰を下ろす。他の客は女性ばかり。女性専用車両に紛れ込んでしまった気分。ある意味、ポエムな光景。悲しいかな胃の調子を落としている村長は「豆かん」(660円)を頼んだ。北欧瘋癲先生は「おはぎ」(1個270円)を2種類(小豆、ごま塩)を頼んだ。さすが、と内心舌を巻いた。

           おかめ② 
           豆かん登場

「豆かん」は美味だった。赤えんどう豆がガラスの器を覆うように乗っかっている。豆かんの名店、浅草「梅むら」の赤えんどう豆は真っ黒だが、ここのは茶色で、表面の皮にふっくらと炊いたことを示すひび割れがところどころに入っている。その姿がいい。実際、口に入れると、皮の食感と中の柔らかさが際立っていた。ほんのりと漂う塩加減もここちよい。

         おかめ③ 
         ふっくら赤えんどう豆
         おかめ⑤ 
         黒蜜をかける
         おかめ⑥ 
         スグレモノ寒天

寒天もかなり高いレベルのもので、歯ごたえがきりっとしている。天草の香りが口中に広がる。柔らかい甘みの黒蜜をかけると、その美味さがさらに広がる。これは、浅草・梅むらの豆かんに引けを取らないのではないか。黒ダイヤと赤ダイヤの違い。村長が意外な発見にウルウルしていると、瘋癲北欧先生はすでに特大サイズのおはぎを2個ぺろりと平らげていた。「ちょっと、塩気がないね」と感想を一言。恐るべし、瘋癲北欧先生。

振り返ると、いつの間にか女性客が5~6人席が空くのを待っていた。「甘味屋で長居はいけない」。江戸っ子でもある瘋癲北欧先生が立ち上がる。次の目的である銀座渋谷画廊へ。村長はそのいなせな後ろ姿にヨロヨロと付いていくだけだった。


本日の大金言。

歴女があるのだから、甘男(あまだん)とか甘爺(カンジー)いう言葉があってもいい。あるいはスイマン(スイーツ男子)。甘党男よ、スマホを捨て、甘味屋へ走れ。




                        おかめ⑧ 

有楽町ガード下の絶妙カレーうどん

東京・ 有楽町ガード下は村長の好きなエリアの一つ。戦後の妖しい匂いが至るところに残っているが、今では若い女性も路面の居酒屋でチューハイやハイボールを楽しむディープな人気スポットになっている。村長が落下傘でここに舞い降りたのは、久しぶりに「慶屋」のカレーうどんを食べようと思ったからだ。 

有楽町ガード下でも数寄屋橋寄りの一角。靴磨きが今でもいそうな場所に「名物カレーうどん」と書かれた黄提灯が下がっている。それが路面のうどん屋「慶屋(けいや)」である。哀愁のある屋台の佇まい。ここのカレーうどんはご飯が付いてくる。うどんを食べた後の残ったカレー汁にご飯を入れて、雑炊ふうにして食べるのがここの楽しみ方。

           慶屋④ 
           まさにガード下
           慶屋① 
           ただのレトロじゃない

5~6人しか座れない。カウンターの対面には中年の店主が一人、狭い厨房を器用に使って、忙しそうに客の注文をさばいていた。券売機などはない。村長の他に若い女性と男性が二人。村長はむろん「カレーうどん」(ごはん付き550円)を注文した。ここはうどんは手打ちうどんを使い、注文してから茹で始めるので、待ち時間は長い。効率よりも職人気質。

           慶屋②  
           メニューは少ない

15分ほど待つと、「カレーうどん」がカウンター越しに置かれた。すぐ後に温かいごはん。湯気とともにとろりとしたカレー汁のいい匂いが立ち上がってくる。うどんは細麺で、つるりとしていてノド越しがいい。細い分カレー汁がよく絡まる。よく計算された手打ちうどん。カレー汁は出汁のよく効いたそば屋のカレーで、まろみのある甘みが舌に心地よい。タマネギの甘みも感じる。肉はほとんど溶け込んでいて、その姿がかすかに確認できるほど。豚肉のこま切れが3~4切れあると、村長の好みにドンピシャなのだが、値段を考えると、それはぜい沢というものだろう。

          慶屋⑤ 
          地味だが奥深い
          慶屋⑦  
          手打ち細麺
          慶屋⑨ 
          出汁の効いたカレー汁

ふうふうしながら、うどんを食べ終えてから、次の楽しみ、ごはんをズズズと入れる。木のスプーンですくって口中に運ぶ。これが意外に美味。とろりとしたカレー汁とごはんがよく合うことがわかる。B級の一級品。失礼ながら、かような店構えで手抜きせずにしっかり作っている店主に興味がわいた。しばし雑談。

          慶屋10 
          ごはんを入れる
          慶屋11  
          B級の美味

「ここに店を開いて11年になります。その前にフツーのうどん屋を17~8年ほどやってたんですよ。借金がかさんで止めちゃってね。で、ここでこういう店にしたんですよ。あんまりお金はたまんないけど、そこそこ生活できるので、まあいいかなって思ってるんですよ」

風雪に耐えたいい顔で笑いながら話す。この店の本当の隠し味は店主なのかもしれない。



本日の大金言。

見せかけの昭和レトロが多い中で、本物を見分ける一つのコツは店主の動きだと思う。コツコツと音がしてくる。





                      慶屋12

石戸蒲桜とパン屋のパスタ

 「あのね、埼玉・北本に樹齢800年の桜があるの知ってる?」
「桜はとっくに終わってるでしょ」
「石戸蒲桜(いしとかばざくら)と言ってね。福島・三春の滝桜などとともに日本五代桜の一つなんだよ。その散り際が見たくなった。桜は散り際が一番美しいのだよ」
「遅すぎ。村長って相変わらずズレテるのね。でも、北本はパスタの美味い店が多いのよ。北本はトマトの産地で、その後にトマトパスタを食べるというのなら付いてってあげる」

           石戸蒲ざくら 
           石戸蒲桜

そんなやりとりの数時間後、ウマズイめんくい村の青いポンコツ車が、石戸蒲桜のある北本・東光寺の駐車場に止まった。散り際どころかほとんど葉桜状態。
「ほらね。トマトパスタ食べに早く行こう」
とっくに葉桜・・・の村民2号が急き立てる。
「葉桜も趣があるなあ。花びらがほんの少し残っているところなど、人生の無常を感じて涙が出てくるよ」
「村長の頭みたい。もう花びらもないけど」

          ボンドール② 
          パン屋とレストラン

ランチは地元で人気の「ボンドール北本店」へ。ここは石窯パンが売りで、イタリアンレストランも併設している。ランチタイムはパン食べ放題。10分ほど並んでからテーブル席へ。唐辛子とトマトソースをたっぷり使った「小海老と揚げ茄子のパスタアラビアータ」(スープ、サラダ付き1050円)を注文した。安くはないが、パン食べ放題なのでやむを得ない。

          ボンドール① 
          トマトはどこだ?
          ボンドール12  
          パン食べ放題

アラビアータとはイタリア語で怒りの意味。あまりに辛いので食べるとカッカと熱くなることに由来しているそう。パンはバイキングスタイルで、自分で好きなだけ取ってくる。村長はとりあえず3個、村民2号は2個。サラダ、スープとまずまずの旨さ。その後、主役の「小海老と揚げ茄子のパスタアラビアータ」がやってきた。女性スタッフがいささか雑な置き方。パスタはアルデンテで、多分オリジナルのトマトソースがたっぷりかかっていて好感。ガーリックとオリーブオイルと唐辛子が効いている。

          ボンドール⑤  
          小海老と揚げ茄子のパスタアラビアータ
          ボンドール⑦ 
          トマトソースがたっぷり
          ボンドール⑧ 
          エビとナス

「北本は野菜がいい。揚げ茄子(なす)もおいしい。アラビアータなので当り前だけど、結構辛いわ。あっ、ジワジワきたァ」
「女性スタッフの雑さに対する怒りも加わってるんじゃないか」
「まさか。混んでて忙しいのはわかるけど、確かに神経が行き届いていない気がする。パン屋もやっていて、いい店なのにそこだけ残念」
「アラビアータなので、わざとやっているのかもな」
「そしたらスゴイわ。村長にもアラビアータ」
「全員、未来は石戸蒲桜!」
「わけわかんない・・・」


本日の大金言。

桜は散り際が美しい。葉桜になっても趣がある。限りあれば吹かねど花は散るものを心みじかき春の山風。






                       ボンドール11 







新宿高野のクリーム・ド・マンゴー

 新宿高野と言えば、中村屋と並ぶ新宿老舗食文化の顔と言ってもいい。果物専門店という位置づけだが、タカノフルーツパーラーも経営し、スイーツ類にも手を広げている。その本家、新宿高野本店地下を散策中に、パンコーナーがあることを知った。村長にとっては意外な発見。今回はそこで見つけた「クリーム・ド・マンゴー」について。

「新宿本店限定 クリーミーメロン」という文字に引きつけられて、地下2階に行くと、すでに売り切れていた。時刻は午後3時過ぎ。最近この限定という言葉をよく目にする。「限定正社員」などという意味不明なトリック文字まで出てくる始末。限定を無限定に使ってはいかん。限定を無限定に使い始めると、無限定を限定しなければいけなくなる。売り切れと限定のパラドックス状態に村長の頭は混乱し始めていた。

           高野② 
           新宿高野本店B2

「午前中でなくなってしまうこともあるんですよ」
多分アルバイトだろう女性店員が申し訳なさそうに応対する。
ふと隣を見ると、「NEW」と書かれた「クリーム・ド・マンゴー」(1個260円)が。メロンパンよりもオレンジ色っぽい。こちらはまだ売れ残っていた。これが美味そうだった。1個260円は安くはないが、即決でゲットすることにした。

           高野③ 
           おおっ、これは・・・

メロンとマンゴー、大した違いはないかもしれないが、ウマズイめんくい村に持ち帰って、詳しく賞味することにした。コップに牛乳を注いでから、「クリーム・ド・マンゴー」を手に取って二つに割る。メロンパンやマンゴーパンには牛乳が合う、というのが村長の持論である。外の生地にはマンゴーピューレが練り込んであり、そのしっとりとした感触はグレイトだと思う。

          高野④ 
          奇跡のマンゴーパン

中から生のマンゴーが入ったマンゴークリームが現れた。ガブリと行く。マンゴーの果実味が口中にふわりと広がった。メロンパンよりも果実の酸味が強い。クリーミーな酸味。パン生地のふわりとした甘い食感との相性は悪くない。単なる菓子パンではない。これはひょっとして大人の賞味にも耐えられる新しいスーツではないか。メロンパンが高校生なら、こちらは大学生クラス。

          高野⑤ 
          二つに割ると・・・
          高野⑦ 
          言葉はいらない

「いくらなんでも260円は高すぎよ。高ノーよ。パンというよりスイーツと思った方がいい。それならこの価格設定も納得だけど」
「クリーミーメロンと食べ比らべしたくなったよ。明日にでも行ってみるか」
「そのために高い電車賃かけるなんて、バッカみたい。メロンとマンゴーの戦いなんてシャレにもならないわ」
「限定戦ということで・・・」
「無限定の言葉遊びは却下」
「・・・・・」


本日の大金言。

メロンパンはあんぱんと並ぶ日本独自のパン文化の成果だと思う。マンゴーパンもメロンパンから生まれた新たな枝になるかもしれない。





                  高野⑨ 





嘘みたいな鬼平「一本うどん」

 東北道・羽生PA(上り)に立ち寄った。「鬼平江戸処」で気になる一本うどんを賞味しようと考えたからだ。「鬼平江戸処」は食通でもあった池波正太郎の「鬼平犯科帳」の世界をテーマにしたパーキングエリアで、江戸の町並みをリアルに再現している。先日は「うなぎ 忠八」に入り、「地鶏きじ焼丼」に舌鼓を打ったが、そのとき、「軍鶏鍋(しゃもなべ) 五鉄」の一本うどんに客が殺到していた。一本うどんって、そんなのありか?

          五鉄1 
          タイムスリップ!

池波正太郎はそば好きだが、この「一本うどん」を何度か「鬼平犯科帳」の中で登場させている。小説の中では「深川・豊島屋の一本うどん」となっているが、どうやら江戸時代に本当に存在していたらしい。親指ほどの太さで、ドンブリの中で蛇のとぐろのように収まっていたようで、池波正太郎はそれをさり気なく鬼平の中で使ったと思われる。

          五鉄① 
          仰天の一本うどん

「軍鶏鍋 五鉄」は人形町「玉ひで」がモデルで、そこに「一本うどん」(850円)のメニューを加えた。アイデアとしては悪くない。850円というのはやや高いが、珍しさと好奇心から、村長のチャレンジとなったわけである。軍鶏鍋のツユで1時間ほど煮込んだといううどんは、本当に親指ほどのぶっとさで、黒いどんぶりの中央にどっかとトグロを巻いていた。表面にツユがしみ込んでいる。あとは半熟卵とネギだけ。いい匂いが立ち上ってくる。

          五鉄③ 
          主役の登場
          五鉄⑥ 
          こんなのアリ?
          五鉄⑦ 
          長ネギやーい

うどんは固いすいとんのような食感で、軍鶏鍋のすき焼きのような甘いツユが表面から滲みこんでいて、頭の方からかぶりつくと、どこか懐かしい味わい。「玉ひで」と提携したとあって、ツユは玉ひでとよく似ている。半熟卵を絡ませると、まったりとしてくる。黄身と白身が甘辛ツユを中和して、口中に広がってくる。その感覚は悪くない。

          五鉄⑧ 
          一本うどんの断面

一本うどんの長さは50~60センチほどか。量としてはそれほど多くはない。物珍しさと再現への熱意は脱帽ものだが、850円の満足度としてはやや不満が残った。せめて熱いお茶か箸休めの漬け物くらい付けてほしい。天国の池波正太郎が天国で苦笑している。村長はそう確信するのだった。


本日の大金言。

一本うどんで一本を取るのは難しい。せめて三本うどんにして、お代は五本にしたら、もっと話題作りになると思うのだが。




                       五鉄⑨ 





恐るべき神保町の究極「ぜんざい」

 久しぶりに東京神田・神保町の「M」の会合に顔を出す。カウンターだけの古い居酒屋だが、ここのママはエンターテインメント新聞社時代にお世話になった作家・早乙女一座のメンバーでもあり、メニューはお世辞にも豊富とは言えないが、不思議に落ち着く場所でもある。ここに立ち寄ったのは、すぐ近くに、甘味処「大丸やき茶房」があるからでもある。今回取り上げるのはこの店。ここはあんこ好きには避けては通れない、ある種のメッカだと思う。恐るべきあんこ。この表現は誇張ではない。

           大丸やき茶房① 
           神保町の奇跡

あの「おいしゅうございます」の料理研究家・岸朝子も推奨している今川焼きのような「大丸やき」(1個180円)がこの店のイチオシだが、村長は、あえて「ぜんざい」(600円)に挑んだ。ここのあんこづくりが半端ではない。北海道産のエリモ小豆を炊いて生餡を作り、それと同量の砂糖を加えて時間をかけて練り上げていく。餡と砂糖を同量使うというだけで、その甘さが想像できると思う。

昭和23年にこの場所に店を開いた。現在は3代目だが、初代は和菓子職人として、明治時代からあんこ作りに励み、その昔ながらの作り方を代々継承している。鍋も道具類も昔ながらのもの。そのためだろう、ここの「ぜんざい」は、普通のぜんざいよりはるかにこってりしている。

          大丸やき茶房2 
          秀逸な入り口
          大丸やき茶房② 
          あんこの最高峰

店先が大丸やきの焼き場になっていて、茶房の入り口には「珈琲・紅茶はお出ししていません」と表記してある。すべて日本茶という徹底ぶり。2人用のテーブルが6つほど。村長はゆっくりと腰を下ろして、「ぜんざい」が来るのを宮本武蔵のような気持ちで待った。12~3分ほどでお盆に乗って小次郎・・・じゃなかった「ぜんざい」がやってきた。煎茶と梅肉がしずしずと従っている。

          ぜんざい① 
          主役の登場
          ぜんざい② 
          ふたを取ると・・・

漆の器のふたを取ると、黒光りしたあんこがテンコ盛り状態でそこに実在していた。実在、と表現したくなるビジュアル。とろりを超えて、どろりとしていた。水分の少なさと黒々あんこの恐るべきプレゼンス。甘さが半端ではなかった。ひと口で村長の脳天がシビレた。おそらく村長がこれまで食べたぜんざいでこれほどの甘さは経験がない。中に焼いた餅が3個潜んでいた。よく伸びるいい餅。

          大丸やき茶房④ 
          絶景・・・感動の世界
          大丸やき茶房⑥ 
          ただ者ではない餅
          大丸やき茶房⑨ 
          大丸やき

塩加減も感じない。このこってりした甘さの前では美味、という言葉さえ無意味に思えてしまう。脳内エンドルフィンが全開状態になり、あまりの幸せ感にくらっとしてきた。自己無化の極致。武蔵敗れたり。食べ終えた後、村長は茫然とお茶をすすった。梅肉で錯乱した味覚を整えてから、大きく深呼吸して、「大丸やき」を1個頼むことにした。意地と根性。見た目は今川焼きのようだが、生地はカステラか人形焼のよう。その中のあんこも激甘だった。村長はダウン寸前でふらふらと立ち上がった。負けるわけにはいかない。タオル投入なんて冗談じゃない・・・。

          大丸やき茶房10 
          ひと口、いかがどす?


本日の大金言。

普通の甘党の方にはぜんざいより、田舎しるこをお勧めする。汁気があり、食べやすい。それにしてもあんこ道(そんなものがあるとして)は厳しい、と改めて思う。




                       大丸やき茶房14 






あんバターどら焼きと太田焼きそば

 ゴッドマザーのお見舞いでこのところ上州に行く機会が増えた。今回はその帰りにふと立ち寄った群馬県太田市で見つけたB級の美味をご紹介しよう。太田市は秋田県横手市、静岡県富士宮市と並ぶ「日本三大焼きそばシティー」の一つ。市内には50軒以上の「太田焼きそば」の店がある。村長は以前、「岩崎屋」で真っ黒い焼きそばを目の当たりにして驚いたことがある。太田焼きそばの特徴は太麺が基本ということと具がキャベツしかないことくらいで、すべてが真っ黒くはない。 

東武伊勢崎線太田駅で途中下車して、旧日光例幣使街道を西本町に向かって歩いていると、「やきそば」という紺地の暖簾と、「「あんバターどら焼き」というメニューが目に入った。村長のセンサーにビビビと来た。見るからに老舗の風格の一軒家。それが「峰岸 大和屋」だった。和菓子屋としては創業100年を超える歴史を持ち、「やきそば」は50年の歴史を持つ、太田市の中でも屈指の名店だった。      

           大和屋①
 
           「峰岸 大和屋」めっけ
           大和屋② 
           うむむむ

「あんバターどら焼き」はこの店のオリジナルで、手焼きのどら焼きの中に特製バターとつぶしあんを二層で挟んでいるスグレもの。1個130円。これを目当てに首都圏からもわざわざ買いに来るファンが増えているそう。店内は美味そうな生菓子がずらりと並んでいて、左手にはテーブル席と小上がり座敷。右奥が焼きそばの厨房になっていた。そこに白衣の男性が一人。面白い店の造り。

           大和屋③ 
           奥が焼きそばの厨房

村長がテーブル席に腰を下ろすと、ご高齢の女性がお茶を持ってきてくれた。まずは「あんバターどら焼き」(130円)を頼んだ。それから「やきそば」(中350円)も頼んだ。生和菓子とやきそばのシュールな世界。値段も安い。村長の世界でもある。

          大和屋④ 
          あんバターどら焼き!
          大和屋⑦ 
          隠れ名品?

「あんバターどら焼き」は大きさは小ぶりだが、ひと目で只者ではないことがわかった。ハチミツと卵と小麦粉の焼けたいい匂い。二つに割って賞味。卵の風味が際立っていた。皮はもっちり感とふわふわ感の凝縮。そこにバターの冷静さとやや甘めのつぶしあんの情熱が口中で絶妙に融合する。あんことバターが意外に合うことは、銀座・木村家の「あんバターホイップ」で村長も経験済み。このどら焼きも隠れ逸品と言わざるを得ない。

10分ほどで、ソースのいい匂いとともに「やきそば」がやってきた。「中」なのに、かなりのボリューム。ラードで炒められた平べったい太麺はソースの色が「岩崎屋」のように真っ黒ではない。具はキャベツだけ。上に青のりがどっかとかかっていた。うーむ、と唸りたくなる貫録。口に運ぶと、ソースの濃厚な甘さがドドドと広がる。ソースは2種類使っているそう。麺は特注の蒸し麺だろう、モチモチ感とボソッとした食感が交互に来る。

          大和屋⑧ 
          これで「中」とは・・・
          大和屋⑨ 
          平太麺とソースの融合
          大和屋10 
          唐辛子をかけてみる

村長は豚肉があった方が好きだが、これが太田焼きそばの伝統なのだから、それはないものねだりというもの。紅ショウガがないのは何故か。「唐辛子をかけても旨いですよ」と言われ、パラパラと振りかける。味が締まる。太麺とキャベツだけでこれだけの素朴な美味を演出していることに敬意を表したくなる。合計480円也のフルコース。村長は昨日のステーキランチとはひと味違うB級の幸福感にしばし浸るのだった。


本日の大金言。

51階のリッチと地べたのリッチ。天と地の世界。この両方があって、ウマズイめんくい村が成り立っている。





                      大和屋11 


地上51階のプチ贅沢ランチ

 馬鹿と煙りは高いところに昇りたがる。何ということだ。ウマズイめんくい村にもそんな瞬間が訪れてしまった。
「今日は私の誕生日。たまにはパーッと高いところで、ステーキを食べたいな。ここんところゴッドマザーの介護とかで疲れちゃった。栄養補給しなくっちゃ。キオも呼んで、パーッと行きましょ」
村民2号の何回目かの誕生日。泣く子と村民2号には勝てない。彦作村長は黙って立ち上がると、とっておきの店を用意することにした。

           みその① 
           51階のプチ贅沢

その3時間後、キオも加わった怪しい一行は東京・新宿住友ビル51階に舞い降りた。あの鉄板焼きステーキの元祖「神戸みその 新宿店」である。ディナーは高すぎるので、ランチタイムでごまかすことにした。村長のやさしい(?)配慮。ここの「Cランチ」(2806円、税別)はコスパ的にはF難度だと思う。3000円で1万円以上の贅沢(ぜいたく)。そんな気分。

           みその1  
           厚さ20センチの鉄板

メーンが国産牛のフィレ肉130グラム。それにサラダ、焼き野菜、ご飯、味噌汁、お新香が付く。さらにコーヒーまで付いている。「みその」は1945年(昭和20年)神戸の地で創業の老舗。世界で初めてシェフが客の目の前でステーキを焼く「鉄板焼きステーキ」を考案、「Teppanyaki」の名をを世界に知らしめた店でもある。村長はそっとグラスワインを頼む。

コの字型の鉄板焼きカウンター席で、シェフの見事なワザに目が釘付けになる。外人客もいる。ガーリックと脂のいい匂い。右手には絶景。やがて切り分けられたミディアムのフィレ肉がシェフの手で目の前に置かれた。村民2号の目がらんらんとしている。サラダから食べ始める。続いて本命のフィレ肉へ。言葉が出てこない。普段は口数の多いキオも黙々と味わっている。

           みその  
           素晴らしき世界
           みその⑥ 
           フィレのミディアム
           みその⑦ 
           ま、食べておくんなさい

まず肉の柔らかさに驚く。赤穂の天然塩しか使っていない。肉自体の旨味が見事に引き出されている。そのシェフの腕。ご飯は固め。赤だしの味噌汁も美味。
本来ならガーリックライスと行きたいところだが、「Cランチ」なので我慢ガマン。シェフの応対も老舗の気配りが効いている。

           みその⑧
           この贅沢

「美味いわ。私の41回目の誕生日としては安上がりだけど、とても3000円とは思えない満足度よ。すごい贅沢をした気分
辛口の村民2号が食後のコーヒーを飲みながら、溜息混じりに言った。
「あれっ、計算が合わない」
キオが突っ込む。
「細かいことは気にしない」
村民2号がボケる。
「とにかく何回目か忘れたけど、誕生日、おめでとう。よかった、よかった」
村長がアバウトにまとめにかかる。
馬鹿と煙りの豪勢な51階のランチは、タイムアウトまで5分を切っていた。


本日の大金言。

老舗のランチタイムは狙い目である。「最高に近い贅沢」を安く味わうにはこの手に限る。



                       みその⑨ 

オタクの街の「立ち食い」最高峰

東京・千鳥ヶ淵で友人たちと「夕暮れの花見」とシャレ込むつもりが、土砂降りの中の花見となりそうだった。鉛色の空を見上げながら、彦作村長は早めに出かけ、秋葉原で途中下車することにした。傘を差しながら昭和通りを上野方向へ歩いていくと、「そば・うどん あきば」の看板が見えた。シンプルな紺地の暖簾が下がっている。ここだ、ここだ。村長は傘をたたむ。今立ち食いそばファンの間で注目の店である。

          あきば 
          秋葉原の隠れ名店

店内はゆったりしていて、大きな木のテーブルと小さなカウンターがあるだけ。座って食べるので、厳密に言うと、「立ち食い」ではない。だが、入り口に発券機が置いてあり、「もり 360円」「天もり 460円」という安い値段設定は立ち食いの範疇と言ってもいい。村長は店主自慢メニューと書いてある「冷や鴨そば」(570円)を頼んだ。中年の店主が一人で切り盛りしていた。左手に打ち場があり、この店が「立ち食い」のレベルではないことを無言で示していた。

           あきば③ 
           立ち食い?
           あきば④ 
           これに決ーめた

信州・戸隠からそば粉を取り寄せ、それを店主が打つ。茹で上げまですべてを店主が行う。10分ほど待つと、「出来上がりました」の声。テーブル席で賞味となった。青葱と細かい鴨肉が乗っかっただけのシンプルな構成。まずはひと口。そばは茶色がかっていて、戸隠の特徴である挽きくるみで、そのごわっとしたコシとスッキリした歯ごたえに思わずむむむと唸ってしまった。そば自体の風味と店主の腕の確かさ。

           あきば⑤  
           冷や鴨そば
           あきば⑦ 
           鴨と青葱
           あきば10  
           戸隠そばの美味

ツユは薄めだが、出汁がよく効いている。どこか甘い旨味がにじみ出ているのは鴨肉と青葱の相乗効果だろう。村長がこれまで食べた立ち食いそばの中で、この価格でこれだけの高みに達したそばはすぐに思い出せない。発券機や箸がプラスチックなことがなければ、ここが立ち食いとは到底思えない。

          あきば⑨ 
          ツユの奥深さ

ツユまで一滴残さず飲み干してから、店主としばし雑談。
「手打ちは疲れるんですよ。せいぜい一日50~60食くらいしか出せない」
「へえー。この値段でよくやってますね」
もともとは日本橋の老舗そば屋で修業していたんです。もり一枚千円の店でしたよ。秋葉原に店を出して、本物のそばを出来るだけ安く提供する。それに切り替えて毎日そばを打ってるんです。大変ですけどね(笑)」

その数時間後、雨の中の花見は神保町の居酒屋に場所を移し、終電近くまで虎の咆哮が辺りの雨音をかき消すのだった。


本日の大金言。

秋葉原はオタクばかりでなく様々な顔を持つ。真面目で安くて本物のそば屋が新しい顔になる日も近い。




                          あきば12

どんぶらこ謎の「あんみつ」

 老舗といわれる甘味屋にはそれなりの雰囲気というものがある。建物、作り方、店の応対、味わい。そうした一連の流れとはまるで違う演出型の甘味屋と遭遇した。さいたま市大宮駅のルミネをいつものように散策していると、「あんみつ」の暖簾が見えた。地元ではよく知られた「甘味屋 田むら」だった。お客のほとんどは女性で、広い店内にはテーブル席の他に、流れるプールのようなUの字型のカウンター席もあった。村長の好奇心がむくむくと湧いてきた。

           田むら① 
           甘味屋「田むら」(ルミネ大宮店2)

ええ、このコーナーに座っていただくと、注文したものがこの川を流れてくるんですよ。回転ずしの甘味屋版みたい? そうかもしれませんが、ウチの昔からのやり方でもあるんですよ。他でこういう出し方をしている店はないと思います」
女性スタッフの説明を受けながら、村長はその一角に腰を下ろした。頼んだのはむろん「あんみつ」(550円)である。

           田むら③ 
           まさかの世界
           田むら④ 
           桃太郎ではなくあんみつ

こりゃ、まるでどんぶらこと流れてくる桃太郎の桃ではないか。6~7分ほどの待ち時間で、流れの向こうからお盆に乗って「あんみつ」がやってきた。風流を超えて、面白すぎる。「田むら」は素材にかなりこだわっているようで、例えば「あんみつ」。粒あんと赤えんどう豆は北海道富良野産、こしあんは十勝産、黒蜜は沖縄波照間産の黒糖を使用・・・と表示している。問題は味。

粒あんとこしあんをブレンドしたというあんこは、甘みと塩みのバランスがいい。登場の仕方がキワモノと紙一重だが、あんこは本格的で、いい風味が口中に広がる。あんみつはあんこと寒天が命だと思う。その寒天は小粒で、特筆するものは感じない。赤えんどう豆も普通。求肥は2枚で、これも印象は薄い。ミカンも黒蜜も普通の印象。

           田むら⑥ 
           沖縄産の黒蜜
           田むら⑦ 
           寒天と赤えんどう豆
           田むら⑧ 
           あんこの美味

全体としてよくまとまっているが、上野「みはし」のような深みは感じない。中途半端な満足度のまま、村長はほうじ茶をすする。目の前の小さな川をジッと見る。この遊び心がこの店の隠し味ということなのかもしれない。ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず・・・という「方丈記」の一節が浮かんできた。

文句を言いながら「あんみつ」を食べているアータも、この川の水と同じなのだよ。いやさ、おつなも永田町も日本も世界も人間の営みさえも水なのだよ。どこからかそんな声が聞こえてくる。調布先生の声のよう・・・ありゃりゃ・・・妙な終わりになってしまった。


本日の大金言。

村長がたまに顔を出す「おつなセミナー」が、「笑っていいとも」とほぼ同時に33年の歴史に幕を閉じることを宣言した。ゆく川の流れ、ということなのだろう。33年! 燦々と散々。主催者の調布先生はタモリに負けないくらい偉いと改めて思う。




                       田むら⑨ 

絶妙女将の「ポテト入り焼きそば」

 「じゃがいも入り焼きそば」は栃木市のB級グルメだとばかり思っていたが、実は足利市が元祖だという説もある。足利では「ポテト入り焼きそば」と表現が微妙に違う。「じゃがいも」と「ポテト」の意地の張り合い。足利の「ポテト入り焼きそば」はあの明治28年創業「月星ソース」のソースを使い、すでに戦後から地元では定着した食べ方だったという。元祖はどっちだ?

彦作村長はこれまで栃木市の「じゃがいも入り」を何度か賞味しているが、足利の「ポテト入り」は食べたことがなかった。これはいかん。病院から退院したゴッドマザーのお見舞いの帰り、何店かある中で、女将が面白いと評判の「鈴屋」に立ち寄ることにした。夕暮れが忍び寄る時間。渡良瀬川沿い、白鷗大学足利高校裏手に「焼きそば 月星ソース」の赤い幟(のぼり)が見えた。昭和の匂いのするベタな外観。それが創業50年の「鈴屋」だった。

           鈴屋① 
           鈴屋、このレトロ感

中に入ると、豊かな体形の女将が「あら、お待ちしてましたよ」とお茶を持ってきた。事前に電話で「何時まで営業しているんですか」と聞いたら「あなたが来るまでよ」と愛嬌たっぷりに返してきた。その女将。うわさ通りオモロイ女将だった。店内は鉄板焼きのテーブルが4つ。村長は「ポテト入り焼きそば」(豚肉入り400円)を頼んだ。女将が目の前で焼きそばを作ってくれるというのも面白い。

           鈴屋② 
           見事な平安文字メニュー

ポテト入りは元々は足利が元祖なんですよ。私のところにも作り方を教えてほしいって、いろんなところから来ましたよ。全部教えましたよ。うちの特徴は麺は2種類使って、月星ソースも2種類使います。それと秘伝の出汁。昆布とかつおで取った出汁を加えるのよ。キャベツともやし、それにコーンも入れる。ポテトは1個分。すごく手が込んでいるのよ。それは食べてみるとわかるわよ」

           鈴屋③ 
           女将の独壇場

口と手がよく動く。目の前で見事な手つきで焼きそばが出来上がっていく。その圧倒的なボリュームとソースが見事に麺に絡んでいく過程、焦げ目を生かした仕上げについつい見とれる。青のりと紅ショウガを乗せて完成。じゅわじゅわといい匂いが年季の入った鉄板から放出している。出来あがったポテト入り焼きそばを小皿に取りながら、まずはひと口。

           鈴屋⑤ 
           お待ちィ~
           鈴屋⑥ 
           ポテトのプレリュード
           鈴屋⑨ 
           焦げ目の旨み

絶妙な味だった。中太麵はもちもちと口中に広がり、やや甘めのソースが穏やかで柔らかい。豚肉とキャベツ、もやしのバランスがいい。ポテトのホクホク感も悪くない。不思議なのは小皿にソースがくっつかないこと。焼きながら麺の中にソースと出汁をしみ込ませていることになり、女将の腕がすご腕であることがわかる。美味というより旨味。あっという間に食べ終える。

これで400円という安さにも好感。ただのおしゃべりではなかった。聞くと、書道の先生でもあるそう。焼きそばと書道の鉄板の上の出会い。シュールすぎる! 「また来てね」と女将。村長は足利元祖説に1票を投じることにした。


本日の大金言。

ポテトを焼きそばの具にするという発想は栃木文化ならではかもしれない。隣接している群馬県太田市の有名な焼きそばにはない。栃木食文化は謎だらけ。





                        鈴屋12 









権現堂の桜と「ヒレかつバーガー」

 埼玉・幸手市の権現堂は桜の名所でもある。テレビが開花情報をどんどん流すので、ウマズイめんくい村村長としては、「ちょっくら花見にでも行ってみるか」とならざるを得ない。ポンコツ車をぷかぷか飛ばして、権現堂へ。すでに一面満開で、よく見ると七分咲き。土手の下には菜の花畑も広がっている。絶景かな。

           権現堂② 
           権現堂は見ごろ

エンターテインメント新聞社時代は、毎年このシーズンになると、大ボスのカバン持ちで花見をした後に、偉い先生を囲んで向島の料亭で江戸の粋を楽しんだものだ。ほんの少し前のことなのに隔世の感。いけねえ、いけねえ。回顧調になってしまった。ギアを戻す。

           かつ太郎① 
           ヒレかつバーガー!

その権現堂で、トンカツレストラン「かつ太郎」の出店を見つけた。「ヒレかつバーガー」(1個400円)が残り8個ほどになっていた。おにぎりや弁当もいいが、ウマズイめんくい村の村長としてはここは珍しい「ヒレかつバーガー」に傾く。それをまずゲットしてから、「峠の茶屋」で、「桜まんじゅう」(3個300円)も買い求めた。桜のデザートというわけである。

           かつ太郎④ 
           おおっと登場
           かつ太郎⑤ 
           デカい!

「ヒレかつバーガー」は、厚さが1センチはあろうかという黒豚のヒレカツとキャベツを挟んだバーガーで、紙袋を開けた瞬間、その予想外のボリュームに息を飲んでしまった。冷たいのが残念だが、手に取ると、バンズが柔らかく、キャベツのてんこ盛りとその下に控えているヒレカツの重みがずっしりくる。トンカツソース、マスタード、それにマヨネーズが主役のヒレカツを押し立てている。かなりのデカさ。

           かつ太郎⑨ 
           ガブリと行け
           かつ太郎⑧ 
           トンカツ屋の実力

ガブリと行くと、思った以上にバンズがいい。次にやや甘めのソースとヒレカツと千切りキャベツがガブリ寄りしてくる。ヒレカツは十分に柔らかい。これで揚げ立ての温かさがあったら言うことはないのだが、いかんせんここは花見の出店である。それを望むのはぜい沢というもの。
「権現堂の桜を見ながらヒレかつバーガーなんて初めての体験だけど、意外にイケるわ。コスパ的にもM社のバーガーより全然いい
村民2号がコーヒーを飲みつつ、桜も見ずに食らいついている。それを桜の古木が見下ろしている。

          権現堂⑤ 
          桜まんじゅうサマ
          権現堂⑦  
          白あんの風情

1個で結構な満腹感。コーヒーを一口すすってから、デザートの「桜まんじゅう」へ。桜色の皮を割ると、中から白あんが出現してきた。よく見ると白あんには桜の葉が点々と混じっていた。控えめな甘さと塩加減がほどよい。皮のもっちり感も悪くない。向島の料亭より権現堂のB級の美味。村長は七分咲きの桜の下で、しみじみと宮仕え後のひと時を楽しむのだった。


本日の大金言。 

桜の樹の下には屍体は埋まっていない。これは信じていいことなんだよ。なぜって、屍体が埋まっていたら、桜の名所は殺人事件だらけになってしまうじゃないか。誰が桜を殺すのか? そっちの方が心配だ。



                       権現堂1 

プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

最新記事
カテゴリ
彦作のつぶやき
最新コメント
月別アーカイブ
カレンダー
03 | 2014/04 | 05
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR