昭和モダンの香り残す浅草の絶品カレー

 所用があって、昼めしどき、浅草をぶらり歩きすることになった。伝法院通りからホッピー通りを抜けて、ふらふらと合羽橋方面へと歩いているうちに、ふと彦作村長の好きなエノケンの顔が浮かんだ。「オレ~は村中で一番」というフレーズが頭の中を流れ、その歌の舞台は銀座なのに、エノケンにはやはりデビュー地である浅草が似合う。大正ロマンと昭和モダンの匂いが残る浅草。村長は全身田舎者のミーハーだが、ハイカラ文化(この言葉はほとんど死語だが)には郷愁を感じる。レディー・ガガやブルーノ・マーズが好きなのも、エノケン好きの延長線上だと思う。腹の虫がぐうっと鳴いた。

            ピーター② 
            時を超える「ピーター」

自然に足が知る人ぞ知る「喫茶 ピーター」へと向かった。この店の名物でもあるカレーライスを改めて食べたくなったからだ。7~8年ほど前に京都にお住いのグルメ仙人のお声掛けで、ここでカレーライスを賞味したことがある。名物ママの作るカレーは意外なくらい美味だった。創業が昭和39年。SKDのダンサーだった女性が始めた喫茶だが、その2年後の昭和41年に現在のママが引き継いで、名物のカレーライスはこのママが作ったもの。カレーライスの他にハヤシライス(750円)も名物で、おでんやお汁粉などもある。

            ピーター⑥ 
            レトロなどではない本物

そこだけ時が止まったような店構え。店内はモダンの名残を残す黒のテーブル席が三つ。奥は黒の長いソファ席。その上に紙芝居作家の加太こうじが描いた有名な巨大壁画が広がる。チャプリン、ターキー、シミケンなど昭和モダンを彩った懐かしのスターが塗り込められてる。むろん中央にはエノケンもいる。デンスケもいる。永井荷風もいる。飛び切りの世界。村長は、目的の「カレーライス」(600円)を頼んだ。ママはご高齢だが、声に華やかさとツヤがあり、一言二言話しただけで、感性が若々しいことがわかる。ファンが多いのもうなずける。

            ピーター⑧ 
            伝説的なカレーライス
            ピーター⑤ 
            加太こうじ作の壁画

15分ほどで、コンソメスープが置かれ、続いて白い楕円の大きな磁器皿に乗った「カレーライス」が登場した。かなりの時間煮込まれたカレーで、タマネギもポークも人参もほとんど溶け込んでいるのがわかった。半透明の輝くようなライス。福神漬けではなく、小鉢にキュウリと大根の漬け物も。コンソメは奥深い味で、それを二口三口ほどすすってから、カレーライスをスプーンで口へと運んだ。一瞬、濃いと思った。だが、次にその濃厚さの奥から何とも言えないやさしい旨味がふわりと立ち上がってきた。ざらっとした自然な甘みも。うむむ。この感触は溶け込んだじゃがいもの感触だろう。 さらにスパイシーな辛さが口内に広がってきた。ライスの旨味とともに、次々に変身する、この複雑な美味さはどこから来るのだろう?

            ピーター3 
            よく煮込まれたカレー
            ピーター2 
            輝けるライスと一緒にお口へ

「とにかくよく煮込むんですよ。煮込めば煮込むほどうまくなる。小麦粉は使いません。カレー粉だけです。タマネギ、ニンジン、じゃがいも一杯入れて、ポークも入れて、よく煮込む。カツオと昆布の出汁も加えているんですよ。出来上がりとさらに煮込んだ味は違うんですよ。出来上がりが好きという人もいるし、煮込んだ方が好きだという人もいます。毎日味が違ってくる。それを楽しみに1週間続けて食べに来る人もいるんですよ」

余分な気取りがないママの話を聞きながら、壁画のエノケンを見ながら、このB級という言葉をはるかに超えた絶妙なカレーライスの至福の時間はあっという間に終わった。寒風の中を六区に向かって歩く。2014年のモボ・・・ではなくヨボの頭の中に、再び、エノケンの歌声が流れていた。バカめ。


本日の大金言。

昭和レトロ、という言葉より、昭和モダン。よく煮込まれた個性的なカレーライスには、歳月を超えて未来へとつながる道がほのかに見えてくるようだ。




                        ピーター4 



スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

最新記事
カテゴリ
彦作のつぶやき
最新コメント
月別アーカイブ
カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR