恐れ入谷の絶品油そば

 鬼子母神で知られる東京の下町・入谷。今ではほとんど死語になってしまったが、かつては「恐れ入りました」というところを、しゃれっ気を交えて「恐れ入谷の鬼子母神」などと言ったものだ。「その手は桑名の焼き蛤」なども懐かしいセリフで、こうした日本の言葉遊びとユーモアの伝統は、「男はつらいよ」で渥美清演じる寅さんの口上くらいでしか聞く機会がなくなってしまった。「当たり前田のクラッカー」も最近は耳にしない。「東大生が食ってもハンバーカー」てえのはどうだい?(座布団一枚取り!)。

で、本題。GWの谷間、彦作村長はスカイツリーでにぎわう浅草に背を向けて、入谷方面へと歩くことにした。どんどん人が少なくなり、遠くに見えるスカイツリーがほどよい大きさになったあたりで、「油そば」の幟(のぼり)が視界に入った。「万人力(ばんにんりき)」という油そば専門店だった。時計を見ると午後3時ちょい過ぎ。

         万人力① 
         めっけ!

油そばはこれまで何度か食べている。最初は油でギトギトしているのかと思って敬遠していたが、伊勢うどんの中華版のような深いまろやかな味わいに魅了され、思い出しては食べるようになっていた。
「万人力」は田舎家のような造りで、コの字型のカウンター席のみ。15人ほどしか座れない小さな店だった。ようかん色の木のカウンターは悪くない。BGMはたまたまかもしれないが、津軽三味線が流れていた。客は他に2人ほど。黒いお決まりのTシャツ姿の若い女性スタッフ(アルバイト?)の対応はいい。明るく健気に一生懸命という感じ。奥が厨房になっていて、客席からは見えない。

          万人力③ 
          シンプルな油そば

「油そば」(並盛り140グラム 600円」とトッピングに「半熟卵」(100円)を注文。大盛り(210グラム)でも同じ値段。待つこと7~8分ほどで「半熟卵」と「油そば」の順で登場した。真っ白な磁器製のドンブリ。旨そうなチャーシューが3枚ほど、それにシナチク、刻み海苔(のり)。そのすぐ下にお湯を切ったばかりの小麦色の極太縮れ麵がゆったりと控えている。麵は浅草開花楼の特注麵だそう。

          万人力12 
          油そばの作法

油そばは北多摩東部地方が発祥の地とされている。「ぶぶか」や「珍々亭」が有名だが、彦作村長は密かにルーツは中国四川の汁なし担担麺(たんたんめん)にあるのではないかと思っている。汁なし担担麺を食べたときにそう直感したというだけだが。

          万人力④ 
          熱々のうちにかき混ぜるべし
          万人力⑤  
          旨味が立ち上がってくる

油そばの食べ方は麺の底にある醤油ダレを絡ませることから始まる。みるみるいい色合いになっていく。これでまずひと口。やや濃いめの味。だが、万人力の醤油ダレは隠し味の一つに鰹節も入っているのだろう、濃厚だがやさしいまろやかな味わい。麺によくからみついて、脂分のテカリとともにいい匂いを半径70センチに放ってくる。麺のもっちり感がこれまで彦作村長が食べた油そばの中でも特出している。素直に美味い。シナチクとチャーシューも柔らかく煮込まれている。チャーシューはもう少し厚いほうが村長の好みではある。

          万人力⑦ 
          ラー油と酢をかける
          万人力13 
          半熟卵もかき混ぜる

ラー油と酢をそれぞれひと回り半ずつかける。さらに、半熟卵を入れてぐいぐいとかき混ぜる。店員さんが「ニンニクも入れるとさらにおいしいですよ」と教えてくれたが、夕方からペンクラブの会議と飲み会があるので、ぐっと我慢することにした。それでもまずは絶品といえる味だった。ラー油と酢が味にきりっとした変化を与えている。半熟卵が濃厚なタンパク系の甘みをさらに加える。これはこれで美味い。村長の胃袋に満足という言葉が広がった。

          万人力⑨ 
          二度楽しめる

スカイツリーの恩恵も届かない入谷に店をオープンしたのは約5年前。店主が油そばの老舗「東京麵珍亭本舗」に通い詰めて研究に研究を重ねてたどり着いた味だという。人通りの少ない入谷でスタートして少しずつファンも増えている。先月にはついに文京区千石に2号店も出した。有名店の一角に旗を揚げる日も近いかもしれない。恐れ入谷の油そば、である。



本日の大金言。

スカイツリーにばかり目を向けていると、すぐそばの宝石に気づかない。人の行く裏に道あり花の山。



                    万人力10 
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赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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