煮干しラーメンの修行僧「麺屋 伊藤」

 「当店は化学調味料を使用しておりません」
立てつけの悪そうな入口に手書きの紙がペタリと貼ってある。東京・赤羽東口の一角。派手な居酒屋と満艦飾のパチンコ屋に挟まれるように、「自家製麵 伊藤」の藍染のノレンが地味に下がっている。「無化調」はラーメン界で一つの流れになっている。

         赤羽・伊藤⑨ 
         質素とシンプル

彦作村長が通っていた門前仲町の「こうかいぼう」も無化調のラーメン屋で、行列のできる人気店だった。スープにしても麵にしてもチャーシュー(これは見事だったが)にしても、うまいにはうまいが、どこか物足りなさを覚えていた。やさしい味だが、何かが足りない。化学調味料を全否定するつもりはないが、我々の舌が化学調味料の味にいかに慣らされているか、それを考える上でもいい研究材料にはなった。

「伊藤」は王子にも店があり、煮干しラーメンの最高峰の店として、麺好きの間では鳴り響いている。王子の店はここ赤羽店のオヤジさんの店らしい。つまり、その息子さんがラーメン激戦区になりつつある赤羽で、ひと旗揚げたという構図である。オープンしたのは3年ほど前という。今では赤羽でも注目の人気店になっている。東口の交番で聞いたら、「ああ、あそこですよ」とお巡りさんがすぐに教えてくれたほどだ。

         赤羽・伊藤① 
         何やらわび茶の世界

あまりにシンプルで質素な外観に好感を持った。中に入ると、10席ほどのカウンター席のみ。30代くらいの無口な若い店主が一人。どうやらこの人が王子の息子さんらしい。安い居酒屋を居抜きで買って(借りて?)、そのまま使っているようで、「余計なものはいらない。勝負するのは味だ」という素朴な気概のようなものを感じる。午後2時過ぎという時間帯のせいか客は他に2人だけ。

雰囲気から言って、自販機が窮屈そうに置いてあるのが不思議だ。まあ、人手の問題もあるのだろう、そう考えながら、「中華そば」(600円)にしようか「肉そば」(750円)にしようか迷った。150円の迷い。肉そばはチャーシュー麵で、それをわざわざ「肉そば」と表記しているのは「伊藤」の伝統なのだろう。思い切って、肉そばを選んだ。

         赤羽・伊藤② 
         おお肉そばさま!

7~8分ほどで白いシンプルなどんぶりに入った「肉そば」がやってきた。一目見て、うーむと唸ってしまった。かなり大きめの見事なチャーシューが数えてみると4枚、正座している。ラーメンのスープというより、まるで鴨南そばのスープのような半濁のスープ。ほんのりと煮干しの香りが立ち上がっている。麺はストレートの細麺。それに刻みネギ。実にシンプルな構成だが、禅僧のようなそぎ落とされた豊饒(ほうじょう)が潜んでいるようなのだ。

            赤羽・伊藤⑤ 
            この細麺のワザ

スープはまさに煮干し。かすかに鶏ガラの気配もある。シンプルなのに奥深い。このスープに精魂を傾けているのがすぐに理解できる。麺が意外だった。かなり腰が強く、歯ごたえがあり、食感が生そばと冷麺の中間のようなのだ。彦作村長は太麺が好みだが、加水率をかなり低めに設定しているこの自家製の細麵には脱帽せざるを得ない。細麺でこれだけ食感のある麵は記憶にない。量が少なめなのが難点だが。

        赤羽・伊藤⑧ 
        煮干しの想い

チャーシューも脂身がほどよく、柔らかい歯ごたえと肉の甘みがストレートに口中に広がる。スープと麺とチャーシューの三位一体がほとんど完成の域に近づいているのではないか。無化調でこれだけの味はそう出せるものではないと思う。門前仲町の「こうかいぼう」で物足りなさを覚えたグッとくるものがこの「肉そば」にはある。ただ、スープの量がもう少し欲しい。「スープ増量」(プラス100円)というのは悲しすぎる。

それでもスープを一滴残さず飲み干してから幸せな気分のまま外に出た。さらに進化していきそうな若い無口な店主。ダシの出終えた煮干しのような彦作村長。それでも、ギックリ腰を押さえながら、心の中で静かにエールを送るのだった。禅の道は厳しいぞ、と。
交番のお巡りさんが腰に手を当てて妙な動きをする変なおじさんの姿を遠くから見ていた。


本日の大金言。

禅を感じるラーメンというのもあり得る。あのスティーブ・ジョブスも禅の修行僧になることを一時真剣に考えていたのだから。


                   赤羽・伊藤10 
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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