土砂降りの中、伝説のラーメン屋を探し回る

「 ウマズイめんくい村」には今は明かせない多くの謎がある。その一つが「ウマズラ村」の存在だ。

赤羽彦作村長が紅顔可憐な幼少のみぎり(?)、ウマズラ村に一時疎開していたことがある。遠いとおい昔の話だ。セピア色のどこか薄荷の匂いがするチクチクするような思春期の思い出。

ある日、そのウマズラ村から一枚のハガキが届いた。「久しぶりに3年7組で歓談しましょう。懐かしい顔が待っています」。幹事はスズキキヨコ。キュートだったクラスの人気者・スズキキヨコの姿が脳裏をよぎった。

彦作村長は、行こうかどうか迷ったが、ある意味で、自分の原点でもある「ウマズラ村」。激務の宮仕えを終えたこともあり、村長は、「そうだ、京都へ行こう」ではなく、「そうだ、那須高原へ行こう」とつぶやいてから、出席にマルを付けたのだった。場所が那須高原の山荘だったからだ。

天気予報は雨マーク。午後3時半にJR黒磯駅前で待ち合わせ。村長は馬車ではなくポンコツティーダを北に向けて走らせた。ウマズイめんくい村を早めに出た。この機会に黒磯駅近くにある伝説のラーメン店に立ち寄ろうと思ったからだ。

黒磯板室インターが近づくにつれて雨は激しくなり、インターを出る辺りでは、ほとんど土砂降りになっていた。村長は駅前の有料駐車場に車を置くと、メモ見た。「宮町 ラーメン なかよし」。

時計を見ると、午後1時半を少し回っていた。昼の営業が2時までなので、だいじょうぶだろう、と高をくくっていた。ビニール傘を広げて、外に出る。雨がいきなり殴りかかってくるようだった。

「なかよし」が見つからない。誰かに聞こうと思っても、歩いている人がいない。洋服店や煙草屋に飛び込んで声をかけても誰も出てこない。酒屋に入っても人の気配がない。時間が次第に2時に迫ってくる。ジーンズはむろん長袖シャツから肩から下げたリュックまでビショ濡れで街中を歩き回る。

10軒目くらいで、ようやく老夫婦が出てきて、「ああ、あそこかな?ちょっとわかりづらい場所だけど」といいながら、簡単な地図を書いてくれた。

あった。こんなところに、と言いたくなるほどの殺風景な場所に「昔ながらの懐かしい味 ラーメンの店 なかよし」という看板が。

          黒磯・なかよしラーメン② 

時間は1時55分。確かにどこか懐かしい匂いのする赤いノレンが雨と風でめくれている。入ると10人ほど座れるカウンターと座敷に大きなテーブルが二つ。カウンターとそのまま接している厨房に小柄な女性が一人。店主だった。

「ええ、全部一人でやってるんですよ。ここでラーメンを始めたのは13年前。ちょっとブランクがあって、再開したんですよ。私には昔のラーメンしか作れませんからね。スープもチャーシューも全部手作りです。化学調味料とか使うとその時はうまく感じても、後味に変な感じが残りますからね。スープは鶏ガラ、カツオ、昆布など十数種類入れてる。他は? 秘密です(笑い)」

あと3年で70歳になる、といって昔はそうとう可愛かったろうな、と思わせる童顔で笑った。

迷わずラーメン(中細)600円を注文。村長のラーメン仲間から「40年ほど前に栃木那須湯本で名をはせ、その後閉店してしまった『こだま食堂』の流れをくむ中華そばだよ。あそこは絶対に行くべし」とすすめられた店の定番ラーメンである。

「着替えはあるんですか?」
「体温で乾かすから大丈夫です」

ポツリポツリと雑談をしながら、メニューを見る。めんの太さが細めん、中細めん、太めんと3種類。他に手打ちラーメン(700円)、餃子なども。

「はい、どうぞ」
カウンター越しに、大きな真っ白の正統派中華そばドンブリがドーンとやってきた。濃いめの醤油ベースのスープ、チャーシューが2枚、それに彩り豊かに半熟卵、ナルト、海苔、シナチク・・・刻みネギがたっぷりとしたスープに浮かべられ、「おいでおいで」とささやきかけてくる。

         黒磯・なかよしラーメン① 

これだ、これだ。昔ながらのいいラーメンの佇まい。
正座してスープをひと口。最初のアタックはあっさり。しかし、次第に濃厚な中に奥行きの深いまろやかさが口中に広がってくる。今はやりのギトギトもコッテリもない。化学調味料のあの妙なうまさもない。

めんは中細だが、予想より細め。昔の中華そばのようなシコシコ感がいい。チャーシューは最近はやりの行き過ぎた柔らかさがない、やさしい柔らかさとでも言ったらいいのか、いいチャーシュー特有の遠い記憶のような甘い香りが、奥歯から立ち上ってくるようだ。

時間が時間だったので、客は村長一人。これだけのハーモニーを出すには40年という長い修業と人生が必要なのかもしれないなあ、彦作村長は、目の前の店主の顔をさりげなく見ながら、この人のくぐってきた人生を思った。しかし、当たり前の話だが、そこに届くことはできない。

「昔のラーメンしかつくれませんからねえ」

そう二度ほどつぶやいた女店主は、「どちらかというと、もう少し太いめんが好み」と言った村長に、
「次いらっしゃることがあったら、今度は手打ちラーメンを食べてください。手打ちはもう少し太いですから」
と言って、白い歯を見せた。外に出ると、雨が小降りになっていた。


本日の大金言。

昔ながら、の「昔」には苦い味もあるが、時間とともに甘い味に変わることもある。









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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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