発見、3時間で終わりの熊本ラーメン屋

 「村長、凄いラーメン屋さんの情報を仕入れたわよ」
ある日の午後、いつものように彦作村長がふんどし一丁でラジオ体操をしていると、美熟女の村民2号が、小鼻をぴくぴくさせながら、近寄ってきた。小鼻をぴくぴくさせるときは何かイケないことが起きることを村長は経験的に知っていた。

「ん? なんだい?」
村長は鷹揚をよそおって、さりげなく反応する。
「わたしの絵描き仲間のスーさんの情報なんだけど、北川辺に一日たった3時間しか営業せずに、その前に麺とスープがなくなったら暖簾を下げちゃうんだって。女性が一人でやっていて、コアなファンが店を支えているんだって」

「へーえ、今どき3時間とはそりゃスゴイね」
村長は女性が一人で切り盛りしていることにも心が動いた。


北埼玉・北川辺の古河寄りの県道沿いに、その店はあった。うっかりすると素通りしてしまいそうなほど目立たない作り。対面にはパチンコ屋が。こんなところに、と感心したくなるほど殺風景な場所。

そこに「熊本ラーメン みち丸」という少々色あせた暖簾が下がっている。
タイムスリップして、昭和50年代の田舎町にでも来てしまったような気分。


          熊本ラーメン・みち丸② 

ガラガラっ入ると「いらっしゃーい!」と元気な声。4~5人くらいしか座れないカウンター席に座る。簡素なテーブル席もある。奥が厨房になっていて、おてもやんが顔を出した。大山のぶ代さんの妹ではないか。磁石のように何でも引き付けそうな明るく元気なおばさんが、カウンター越しに水を出す。

メニューを見るととんこつラーメン(並盛)700円、大盛800円、特盛900円。それにおにぎり(めんたい)1ケ100円、うめ1ケ100円と書いてあるだけ。

「うちは豚骨だけなんです。スープは毎日作っていて、なくなったらお終い。麺も熊本から取り寄せていて、こっちもなくなったらおしまい」
そう言ってカラカラと笑う。
「化学調味料や添加物は使ってないので、結構、手間ヒマがかかるんですよ。豚骨とニンニクをベースにして、じっくり煮込んでいるので、コラーゲンも本物です。ええ、仕込も全部一人でやってるんですよ。だから、営業は一日3時間が精一杯です」

狭い店内にあの名曲「おてもやん」が流れているようだ。
村長と村民2号は珍しく同じメニュー「とんこつラーメンの並」を注文した。

化学調味料を使っていないラーメンをマニア語で「無化調ラーメン」というが、化学調味料や添加物をごっそり使っているラーメンの味に慣れてしまうと、無化調が物足りなく感じてしまうこともある。味覚の慣れはおそろしい。

村長が昔通っていたラーメンの激戦区・門前仲町近くにも「こうかいぼう」という無化調のラーメン屋があるが、いつも行列ができる都内でも有数の人気店だった。

宮仕え時代の村長もよく通ったが、正直、うまいのはうまいが(特にチャーシューは絶品)、少々物足りなさを感じたりもした。
レジでお金を払ってお釣りをもらうとき時に、きれいな女性店員さんが、両手でそっとお客の手を握ってくれるのもよかった。村長などはそのひそかな楽しみのために、わざと1万円札を出したりしたほど。

         熊本ラーメン・みち丸①  

さて、おてもやんの「とんこつラーメン」。熊本ラーメンの特徴は、博多ラーメンと同様に白濁した豚骨スープだが、違うところは麺の太さ。博多が針金みたいに細いのに対して、もう少し太い。替え玉がない、紅ショウガもない。(替え玉がある方が珍しいのだが)。肥後もっこすみたいで、好感が持てる。

鮮やかな刻み小ネギがスープの表面を半分覆うほど乗り、切り昆布も負けじと乗っている。そこに自家製チャーシューときくらげがほどよく乗っている。煮卵は忍者のようにひそんでいる。スープの量は正直もう少しあった方がいい。

ズズズとすすると、手作り感が口中にジワジワジワと広がってくる。麺の硬さがちょうどいい。かなり癖がある味かと思ったが、むしろあっさりしている。

「ホント、見た目は濃厚とんこつだけど、さっぱりしているわね。これが本当の自然な味なのね。なんだか美人になりそうな味ね」
上州生まれの村民2号までが、おてもやんになっている。目がトロンとしているのが気になる。

チャーシューは好みが分かれるところ。村長はもう少し柔らかい方が好きだが、村民2号は違う意見。

「このくらいの自然な固さがちょうどいいのよ。ワインもそうだけど、本場フランスのいいワインは最初はツッケンドンに思えるけど、次第にそれが奥行きの深い味わいになってくるのよ。村長は本物についてもっと勉強する必要があるわ」
おてもやんとアイコンタクトを取っている。

「この無化調のとんこつの味と匂いは、ハマる人とハマらない人にはっきり分かれると思うなあ。でもこんな場所に、こんなに志の高いラーメン屋があるなんて世の中は広いね.」
「ホントね。やっぱり日本を支えているのは女よ」
十分な満足感で食べ終わって、外に出ると、利根川からの心地よい風が、村長と村民2号の頬を撫でていった。村民2号の小鼻がぴくぴくしている。
村長の胸をこれから何が起きるか、不安がかすめていった。

本日の大金言。

巨大メディアがすべてではない。世界の真実は砂粒の中にある。




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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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