神田「みますや」の牛煮込み

 神田「みますや」と言えば、東京でも有数の老舗居酒屋。創業が明治38年というだけでも凄いが、東京大空襲の難を逃れて、建物が古いまま残っているというのも凄い。神田須田町や淡路町周辺(旧連雀町)には「まつや」や「竹むら」など江戸東京の面影を残す店が今も暖簾(のれん)を守っている。このあたりをうろついているだけでも、自分が何やら時代劇の中にでもいるような気分になってくる。

          みますや    
          ま、入っておくんなさい

現在の「みますや」は関東大震災の後、昭和3年に建て替えられたもの。見事な縄のれんと「どぜう」と書かれた赤ちょうちん。夕暮れどき、灯りの付いた店の前でしばし立ち止まる。そのまま透明人間になって、ずっと見ていたい気分。ここはどこ?わたしは誰? 浅草の「駒形どぜう」にも通じる江戸から明治の匂いがぷんぷん匂ってくる。銭形平次が小銭を懐にぬっと出てきそうな雰囲気。

ギョーカイ仲間とここで一杯やることになり、時間前にふと食べログなどを見たら辛らつなことが書き込まれていた。京都にお住いのグルメ仙人・調布先生もかつて、「ああ、みますやね。あんなとこに行く人の気がしれません。老舗の看板にあぐらをかいているだけ。ポテトサラダなんかどうしようもない」などと辛口だった。「みますや」でポテトサラダというのもどうかと思うが、彦作村長も「ひょっとして嫌な老舗かも」とそれなりに構えて行った。

          みますや④ 
          東京センチメンタル

店に一歩踏み込むと、三和土(たたき)になっていて、両側が小上がり、奥手にも座敷がある。壁や天井、あかり・・・すべてに江戸情緒が滲みこんでいるよう。これだけで入場料を払いたくなる。靴を脱いで小上がりの年季の入った和テーブルに座り込む。左上に黒のメニュー木札がずらりと並んでいる。近眼で乱視の村長にとって、これは苦しい。
          
お品書きを開いて、まずはビール。肴(さかな)は迷った末に「牛煮込み」(600円)にした。同時に「熱燗(あつかん)」も頼んだ。灘の「白鷹」(1合400円)を2合徳利で。「牛煮込み」にしたのは、村長の好きな北千住「大はし」の「煮込み」と比べてみようと思ったからだ。「大はし」も創業は明治の中ごろという老舗居酒屋である。残念ながら「大はし」は新しく建て替えているので、建物では「みますや」には敵わない。
         
          みますや③ 
          只者ではない

「お通し」はもやしのナムル風和え物。これが美味い。ダシのよく効いた甘辛醤油とよく馴染んでいる。そのさり気ない奥深い味。最初の一撃で食べログなどの辛口批評がどこかへと吹っ飛んだ。老舗に胡坐(あぐら)をかいているとは思えない。女性店員の対応も機敏で外連味(けれんみ)がない。うーむ。一部の評判と違うではないか。それとも村長がヘンなのか。

          みますや⑤ 
          意外な牛煮込み
          みますや⑥ 
          銀シャリがほしい?

「牛煮込み」は想像とは違っていた。牛スジをじっくり煮込んだもので、飴色のタマネギのお姿も。見ようによっては「すき家」の牛丼の具のよう。だが、しかし。吉原の太夫のような威厳もある。身を横たえて、「ぬしさまはわっちをどうなさるおつもりでありんすかい?」。ひと口。甘辛のすき焼きの旨味。スジ肉をここまで柔らかく煮るのはやはり伝統のワザがあるのだろう。にじみ出ている脂のほのかな甘みも感じる。生姜のかすかな風味も混じっている。北千住「大はし」の煮込みも絶品(味は濃い)だが、これもこれで美味い。だが、これは肴というよりご飯の上に載せて食べたくなる味だと思う。純粋に肴としては「大はし」の方が村長の好みではある。

熱燗でノドをうるおしながら、口中で「牛煮込み」と褥(しとね)を共にする。その訳ありの甘い至福。徳利がどんどん横になっていった。「みますや」の夜が時を超えて沈んでいった。



本日の大金言。

自分の目と舌で確かめること。そこから始めなければならない。縄のれんの奥の迷路。




                みますや① 
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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