山岸一雄、一人歩きするビッグネーム

 つけ麺の開発者で、池袋大勝軒の創業者・山岸一雄といえば、ラーメン好きなら知らない人はいない、今や伝説上の人物である。

昭和25年(1950年)、長野の中学を卒業後、上京。東京大空襲の傷跡が残る昭和26年、「兄貴」と慕っていた従兄弟にくっついてラーメン屋で修業をスタートさせ、その後、一緒に中野で「大勝軒」の暖簾を掲げる。敗戦の焼け跡闇市から戦後の復興への坩堝(るつぼ)のような時代の中で、年齢的には青年というより少年と言った方がいい山岸一雄のラーメン人生の原点である。

その後、昭和36年に「東池袋大勝軒」として暖簾分け、賄食だったつけ麺を「特製もりそば」メニューとして出し、その味に惹かれるファンがどんどん増加し、高度経済成長とともに起きたラーメンブームの波に乗って、一躍その名を全国にとどろかせるようになった。

職人気質と仕事への責任意識が無理を重ねることになったのか、持病の下肢静脈瘤が悪化、厨房に立てなくなり、平成19年3月30日、46年にわたる山岸一雄の「東池袋大勝軒」を閉店した。それは全国的なニュースとなり、閉店を惜しむファンの行列が連日続いたことは記憶に新しい。

その凄まじいラーメン人生は、暖簾分けした「大勝軒」という名前が全国あちこちで見られるようになった現在でも、すっかり消えてしまった戦後の匂いとともに、記憶の底から湯気とともに立ち上ってくるようだ。
あの、頭にタオルを巻き、鋭い目で、一心不乱にラーメン作りに励む姿。「オヤジ」という言葉が似合うその汗の匂いのする巨体。それらは、漂流する「きれい社会」の中で、忘れかけられている姿のはず。

その姿が、突如、埼玉・久喜郊外のショッピングモール「菖蒲モラージュ」3Fフードコートに現れたのだ。「大勝軒」ではなく、「山岸一雄製麺所」という名前で。


            山岸一雄製麺所① 


教えてくれたのは美熟女の村民2号。ちょっとイジワル目で、
「村長、知ってるでしょ? ヤマギシなんとかというラーメンの凄い店がモラージュにできたらしいわよ。行かなくていいのかしら」
し、知らなかった。クヤジイ。

赤羽彦作村長は「ウマズイめんくい村」の村長に就任するずっと以前から、あちこちの「大勝軒」で山岸一雄の味を楽しんできた。
へそ曲がりの村長は「つけ麺」より「ラーメン」のほうが好み。特に味玉のファンである。

ヘルニアのぎっくり腰にムチ打って、駆けつけると、平日だというのに、「20分ほどお待ちいただきますが、よろしいでしょうか」という混み具合。
黒と朱色をベースにした店構え。「山岸一雄製麺所」という巨大な看板と、あの頭にタオルを巻いた山岸一雄のシンボル写真がドーンとこっちを見て笑っている。

なぜか村長の胸に去来したのは「とうとうここまで来てしまったのか」という一種痛ましい思いだった。
B級食の勇だったラーメン戦後の復興の底辺から光りを放ったラーメン職人・山岸一雄。それが汗の匂いのしない巨大な記号となって、こちらを見ている。

「いいんじゃないかしら。うまいラーメンを多くの人に味わってもらうんだから。村長はヘン。待たされすぎは嫌だけど」
村民2号は屈託ない。
村長は「ラーメン」(680円)、村民2号は「味玉付きラーメン」(780円)。


         山岸一雄製麺所③ 


たぶん魚粉も入れているのだろう豚骨魚介系の濁ったスープ。ますはひと口すする。見た目はギトギトしているが、それほどくどい感じはしない。「大勝軒」のスープとは違って、今人気の「どろっとコッテリ」した感触。細い縮れ麺はシャキッとしていて歯ごたえがいい。豚ばら肉のチャーシューは柔らかめ。シナチクはない。ナルトが彩りを添えている。

「うまい。ラードとか背油も入っているみたいね。村長はどう?」
「今はやりのラーメン人気店の要素をシンプルを装いつつ全部入れた味って感じだなあ。味玉は確かにうまい。でも、これが本当に山岸一雄の理想のラーメンなのか? 村長はどこか違う感じがするよ」

山岸一雄の巨大な写真に背を向けて、村長はトボトボとフードコートを後にするのだった。


本日の大金言。

山岸一雄とカーネル・サンダース、敗戦国と戦勝国の未来は味わい深い。
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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