新宿ジャズバーの不思議なパウンドケーキ

 腰痛を抱えながら、赤羽彦作村長は新宿東口に立っていた。極めてユニークなイラストレーターが主催する「ラテンの会」に出席するためである。「こんなコセコセした時代は、発想をガラリと変えてラテン的に暮らそうじゃありませんか」というのが会の趣旨。メンバーはホームレス作家や出版社の編集者など少数精鋭・・・ではなく少数鈍才である。ヘンな集まりでもある。それでいいのだ、赤塚不二夫の匂いもする。開催時間の午後7時までは1時間ちょっと間がある。さて、どうしようか。ほとんどスカスカ状態の村長の頭にピカリとひらめくものがあった。

10分後、村長は紀伊国屋書店裏手の地下にあるジャズバー「DUG」にいた。DUGはあのピットインが紀伊国屋の裏にあった疾風怒濤の70年代にも存在していたジャズバーの老舗。当時は確か「DIG]という名前だったと思う。DIGから過去形のDUG。「掘る」と「掘り返す」という意味だが、スラングでは別の意味もあるようだ。

                 DUG① 
         ジャジーな黒生ビール

久しぶりのDUGで「黒生ビール」(740円)を注文した。オスカー・ピーターソンのピアノが流れている。何か軽くつまもうと思い、メニューを見ると、「ミートパイ」(450円)があった。しかし、ビールにミートパイは月並みに過ぎる。さらに目を凝らすと、「期間限定」として、「マロンパウンドケーキ」(210円)の文字がキラキラ輝いた。

         DUG③ 
         スイートな展開

黒生ビールとマロンのパウンドケーキ! この組み合わせはジャジーだ。意外過ぎる。千円札一枚でおつりがくるのも「ウマズイめんくい村」の財政事情には適合している。BGMはオスカー・ピーターソンからマイルス・デイビスに変わっていた。「クールの誕生」。ここはクールに限る。

黒生ビールが来た。クラッカーの小皿が付き人のように付き添っているのも「さすがDUG」。このクラッカーと黒生ビールの相性がいい。コンソメピリ辛味。ローストした麦芽のいい香りが口中から鼻腔へ抜け、それが滝となって反対側の咽喉奥へと流れ込んでいく。その流れが一瞬落ち着く。その隙間を狙ってピリ辛クラッカーを放り込む。奥歯で噛むと、タバスコのような乾いたラテンの世界が広がってくる。心地よい快感の怒涛の連鎖。味覚のベッサメムーチョ・・・。流れる曲はクール、口内はホット。この落差もジャジーだ。

         DUG⑧ 
         自家製の焼き立て

いいタイミングでマロンのパウンドケーキが登場した。スリムなウエイトレスが「自家製の焼き立てですよ」。いいバターと卵とクリームの香りが鼻腔をくすぐった。表面のこんがりと中身の黄色が温かい。まさかジャズバーでかようなパウンドケーキに出会えるとは思っていなかっただけに、そのいい方向へのギャップにうれしさも倍増してしまった。村長は単純なのである。

自然な甘みといい香りが、黒生ビールの通った後の口内にまろやかなメロディーを奏でる。甘さが控えめな分だけ奥深さが染み透ってくる。焼き具合がほどよく、粘りのある固さとねっとり感、それにマロンのつぶつぶが絶妙なバランスである。黒生ビールとの相性も想像よりもずっといい。あり得ない場所にあった不思議なパウンドケーキ。曲がセロニアス・モンクに変わっていた。

         DUG.jpg 
         イレギュラーパウンド?

ラテンの会の時間が近づいてきた。村長は濃厚な1時間に少なめの後ろ髪を引かれながら、地下から地上へと出た。ジャズとラテンが地上と夜空を彩り始めていた。



本日の大金言。

たまには気忙しい浮世を離れるのもいい。イルカが海中から海面に出て空気を吸い込むように。疲れるのはまだ早すぎる。


                  DUG⑤ 


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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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