天国の六区通り、浅草の「いり豚」

 東京・西新橋での小宴会の前に、浅草に立ち寄ることにした。ぎっくり腰のままぶらりと散策。「千葉屋」で大学芋を買い、外人観光客でにぎわう仲見世方面へと向かうことにした。その途中の六区通りで足が止まった。通り沿いの街灯に、永井荷風やWけんじ、由利徹など浅草六区と縁の深い作家、お笑い芸人の写真とプロフィルが並んでいた。よき時代のセピア色の浅草! 
              水口食堂14  
              六区通り、ポエム

この辺りは売れない時代のビートたけしが通った「捕鯨船」や林家三平一家と縁の深い「翁そば」などもある。「水口食堂」もその一つ。昭和25年創業の、食堂というよりも居酒屋食堂と言った方が近い。知る人ぞ知るここの「いり豚」を食べたくなった。時計を見ると午後4時過ぎ。すでに昼めしは食べているが、胃袋には余力がある。
              水口食堂③ 
              やっぱ、ここだべ
              水口食堂 
              居酒屋食堂!
              水口食堂② 
              心躍る世界

昭和のよき大衆食堂の面影を漂わせる店構え。入ると、ビールを飲みながら競馬の検討をしている地元の老人や親父グループが昼酒を楽しんでいる。中国人らしい観光客も定食を楽しんでる。正面奥が厨房になっていて、白衣姿の高齢の店主の姿が見えた。そのしっかりとした佇まいだけでこの店がいい店だと直感できる。メニューの木札が驚くほど豊富に下がっている。
              水口食堂11 
              100種類以上?

「いり豚定食」(930円)を頼んだ。女性スタッフに「ご飯の量は?」と聞かれたので「小盛りでお願いします」と村長。小盛りだと50円安くなり、880円なり。隣のオヤジはまぐろのブツを旨そうにつつきながら、スポーツ新聞を読んでいる。タバコの煙りが漂ってくるが、ここは浅草。気にするのは野暮というもの。

10分ほどでまずお通しの煮豆の小鉢、続いて炊き立てのご飯(茶わん)と漬け物、それにアサリの味噌汁、「いり豚」がやってきた。食欲をそそるいい匂いが発散している。いり豚はたぶん豚バラ肉とモモ肉、それにタマネギをカレー風味のオリジナルソースで炒めたもの。トマトケチャップとカレー粉、それに味りんを加えているのではないか。
              水口食堂④ 
              いり豚定食、登場

まずはアサリの味噌汁。これが絶品だった。鮮度のいいアサリがどっかと入っていた。その出汁の旨さに軽く驚く。これだけでこの店が人気におぼれることなく、手抜きもなく、しっかりと料理を作っていることがわかる。
              水口食堂⑥ 
              驚きのアサリ味噌汁

「いり豚」はこの店のオリジナルで、この一品のファンも多い。口中に入れた途端、トロリとした甘酸っぱいソースと柔らかな豚肉、それにタマネギの感触が絶妙に広がった。豚肉の量とタマネギの量がかなり多い。味は濃い目だが、甘酸っぱさがいい具合にご飯に絡む。ご飯はやや固めに炊かれていて村長の好み。ご飯の旨さも半端ではない。
              水口食堂⑤ 
              いり豚ダス
              水口食堂⑧ 
              よだれに注意
              水口食堂⑨ 
              言葉はいらぬ

これは昭和の賄い料理の極致ではないか? いり豚というオリジナルメニューもどこか懐かしい、プロの板前の味がする。さり気ないメニューの中に潜んでいるプロの味わい。あえて言えば、漬け物だけが好みではない。これをべったら漬けかぬか漬けにしてくれたら・・・それはぜい沢に過ぎるというものかもしれない。口中に残るいい余韻。外に出ると、風雲急の夕空。「重大発表があるかも」という小宴会へと向かった。だいじょうぶマイフレンド?

本日の大金言。

浅草は京都と大阪が混在したような街。東京の中で唯一、老舗と見世物小屋を感じさせるごった煮の街。疲れたときにこの街を歩くと、生き返る。裏通りが特に面白い。




                          水口食堂12 


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「醤油の街のピッツア」極上の夜

「 醤油の街でピアノとバイオリンの生演奏を楽しみながら、イタリアンなんてどう? ワインも美味いわよ」
ヘソ出し昼寝中の村長に、シバの女王から明るいお誘い。
「醤油の街でイタリアン?」
「ビックリする店よ。メンバーは村長を入れて4人。たまには楽しまなくちゃ」

30年断酒中のイケイケおばさん運転のクルマに食道楽3人が乗り込んだ。目指すは千葉県野田市堤根にある「コメ・スタ野田市本店」。1992年創業とか。ちなみにコメ・スタとはイタリア語で「お元気ですか?」の意味。越中フンドシをトランクスに履き替え、少々おしゃれして、村長は後部座席に乗り込んだ。もう一人はやや酒豪のコバッシー嬢。夜空にぽっかり浮かぶ満月を横目に国道4号線をビュンビュン走る。ポエムな展開。
              コメ・スタ① 
          コメ・スタ野田市本店に到着

約1時間ちょっとで、「コメ・スタ野田市本店」にイケイケ火の車が滑り込んだ。時計を見るとちょうど午後6時。すぐ近くにはキッコーマン工場がある。「引い手」「押し手」と書かれたドアの先にはイタリア製の薪竃(まきかまど)があり、シェフが見事な手つきでピッツアを伸ばしていた。そこはほとんどイタリアだった。広い店内には家族連れが多く、ワインと料理を楽しんでいた。かような場所に本格的なイタリアがあったとは・・・。シバの女王が一番いい席を予約してくれていて、イケイケ4人組はグランドピアノの前のテーブルに陣取った。
              コメスタ 
              このユーモア
              コメ・スタ③ 
              ここはイタリア?

アラカルトは面倒なので、メニューの中から「コメ・スタコース」(一人税込み3000円)を頼んだ。前菜、ピッツア、パスタ、デザート、飲み物付き。村長は前菜は「パルマ産切り立て生ハム」(単品だと1900円)、ピッツアは「野田市のピツア」(単品だと1490円)を頼んだ。野田市のピッツアって何だ? 酒豪のシバの女王がワインのデカボトル(量り売り=飲んだ分だけ払う)を頼んだ。むろん村長も異議はない。テーブルワインの赤と白のデカボトルがドンと置かれる。
              コメ・スタ④ 
              コース料理

「パルマ産切り立て生ハム」が実に美味。肉自体が旨いうえに塩加減が絶妙。きれいな脂身も舌の上でとろけるよう。パルマは世界三大生ハムの一つに数えられ、あのサッカーの中田ヒデもセリエAパルマに電撃移籍した時に「生ハムが思う存分食べられる」と喜んだという話も伝わっている。赤ワインよりも白ワインの方がなぜか合っている。
              コメ・スタ⑥ 
           パルマ産切り立て生ハム
              コメスタ⑥ 
              醍醐味

「野田市のピッツア」はキッコーマンの醤油もろみで煮込んだ肉味噌が乗り、白髪ねぎがふわりと大量にかかっていた。薪竃(まきかまど)で焼き上げた見事なナポリ風ピッツアで、これが旨い。生地は薄く、端っこが餅のように膨らんでいる。その焦げ目とパリパリ感、香ばしさ、トマトソースと甘めに煮込まれた肉味噌、白髪ねぎが絶妙に絡む。イタリアンに醤油もろみが意外に合うことがわかった。
              コメスタ⑦ 
          これが野田市のピッツア
              コメスタ⑧ 
           醤油のもろみ肉味噌
              コメスタ10 
              ボーノ!
              コメスタ13 
              絶景やなあ

ワインをガバガバ飲み、美人ピアニストと美女バイオリニストの生演奏に聞き入り、合い間に割って入ったヒゲ店長の見事なテノールに尾てい骨を揺さぶられ、気がついたら、まわりの客は消えて、イケイケ4人組のテーブルだけが祭りの後となっていた。時計を見たら午後10時過ぎ。「ああ楽しかったわ」外に出ると、満月がむふむふと笑っていた。ジンライムのようなお月さま・・・。清志郎は天国でどうしているのだろう?

本日の大金言。

野田市に過日の賑わいの面影はない。だが、地産地消のしっかりした考えのもとにこうした新しい世界が客を集める。野田の醤油とイタリアンの国際結婚の未来に乾杯したくなる。





                   コメスタ15 


悲しみのサバサンドとせんべい汁

 悲しいことが起きてしまった。村長の愛する北千住「石黒のあめ」が店を閉じてしまった。「完売に付 閉店」と書かれた手書きの張り紙。久しぶりに訪れた店の前で茫然と佇む。日付は8月20日となっていた。二か月以上前に閉店していたことになる。ガランとした店内。そこにたまたま二代目の店主がいた。女将はいなかった。
              石黒の飴② 
              水色の悲しみ
              石黒の飴① 
              たかが飴、されど飴

「昭和8年創業だから82年ほどの歴史になるよ。オレも年だからね。後期高齢者になっちゃったし、後継者もいない。ここが潮時だと思って、やめることにしたんだ」
二代目店主は「しょうがねえよ」という顔で、村長と立ち話をした。その間もご近所の知り合いが「もったいないねえ」などと声をかけていく。また一ついい店が地上から消える。
              ごっつり 
              おっ、八戸せんべい汁

すでに夕暮れ時。ジャズバー「ゆうらいく」に行くには時間が早すぎる。これが飲まずにいられるか、などと妙な理屈をつけて、ほんちょう商店街へと向かう。すると右手に「八戸せんべい汁」の幟(のぼり)が見えた。あのB級グランプリの王者・・・。「日本一の脂ノリ! 八戸前沖さば」の文字も。うむ。「炭火焼 ごっつり」という店名。さば好きとしては、これは見逃せない。階段をトントンと登る。

そこは八戸の居酒屋そのものだった。L字のカウンターとテーブル席がかなりある。黒いTシャツに頭タオルのスタッフが5~6人ほど。カウンター席に腰を下ろしてから、見渡すと、「サバサンド」(780円)の文字が見えた。サバサンドはトルコのB級グルメで、芸能界でもタモリをはじめファンが多い。村長も一度食べてみたかったもの。
              ごっつり① 
              奇跡の出会いか?
              ごっつり④ 
              八戸直送の味

地酒「桃川」純米酒(780円)を頼んでから、「サバサンド」を頼んだ。「八戸せんべい汁(おわん480円)も頼んだ。「サバサンドは鯖をこれから焼きますので、少々お時間がかかります」とのこと。その間のアテに「銀鯖しめさば」(430円)を頼むことにした。目の前の焼き場から、鯖を焼く煙といい匂いが漂い始めた。
              ごっつり③ 
              ええのう

まず桃川純米酒が到着。グラスからその下の枡に桃川があふれ落ちている。「銀鯖しめさば」をつつきながら、桃川をノド奥にちびちびと流し込む。「石黒のあめ」女将の顔を思い出す。機嫌のいい時と悪い時の顔。「もう東京にはウチみたいな店はないと思いますよ」とつぶやいたときの下町言葉はいずこへ?
              ごっつり⑥ 
              黄金の煙り?

「銀鯖しめさば」はさすがに脂の乗りはいいが、塩が効きすぎて、期待していたほどの旨さではない。だが、その後に来た「八戸せんべい汁」が絶品だった。大きめのお椀に南部せんべいが4枚ほど。固めのすいとんのような食感で、「素材は八戸から直送しています」というだけのことはある。鶏のだし汁がよく効いていて、大根、しめじ、にんじん、ゴボウ、鶏肉、ほうれん草が絶妙に絡む。奥深い旨味が詰まっている。
              ごっつり⑦ 
              これこれ
              ごっつり⑧ 
              南部せんべい
              ごっつり⑨ 
              南部の旨み

その後に「サバサンド」がやってきた。トーストされた食パンの間からこんがりと焼かれた八戸前沖さばが「オレ様を誰だと思っている?」というドヤ顔で分厚い顔を出している。千切りキャベツが敷かれただけ。サバは醤油と味りん(たぶん)で焼かれていて、甘辛度が高い。何か隠し味もあるようだ。旨いのは旨いが、味がかなり濃い。もう少し薄味にするか、タモリレシピのように味付けはマヨネーズの方が正解ではないか? 
              ごっつり10  
              サバサンド登場
              ごっつり12 
              このボリューム
              ごっつり13 
              およしになってえ~

すっかり食べ終えると、図ったように飴が食べたくなった。「石黒のあめ」に買いに走りたいが、もはやそれもかなわない。「一億総活躍社会」もへったくれもない。永田町より石黒の飴。どこか日本は軸が狂い始めているのではないか。「ゆうらいく」にハシゴするしかない。

本日の大金言。

最中屋「なか井」が店を閉じたのは約10年ほど前。いい店が、いい職人のいる店が消えていくのは図書館が一つなくなるのと同じくらい、いやそれ以上に悲しい。北千住の光と影。その影の中にこそ未来へ通じている光りがある。なんてね。



                         ごっつり14 


めっけ、豆腐屋直営の金星カフェ

 ゴッドマザーのお見舞いに群馬・桐生へ。その帰り、地元でちょっとした噂になっている豆腐屋直営のカフェレストランでランチすることにした。正午前だったのでアポなしで行ってみた。店の名はズバリ「カフェ ソイストーリー」。仲町2丁目の通りに面して、「とうふ工房 味華(あじはな)」の看板が見えた。シャレた豆腐屋さん。その隣が直営店「カフェ ソイストーリー」だった。          
              トイストーリー 
             豆腐カフェ「ソイストーリー」

駐車場がわかりにくくてスペースが広くはないが、何とかポンコツ車を止めた。通りに面した店はそう広くはない。4人用テーブル席が二つと2人用テーブルが二つ。明るい木の世界。正面が厨房になっていて、そこに40代くらいのイケメンマスター(シェフ)が一人で料理を作っているところだった。すべて一人でやっているようで、客への対応に余裕がないようだった。たまたま一つだけテーブル席が空いていた。ラッキーか?
              ソイストーリー① 
              ランチメニュー

メニューの中から、マスターおすすめの「ソイストーリープレート」(スープ、サラダ、ドリンク付き 1100円)を頼むことにした。
「店長は無愛想だけど、この店、気に入ったわ。豆腐に凝っているキオに教えてあげたいわね」
と店内を素早くチェックした村民2号。ドリンクは村長は豆乳、村民2号はコーヒーを選んだ。気がついたら、客席はすべて埋まっていた。女性客ばかり、厨房からはいい匂いが流れている。女性が集まる店にハズレはない。
              ソイストーリー⑨ 
            待ち時間は長いが・・・

17~8分ほどかかって、料理がやってきた。大きな白い磁器皿に5種類の料理が盛られていた。一つ一つは多くないが、それなりのボリューム感はある。何よりも料理がそれぞれに凝っていて、そのすべてに豆腐か豆が潜んでいる。パプリカパウダーの赤が渋い。まずはスープ。豆乳スープで、具は大根、こんにゃく、厚揚げなど。これがいい塩加減でやさしい旨味にあふれていた。うむ。
              ソイストーリー11 
              よく見ると凝っている

キッシュのような「納豆とおとうふのネギオムレツ」に箸を移す。村長もたまに納豆オムレツを作るが、自己流のアマチュア。プロの味加減は薄味で納豆の素朴な旨味をうまく生かしている。感心したのは「くみあげ湯葉のめんたい添え」。くみあげ湯葉が上質の味で美味。めんたいこがいいアクセントをつけている。
              ソイストーリー⑦ 
              納豆と豆腐のオムレツさま
          
「しらすと大根のおとうふサラダ」はそのまんま。豆腐が旨いのでごま油との相性も悪くない。「さつまいものおとうふはさみ揚げ」はかなり凝っていた。大豆のすり身をサツマイモで挟んで、それを天ぷらにして揚げている。さらにレンコンで同じように大豆のすり身を挟んで揚げていて、上から甘辛あんがかかっている。これが予想よりも美味だった。
              ソイストーリー⑥ 
              はさみ揚げの美味
              ソイストーリー10 
              凝ってる
              ソイストーリー2 
              ただの十穀米ではない

「ひじきと大豆の十穀米」はひじきと2種類の大豆がいい具合に炊かれていて、口中に入れた途端、そのもっちり感が素晴らしい。食べ終えて満足そうに「いい店見つけたって感じね」と村民2号。これだけ大豆ずくめなのに飽きが来ない。これは現代版精進料理ではないか?
              ソイストーリー3 
              冷たい美味

プラス200円で、「濃厚豆乳とカボチャのケーキ」まで頼んでしまった。これが本日の大当たりだった。自然でほどよい甘さ。冷たい美味。カボチャと濃厚豆乳と生クリームのバランスが絶妙で、パティシエの腕がかなりのものであることがわかった。村民2号が「桐生の食文化もそう捨てたもんじゃないでしょ?」ドヤ顔で、村長をチラ見したのだった。

本日の大金言。

豆腐屋が新しい発想でカフェを始める。酒蔵が新しい発想でバーを作る。付け焼刃ではない、伝統に裏打ちされた店がポツポツ出始めていることはいいことだと思う。付け焼刃ビジネスが横行している現象と真贋を見分けるのもまた楽しい。



                        ソイストーリー4

「阿佐ヶ谷うさぎや」のどら焼き

 東京・新宿まで出たついでに阿佐ヶ谷まで足を伸ばした。目的は「うさぎや」のどら焼き。北口で降りて、右手の商店街へ。すると、京町家のような店構えの阿佐ヶ谷「うさぎや」が見えた。昭和23年(1948年)創業の和菓子屋で、どら焼き好きには外せない店。上野・旧黒門町の「うさぎや」(大正2年創業)から暖簾分けした店。日本橋「うさぎや」も同じ時期に暖簾分けしている。
              阿佐ヶ谷うさぎや 
              阿佐ヶ谷うさぎや

たまたまいらっしゃったご高齢の女将さんと雑談
「この阿佐ヶ谷は私が二代目です。元々は黒門町で、初代・谷口喜作の長女が私の母で、暖簾分けというよりは独立してやっているんです。日本橋の方も喜作の三男が独立してやったものなんです。だからそれぞれ作り方も味も微妙に違うんです。初代・喜作も和菓子屋の前はロウソク屋だったんですよ。大正の初めころの話です。ロウソクが時代に合わなくなってきて、どら焼きを始めたんです」
意外な秘話を語ってくれた。
              阿佐ヶ谷うさぎや② 
              老舗の力

で、本題。どら焼きを3個(1個190円)買い求めて、翌日の賞味となった。どら焼きは作り立てが美味いという人と、一日置いた方が美味いという人と二通りある。どちらも美味いと思うが、村長はどちらかというと一日置いた方が好み。

まずその外観が老舗職人の力だろう、見事な焼き色。日本橋うさぎやよりも焼き色の濃度が濃い。皮は両面焼きで、端っこが貝のようにぴったりしている。ハチミツとみりん(阿佐ヶ谷の特徴)の甘いかすかな香りが鼻腔をくすぐる。手で二つに割ると、そのしっとり感とフワッとした厚みのある感触が伝わってくる。
              阿佐ヶ谷うさぎや④ 
              この焼き色
              阿佐ヶ谷うさぎや⑤ 
              そう貝?
              阿佐ヶ谷うさぎや⑦ 
              恍惚の瞬間  

柔らかく炊かれた小倉色の粒あんはいい具合にトロリとしていて、ほどよい湿り気の皮とよく合う。上野うさぎやほどのしっとり感はないが、日本橋うさぎやよりもあんこは粒つぶ感がある。あんこの量は日本橋うさぎやが一番たっぷりとあるが、しっかりとしたつぶしあんだ。阿佐ヶ谷は女将さんによると「うちはグラニュー糖を使っています。他はわかりません」とか。そのせいかきれいで、ほどよい甘さ。北海道十勝産小豆の風味も実にふくよか。
              阿佐ヶ谷うさぎや⑧ 
              アーユーレディ?
              阿佐ヶ谷うさぎや⑨ 
              素晴らしきあんこ
              阿佐ヶ谷うさぎや13 
              人生は短い

「どのうさぎ屋も美味いけど、私の好みは上野かな。ボリューム感はあまりないけど、しっとり感が好きだな」
と村民2号。
「どら焼き界の頂点にいるだけあって、どのうさぎやも美味。でも、あえて言えば、村長の好みは日本橋。皮もあんこもどっしりとしていて、食べごたえが一番ある」
「阿佐ヶ谷はちょうど中間という感じかな。ねだんが10円安い一個190円というのもいいわ」
「次は三つ並べて食べ比べしてみよう。それに浅草の亀十も入れて、それから東十条の草月も入れて、池袋のスズメも入れよう。それから春日部の細井も入れて・・・」
「付き合ってらんないわ・・・」

本日の大金言。

たかがどら焼き、されどどら焼き。江戸時代末期にはすでにどら焼きがあり、それは銅鑼(どら)のように1枚だったと言われる。それを2枚で重ねてあんこを挟む形にしたのは上野うさぎやと言われる。藤子・F・不二雄の「ドラえもん」もどら焼きがなかったら、誕生していなかったかもしれない。


                          阿佐ヶ谷うさぎや12 



谷中名物?380円肉厚カツ丼の味

 東京・谷中のパン屋「ラ・スール・リマーレ」でチョコパンコロネを買おうと思ったら、あいにく休みだった。目の前からチョコクリームのどっさり詰まった絶品コロネが羽根をはやして飛んで行った。ツイテねえ。人生の半分を損した気持ち。仕方なく谷中銀座方面へと歩く。すると、すぐ入り口のあたりで、「谷中名物 肉厚カツ丼 380円(税込み)」と書かれたピンク色の幟(のぼり)が見えた。外人観光客がたむろしていた。うむ。
              トーホー 
              ん? 外人も立ち止まる

380円だとお? 目をこすっても830円の間違いではなかった。「手づくりのおかず お弁当 トーホー」という店名で、おばちゃん二人が下町の明るさで客をさばいていた。谷中人気が高まるにつれ、観光客が押し寄せ、どこかの観光地みたいな店が増えている。今では玉石混交の街。
              トーホー① 
              おかずと弁当の店
              トーホー② 
           数量限定、当たりかハズレか?

「これ、二つちょーだい」
残り2個となっていた「肉厚カツ丼」を買おうとしたら、おばちゃんが「ちょっと待ってね、すぐ新しいのができるから。出来立ての方がいいでしょ?」。うむ。谷中の下町気風はちゃんと生きている。これが予想よりも二倍以上旨かった。

ウマズイめんくい村に持ち帰ってから、賞味することに。村民2号がお茶を入れる。村長は日本酒を出す。380円とは思えない大きなプラスチックのドンブリ。フタを取ると、大きな豚カツが横たわり、それが5切れ。それに卵が雲海のようにかかっていた。卵の量も1.5個分はありそう。その下に飴色のタマネギ。いい匂いが立ち上っている。ボリューム感。
              トーホー③ 
              至福の時間
              トーホー④ 
              本格的カツ丼!

添加物を感じさせない自然なカツ丼で、言われなければこれが380円とはとても思えない。主役の豚カツをまずは口中へ。コロモがしっかり付いていて、肉の厚さは7~8ミリほど。肉厚というからには1センチは欲しいところだが、値段を考えると、そうぜい沢は言えない。それ以上に、味付けが穏やかで、薄味に仕上げていることに好感。本格的なカツ丼!
              トーホー⑥ 
              肉厚とコロモの関係
              トーホー⑦ 
              380円ってホント?
              トーホー⑧ 
              なめんなよ
              トーホー⑨ 
             ボリュームと満足感 

肉自体はフツーに柔らかい。ご飯もフツーの旨さだが、タレのかかり具合がちょうどいい。味といいボリュームといい、これだけのものが380円ということに驚く。辛口の村民2号も「値段が値段だし、スーパーのカツ丼程度と思っていたけど、これは当たりだわ」と舌を巻いた。

後日、村長は店に電話取材してみた。
「豚肉は外国産でしょ?」
「いえ、国産豚です。でも冷凍を使ってますよ」
「よくこの内容で380円でやってますね」
「まあ目玉なので、儲けというよりもサービスでやってるんですよ」

店はオープンして19年になるそう。谷中に住んでいた古今亭志ん生がもし生きていたら、酒のツマミに買いに来ていたかもしれない。そう思うと、ふふふと笑いたくなるのだった。

本日の大金言。

秋はカツ丼が旨い。高くて旨いは当たり前、安くて旨い店を探すことこそ、B級グルメの楽しみ。まさか谷中に宝石が転がっているとは。


                            トーホー10 

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モネ展後の「クロワッサンサンド」

「ねえ、モネ展に行かない?」
東奔西走でヘロヘロ状態の村長に、村民2号が鼻の穴をぴくつかせながら言った。
「場所はどこ?」
「東京都美術館。村長の好きな東京ウ・エ・ノよ」

その約1時間半後、ウマズイめんくい村の怪しい一行約2人は、上野公園内にある東京都美術館の行列に並んでいた。日本人のモネ好きにはあきれるが、今回はマルモッタン・モネ美術館所蔵の日本未公開作品が数多く出ているとあって、午前11時前だというのに、入り口は人の波だった。平日でさえこの混みようなのだから、土日なら相当な入場制限が加えられるに違いない。
              モネ展 
              モネ展は大混雑

「印象、日の出」はじめ絵画好きの村民2号が初めて観る「睡蓮」、最晩年の驚くべき色彩の未公開作品など、ゆっくりと時間をかけて見終わった。「やっぱりモネはすごいわ。私の知らないモネがいたわ」と村民2号。

感動の余韻とギックリ腰がはずれそうになるほどの疲労を抱えながら、谷中方面へと歩くことにした。目的はランチ! 急に元気が出る。先日、友人と「朝倉彫塑館」に来たばかりの村民2号が、「気になる店があるのよ」と村長を案内する。「パンの美味そうなスイス料理の店で、この前は行けなかったところ」。諏訪台通りを西日暮里方面へとどんどん歩く。
              スイスミニ① 
              パリの後はスイスへ

路地を少し入ったところに、その気になるレストラン「シャレー スイスミニ」があった。庭のある巨大なログハウス。スイスの国旗がひるがえっていた。午後1時を回っていたが、ほぼ満員だった。そこはまさにミニスイスで、オーナーのスイス人がグループ客に日本語で話しかけ、笑いを取っていた。
              スイスミニ② 
            ログハウスの一軒家

女性スタッフの感じがよく、村長はサンドイッチメニューの中から、「クロワッサンセット」(スープ、ドリンク付き 税込み1080円)を頼むことにした。3種類の具からツナと卵を選んだ。村民2号は「全粒ソフトパンセット」(同999円)を選び、具はハムを指定した。
              スイスミニ③ 
              サンドイッチメニュー

まずコーンスープが登場。カップは小さいが濃厚で悪くない味。続いて「クロワッサンサンド」と「全粒ソフトパンサンド」が登場した。この間6~7分。早すぎる。イヤな予感がかすめた。その予感は半分当たっていた。「スイス伝統の製法で作ったパン」という表記だったので期待したが、クロワッサンも全粒ソフトパンも冷たい。パンを売り物にするなら、せめて焼きたての余韻くらい残してほしい。
              スイスミニ1 
            クロワッサンセット登場
              スイスミニ⑥  
              見た目は旨そう
              スイスミニ3 
              コーンスープはマル

パン自体はそう悪くはないが、どうしてオーブンで温めないのか不思議だった。クロワッサンはまずまずの味だが、具のツナは塩分が濃過ぎで大味。全粒ソフトパンも挟まれたハムは薄いのが一枚とトマト、レタス、キュウリがただ乗っているだけという印象。建物もテーブルも人もテラスも素晴らしいのに、肝心の料理に神経が行き届いていない気がした。 ポテトチップスも多分市販のもの。スイスはよく言えば大らか、悪く言えば大雑把なのか。

              スイスミニ2 
              全粒パンセット
              スイスミニ⑧ 
              エーデルワイス?
              スイスミニ11 
              温かいミルク

「ちょっと期待外れね。コーヒーはまずまず。温かいミルクを注ぐのがスイス流でいいわ。これだけのいい雰囲気を持っているのに、料理はイマイチ。そう言えば、スイスに行った時も同じ思いをしたわ。料理にがっかりしたことを思い出したわ」
「ここはまさにスイスかもな。モネで感動して、スイス料理で寒くなる。3年前のパリ、スイス、ドイツ旅行の再現だなあ」
「あの時はパリでマチス展を観て感動したわね。まさか3年後にほとんど同じ思いをするとはねえ」
人生は繰り返しの連続かもしれない。昔ぜい沢、今貧乏。すると次は? じっと手を見る。

本日の大金言。

パリは美食の文化が息づいているが、スイスにはフランスほどの美食文化はないと思う。モネがいたパリ周辺の風景と氷の絶壁マッターホルンの落差。


                          スイスミニ10 

きんつば番付「東の徳太楼、西はあずき庵」

 堺に足を伸ばしたついでに「日本の胃袋」大阪に立ち寄ることにした。大阪は好きな街で、今回は久しぶりの着陸。狙いの一つは「出入橋きんつば屋」。あんこ中毒者として、この店は避けられない。村長のきんつば番付では東の横綱は東京・浅草の徳太楼だが、西は未知の世界ということもあり、空位である。出入橋きんつば屋は昭和5年(1930年)創業の老舗で、浪速の庶民の人気が高い。

そこへ行こうと思ったら、宮仕え時代の甘党後輩が「あそこは確かに美味いですが、有名過ぎます。へそ曲がりの村長らしくない。それより同じ暖簾から独立したきんつば屋があるのですよ。ほとんど同じ味ですが、こちらの方が仕事がていねいです。ボクはここのきんつばが大阪一だと思うてます」とメールしてきた。うむ。
              あずき庵① 
              きんつばの西のキングか?

へそが曲がりっぱなしの村長としては聞きづてならない。後輩には「またガセネタだろ?参考程度にはしておくよ」と返事してから、その「船場 あずき庵」へと急いだ。時間があまりない。地下鉄堺筋本町で降りて、南久宝寺商店街へ。「あずき庵」の幟(のぼり)が見えた。小さな店構え。「きんつば1個100円」の文字。徳太楼より安い。
              あずき庵② 
              メニューは少ない

店には店主が鮮やかな手つきで黙々ときんつばを焼いていた北千住ジャズバー「ゆうらいく」のマスターとそっくり。意味もなく親しみを感じた。これが想像以上のきんつばだった。店主は「出入橋のほうはボクの弟がやってるんですよ。この店はまだ13年です」と語った。自宅用にきんつば5個(500円)を買い求めた。ついでに帰りに立ち寄る京都三条商店街の隠れ名食堂「ちから」の女将とグルメ仙人先生にもお土産として包んでもらう。けな気な気配りというより海老で鯛を釣る戦術?
              あずき庵④ 
              すご腕のきんつば職人
              あずき庵⑤ 
              見とれる
              あずき庵③ 
              ため息が出る

ウマズイめんくい村に帰ってから、すぐ賞味することにした。添加物などは入っていないので、賞味期間が短い。紙包みをとくと、経木が現れ、その中から小ぶりだが、見事な焼き色のきんつばが現れた。村民2号が「へえー、素朴ねえ」と声を上げる。大きさは徳太楼とほぼ同じ。だが、焼き色がまるで違う。徳太楼はきれいで上品な白だが、あずき庵のきんつばは手焼き感にあふれていて、その皮がもっちりしている。
              あずき庵3 
              どないでっしゃろ?
              あずき庵5 
              この焼き加減
              あずき庵12 
              うむむ

ひと口で、その恐るべき実力がわかった。あずき餡の自然でふくよかな風味。甘さがかなり抑えられている。このあたりは徳太楼と共通しているが、寒天の割合が徳太楼よりも少ない。その分、小豆(北海道産)の美味さが見事に引き出されている。しかも100円という庶民価格。ただのつぶしあんではなく、あんを別々に作って、それを丁寧に合わせているような食感。切り口を見るとわかるが、煮崩れしていない大納言小豆がさり気なくふんだんに混じっている。ここに最高のきんつば職人がいることを確信した。
              あずき庵8 
              名人は隠れている

あんこが絶妙ね。それと皮のもっちり感がとてもよく合っている。素朴の中に上品が隠れているような感じねえ。お高くとまっていない感じが好きだわ」
「決まり! 西の横綱はあずき庵だね。いい店を見つけた感じ。後輩にも感謝しなくちゃ」
「まだわからないわよ。すごい店がまだまだ隠れているかもよ」
「楽しみが増えたなあ。ファイトがわくよ。次は九州あたりに行こうかな」
「はいはい、泳いで行ってくれば?」

本日の大金言。

京都で生まれた当時はぎん(銀)つば、江戸に来てきん(金)つば。元々刀のつばの形をしていてたが、いつの間にか四角になった。榮太楼のきんつばは昔の形を残しているが、1個200円(税込み216円)。徳太楼は1個135円。あずき庵は1個100円。これをどう見るか。


                        あずき庵11 


そばの原点?堺の蒸しそば

「 戦国時代はベニスのようだった」大阪・堺ではマーベラスな体験を数々したが、創業が1695年(元禄8年)というそば屋のことも書いておきたい。村長がこれまで食べてきたそばとはまるで違っていた。地元では有名な老舗そば屋の「ちく満(ちくま)」である。あの司馬遼太郎が「街道をゆく」の「堺・紀州街道」の中で「ちく満」のことに触れている。

宿院にある「ちく満」で食べようと思ったが運悪く定休日で、雨まで降り出して、休んでいる軒下で雨宿りしたことを独特の筆致で描いている。今から四十年ちょっと前の話だが、その「生そば ちく満」はその当時のままの姿で存在していた。利休屋敷跡の並びにあり、利休の井戸を見てから、ここでそばを食べると、堺のほんのほんの一端を感じ取れる・・・かもしれない。
              ちく満7 
              ここが超老舗そば屋?
              ちく満② 
              魔界への入り口?

「かん袋」で氷くるみ餅を賞味したその足で、「生そば ちく満」へ。まずその外見に圧倒される。まるで昭和の巨大な工場のよう。その一角に古い木戸があり、紺地の暖簾が下がっている。そこだけ別世界で、歴史のある料理屋の風情。堺は戦災で焼けているので、たぶん建物自体は戦後のものだろう。
              ちく満 
              裏手?こちらが玄関?

木戸をくぐると、薄暗い通路になっていて、左側に製粉機が見える。さらに奥に行くと、そこが店内である。下駄箱に靴を入れ、磨き抜かれた廊下を渡り座敷へと上がる。書院造のような、時間が止まったような広い和室。まるで時代劇の世界に入り込んだような錯覚に陥る。まだ時間が早いせいか、お客は少ない。
              ちく満6 
              別世界である

女性スタッフの機敏で控えめな動きに「歴史」を感じる。料理メニューは「せいろそば」だけ。それと飲み物が少し。そばは1斤(きん)と1.5斤の2種類から選ばなければならない。斤とは・・・尺貫法がここでは生きている。「では1斤でお願いします」と村長。800円なり。
              ちく満③ 
              メニューの驚き

待つこと5~6分。大きな木箱がやってきた。その上に生卵とお椀、それに薬味のネギが乗っている。それにツユの入った徳利(とっくり)。
「徳利は熱いですからお気を付け下さい」
と女性スタッフ。戸惑う村長に食べ方も教えてくれた。
              ちく満④ 
              木箱の不思議

お椀に生卵を割り、薬味を入れ、徳利から熱いツユを注ぐ。それをかき混ぜる。木箱のフタを取る。そこにグレーがかったせいろそばが鎮座していた。湯気が盛大に立ち上っている。茹で上げたというよりも蒸し上げたそばで、江戸時代初期のそばそのままのよう。手打ちではない。
              ちく満⑥ 
              フタを取ると・・・
              ちく満10 
              江戸初期のそば?
              ちく満9 
              別次元のそば

まずはひと口。ツユは甘辛でやや甘め。鰹の出汁が効いている。そばはモチっとしていてコシがない。コシとかエッジとかとは無縁のそば。伊勢うどんのそば版のような食感と風味。そば自体に風味はあるが、さほどではない。たぶん小麦の割合が多いに違いない。甘辛のツユと生卵、ネギがそばによく絡む。極上の味というよりもシンプルで不思議な感動に襲われる。
              ちく満⑤ 
              生卵と熱いそばツユ 
              ちく満⑨ 
              ズズと行きなはれ
              ちく満11 
              これは卵スープだ

食べ終わった後も驚き。錫(すず)製の見事な薬缶(やかん)がぐつぐつ音を立てるようにやってきた。「カマクラです」「えっ鎌倉?」「いえいえ釜でグラグラ言ってるお湯です。それでカマクラいうんです(笑い)。昔からそう言ってますよ」。うーむ。
こんなそば湯はむろん初体験。それを残ったツユに注ぐと、みるみる上質の特製卵スープが出来上がった。それをすすると、「京都とも大阪とも違う。堺、なんちゅうところや」という言葉が漏れるのだった。

本日の大金言。

もしタイムマシンがあったら、戦国時代の堺に行ってみたい。信長や秀吉も恐れた堺商人の独立国。街には過日の面影はないが、奈良や京都に負けないもう一つの歴史といい店が隠れている。




                         ちく満12

恐るべき歴史の堺名物「くるみ餅」

 「天王寺駅前からチンチン電車に乗って、飯炊き仙人の店で昼飯食べて、『かん袋』でくるみ餅を食べてきましたよ。ひっひっひ」
「チンチン電車? 大阪にチンチン電車なんてあったっけ?」
「あーた、勉強不足ですよ。阪堺電車いうて、大阪と堺を結ぶ、そりゃあ牧歌的なチンチン電車でね。村長が行ったら目からウロコですよ、ひっひっひ」

京都にお住いのグルメ仙人先生からそんな糸電話をもらったのは去年のことである。村長は地団駄を踏んだ。ウマズイめんくい村からはあまりに遠すぎる。今回、京都に行ったついでに堺まで足を伸ばすことにした。千利休のことも調べたいと思ったこともある。
               堺チンチン電車
         出発!チンチン電車(阪堺電車)
              堺チンチン電車① 
              便利な一日乗車券

天王寺駅前からまるで都電のような雰囲気の阪堺電車に乗り、宿院停留所で降りた。千利休屋敷跡を見る。堺は大坂夏の陣と太平洋戦争でかなり焼失したが、利休が使っていたといわれる石囲いの井戸が現存している。ボランティアガイドの話を聞きながら、その井戸を見る。水は今でも湧き出ていて、鹿威し(ししおどし)へと続いていた。その水を手ですくって飲もうとしたら「あ、それは飲用できませんわ」と注意されてしまった。利休は遠い。
              利休屋敷跡① 
              利休屋敷跡の井戸

その後、飯炊き仙人の「ゲコ亭」に行くつもりで、ボランティアガイドに評判を聞いたら、「あそこは仙人が引退してしまって、味が落ちたという評判ですわ」。堺の人の直截さが気に入った。時計を見ると、午前11時前。方針を変えて、「かん袋」に行くことにした。
              かん袋 
              室町創業の「かん袋」

歩いて行ける距離。コンクリートの二階建ての古いビルに「かん袋」の木の看板が見えた。メニューはくるみ餅だけで、創業が何と室町時代(元徳元年(=1329年)、当代が27代目という気の遠くなるような老舗。すでにこのブログでご紹介した京都・今宮神社参道のあぶり餅「一文字屋和助」、会津若松「五郎兵衛飴本舗」に続く歴史だと思う。
              かん袋② 
              シンプルなメニュー
              かん袋③ 
              店内の行列

店内は混み合っていた。丸い簡素なテーブルが8つほど。レジの前には12~3人が並んでいた。メニューは「氷くるみ餅」と「くるみ餅」のみ。列に並んで番号札をもらうというシステム。村長は「ここでしか食べれない」という「氷くるみ餅」(シングル360円)を頼むことにした。

待つこと10分ほど。目の前に置かれた「氷くるみ餅」はくるみ餅の上にかき氷がかかっているだけのもの。スプーンですくうと、氷は柔らかく適度に湿り気があり、きめも細かい。上質な氷。その底にクルミ餅が潜んでいる。白玉が5個。それに何とも言えない雰囲気のある緑色のあんがたっぷりとかかっていた。うむ、と言いたくなる色味。
              かん袋⑥ 
              氷くるみ餅やす
              かん袋⑤ 
              やわらかな氷
              かん袋⑧ 
              月が出た出たァ~
 
これが予想よりも美味だった。白玉はもっちり感にあふれ、何よりもあんが美味い。くるみ餅なのでクルミと間違える人が多いが、このくるみは「くるむ」から来ている。自然でほどよい甘い風味、よく見るとミルクのような白蜜もかかっている。このあんの正体は何だろう? 店の女性スタッフに聞いてみる。「すいません。教えられないんです」と肩をすくめた。
              かん袋⑨  
            ええのう甘い発掘
              かん袋10 
              秘伝のあんやす

材料も製法も門外不出の秘伝だそうで、27代も続いていることを思えば、それも理解できる。しかし、堺の通人によると、「あれは青大豆のきな粉ですわ。それに砂糖と塩。他に何かつこうてはるかもしれませんが」とか。それにしてはきな粉の風味はほとんど感じなかった。それを超える絶妙な風味が確かににじみ出ていた。レジの上にかかっていた「この道一筋」という扁額が、「詮索よりも楽しみなはれ」と言っているようだった。村長にはあんの正体が利休の謎のように思えてくるのだった。

本日の大金言。

現在の堺には戦国時代の環濠都市の面影はないが、よく見ると、料理屋や和菓子屋などにも驚くべき歴史が隠れている。その痕跡をたどるのも面白い。利休を生んだ気宇壮大な堺商人の夢の跡・・・。



                          かん袋12 


三条木屋町、縄のれんの「さえずり」

 本日は京都・三条木屋町の縄のれん居酒屋で食べたさえずり(鯨の舌)について。有栖川宮旧邸で行われたペンクラブ懇親会で、飛び切りの情報をつかんだ。村長が居酒屋好きだと知ってか知らずか、参加者の一人が「ええ居酒屋がおますよ。クジラの肉が旨い。さえずりもありまっせ。戦後すぐにできた居酒屋で京都では知る人ぞ知る縄のれんですわ」とささやいた。
               よしみ 
              縄のれんの叙情

村長は一段落ついたので懇親会を早々に切り上げ、夕暮れの京都を京都市役所方面へと急いだ。本能寺を越え、木屋町通りへ。路地に入る。風情のある提灯と渋い縄のれんが見えた。店から漏れてくる活気。「よしみ」という看板。外見でいい居酒屋だとわかった。大衆の匂い。
              よしみ1 
              その先の世界

店内は中央に広い板場があり、それをぐるりと取り囲むようにコの字のカウンター席。上から黄紙のメニューがずらっと下がっている。ほぼ満席で、30~40席ほどか。奥には板の間のテーブル席もあり、スタッフの数も多い。板場には目の鋭い初老の店主らしい人。老若男女カップル客が多い。
              よしみ⑤ 
              素晴らしき世界

板場からはおでんのいい匂いが発散している。魚介類、京野菜などいいメニューが揃っている。村長はまずはキリンラガー(大600円)を頼み、それからゆっくりとメニューを探す。一番楽しいひと時。急いては事をし損じる。まずは「新さんまさしみ」(750円)、「にしんなす」(600円)を頼んだ。
                
突き出しの「おぼろ豆腐」が美味。塩麹がどっかと乗っていた。京都の豆腐の旨さは格別だが、ここもマル。塩麹と豆腐の相性がいい。最初のアタックでこの店がいい居酒屋であることを確信した。だが、それは次第にイライラに変わってきた。「新さんまさしみ」と「にしんなす」が来ない。マツノモタノシマツノアケミ。こういう時の呪文を繰り返す。京都・伏見の地酒「魯山人 特別純米原酒」(700円)も早めに頼むことにした。お目当ての「くじら さえずり」(900円)も追加注文することにした。マツノハツライマツノアケミ。
              よしみ3 
              ここは天国か?
              よしみ③ 
              突き出しの美味
              よしみ② 
              くじらの誘惑

28分ほど待って、ようやく「新さんまさしみ」がやってきた。サンマを釣りにでも行っていたんだろう、きっと。九条ネギがどっさりと上に乗った銀色に輝く新サンマの刺身は見るからに新鮮で、イライラが吹っ飛んだ。スダチを絞り、薬味の生姜を加えた醤油に付けて食べる。その瞬間、甘いきれいな脂と旨味が口中に広がった。かんろ、かんろ。
              よしみ5 
            新さんま刺身、ついに登場
              よしみ4 
              言葉はいらない
              よしみ10 
              にしんなす

「にしんなす」はニシンの味つけがかなり濃く、こちらは期待外れ。「魯山人」で舌とノドを洗い流す。それから、いよいよ本命に移った。「くじら さえずり」は大昔、開高健のエッセイを読んで食べたことがある。さえずりとは鯨の舌のこと。小鳥のさえずりと鯨の舌を引っ掛けた昔の人のネーミングの洒脱さに脱帽したものだ。その時はガムを噛んでいるようで、それほどの感動はなかった。
              よしみ⑦ 
              くじらのさえずり

今回はどうか。黙々と醤油に生姜とニンニクを溶く。鈍いミルク色のテカり、表面の一部がグレー。醤油を付けて口中に運ぶと、予想よりも柔らかい。コリコリというよりもまったり感。脂の乗りがいい。甘ささえ感じた。鯨の種類は何だろう? ミンククジラかイワシクジラか? まさか、アイスランドから輸入しているナガスクジラ? 男性スタッフに聞いてみたら、「さあ、わかりません」と冷たいひと言。企業秘密かもしれない。
              よしみ⑧ 
              脂の乗り
              よしみ⑨ 
              ピノキオか?

魯山人を流し込む。胃袋に消えていく鯨のさえずり。自分のさえずりを考えてみる。この舌は何者? 鯨のさえずりが自分の胃袋の中でピノキオになるかもしれない。罪深い村長、罪深い舌とりあえず、ごめんね、鯨さん、とつぶやいてみた。胃袋の中でさんまが怒りだした。ワイの立場はどないなるんや? ニシンも怒り出した。ワイかて好き好んで濃いめに味付けされたんやないで。た、助けてくれー・・・何という結末か。

本日の大金言。

京都は普段考えないことまで考えさせる。食べることが殺生で、人間はそれで成り立っている。感謝というと嘘くさいが、今ここにあることにたまには手を合わせたい。



                          よしみ11

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謎のキーシマと衣笠丼に遭遇

祇園祭以来の京都へ。ペンクラブの「京都例会」ミッションのため。会場の平安女学院に行く途中で、腹の虫が鳴いた。時計を見ると、午後1時ちょいまえ。時間があまりない。烏丸御池から丸太町の途中で何とも言えない風情のある店が視界に入った。つい立ち止まる。「生そば やっこ」の看板。それも旧字で表記してある。風景が突然、セピア色に変わった。
              やっこ① 
              おんやまあ?
              やっこ 
              吸い込まれる

入り口に「キーシマ」(420円)、「ミニ衣笠丼」(470円)のメニューと写真が貼ってあった。かけそばのような写真。キーシマって何だ? 「テレビ雑誌でお馴染の店」という表記も見えた。これはいらないと思う。かえって安っぽくなる。好奇心に駆られて、白地の暖簾をくぐった。
              やっこ② 
              キーシマって何だべ?

店内は年季の入ったテーブルが7つほど。それとカウンター席(6席)。その向かいが板場になっていて、やや高齢の女将さんと店主の姿が見えた。娘さんらしき感じのいい女性がお茶を持ってきた。店は昭和6年(1931年)創業(昭和5年説もある)で、娘さんは3代目だった。うむ。
              やっこ⑥ 
              いい風情やなあ

「あのう、キーシマって何ですか?」
「キーは黄色、ラーメンの麺のことをこのあたりでは昔からシマ言うてはります。それでキーシマ。うどんのツユにラーメンの麺だけを入れただけのもんで、元々は賄い料理だったんです。先代がそれをメニューにしたところ、どんどん頼む人が増えてきて、うちの看板の一つになったんです」
「へ~、面白い。じゃあそれとミニ衣笠丼をお願いします」
              やっこ③ 
              シンプルな京都?

これぞ京都庶民のディープな味ではないか? ひょっとして京都にお住いのグルメ仙人先生も食べているかもしれない。待つこと12~3分でキーシマとミニ衣笠丼が湯気を立ててやってきた。甘い出汁の匂い。かけそばか素ラーメンのよう。キーシマは黄色というよりもベージュっぽい細麺で、ほどよいコシともっちり感、それにつるりとしたのど越しが悪くない。麺は自家製だそう。軽い驚き。
              やっこ1 
              キーシマやでェ
              やっこ3 
              さて正体は?

ツユはまさしく甘めのうどんのツユで、昆布出汁がしっかり効いている。ズズズとすすると、京都エキス(それも庶民の)が胃袋と脳を幸せ感で満たし始める。七色をパラリとかける。「ええなあ」という言葉が自然と漏れてくる。一滴残さず飲み干す。

ミニ衣笠丼はミニというよりもジュニアのボリュームで、トロトロの半熟玉子と九条ネギの風味がいい。お揚げの姿が見えなかったが、二口ほど食べ進むと、中からもっさりと出てきはった。これやこれや。ご飯にかかったツユがほどよい。こちらも甘め。もう少し甘さを抑えた方が村長の好みだが、これが京庶民の味なのかもしれない。九条ネギはもう少しあった方がいいと思うが、ひょっとしてこの時期、九条ネギが高いのかな?
              やっこ⑦ 
              衣笠丼さま
              やっこ⑨ 
              これやこれや
              やっこ10 
              お揚げやでェ

「ナニ寝ぼけこと言うてはりまんのや。キーシマなんちゅうけったいなもん食べよって。だから会津は京都でよう気張りおすなあ、と言われるのや。そんなしょうもないもん食べるなら、ケテルのシュークリーム食べてみなはれ。イノダコーヒが閉店した東京・銀座ケテルのケーキがなくなるのを惜しんで、京都で復活させた。このニュース知らない? それでよくスイーツ好きと言えまんなあ。ひっひっひ」
突然、天井から不思議な声が聞こえてきた。まさか、仙人の声?

本日の大金言。

キーシマは「きいしま」とも表現する。関西の一部で昔からあるようで、焼きそばの黄色い麺のことを「きいしま」と言っていたようだ。衣笠丼が京都の家庭の味なら、きいしまもディープな京都の味ということになる。京都は奥が深すぎる。



                           やっこ11 

上機嫌とはいかない「山形の夜」

 ポンコツ車で宮城・閖上(ゆりあげ)地区を回ってきた疲れで、山形市内の安ホテルに辿り着いたときはぐったりしてしまった。3.11から約4年半。改めて自然の猛威を思う。その瞬間まで普通の日常生活を送っていた約5000人の住民が津波によって、家ごと奪われ、犠牲者の数も800人近いと言われている。
              閖上② 
              記憶は消えない(名取市閖上地区)

一面更地になった現場を時折り復旧工事のトラックが走る。復旧はまだ終わっていない。3.11が嘘のように空は広く、海は穏やか。釣り人もポツンポツンといる。だが、周辺を歩くと、至るところに深い傷跡の痕跡が残っている。日和山に上がって手を合わせる。しばらく呆然と空と海を見る。自分がちっぽけな存在であることを改めて思い知らされる。

「いつまでもボケっとしてたら、そのまま認知症になっちゃうわよ。村長なんて、ただでさえ物忘れがひどいのに」
村民2号のひと言で、村長の腹の底にすむ一匹の虫がむっくりと起き上ってきた。夕暮れの市内に出ることにした。去年と同じコース。商店や飲食店の多い十日町・七日町方面へと歩く。約20分ほど。
             母家 
             おいでおいで

いい店構えの居酒屋の灯りが見えた。地酒と山形郷土料理のメニューが「おいでおいで」している。
「疲れたから、ここにしましょ」
村民2号がもう一歩も歩きたくない、という顔で言った。「居酒屋 母家(マザーハウス)」という看板。

カウンター席と半個室がいくつか。カウンター席に座って、まずは生ビールを頼む。感じのいい女性スタッフが「今日は鮭の白子の天ぷらがおすすめです」。680円。さらに山形牛メニューの中から「里芋と山形牛のコロッケ」(2個680円)をとりあえず頼んだ。
              母家③ 
              アテの鯛の煮付け
              母家⑨ 
              うんめい

生ビールのアテに付いてきた「鯛の煮付け」が美味だった。薄味で日本酒で煮付けたもの。これは当たりの店か? 「里芋と山形牛のコロッケ」は北上コロッケと似ていて、ジャガイモではなく里芋を使ったもの。里芋のぬるりとした食感、玉ネギの甘み、山形牛の切落としがいい具合に調和している。まずまずの味。次第に元気が出てくる。
               母家⑦ 
              里芋と山形牛
              母家⑧ 
              うんめい2

日本酒が充実しているのがわかった。酒田の名酒「上喜元 純米吟醸 無濾過生原酒」(もっきり 700円)を頼んだ。もっきりにもっこり。白磁器の器になみなみと注がれる。これこれ。手に入りにくい酒で、芳醇な吟醸香ときれいですっきりした味わい。甘露甘露とつぶやきたくなった。珍しい「鮭の白子天ぷら」はコロモがやや厚めだが、カラリと揚がっていて、ほのかに鮭の香りのするまったり感が悪くない。フグの白子ほどの感動はないが、まずまずの妙味。
              母家② 
              手に入りにくい
              母家11 
              もっきり!
              母家④ 
              鮭の白子天ぷらダス
              母家2 
              つや姫のおにぎり

仕上げの「おにぎり(鮭)」が当たりだった。炊き立てのつや姫に塩だけの味付け。それを海苔で包んだだけ。ボリュームも十分。中の焼き鮭はゴロッとしていて、無愛想だが、つや姫の旨みがそれを補っている。素朴な旨さ。全体として、相撲に例えると、去年行った「味山海」が張出大関なら関脇の味わい。いい店であることは間違いない。

「やっぱり山形はいいわね。鶴岡もよかったし。藤沢周平が終生故郷を忘れなかったのが何となくわかるわ。その故郷を奪われた閖上のことも忘れちゃいけないわね」
「福島のこともね。何だかしみじみしてきたなあ。もう一杯飲むしかないなあ。お代わりーっ」
「ダメだこりゃ。付ける薬がないわ」

本日の大金言。

人生一寸先に何があるかわからない。三島由紀夫は一瞬一瞬に生きる、と言ったが、一瞬一瞬を精いっぱい生きることは難しい。「平凡が一番」と言った藤沢周平の言葉もある。



                         母家4 


プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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