B級キング「北千住いもや」の天丼

 宮仕えしていた時代、マスコミ関係者の知人数人と「北千住いもや」で待ち合わせたことがある。その中のテレビマンがこの店の常連だった。彦作村長はこのすぐ近くに住んでいたこともあり、名前くらいは知っていた。北千住では知る人ぞ知る店だったからである。夜の8時過ぎには灯りを落とすので、深夜帰宅が多かった村長にとっては、近くて遠い店だった。

                 いもや15 
       下町の天ぷら屋

L字のカウンターと奥座敷だけの店だが、下町の匂いが残る飾り気のない店で、ビールを何本も抜いた後で、そのテレビマンが当然のように締めに「天丼」を注文した。驚いた。やってきた天丼は天ぷらがドンブリのふたからはみ出るほどのボリュームだった。ビールですでに一杯になったお腹にようやっと詰め込むことに成功したが、美味いというよりそのボリュームに驚いた記憶が残っている。

         いもや② 
         敷居が低い

午後2時ちょっと前。今回は「天丼」だけを目的に再チャレンジしようと思った。カウンターに腰を下ろす。上天丼ではなく、安い方の天丼(750円)を注文する。常連らしいお客が年季の入った店主とその奥さんと雑談していた。息子さんだろうか若い男性も控えている。
「神田のいもやは酒類を置いてないし、ここに比べると、味も落ちるよ。オヤジさんみたいな腕はなかなかないよ」
常連客が話している。

よく見ると、店主は柳家小さんのような雰囲気。奥さんは内海好江みたいだった。天ぷら一筋の夫婦人生。それがこの店の味を作っているんだろうな。そう思いながら、先に出されたみそ汁と白菜のお新香を賞味する。わかめと豆腐のみそ汁はダシのよく効いた美味いみそ汁だった。東京の濃い味を予想していたが、じんわりと体全体に滲みこむような優しい味だった。

          いもや③ 
          天丼キングの登場

注文してから目の前で店主が天ぷらをじっくり揚げていく。油は白絞油とゴマ油をブレンドしているようだ。「自由に見ておくんなさい」という静かな自信が店主の全身にみなぎっている。10分ほどであの天ぷらがドンブリからはみ出た「天丼」が目の前に置かれた。ふたを取る。この瞬間がたまらない。エビ、イカ、かき揚げ、ナス、大葉・・・見事な天ぷらが幾重にも重なっているよう。

         いもや⑤ 
         言葉はいらない

天ぷらは洗練という言葉が無意味なほどの下町の熟練の味わい。コロモははカラッとしていて、しかもしっかりと付いている。天種がいいことが噛んだ瞬間にわかる。エビと紋甲イカの甘み、なすの鮮度、かき揚げのネギの何とも言えない甘み・・・。天つゆは思っていたほど濃くはない。甘辛のちょうどいい手触り感のある旨味。それが多めにかかっていて、人によっては多すぎると感じるかもしれないが、村長の範囲である。感心したのはご飯の旨さ。ちょうどいい固さ。それが艶々していて、立っている。

          いもや⑥  
          エビデンス
          いもや12 
          絶妙なバランス

A級ではない。これは天丼ワールドのB級キングだよ。洗練を超えた野暮と粋の混然一体の味わい。前回と違って、あっという間にぺろりと平らげてしまった。胃袋と脳天を満足感と幸福感が支配した。世界に何が起きても大丈夫。北のドンより「いもや」の天丼。北千住の青い空を見上げて、たとえ北鮮からミサイルが飛んできても撃ち落としてやる。理由もなくそんな気分になるのだった。



本日の大金言。

世界がたとえ明日終わっても、下町の天丼に終わりはない。




                    いもや14 

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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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