息も絶え絶え「羽黒山の力餅」

 羽黒山の石段は2446段。去年、山寺の石段(1050段)を登り切って自信を付けたウマズイめんくい村の怪しい一行約2人は、「ナニ、千も二千も変わりないさ」と五重塔を参拝してから延々と続く石段を登り始めた。樹齢300~500年と言われる杉木立、その間から見える空、身体ごと洗われるような清澄な空気・・・だが、300段も行かないうちに息が上がってしまった。日ごろの運動不足が悔やまれる。
                     五重塔① 
          平将門が建てたと言われる五重塔

「修験道の山伏はここを何往復もしたのよ。恥ずかしいったら、ありゃしないわ。ほら、子供だって平気な顔で登ってるわよ」
立ち止まってハアハア息を鎮める村長の横を、小学4年生くらいの男の子が「トントントンヒノノニトン」などと口ずさみながら登っていく。こんなところでCMなんか歌うな。

「せめて二の坂までは行きたいわ」
「ちょっと無理かもな」
「二の坂茶屋の力餅を食べなくてもいいの? 村長の好きなあんこ餅・・・」
「ハアハア・・・それがホントの目的だった。忘れるところだったよ。二の坂茶屋はちょうど中間点。ハアハア、そこまでは何としてでも・・・」
              羽黒山⑥ 
              オアシスが目の前に・・・

あ の武蔵坊弁慶が油をこぼしたと言われる「油こぼし」の急坂の上に、「名物力餅」の看板が見えた。ここまで1時間ちょいかかっている。足が鉛になっている。休み休み足を動かす。ようやく「二の坂茶屋」たどり着いた。タイムは1時間15分。茶屋はこの一軒しかない。考えてみれば凄い茶屋なのである。創業は江戸時代とか。広く大きな木組みの小屋。そこに「あんこ餅、きな粉餅、納豆餅」などのメニューが見えた。急に元気が出る。
              二の坂茶屋① 
           江戸時代創業の二の坂茶屋
              二の坂茶屋12 
              外人観光客の姿も
              二の坂茶屋⑤ 
              メニューの一部

簡素な縁側寄りに腰を下ろす。メニューの中から「抹茶付 ミックス餅」(あんこ3個、きな粉2個 700円)を頼むことにした。村民2号も同じもの。外国人の観光客の姿も見えた。待つこと10分ほど。お盆に乗った力餅と抹茶がやってきた。
              二の坂茶屋1 
              抹茶付ミックス餅

まずは抹茶をズズズ。普通の抹茶。続いて、あんこ餅へ割り箸を伸ばす。紫色のこしあん。ほのかな湯気。これが予想以上の旨さだった。庄内産もち米を毎日杵(きね)でついているという餅はコシが強く、伸びが力強い。こしあんも手づくりだそうで、塩気がかなり強め。だが、その塩加減が絶妙で、小豆のいい風味とともに口中に広がる。美味。疲れた体の細胞一つ一つにに染み入ってくるよう。
              二の坂茶屋⑦ 
              パラダイス
              二の坂茶屋⑨ 
              秀逸なあんこと餅

きな粉餅は甘さを抑えていて、それがいい。庄内産青きな粉の風味も立っている。村長はあんこの絶妙な旨さに感心。「これはどなたが作ってるんですか?」と若女将に聞いてみた。すると、しばらくして、奥からおばあちゃんが出てきた。
              二の坂茶屋⑧ 
              青きな粉の美味

「ワタスが毎日作ってます。代々受け継いだ作り方で。うんだ、江戸時代からずっと」
「おばあちゃんで何代目ですか?」
「わがんねえ。わがんねえくれえ古い」

おばあちゃんのいい顔がすべて。それ以上、聞くことは無駄だと思った。きれいに平らげた村民2号が、「さあ、あと半分、頂上を目指しましょ」と立ち上がった。どこかからほら貝の音が聞こえた気がした。芭蕉にならって一句。有難や石段消えるあんこ餅

本日の大金言。

羽黒山は古来から修験道の行者たちの場所。それが今やミシュラングリーンガイドジャポンで三ツ星(最高ランク)。外国人も訪れる観光地となっている。だが、杉木立の石段には変わらぬ沈黙がある。



                       二の坂茶屋11 










スポンサーサイト

藤沢周平と「庄内汁料理」の味

 山形・鶴岡市は藤沢周平の故郷である。小説の中に登場する海坂藩は庄内藩がモデルと言われている。時代小説作家の中でも特に藤沢周平ファンである村長と村民2号にとって、ここは来たかった場所。藤沢周平記念館を様々な思いで見学した後、ランチをどこで取るか、迷った。海坂藩なので、ガイドブックは当てにしない
              藤沢周平記念館 
              藤沢周平が生きている(記念館)

記念館の受付嬢がそっと教えてくれた店に行くことにした。「庄内汁料理の店で、私もよく食べるんですよ」のひと言が決め手。ブラブラ歩いて行ける距離。致道博物館前に今年4月にオープンしたそうで、「庄内藩しるけっちゃーの」という不思議な店名。予約が殺到するイタリアンレストラン「アルケッチャーノ」の姉妹店だとか。「汁」と「知る」を掛けたネーミングだそう。わかりにくい。
              しるけっちゃーの 
              庄内藩しるけっちゃーの

古民家カフェのような店構えで、店内はカウンター席と大きなテーブル席がある。女性スタッフがいきいきと働いていた。カウンター席に案内され、メニューの中から「秋の味覚セット」(飲み物付き1200円)を選んだ。「サンマの山椒醤油煮」は終わっていて、「サワラになります」とのこと。サワラは春の魚だが、鶴岡では今が旬。これは・・・当たりかもしれないぞ。
              あるけっちゃーの① 
              ランチメニューは2種類

15分ほど待って、「秋の味覚セット」がやってきた。木箱に入った小皿が3種。大根・ゴボウと牛のキンピラ、ナス青唐辛子の揚げびたし、糸ウリの煮付け。メーンはサワラの味りん醤油焼き。汁ものは焼きナスともずくのお味噌汁。ごはん、漬け物という構成。木箱を通して目の前に広がる緑の景色がいい。
              しるけっちゃーの① 
              凝った料理と器

「気に入ったわ。藤沢周平の小説には脇役として庄内料理が旨そうに出てくるけど、その延長線上にこの料理があるのね。どんがら汁を食べたかったけど、冬しか食べれないので今回は残念だけど、この焼きナスともずくの味噌汁もいいわね」
村民2号がズズズとすする。村長も負けじとすする。平和の有難みもしみじみと味わう。
              しるけっちゃーの⑦ 
              焼きナスともずくのお味噌汁
              しるけっちゃーの⑥ 
              丸ナスの美味

出汁と地場味噌の味がとてもいい。焼きナス、白菜、もずくがやさしい。庄内の水はカルシウムが多く、それが煮崩れを防ぎ、料理にいい味わいをかもし出している。味噌は2種類をブレンドしているそう。庄内の旨みが詰まっているような深い味わいを堪能する。
              しるけっちゃーの③ 
              サワラの味りん醤油焼き
              しるけっちゃーの② 
              小皿が3種

メーンのサワラの味りん醤油焼きは味がやや濃いめ。だが、焼き加減がよく、身が柔らかい。炊き立てのご飯(はえぬき)が柔らかめ。もう少し固めが村長の好みだが、これはこれで悪くはない。量は少なめ。3種の小皿はそれぞれにまずまずの味。漬け物が美味。小茄子のビール漬けが気に入った。もう1個あればもっといいのだが。
              しるけっちゃーの⑨ 
              ナス青唐辛子の揚げびたし
              しるけっちゃーの14 
              凝った漬け物

箸を置く。八分の満足感。足るを知る。藤沢周平の「私は所有する物は少なければ少ないほどいいと考えている」と言う言葉を噛みしめる。所有する物を少しずつ減らしていって、やがて自分もふっと消えるのがいいという意味のことを書いている。我欲と物欲と食欲の強い村長にとっては耳の痛い言葉でもある。喝っ!

本日の大金言。

藤沢周平記念館の目玉が書斎。大泉学園の自宅の六畳間を再現したもの。実際に使っていた机、椅子、パーカーの万年筆、コクヨの原稿用紙・・・そのシンプルな佇まいからあれだけの名作が生まれた。ローマは一日にしてならず。



                        しるけっちゃーの10

ハトヤ食堂の感動「支那そば」

 喜多方ラーメンは今や全国区ブランドだが、会津ラーメンはマイナーである。だが、会津ラーメンの歴史は喜多方ラーメンよりも古い。「みちのく最古の手打ち中華そば 三角屋」の創業は大正初期と言われている。喜多方ラーメンの元祖「源来軒」が大正末期、屋台から始めたことを考えても、三角屋の方が古い。

会津ラーメンと喜多方ラーメンはスープがとんこつ醤油ベースであること、麵が平打ち太縮れ麺であることなど基本的には共通している。全国展開している幸楽苑は会津ラーメンと銘打っているが、本来の会津ラーメンとは麺が違い過ぎる。全国チェーン展開にはそういうギャップがどうしても出てくる。
              ハトヤ食堂② 
              会津に行くならハトヤ?

という前口上はさておき、その会津ラーメンの老舗の一つ「ハトヤ食堂本店」の暖簾を久しぶりにくぐることにした。「三角屋」はすでにこのブログで紹介しているので、今回はもう一方の雄に乗り込むことにしたのである。食べログやガイドブックなどで、ここはソースかつ丼の旨い店として紹介されることも多いが、その情報はあまりに表面的すぎる。会津藩足軽出身の村長に言わせれば、ここの本当の目玉はラーメンなのである。
              ハトヤ食堂① 
              創業80年の暖簾

日新町の本店はちょうど昼飯時で混んでいた。しばらく待とうと思ったが、若女将が出てきて、「よかったら奥にも部屋があります。そちらへどうぞ」と案内された。裏口から入ると、座敷があり、4人用のテーブルが三つ。地元の客らしい親父グループがラーメンを食べていた。「やっぱしここはラーメンだな、ソースかつ丼もウメけど、昔からここはラーメンだべ」などと会津弁で話しながら、舌鼓を打っていた。やっぱし・・・村長は膝を打った。
              ハトヤ食堂③ 
              中華そば? 支那そば?
              ハトヤ食堂④ 
              地元の客が多い

メニューの中からその「しょうゆラーメン」(550円)を頼んだ。しょうゆラーメンというよりも中華そばか、支那そばと言った方が正確だと思う。村長に言わせると支那そば。13分ほどの待ち時間で、その支那そばがやってきた。白い大きめのドンブリに豚ガラ醤油スープが揺蕩っていた。うっすらと脂が浮いていて、いい匂いが立ち上がってくる。手切りした煮豚チャーシューが2枚、太いシナチク、その下には平打ち麺という構成。ナルトが驚くほど分厚い。全体的なボリュームは普通のラーメンの1.3倍はあるかもしれない。
              ハトヤ食堂⑤ 
              これこれ
              ハトヤ食堂⑥ 
              コショウをパラリ

まずはスープ。豚ガラをじっくりと煮込んだことがわかるまろやかな旨味が煮干しの風味とともに舌にアタックしてきた。醤油は見た目よりもきつくない。ほのかな甘みは豚ガラから滲み出た脂だと思う。次に麺へと箸を動かす。かん水による縮れとつややかさが際立っている。もっちり感。思わずこれこれ、とつぶやきたくなる。若女将によると手もみしているそう。
              ハトヤ食堂⑦ 
              歴史のあるスープ
              ハトヤ食堂⑧ 
              麺の凄味
              ハトヤ食堂10 
              煮豚の感動

チャーシューは会津産豚バラとらんぷを使った煮豚チャーシューだが、この柔らかな美味はかなりのもの。ピンクがかった赤身と白い脂の部分がきれいで、肉自体の旨みが全面に出ている。手切り感がいい。喜多方ラーメンの陰に隠れているが、会津ラーメンの旨さを改めて認識した。太めのシナチク、分厚いナルトも会津らしい。
              ハトヤ食堂11 
              無骨なシナチク
              ハトヤ食堂12 
              分厚いナルト

「ホメてばっかりじゃない。化学調味料も少しは使ってると思うし、海苔がない。それでラーメンと言える? ほうれん草も入れてほしいわ」
「その割にはきれいにスープまで飲んでる。漬け物が付いていて、それが旨いわって言ってたのは誰だ?」

「旨いのは認めるけど、村長の屈折した会津びいきにはあきれるわ。喜多方ラーメンの悪口まで言ってフェアじゃないわ」
「悪口じゃないって。事実を言ってるんだってば」
「そこが会津の人の嫌なとこ。よく言えばガンコ、悪く言えば狭量。だから戊辰戦争に負けるのよ」
「ひえーっ・・・・・・」

本日の大金言。

会津に行ったら、ぜひハトヤ食堂本店のラーメンを食べてみてほしい。話しはそれからどす。


                         ハトヤ食堂13 

「元祖煮込みソースカツ丼」の味

 ご無沙汰どえーす。渓流斎さんやーい、ゆっくりと起きなはれ。BGMはビートルズどすえ。
さて、何を隠そう(隠すものもないが)、極秘任務で会津→山形→宮城の旅へポンコツ車を走らせてきたのである。会津は平成20年12月23日に亡くなった時代小説作家・早乙女貢氏の墓参りが主任務。早乙女一座と称する取り巻き編集者や作家、有名女優(名前は秘密)らと会津で合流。墓参りを済ませた村長は、安宿にとりあえず荷物を置き、村民2号と待ち合わせ、その足で夕暮れの会津市内を散策することにした。

ややこしい話はさておき、夕飯をどこで取るか、村民2号と意見が衝突した。村長は居酒屋、村民2号は会津名物「ソースかつ丼」を主張した。山本八重が乗り移った(?)村民2号が「ならぬものはなりませぬ」と居酒屋行きを阻む。歩き疲れて足が棒になっている。村長は妥協案を出すことにした。会津でも老舗中の老舗、「なかじま」で、ビールを飲みながらツマミ一品とソースかつ丼を食べる。これなら文句あるめえ。
              なかじま① 
              元祖はここだ?

神明通りから上町(旧甲賀町)は近い。ここは「元祖煮込みソースカツ丼」が名物で、昭和23年創業の、もともとは西洋料理の老舗。村長は子供のころ、ここでハヤシライスを食べてその旨さに驚いた記憶がある。「煮込みソースカツ丼」はその当時からのメニュー。20年ほど前からソースかつ丼の専門店に変身、会津でここの「ソース煮込みカツ丼」を食べないと、会津のソースかつ丼は語れない。とまで称される存在となった。
              なかじま 
              老舗の店構え

カウンター席に座って、その「元祖煮込みソースカツ丼(ロース)」(1050円)を頼んだ。みそ汁、漬け物付き。むろんビール(瓶ビール700円)を頼むことも忘れない。村民2号は「キャベツソースカツ皿」(850円)を頼んだ。さらに、珍しい季節限定メニューを見つけた。「会津産青トマトフライ」(400円)なるもの。ツマミとして案外、発見になるかもしれない。
              なかじま② 
              ここしかないメニュー
              なかじま③ 
              まさかのメニュー

目の前で恰幅のいいコックがとんかつを揚げている。軽やかな音といい匂いが鼻腔をくすぐる。10分ほどで瓶ビールと「会津産青トマトフライ」がやってきた。トマトのフライは、今が旬の青トマトをフライにしたもの。オリジナルソースにたっぷりとくぐらせてある。これが当たりだった。かじると、揚げ立てのサクサクしたコロモ、甘めのソース、そして青トマトの食感が予想を裏切った。トマトというよりもサツマイモかカボチャのような食感。色も黄色で、何も言われなければこれがトマトとはとても思えない。
              なかじま④ 
              これがトマト?
              なかじま⑤ 
              意外な美味

ビールでノドをうるおしながら、会津に来たことを実感する。しばらくして「元祖煮込みソースカツ丼」がやってきた。煮込みカツ丼は普通は醤油ベースだが、ここではソースで煮込んでいる。こんな奇妙な煮込みカツ丼を考案した「なかじま」は、本来なら邪道だと思う。だが、しかし。一口食べた途端、まろやかな旨味が口中に広がった。確かにソースの風味だが、その味わいがやさしく、旨みがじんわりと滲み込んでくる。勝たなくても官軍。
              なかじま⑥ 
              主役の登場どす
              なかじま4  
              元祖煮込みソースカツ丼
              なかじま2   
              想像を超える?

肉は会津産ブランド肉で、厚さ1センチは優にある。肉自体が甘みがあり、サクッと揚げられたパン粉の歯ごたえ・・・予想以上の美味だと思う。いい具合に煮込まれたタマネギ、溶き玉子、グリーンピースという構成も王道を行っている。だが、ご飯は炊き加減なのか、村長にはイマイチの印象。艶やかさが足りない、と思った。惜しいのう。
              なかじま10 
              会津産コシヒカリ
              なかじま11 
            食ってみてくなんしょ   

「ご飯は村長の舌がヘンよ。私は普通に旨いと思うわ。キャベツソースカツ皿はソースが少しきついかな。でも、肉とキャベツがとても旨い。居酒屋よりもこっちに来てよかったわ。ビール一本で充分よ。昔は祖先が足軽だったんでしょ」
「ハシゴしたいなあ。昔足軽、今尻軽・・・」
「やめてくなんしょ」
「助けてくれ~」
「ズドン!」

本日の大金言。

今年の会津祭りには2年連続で綾瀬はるかもやってきた。「八重の桜」はまだ生きている。「花燃ゆ」の長州=安倍首相の勝てば官軍、に負けてはなりませぬ。故早乙女貢氏も泉下で嘆いているはずである。




                         なかじま12

「漬け物カフェ」の不思議な時間

 「漬け物をタダで出してくれる面白いカフェがあるんだけど、行ってみない?」
情報通のシバの女王が声をかけた。
「漬け物がタダだって? 聞いたことがない。そりゃヘンなカフェだ」
「ケーキセットを頼むと、食べ終わった頃に漬け物がサービスで出るのよ。それが凄いのよ」
「どこにあんの?」
「埼玉・白岡の見沼代用水沿いよ」

シバの女王の掛け声に、恐るべきグルメ・ドン圭氏、謎の食通・イシカワそば仙人、それに足軽村長が同時に反応した。カフェ竜で雑談中のこと。腰が浮いている。
「そんじゃ、行くべえか」
ドン圭氏の60年代クラシックカーに飛び乗って、野次馬4匹が白岡方面へと向かった。三角窓から入ってくる風が心地よい。
               カフェ悠① 
               広大な古民家

50分ほどで、見沼代用水沿いにあるその面白いカフェに到着した。広大な敷地。旧家の佇まい。門があり、入り口に「珈琲 自家焙煎 悠(ゆう)」という看板。漬け物カフェという軽い思い込みが吹っ飛んだ。これは文化財的店構えではないか。広い庭にはテラス席もある。
               カフェ悠2 
               もはや文化財カフェ

正面の入り口から入ると、息を飲む光景が広がっていた。インカの木像や骨董品が惜しげもなくインテリアとして飾られている。
「スゴいでしょ? でも驚くのはまだ早いわよ」
「これは相当金かけてるな。古民家を移築したとしても、一千万じゃ済まないぞ」
「これだけの柱と梁だけでもスゴい。これは相当な資産家じゃないかな」
               カフェ悠3 
               ようこそ
               カフェ悠5 
               不思議な空間

午後2時を過ぎていたせいか、客は村長一行4人だけ。奥からダンディーな初老の店主が出てきて、テーブル席に案内された。立派な押し出し。
「一人でやってるもんだから、大変なんですよ。この店は7年前から始めてます。ちょっと時間がかかるかもしれませんが、ゆっくりお待ちください」
店主は大企業に勤めていて、そこをリストラされて、一念発起、第二の人生を「リタイア後の生き方」などをテーマにしたコミュニケーションの場としてこの店を開いたそう。
               カフェ悠② 
               メニューは少ない

村長はケーキセットメニューの中から「レアチーズセット」(自家焙煎コーヒー付き800円)を頼んだ。レアチーズケーキはスポンジもレアチーズも柔らかくて、それなりに美味い。コーヒーは焙煎の苦みが効いていてこのレアチーズケーキに合う。リッチな時間。
               カフェ悠③ 
           レアチーズケーキセット登場
               カフェ悠④ 
               やわらかなチーズケーキ

やがてシバの女王が話していた「漬け物セット」がやってきた。息を飲む。驚くべき内容。漬け物3種と果物3種、それになぜかビーフジャーキー。それらが七つの小鉢に見事に盛られて、さらにお茶と湯呑みまで付いていた。「サービスです」と店主。何も知らなければこちらがメーンディッシュではないか? シバの女王がしてやったりの表情。
               カフェ悠⑧ 
               これがサービス?

店主がリタイア後の健康と人生について、自説を話し始めた。「動きたくない時ほど身体を動かせ」とか「好奇心を持って人の役に立つこと」など延々と語り始めた。ありがたい話だが、次第に足がしびれてきた。漬け物は大根のぬか漬けが旨い。残念ながら自家製ではないそう。果物は梨とグレープフルーツが美味かった。

ドン圭氏とそば仙人が合いの手を入れ、次第に店主を圧倒し始めた。いつの間にかドン圭氏の話を店主がかしこまって聞いている。何ということだ。立場が逆転していた・・・。
               カフェ悠⑨ 
               まさかの展開

この店はメニューよりも雰囲気が素晴らしい。説話も好きな人にはたまらない魅力かもしれない。ランチがないのが不思議だったが、人手不足で「そこまで手が回らない」とか。「悠」の中には「窮」もある。村長は悠々自適と窮々自適は紙一重だと思う。シバの女王は「今回は漬け物の中に玉子焼きがなかったわ。これが旨いのよ。それがちょっと残念かな」とつぶやいた。次回は説法より玉子焼きを食べてみたい・・・。

本日の大金言。

世の中は想像よりも広い。知ったつもりでも知らないことがいかに多いか。漬け物をサービスで出すカフェなんて、来る前は想像だにできなかった。漬け物に人生を見ることもある。



                             カフェ悠12

続きを読む

常総市の素ラーメンの凄味

 ウソも百回言えば真実になる。「丁寧な説明」を百回言えば、誰もが疑えなくなると狡猾な計算をしている。訳の分からない安保法案がもうすぐ参院本会議で成立し、その瞬間、ウソを百回言い続けることを信条とする男とその一派に国民が人質に取られることになる。ありゃまあ。メディアも真実を伝えるポーズは取るが、実体はわからない。まさか戦後70年、民主主義の名のもとに国民の声がまったく届かない国会が生まれてしまうとは・・・腹立たしい。次の選挙まで今度は国民が試されることになる。その間、何が起きるか、村長は懸念する。
               常総市4 
               鬼怒川(9月16日)

台風18号で大きな被害を受けた茨城県常総市へポンコツ車を飛ばすことにした。すでに約1週間経ち、街中は幾分落ち着いているが、自衛隊やボランティアの学生がいたるところで活動している。村長もぎっくり腰を抱えた情けない姿でゴミの片付けを手伝ったが、女子大生に地元住民と間違えられ、「困ったことがあったら、遠慮なくおっしゃってくださいね」と優しい声をかけられる始末。複雑な気分。
               常総市2 
               この奥の世界

昼めしを比較的被害の少なかった豊岡町で取ることにした。国道354号線沿いからちょいと入った鬼怒川沿いにある「支那そば 人生」。すでに電話で営業していることを確認している。ここは知る人ぞ知るラーメンの名店。ポンコツ車を堤防沿いに止め、プレハブのような外観の店構えの縄のれんをくぐった。昭和の匂い。
               人生 
               意外な場所の名店
               人生① 
               ベタな店名だが

店内は意外に広く、きれいに磨かれた8席ほどのカウンター席と簡素なテーブル席がいくつか。懐かしい石炭ストーブが置かれているのもここの主人のレトロ趣味を感じさせる。BGMは「昭和枯れすすき」が流れていた。
               人生⑦ 
               板場の凄味
               人生⑧ 
               不思議なメニュー

カウンターに腰を下ろして、メニューを見る。目の前は広い板場で、麺をゆでる大釜や鍋、平ざるなどがここにいい職人がいることを感じさせる。この店を一躍知らしめた「人生ラーメン」(450円)を頼んだ。チャーシューもメンマもナルトも入っていない素ラーメンで、全国でもかなり珍しい直球勝負の店だと思う。

目の前で店主の息子さん(二代目)が鮮やかな手つきで麺をゆで、平ざるで湯切りする。10分ほどで正統派のラーメンどんぶりが湯気を立ててやってきた。ひと目見た瞬間、そのシンプルな美しさに息を飲む。透明な醤油スープ。脂の浮き加減。左手には緑の万能ねぎ、右手には大量の白ネギが浮いている。中央にはきれいに揃えられた細麺・・・。チャーシューやメンマがないのに、ほぼ完ぺきな構成。
              人生② 
              これぞ「人生ラーメン」

まずはスープをひと口。まろやかな旨味。豚ガラではなく鶏ガラのスープだと思う。ほのかな甘みがスープの実力を一瞬にして感じさせる。うむ。続いて細麺へ。黄色みが強く、ほとんどストレート麵だが、ややウェーブもかかっている。コシはそれほど強くはないが、弱くもない。いい小麦粉の香り。十分に計算しつくされた麺で、深みのあるスープとよく合う。かすかに昭和の化学調味料の匂い。
              人生③ 
              コショウをぱらり
              人生④ 
              恐るべきスープ
              人生⑤ 
              東京の細麺

二代目によると、ここは開業して約20年になるそう。
「親父が昭和30年代に東京で食べたラーメンが忘れられなくて、それを自分流に再現したものなんですよ」
「麺は確かに昔の東京ラーメンだけど、スープは鶏ガラ出汁で、佐野ラーメンに近いんじゃない?」
「親父は豚が嫌いなので、そうかもしれません(笑)。企業秘密ですが」

一滴残らずスープを飲み干すと、底の部分に「人生」の文字が現れた。「偉くなるだけが人生じゃないよ」のかすれた文字も。偉いと勘違いしている人の総本山が安保法案を強行採決している。ドンブリの底を見ながら、ここから日本を見るのも悪くない。無理やりそう思おうとした。
              人生11 
              ああ人生・・・


本日の大金言。

「ウソを百回・・・」うんぬんはゲッペルスの言葉だと言われている。安倍首相の盟友だという麻生副総理はかつて憲法改正について、「あの手口(ナチスのやり方)を学んだらどうかね」と言ったことがある。まさかとは思うが、首相の鼻の下にちょび髭を付けてみたくなった。


                           人生10 

「行列のコッペパン」に並んでみる

 いつものように夕暮れ時、北千住で途中下車することにした。サラリーマン・OLにとってはブルーマンデー。村長にとってはいつもの月曜日。だが、駅改札口を出た途端、ルミネの前がおかしなことになっていた。行列が延々と続いていた。駅構内でこれほどの行列は記憶にない。好奇心がむくむく。その先をたどって行ったら、「吉田パン」という文字が見え、女性店員が数人、パンを売っていた。それもコッペパン!
              吉田パン 
          ざっと70~80人の行列
              吉田パン① 
              吉田パンって何だ?

そのほとんどは女性客で、その発散するフェロモンに行列嫌いの村長もクラクラ来てしまった。「あんマーガリン」(190円)が一番人気で、「ピーナッツ」(180円)や「マーマレード」(190円)などスイーツ系ばかりでなく、「たまご・ハム」(350円)「コンビーフチーズ」(370円)など惣菜系もそろっていて、その種類の多さに驚いた。
              吉田パン2 
              20種類以上

これは並ぶしかない。並んでいる間に軽く取材開始。常連だというOLが毎週月曜日だけここで売ってるのよ。亀有に本店があり、コッペパン専門店なんですよ。そこに行くと、注文するとその場で調理してくれる。今すごい人気なんですよ」と教えてくれた。
              吉田パン④ 
              あんマーガリン

40分ほど並んで、ようやく一番人気の「あんマーガリン」(190円)と「コンビーフチーズ」(370円)をゲットした。ふっくらした見事なコッペパン。あんこはこしあんで、自家製だそう。東銀座の名店「チョウシ屋」のコッペパンも絶品だが、このコッペパンはさらにふっくらとしている。だが、食べてみないとその評価はわからない。

駅近くの喫茶店で賞味することにした。半透明の包みを解くと、グラマラスなコッペパンが現れた。淡いきつね色と白い部分が「美味そう光線」を放っていた。ひと目でスグレモノだとわかった。「吉田パン」は亀有で2年前に創業、たちどころに評判店になった。調べてみたら、岩手・盛岡の人気コッペパン屋「福田パン」(昭和23年創業)で修業したらしい。
              吉田パン⑤ 
              ようやくゲット

かなりの大きさなので、190円という価格設定は高くはない。手に取ってから二つに割る。ふわふわ感としっとり感が見事に調和している。いい小麦粉の香りが立ち上がってくる。その間の切れ目に塗られた無塩マーガリンとこしあんの量が半端ではない。どちらも厚さは3~5ミリほどある。この惜しげのない奉仕精神がどこからくるのか、村長は訝った。
              吉田パン⑥ 
              自家製コッペ

ガブリと行くと、パン自体の素朴な美味さに軽い感動を覚える。ほのかに塩気がある。東銀座チョウシ屋のコッペに負けない美味さだと思った。続いて、自家製だという絶妙なこしあん、控えめな甘さ、風味が第二波となって村長を襲ってきた。しっとりしたきれいなこしあんで、あんこ好きにはたまらない味わい。その間隙を縫うように、無塩マーガリンがなめらかに割って入ってきた。これはコッペパン界の3Pではないか? 絶妙なハーモニーとしか言いようがない。
              吉田パン7 
            こしあんと無塩マーガリン
              吉田パン⑧ 
               三位一体どすえ

コーヒーで脳内エンドルフィンを鎮めながら、一個ぺろりと平らげる。満足感。「コンビーフチーズ」はジャズバー「ゆうらいく」で食べることにしよう。惣菜コッペパンはそう安くはないので、スイーツ系が狙い目だと思う。その後、調べてみたら、盛岡の福田パンは昭和23年(1948年)創業で、初代はあの宮沢賢治の教え子だそう。とすると、村長が食べた「あんマーガリン」にはイーハトーブの夢の跡が入っていたのかもしれない。まさか、ね。

本日の大金言。

コッペパンは日本独自のパン。ある世代以上は貧しかったころの思い出しかないかもしれない。だが、その素朴な形と旨味が再び脚光を浴びつつある。


                            吉田パン10 






ガード下の喜多方ラーメン

 東京・内幸町ガード下にある「喜多方ラーメン 坂内(ばんない)」はたまに行く店。会津喜多方にある行列店「坂内食堂本店」に一番近い味を出すこともあり、新橋や銀座での会合や飲み会の後にふらりと立ち寄ることが多い。とはいえ、喜多方の坂内食堂本店とは微妙に違う。
              坂内  
              ガード下の楽園

坂内食堂本店は昭和33年創業だが、ここは昭和62年にオープン。喜多方ラーメンが全国的にはほとんど無名だったころ、坂内食堂本店の味に惚れ込んだ中原明氏(株式会社麺食会長)が築き上げたチェーン店最初の店である。別経営だが、スープ、チャーシュー、麵など坂内食堂直伝の味と言ってもよく、何を隠そう村長も少し前まで暖簾分けした支店の一つだとばかり思っていた。

メディア仙人の快気祝いを兼ねた会合の後、ワインをがぶ飲みしたために、ふと小休止したくなり、久しぶりにここの暖簾をくぐることになってしまった。飲んだ後のラーメンは格別に旨い。終電が近いので大急ぎで「喜多方ラーメン」(650円)を頼んだ。
              坂内① 
              ふらりと寄りたくなる
              坂内② 
              チャーシューがどっさり

10分ほどで、あの懐かしい喜多方ラーメンが目の前に置かれた。豚バラの角切りチャーシューが5枚、まるでチャーシューメンのように浮かんでいる。メンマが5~6本、中央には刻みネギ。スープは半透明の醤油スープ。チェーン店とは思えない手作り感。その下には太縮れ麺がゆったりと寝そべっていた。
              坂内④ 
          チャーシューメンではありません
              坂内⑤ 
              コショウをパラパラ

レンゲでまずはスープをひと口。豚骨ベースで実にまろやかな旨味。本場の坂内食堂本店よりもまろやかかもしれない。その分、化学調味料などで旨みを調えていると思う。喜多方市は水がいい。それが喜多方ラーメンの味のベースにあるのだが、ここはその水の存在を感じさせない。以前は水道水の匂いがかすかにしたが、それもない。酔っぱらっていることもその一因かもしれないが。
              坂内⑥ 
              まろやかなスープ
              坂内⑦ 
              太麺だが・・・

麺はつるりとしていてもっちり感もあり、東京の喜多方ラーメンとしては高いレベル。坂内食堂本店のような素朴な手打ち感はない。煮豚チャーシューは脂身と赤身のバランスがいい。数年前より柔らかさが増し、昔食べた本店のチャーシューに近くなっていると思った。メンマも歯切れがよくまずまず。東京で食べる喜多方ラーメンの老舗として、ここは村長の中ではやはり一番の店。
              坂内2 
            つるっと行きなはれ
              坂内⑧ 
              チャーシューだべ
              坂内⑨ 
              メンマだす

佐野ラーメンと喜多方ラーメンは基本的にはよく似ている。鶏ガラベースと豚骨ベースの違いはあるものの、余分なラードや脂、魚粉が入っていないことと、すっきりしたシンプルな旨さがこの二つの地方都市のラーメンに共通している。

ガード下という情緒的な場所、飲んだ後の一杯としては、ここは隠れた味な止まり木だと思う。いつか京洛先生や渓流斎さん、日暮先生、ビッグウエスト氏らとここで酔い覚ましのビールを飲みながらラーメンを食べたことを思い出した。いい時代だったと改めて思う。

本日の大金言。

ガード下には夢がある。いや、あった。時代が進むにつれ、夢は色あせ、次第にしぼんでいく。光と影。ドンブリの底をじっと見つめる。




                          坂内10 





製麺所直営の絶品「豚そば」

 久しぶりに東京・中野へ。三鷹に住んでいたころ、ここはよく来た場所。ジャズ喫茶ビアズレーはすでに消えていて、たまに通った寿司屋も居酒屋に変わっていた。方向転換してラーメンを食べることにした。中野は青葉本店や二代目えん寺などが覇を競う激戦区でもある。荻窪にしても吉祥寺にしても中央線沿線は旨いラーメン屋が多い。
              中野サンモール 
           中野サンモール商店街

北口サンモールの人混みをブラ歩きすると、「豚そば 鶏つけ」の立て看板が見えた。右手の細い路地。「中野の老舗製麺所 大成食品直営ラーメン店」の文字も見えた。製麺所の直営? 好奇心がムクと起き上がってきた。その先に大きな提灯(ちょうちん)があり、「豚そば」の墨字が見えた。「上海麺館」という店名だった。いい店構え。飛び込むことにした。
              上海麺館4 
              立ち止まる
              豚そば 
              悪くない店構え
              上海麺館② 
              豚そばの誘惑

時間が午後2時を過ぎていたので客はまばらだったが、磨かれた長い木のカウンター席が10席ほど。対面には黒いTシャツ姿の男性スタッフが2人。テキパキと働らいていた。券売機で「豚そば」(700円)を押し、カウンターの左手に腰を下ろした。

「豚そばって言い方、面白いね」
スタッフに声をかけてみる。
「はい。豚ガラだけを14時間ほど煮込んでスープを作っているんです。普通はせいぜい4~5時間くらいでしょうね。豚の旨みを徹底して追求してるんですよ」
「へえ~、魚介類もなし?」
「はい、豚だけです」
              上海麺館③ 
              ウムというお姿

10分ほどで、いい匂いとともに、その「豚そば」がやってきた。白い大きめのラーメンどんぶりに長方形の大きなチャーシューが2枚、どっかと寝そべっていた。スープは醤油スープで、透き通るよう。脂がゆったりと浮いている。それにモヤシと青ネギ、海苔。メンマやナルトはない。
              上海麺館④ 
              コショウをぱらり

見ただけで本物感が伝わってきた。まずはスープをひと口。一瞬、醤油がきついと思ったが、穏やかな甘みがじんわりと口中に広がった。むしろスッキリしたまろやかな深み。ネギ油や鶏油やラードを後から加えた味ではない。長時間煮込むことで滲みでてくる旨味とでも言う他はない。飽きない味わい。
              上海麺館2 
              スープの奥行き
              上海麺館1 
            チャーシューの力

麺は黄色みの強いストレート細麺で、コシと歯切れがとてもいい。赤羽「麵屋伊藤」の細麺を思い出した。老舗製麺所の底力を感じる。すぐに柔らかくなると思ったが、固さとコシは食べている間ほとんど変わらなかった。スープとよく絡むのも好感。
              上海麺館⑤ 
              細麺の実力

チャーシューは柔らかいうえに歯ごたえがほどよくある。肩バラ肉かと思ったが、「ロースです」とか。厚さも4~5ミリくらいあり、豚の旨みを確かに追求していることがわかる。モヤシがいい合いの手になっている。メンマも欲しいところだが、ここは店のポリシーなので立ち入らない。
              上海麺館3 
              二枚目

スープを最後まできれいに飲み干すと、いい音楽を聴いたときのような感動が胃袋周辺から立ち上がってきた。豚好きにはたまらないラーメンだと思う。中野、恐るべし。

本日の大金言。

中央線沿線はかつては荻窪がラーメンのメッカだったが、その勢力地図も変わりつつあるようだ。彼は昔の彼ならず、ラーメンもまた。



                          上海麺館⑨

あまりに素朴な「江戸のとろろ汁」

 東海道五十三次の中で、どうしても食べてみたいのが丸子宿・丁子屋(ちょうじや)の「とろろ汁」である。江戸時代のベストセラー「東海道中膝栗毛」(十辺舎一九著)にも登場する郷土食で、今回の旅の目当ての一つ。安倍川駅からバスに乗り換え30分ほど揺られ、丸子橋入り口で降りた。すぐ「丁子屋」の看板が見えた。タイムスリップ。
              丁子屋 
              宿場の面影(丁子屋9

何せ創業が慶長元年(1596年)という恐るべき老舗で、豊臣秀吉がまだ生きていた時代。その頃は多分お世辞にもきれいとは言えない茅葺きのめし屋だったと思う。現在は巨大な料理屋で、移築した茅葺き屋根といい「名物とろろ汁」の提灯といい、まるで時代劇の世界。弥次喜多が「おうよ、ここでとろろ汁を食らって、ついでに飯盛り女も食べちまおうって寸法よ」などど相談しているような錯覚に陥る。

懐中時計を見ると、午前11時半。重いリュックを下ろして、1階奥の小テーブルに案内された。見事な炉端があり、黒光りした柱と天井、床の間にはお宝鑑定団に出てきそうな獅子頭、時代を感じさせる畳・・・すべてが往時を感じさせている。
               丁子屋② 
               タイムスリップ!
               丁子屋① 
               とろろ飯メニュー
               丁子屋1 
               お茶が美味い

静岡茶をズズズと飲みながら、メニューの中から一番安くてシンプルな「とろろ飯 丸子」(税込み1440円)を選んだ。とろろ汁と麦飯、それに味噌汁、香物という設定。江戸の昔はもっと庶民的な値段だったに違いない。

お茶が実に旨い。7~8分ほどで「とろろ飯 丸子」がやってきた。麦飯がお櫃(おひつ)に入っていて、これは意外に感動もの。女性スタッフによると、「1.5人前ほどありますよ」とのこと。ドンブリにとろろ汁がたっぷり入っていて、木のお玉じゃくしですくうと、いいトロミと風味が立ち上がってきた。麦飯の上にたっぷりとかける。薬味もパラリとかける。
              丁子屋③ 
              とろろ飯 丸子
              丁子屋⑦ 
              おひつで麦飯!
              丁子屋④ 
              江戸時代の香り

「とろろは江戸の昔と同じもの?」
女性スタッフに聞いてみる。
「昔はこの辺りで獲れた自然薯を使っていたらしいですけど、採れなくなって、今は牧の原の契約農家の伊勢いもを使ってるんですよ。昔の自然薯に一番近い山芋です。風味と栄養が普通の山芋と全然違いますよ」
「へえー」
              丁子屋⑤ 
              風味が立ち上がる
              丁子や  
              ほいきた弥次さん

口に運ぶと、確かに実に素朴な風味と食感が広がる。白みそで味を調えているそうで、伊勢いもの素朴な風味を引き立てている。やさしい田舎のおばさんのような味わい。麦飯も忘れかけていたような素朴で、コシヒカリなど美味い米を食べ慣れている舌にはやや物足りない。だが、目を閉じて江戸の昔の味わいを想像すると、これが美味に変換していく。たっぷり2杯分。

みそ汁の具の畳いわしには軽く驚いたが、白みそ仕立ての味わいは悪くない。香物(おしんこ)は出来合いの味で、ここはもう少し気遣いが欲しい。舌代1440円のうち半分は建物など目の保養代だと考えれば、「ま、こんなもんか」と納得するのだった。

本日の大金言。

約420年も続く立派な老舗でも元々は質素な店だったに違いない。その原点をいかに伝えていくか、老舗にはそこが問われている。



                           丁子屋⑨

「静岡おでん」と黒ムツの夜

 東海道五十三次の府中宿(静岡市)でワラジを脱ぐことにした。一日中歩きづめで足が悲鳴を上げている。これには訳がある。思い立って、あんこを求めて三千里の旅を決行することにしたのである。といっても今回はほんの小手調べ。第一そんなことできるかどうかもわからない。で、とりあえず駕籠かきに飛び乗った。個人的にはポエムである。

そのついでに炉端焼きで夕飯を食べることにした。朝からどら焼き、豆大福、まんじゅうを食べまくっていたので、甘味中毒者とはいえ、さすがに頭がボーっとし、胃袋もダウン寸前だった。安ホテルにリュックを置き、南町を歩き回る。静岡市は魚が旨いのはもちろんだが、「やっぱり静岡に来たらおでんも食わなきゃ」(静岡の友人)とのこと。
              カンカン酒場① 
              いい居酒屋と出会った

その両方が楽しめる炉端焼き屋「カンカン酒場本店」の暖簾をくぐることにしたのだ。これが海の匂いのするいい居酒屋だった。まずは生ビール(中480円)を頼んでから、静岡おでんをゆっくりと吟味。牛すじ(90円)、大根90円、そして本命のイワシの黒はんぺん(120円)を頼んだ。
              カンカン酒場11 
              魚介類とおでん
              カンカン酒場② 
              静岡おでん
              カンカン酒場③ 
              近海ものが狙い目

さらに黒板に書いてある「今が旬」の魚の中から「黒ムツ刺身」(780円)も追加する。近くの用宗港で水揚げされたもの。高級魚黒ムツの刺身が780円というのは安い。砂糖漬けになった体をリセットするにはいい選択だと自画自賛する。ふっふっふ。

静岡おでんは関東とも関西とも違うおでんで、ツユが黒っぽくかなり濃い。関東風のように見えるが、醤油の他に味噌も加える店もある。串に刺してあることと上から鰹節と青のりが盛大にかかっているのが特徴。まずは大根をがぶり。柔らかすぎず固すぎず。ツユは色が濃い割には穏やかな味わいでじわりと胃袋に滲み込む。
              カンカン酒場⑤ 
              まいど~
              カンカン酒場1  
              これやこれやで~
              カンカン酒場5 
              黒はんぺんと削り節

牛すじは関西だが、静岡おでんの定番でもある。コリコリしていて意外に美味。主役の黒はんぺん(イワシ)は素朴に旨い。ツユの浸みこみ加減、鰹節と青のりがその素朴にさらに奥行きを与えている。海の凝縮。関西ほど洗練されていず、関東ほどつっけんどんではない。第三のいいとこ取りおでんでもある。生ビールを流し込むと、人生は素晴らしい、と思いたくなる。

黒ムツの刺身は脂の乗った桜色で、特製醤油とともに口中に入れると、柔らかい弾力が「およしになってえ~」と身もだえするよう。鮮度のよさと甘みが同時に広がる。驚いたのは本ワサビが一本付いていたこと。女性スタッフに聞くと「静岡産ワサビ」だそうで、慣れないとすりおろすのに手間がかかる。だが、その頭頂に抜けるさわやかな辛みと香りは本ワサビならではのもの。
              カンカン酒場⑨ 
              黒ムツ刺身の美味
              カンカン酒場⑦ 
              本ワサビであります
              カンカン酒場⑧ 
              うううう~ワン!

生ビールをお代わりし、さらにおでんの鶏だんご(120円)と玉子(90円)を追加する。鶏だんごが絶品だった。客がどんどん増えている。中国人らしいグループもいる。日本の味に中国人も気づき始めたことを実感する。頭の中はあんこの旅、胃袋には静岡おでん。舌も人生も確かに不条理である。

本日の大金言。

静岡(駿府)は徳川家康の街。ここから江戸時代が始まり、その平和は265年続いた。国会と政治家の劣化を見るにつけ、徳川家康のような人物がいないことの現実を噛みしめる。牛すじも噛みしめる。



                          カンカン酒場10

続きを読む

田村屋系ラーメン餃子の味

 ゴッドマザーのお見舞いで上州へ。その途中で久しぶりに佐野ラーメンを堪能しようと思った。どこに行こうかあれこれ迷っているうちに、旧国道50号(例幣使街道)の免鳥(めんどり)交差点まで来てしまった。

「佐野ラーメンなんか食べてる場合じゃないでしょ。稼ぎが少ないのに、餃子もぜい沢よ」
「まあまあ、そう急ぐな。先は長い。大変な時こそ道草を楽しむのもオツというものだ。急がば回れ、ということわざもある」
「ゴッドマザーが待ってるのよ。すごいイジワル。サイテー
途中、「佐野に立ち寄るか、餃子を付けるか付けないか」で、ウマズイめんくい村の内紛が起きてしまったからだ。争いはささいなことで起きる。
              日向屋 
              評価の高い「日向屋」

村長は妥協案を出した。ここから近いところの店に入る。素早く食べる。餃子は一人前だけ頼む。ツノが出たままの村民2号を何とかなだめて、免鳥交差点近くの「日向屋(ひなたや)」にポンコツ車を止めた。ここは佐野ラーメンの中でも評価の高い店で、2008年(平成20年)にあの田村屋から暖簾分けしている。行列店「麵屋ようすけ」も田村屋系の店。

内紛が長引いたために、時刻は午後1時半を回ってしまった。人類は確かに愚かだ。時間が時間なので、店の中に4人待ち。10分ほどで、左手の小上がりに案内された。正面がカウンター席で、右手にテーブル席。人気店らしく活気がある。
              日向屋3 
              いい匂いが漂う
              日向屋② 
              メニュー

村長は予定通り「ラーメン」(600円)と餃子(5個入り400円)を頼んだ。ツノが半分だけ引っ込んだ村民2号は「ラーメン」だけを頼んだ。10分ほどでまずはラーメン、2~3分ほどして餃子がやってきた。この時差が案外気になる。同時に着丼が望ましいが、その間隔が長いのは味わいが1割ほど下がる。
              日向屋③ 
              正統派
              日向屋④ 
              コショウをぱらり

ラーメンはキラキラ脂の浮いた透明なスープで、豚バラの丸い巻きチャーシュー、メンマ、ナルト、刻みネギがいい具合に横たわっていた。チャーシューはデカいが、やや薄め。ナルトもいい色目だが、薄め。メンマは5~6本ほど。だが、全体の印象は悪くない。田村屋のチャーシューは長方形だが、ここは丸い。
              日向屋⑥ 
              黄金のスープ?

まずはスープ。きれいな鶏ガラ醤油スープで、まろやかな旨味。佐野ラーメン正統派の、高いレベル。化学調味料の旨みがかすかに舌に残る。麺は青竹手打ちの平麺で、田村屋のような縮れがほとんどない。ストレート系。だが、つるりとした食感でコシが強め。モチモチ感も十分ある。太さも微妙に違っていて、それが好ましい。「麵屋ようすけ」の麺とよく似ている。チャーシューは普通の旨さ。メンマはいい歯ごたえ。
              日向屋⑤ 
              コシと食感
              日向屋⑦ 
              柔らかなチャーシュー
              日向屋⑧ 
              上質のメンマ

いい焼き色の餃子は大きめ、皮が薄めでもっちりしていて美味。中の具はほとんどキャベツで、ニラとニンニクが効いている。肉の影はない。野菜餃子と表記した方がいいかもしれない。具に味が付いていないのも特徴。ラー油を垂らした酢醤油に付けて食べると、予想以上に旨い。
              日向屋⑨ 
              グラマラス!
              日向屋10 
              どないどす?

「餃子は3個入りにして、もう少し安い設定も欲しいわね。ラーメンは旨いわ」
村民2号のツノが引っ込んでいる。2個ぺろりと平らげた。衣食足りて、とりあえず争いは収まる。嵐の前の静けさかもしれないが・・・。

本日の大金言。

ジョン・レノンの「イマジン」は永遠だが、争いのタネは尽きない。お互いに「相手の気持ちを想像すること」は案外難しい。



                          日向屋11 


バーガー激戦区の「南部バーガー」

 東京・北千住は居酒屋の街として有名だが、ハンバーガーの街でもある。このブログでもご紹介しているが、「蜂の巣」「サニーダイナー」など首都圏でも評価の高いハンバーガー店が覇を競っている。

夕暮れ時、いつものように西口で降りて、宿場町通りを老舗居酒屋「大はし」方面へと向かうと、アメリカンレトロな店構えが視界に入った。「KHB」の看板。いつも入るか入るまいか迷う店だった。「KHB」とは北千住ハンドメイドバーガーの頭文字を取ったもの。2011年5月にオープン。北千住では比較的新しいハンバーガー&カフェ屋である。
              KHB 
              KHBって何だ?

小雨が降っていたせいか、夕暮れ時の風情がよかった。「大はし」に行く前にちょっくら寄ってみたくなった。飛び込む。店内は「TEX-MEX(テキサスーメキシコ)」を看板にしているだけあって、60年代の南部アメリカンの雰囲気が漂う。悪くない雰囲気。

レトロなテーブルが6つほど。シャレた若い女性客がけだるそうに話し込んでいた。右手奥がカウンター席になっていて、その対面が厨房。そこに動きのいい女性店主がハンバーガー作りにいそしんでいた。女性スタッフは3人ほど。ときどき英語が飛び交う。うむ。
              KHB③ 
           ハンバーガーの種類は多い

メニューの中から定番の「ハンバーガー」(750円)を選んだ。金髪に染めた女性スタッフ(多分バイト)が「お飲み物は?」と聞いてきた。世界のビールを取り揃えていたので、「バドワイザー」(小びん 580円)を頼んだ。ハンバーガーの他にメニューは豊富だった。どこか映画の世界にでも紛れ込んだような錯覚に陥る。
               
「すいません。いま50個ほど注文があるので、少々時間がかかりますが、よろしいでしょうか?
カウンターの奥から女性店主が、申し訳なさそうに声を上げた。
「今晩中にできれば、全然、オーケーですよ」
村長の軽いジョークに女性店主が口をあけて笑った。悪くない反応。
              KHB④ 
              待つ時間

バドワイザーをちびちび飲みながら待つことにした。マツノモタノシマツノアケミ・・・そんなくだらない言葉遊びを楽しみながら、30分ほど。ハンバーガーがやってきた。見事なハンバーガーで、まずバンズ(パン)のレベルがかなりのものであることが見て取れた。その下のパテ(挽き肉)はオーストラリア産ビーフ100%で、厚さは1センチほど。トマト、大きめのレタス・・・上からぎゅっと押して、ガブッと行くと、バンズのやわらかな美味さと同時にパテの肉汁がじゅわっと口中に広がった。
              KHB⑤ 
              これは当たり?
              KHB⑧ 
              バンズが◎
              KHB⑦ 
              主役と脇役
              KHB10 
              100%豪州ビーフ

トマトソースをベースにした自家製ソースはかなり濃い。バンズに塗られたマヨネーズ。サルサソースの辛さもほのかに感じる。もう少し薄味の方が好みだが、食べ進むうちにパテの肉感と甘み、新鮮なトマト、レタス、そしてバンズの香ばしい小麦粉の風味がいい具合に絡まってきた。うむむうむむ。
              KHB11 
              お呼びでない?

サルサソースを付けて揚げたポテトスティックが旨い。ボリュームもある。自家製ピクルスは漬け込みが浅い。バドワーザーを飲みながら、至福の南部アメリカンタイムが過ぎていく。いけねえ。「大はし」で知人が待っていることを忘れそうになった。

本日の大金言。

ハンバーガーにバドワイザーはよく似合う。マクドナルドなどの安めのチェーンと価格がそれなりの専門店。バーガーが二極化している。ビールがその基準点かもしれない。




                            KHB13 

プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

最新記事
カテゴリ
彦作のつぶやき
最新コメント
月別アーカイブ
カレンダー
08 | 2015/09 | 10
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR