神田・竹むらの「あわぜんざい」

 東京・神田須田町の甘味処「竹むら」は、和スイーツ界でも一目置かれている。あの池波正太郎が、この店を贔屓(ひいき)にしていたこともあるが、昭和5年(1930年)創業の入母屋造りの古い店構えは、遠い江戸の昔の風情を残している、都内でも数少ない場所でもある。真向いには天保元年(1830年)創業のあんこう鍋「いせ源」、明治17年(1884年)創業の江戸そば「まつや」もすぐ近くにある。一杯ひっかけた後に、「竹むら」でおしるこを食べる楽しみを、池波正太郎がエッセイで書いている。よくわかる。

            竹むら10 
            歴史的建造物

彦作村長は、この「竹むら」に約15年ぶりに足を運んだ。ここの粟(あわ)ぜんざいを食べたくなったからである。浅草・梅園、上野・みはしと粟ぜんざいの名店を制覇した最後に、ここの別格の味を賞味しようと思った。「梅園」も「みはし」ももちろん美味いが、粟ではなく実際はキビを使っている。ほとんど見分けがつかない。だが、この「竹むら」だけは、未だに粟(あわ)を創業当時からの杵(きね)でついているという。昔のままの作り方へのこだわりといい、店舗を広げずに、この一軒の暖簾(のれん)を守り続けている姿勢といい、村長が感嘆した京都・北野天満宮前の「粟餅所 澤屋」をほうふつとさせる。

            竹むら① 
            暖簾をくぐると
            竹むら② 
            そこは別世界だった

時刻が夕方だったために、いつもは行列のできる店内にスムーズに入れた。「揚げまんじゅう」(450円)もここの名物だが、村長はテーブル席に座ると、当初の目論見どおりに「あわぜんざい」(760円)を頼んだ。テーブル席は8つほど、それに入れ込みの座敷。まず、桜湯がやってきた。お湯に桜の花びらが浮いている。この風情は竹むらならでは。続いて、「あわぜんざい」がお盆に乗ってやってきた。横にはシソの実の塩漬け。

            竹むら⑤ 
            いらっしゃいまし

黒塗りのお椀は上野・みはしと同じように小ぶり。ふたを取る。湯気とともに、黒味の強い見事なこしあんが現れた。上に大納言小豆が7~8粒ほど乗っている。粟(あわ)の姿は見えない。このあんこが絶品だった。ふうふうしながらひと口、口中に箸で運ぶと、その滑らかさが只事ではない。小豆のいい風味がふわりと広がる。甘さといいかすかな塩加減といい、絶妙としか表現のしようがないものだった。裏側に熟練の手作業を感じさせる。小豆は北海道十勝産のものを使っているという。

            竹むら⑥ 
            昔のままのお姿

さらに箸を入れると、黄色いあわ餅が現れた。杵でついた粟餅は、粒つぶがほどよく残っていて、ほのかな風味が立ち上がってくる。こしあんとの相性はさすがのもので、これがたぶん東京の粟ぜんざいの最高峰ということを十分にうかがわせる。余韻がとてもいい。だが、とシニカルな村長は思う。こしあんの量がもう少し欲しいと。760円という高めの舌代に文句を言うつもりはない。これは好みの問題だろう。

           竹むら⑦ 
           貴重なあわ餅
           竹むら⑧ 
           こしあんの凄味

感心したのはシソの実。きりっとしていて、村長がこれまで食べた箸休めのチャンピオンだと思う。食べ終わってお茶を飲む。次第に村長の心に、ここの粟ぜんざいはこの店の、この周辺の、江戸・東京の消えゆく面影とともに味わうものではいないか、という思いが芽生えてきた。あの東京大空襲から逃れた数少ない戦前の東京の街並み。それを愛した池波正太郎。外に出ると、ほろ酔いの池波正太郎が懐手で十歩先を歩いている。そんな気がするのだった。


本日の大金言。

京都の澤屋といい、亀末廣といい、暖簾(のれん)を広げずに一か所で味を守り続ける老舗もある。一所懸命の伝統の価値。




                        竹むら⑨ 
 
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赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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