完敗!京都のにしんそばにダマされた

某秘密ペンクラブの仕事をかねて、 3泊4日で久しぶりに京都に旅をしてきた。その間、この「ウマズイめんくい村通信」を休んでしまった。申し訳ない。腰痛を押して、毎日、2万歩近く歩いた。京都を丸かじりするのは不可能だが、端っこの端っこのそのまた端っこくらいにはかじりついてきたつもりだ。うまいもの探しや小ネタを拾いまくり、その反動で、最後の一日は、体中が悲鳴を上げて、安ホテルのベッドに突っ伏す羽目になってしまった。

何はともあれ、京都。その時空を超えた迷路。赤羽村長はパリも好きだが、5月に行ったパリと同じ人間の業と怨念と鎮魂の匂いがした。美熟女の村民2号も腰ぎんちゃくのように付いてきた。
「何、言ってんの。付いてきたやったのよ。村長が羽目を外して、大恥をかかないように。第一、一人じゃ何にもできないでしょ」
少々痛いが、毒矢は黙って受けるに限る。

         京都にしんそば① 
         まるで居酒屋

先斗町の脇道、そこにいい雰囲気にくすんだ赤ちょうちんが下がっていた。「生そば」という文字が夕闇に浮かんでいる。そこだけ先斗町の賑わいからポツネンと離れているような印象。B級の旨いもの屋を探して、足が鉛になりかけたとき、「ここにしましょ」と村民2号。「河道屋 銀華」というノレン。場所が場所だけにあまり期待せずに入った。5人が座れるほどのカウンター席とテーブル席が三つほど。何となく場末の居酒屋にでも紛れ込んでしまった気分。知識がないというのは恐ろしい。テーブルの汚れなどから「ここはハズレだな」と思った。

         京都にしんそば②  
         この板わさが曲者だった

「すいません、テーブルを拭いてください」
と男性の店員さんにお願いする村民2号。見渡すと、カウンターの奥では店主なのか、中年の板前さんが天ぷらを揚げている。その姿は、きりりとしていた。よどんだ店内との落差。うーむ。彦作村長は、まずは「板わさ」(500円)と「ひや酒 玉乃光」(1合750円)を頼んだ。これが実にうまい。わさびが下ろし立ての本わさびだったことも意外だった。玉乃光で板わさの余韻を洗い流してから、「にしんそば」(1150円)を注文。村民2号は「いい値段ねえ」とぶつぶつ言いながら「親子丼」(1100円)を注文した。

          京都にしんそば⑥
          何という薄くち、シンプル!

          
京都にしんそば④ 
          一見、うまそうに見えない

「にしんそば」は京都に来たら、一度は食べなければならない。「ここはひょっとして、いい店かもしれないぞ」彦作村長は、迷宮にでも入り込んだ気分になりかけていた。このあまりに庶民的な居酒屋風の佇まい。その落差。にしんそばがやってきた。一見安手の大鉢風どんぶりに大きなニシンが乗っている。その下のソバはどこか頼りなげ。生姜と刻み葱がちょこん。つゆも見るからに真水に近い。まるでわびさびの世界をそのままそばにしたよう。

つゆをひと口。うーむ。何という薄くち! 少々物足りないな。そう思った瞬間、じんわりと出汁の奥深い世界が村長の傲慢に容赦なく襲いかかってきた。「あんたは何も知らん」そう表現するしかないささやきが舌の根元あたりから、じんわりと聞こえてくるようだった。よく耳を澄まさないと通り過ぎてしまいそうなほどのささやき。こんなに薄くちで、これほどのさり気ない奥行きを感じさせるそばに出会ったのは初めての体験だった。

          京都にしんそば⑦ 
          この棒煮にしん、うーむ

そばは多分二八だろう、切れというより、ほのかな柔らかな、ぼそっとした歯ごたえ。そして、棒煮した乾物にしん。「ハズレだな」が完全に覆ってしまった。醤油と出汁と砂糖などでじっくりと時間をかけて、甘辛く煮込んだことがすぐに理解できる。そのあまりに自然な味わい。遠いにしんの香りと物語。そこには化学調味料などかけらも感じられない。シンプルの極みと言いたくなってしまった。それらが三位一体となって、口中に入り込み、「別に知らなきゃ知らないでええどすわ」そうささやきながら、無知で傲慢になりつつあった彦作村長を別次元に誘うようだった。

         京都にしんそば⑨ 
         わびさびの世界だよ

「こっちもうまい。見た目は無愛想にくすんでいて、うまそうじゃないけど、とんでもないわ。このダシのきき方、こんな親子丼ってあまりないんじゃないかな。ジワジワくるうまさよ」
親子丼を味わいながら、村民2号も、最初の印象を撤回し始めた。
「量より質ね。でも、みそ汁くらい付けてほしい。これはどうにかしてほしいわ」
「でも、びっくりだな。入口は狭くて中に入ると奥が深い。ホント、京都って底意地が悪いよ。この店にも完敗だ」

          京都にしんそば⑤ 
          ダマされてしまった

後で調べたら、「河道屋」は総本家、ノレン分けなどで、京都でも老舗の蕎麦屋であることがわかった。創業は享保8年(1723年)。今回たまたま入ってしまった「銀華」は明治35年(1903年)、総本家から分家。当代が3代目ということ、河道屋の中でも敷居を低くしている店であることなどもわかった。古びた赤ちょうちんに「生そば」というのも、創業当時のまま。作り方も味も昔のままだという。「蕎麦」と書かずに「そば」。京都、恐るべし。



本日の大金言。

千利休のわび茶は、余分なものを究極までそぎ落とし、精緻を極めた理不尽なほどシンプルな世界。一見汚い赤ちょうちん居酒屋を装うそば屋の奥の間には「修業」という言葉が延々と続いているようだった。


            京都にしんそば10 
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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