上州で見つけた妙な隠れ茶屋

上州にいる 87歳の大叔母の様子がおかしい。たまたま電話した村民2号が日ごろの毒舌を忘れて、「ちょっと様子見に行ってみない?」。
「どう変なんだい?」
「うまく言えないけど、変なのよ」

ポンコツ車を飛ばして駆けつけると、大叔母は家の中で一人カラオケを唄っていた。音程がズレテいたが、どうやら「氷雨」のようだ。村長と村民2号に気づくと、唄の区切りを付けてから、ドスの利いたしゃがれ声で言った。
「こりゃ珍しいお客さんだよ。一体、どうしたんだい?」
「どうしたんだいって?こっちが聞きたいくらいよ。朝電話したら、私のこと、どちら様ですか?って言ったでしょ?何度も」
「ああ、ちょっとお前をからかってみたんだよ。来てくれてあたしゃァうれしいよ。ちょうどよかった。昼めし、どうしようかって思ってたんだよ」

         古代の茶屋⑥ 
         これは当たりかハズレか?

雨が降っても槍(やり)が降っても落ち込むということのない大叔母だが、87歳で一人暮らし。寂しくなる時があってもおかしくはない。最近物忘れもひどくなっているらしい。村長は久しぶりに赤城神社へドライブがてら、美味いめし屋を探すことにした。赤城神社でお参りした帰り、国道353号線(赤城南面道路)をみどり市方面へと下っているときに、その店を発見した。「田舎そば 古代乃茶屋」という看板。まるで隠れ里の古民家だ。何やら柳生但馬守でも脇からぬっと出てきそうな佇まい。

          古代の茶屋④ 
          隠者の隠れ家?

茶室もあるらしく、入り口には蹲(つくばい)まであった。これは新たな発見かもしれない。上州にはうまいそば屋が多いが、このワビさびの気配はただごとではない。
「あたしゃあ、気に入ったよ」
入るとすぐ、囲炉裏があり、8人ほど座れる。奥には一枚板のいかにも古そうなテーブルがいくつかあった。なぜか昨年亡くなった作家・藤本義一の古い色紙が飾ってある。この店を贔屓(ひいき)にしていたということか。

かなり奇妙なそば屋だった。メニューを見ると、そばは「もり一枚」(500円)が基本で、大盛りはなし。最初に一枚とか二枚とか三枚とか注文しなければいけないようだ。「追加はしていません」とも書かれている。「そばの香りを楽しむ方は一枚、昼食代わりの方は二枚、そば通の方は三枚」とわざわざ表記してある。なんだこりゃ?

          古代の茶屋③ 
          何というシンプル

こういう店には逆らってはいけない。少々腹が立つが、流れに身をゆだねることがマナーである。大叔母は「天もりそば」(1300円)、村長と村民2号は村の財政事情から「もりそば一枚」(500円)をそれぞれ注文した。

               古代の茶屋⑨ 
        ゆったりとした時間が流れる

待ち時間は15分ほど。「もりそば」は挽きぐるみの10割そばで、こげ茶色がかった見事な細切りだった。この時期のそばにしては香りもまずまず。コシも強めで、ややぼそっとした食感のいいそばだった。村長の好みのそば。感心したのはつけ汁である。鰹と昆布の出汁と返しが絶妙で、風味がじんわりと底から立ち上がってくるような、自然の味わい深さ。

          古代の茶屋16 
          10割の挽きぐるみ
          古代の茶屋11 
          つけ汁に感心

「甘くもなく辛くもなくちょうどいい。こんなところにこんなそば屋があるなんて、上州生まれの私も知らなかったわ。でも、美味いけどそばの量が少ない。今はダイエット中だからいいけど、二枚食べたら1000円はそば好きじゃないとたまにしか来れないわ」
村民2号が言うと、大叔母が遮るように言った。
「この雰囲気が気に入ったよ。天ぷらもコロモが多いそば屋の天ぷらだけど、実にサクッとしていて品がある。まるで、あたしみたいだよ」

           古代の茶屋13 
           この天ぷらぶり

美味いそば湯を飲みながら、村長は首をひねった。そば屋なのにどこを探しても酒類がない。そばと酒は切っても切り離せないものだと思う。この一点だけが不満だった。



本日の大金言。

同じような店ばかりより、おかしな店や変な店があった方が面白いと思う。面白くなき世を面白く。



                     古代の茶屋14
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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