夢か幻かシャトーペトリュスの夜

 たぶんこれは現実ではない。B級グルメの本道から少々外れてしまう出来事が起きてしまった。小雨の中、ウマズイめんくい村にとんでもないスペシャルゲストがやってきた。これは書かずばなるまい。こんなことがこの世にあっていいのか? シャトーペトリュスがご降臨したのである。彦作村長の苦しい「アヒルの水かき生活」を慰めるかのように、かつてのワイン仲間がやってきた。人生の半分をワインに注ぎ込むプロフェッサーの加ノ山氏、酒屋の若旦那でワインアドバイザーの資格を持っている山ン中氏、ドラマーでもある数学者の佐ノ佐氏。その中の加ノ山プロフェッサーがあのペトリュスを持ってきたのである。ビンテージは1984年。村長はその実物を目にした途端、オーバーではなく、泡を吹いて卒倒しそうになってしまった。

          ペトリュス10 
          これは現実か?

遠い昔のエンターテインメント新聞社時代。担当していた作家先生の影響もあり、ワインに少々ハマってしまった時期がある。大ボスのカバン持ちで普通なら行けない店で接待したり、反対にごちそうの末席に加わったこともある。仕事ゆえ、神経は張りつめていたが、オーパスワンやシャトーマルゴー、シャトーラフィット・ロートシルトといった極上のビンテージワインを賞味したこともある。今から思うと「大ばか者」だったかもしれない。フール・オン・ザ・ヒル。

それでも手が届かないワインがいくつかあった。シャトーペトリュスはロマネ・コンティと並んで生涯飲む機会は来ないだろうな、という特別なワインだった。エベレストの頂上に咲く花。開高健の小説などで妄想するしかない。宮仕えを終えてからは飲むワインは1本580円のメルシャンの無添加ワインと決めている。それが・・・何という夜だろう。

          ペトリュス12  
          コルクがボロボロ・・・

29年もの時を超えて、そのシャトーペトリュスが目の前にある。世界中のワインを飲みほした加ノ山プロフェッサーも飲むのは初めてだという。すでに4本のワインを開けている。ワインアドバイザー氏が慎重にコルクを抜き始めた。だが、なかなか抜けない。コルクがボロボロになっていて、普通なら数秒で抜栓するスゴ腕の山ン中氏が、15分もかかってしまった。

「ペトリュスに君たちが私を飲むのは早すぎると言われたみたいだよ」
と彦作村長。
「ペトリュスですからねえ」
と山ン中氏。そのため息のようなセリフに全員うなずくのだった。

          ペトリュス⑧ 
          29年の眠りから目覚める
          ペトリュス④ 
          やすやすとは開かない・・・

気を取り直して、5つのボルドーグラスに注がれた濃厚な赤紫をテイスティングする。ボルドーのポムロール地区の奇跡と言われるペトリュスはメルロー種がほとんど。カベルネ・フランが少々入ることもある。1984年というビンテージはグレイトビンテージではない。だが、しかし。ペトリュス、である。しばしの沈黙の後、それぞれが口を開いた・・・。

「抜栓したばかりかもしれないけど、力強さはそれほど感じない。やわらかな酸味も感じる。まだ固い気がする。今のところ華やかさも期待していたほどではないかな。まろやかさはさすがだけど」
「土の湿ったようなブーケっていうのか、メルローの最高峰の感じはある。もう少し、空気となじむと味が変わってくるんじゃないかな。どんどん変身していくかも。トリュフのような官能的と言われる匂いもこれからかもね」
「ちょっと待ってくださいよ。加ノ山さん手料理の和牛のステーキと実によく合う。肉の甘みとペトリュス、1+1が3になっていく。脳がとろけるような感覚・・・」
「あまりにも期待値が大きすぎると思う。オーパスワンとかムートンみたいなわかりやすさはない。本物って案外こういうものかもしれないよ」
そんな会話がぐるぐると続く。誰の発言なのか、わからなくなって行く。

                ペトリュス⑤ 
         黒毛和牛のステーキ

時計を見ると午後10時を過ぎていた。延々約6時間に渡った夢のようなワイン会は、ペトリュスのふくらはぎをほんの少しだけ垣間見て終わった。まずは何よりも加ノ山プロフェッサー、そして山ン中若旦那に感謝することにしよう。この先、村長がペトリュスの全貌を見ることは多分不可能だろう。桜が散ってしまった後のような宴の後を眺めて、村民2号がポツリと言った。これで村長の人生の運はほとんど使い果たしてしまったわね・・・。グスン。



本日の大金言。

偉大なるペトリュス。その余韻に比べれば、人生は軽すぎるかもしれない。ペトリュスに近づきすぎてはいけない。



                 ペトリュス③ 
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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