再び東京下町の極上蒸しきんつば

 東京・北千住の伊勢屋は、本店が亀有にあるまさに東京下町の和菓子屋である。この店の凄さは、およそ飾り気というものがないところだろう。本店の方は人気コミック「こち亀」の両さんの地元だけに「両さんサブレ」などキャラクター和菓子も売りにしている。しかし、北千住店にはない。丸井側の日光街道へと抜けるメーンストリートにそこだけ昭和の下町のだんご屋が店を出している、そんな雰囲気なのだ。「塩豆大福」と「焼きダンゴ」が売りだが、彦作村長はここの「蒸しきんつば」(1個120円)が好みである。

         伊勢屋きんつば① 
         この敷居の低さよ

以前にここの「黒蒸しパン」を取り上げたときにもサラリと触れたが、今回は正面から取り上げようと思う。金つばは江戸時代の初期に京都で生まれたというのが定説になっている。餡を米粉で包んで焼いたもので、形状が刀の鞘に似ていたところから、「銀鍔」と呼ばれていたらしい。それが江戸に伝わって、銀より金の方が派手で景気がいいということで「金つば」となったという。金つばの老舗・榮太楼が安政4年に日本橋で創業した時も円形(鍔の形)だった。榮太楼の金つばは今でも円形である。

          伊勢屋きんつば② 
          蒸しきんつばの誘惑

今では金つばというとほとんどが四角形で、金沢の中田屋や浅草の徳太楼も形状は四角である。大納言を小麦粉で溶いた薄い皮でくるんで焼くのが一般的だ。しかし、北千住・伊勢屋の金つばは円形で、しかも焼かずに蒸しているのが特徴。そのため見た目が透明で、すぐ下に粒あんが実にうまそうに控えている。羽衣をまとった妙齢の美女が褥(しとね)に誘惑しているよう、そう表現したくなるほどだ。実際、口に運ぶと、ひと噛みした瞬間、皮の存在感は消えてしまい、北海道産の小豆の風味がストレートに伝わってくる。いい粒あんの風味がこれほどすっくと立ち上がってくる金つばは少ないと思う。

          伊勢屋きんつば⑥ 
          素朴な洗練

北海道産小豆と砂糖、それに塩と寒天だけ。塩分がやや多いため、甘みも増幅される。この塩分の加減が好みの別れるところ。
「うちのは田舎金つばですから。つぶしあんは毎日作ってます。本店で作ったものを毎日運んでくるんですよ。確かに塩が少し多いと思います。これがうちの特徴でもあるんです」(店主)
敷居が低い店構え同様に飾りのない下町特有の謙遜が心地いい。江戸しぐさの伝統がここには残っている。ここにはとかく格式ぶったり、由緒を強調しがちな老舗和菓子屋の尊大さはない。

        伊勢屋きんつば⑧ 
        風味がすっくと立ってくる

価格設定もこの中身で120円は驚かされる。「田舎金つば」どころか京都の下町の和菓子に通じる洗練すら感じられる。大きさは物差しで測ってみたら、円の直径は6センチ。厚さは2.3センチ。手づくりなので一個一個微妙な違いがあるが、そこが手づくりのゆえんでもある。この直径6センチの世界の恍惚。下町から天界への回路。極上の甘いひと時。このところ老舗の看板にガッカリさせられることが多い彦作村長は、メディアでもあまり取り上げられない北千住の蒸し金つばに、一服の清涼剤を見る思いがするのだった。



本日の大金言。

味と値段と敷居の関係はイコールではない。下町の和菓子職人の辞書には「ビジネス」という言葉はないのかもしれない。


              伊勢屋きんつば③
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同感です

北千住は一度行ってみたいです。ブログ、旨そうで、とても参考になります。これからもドントン発信してください。
プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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