懐かしい下町の立ち食いそば屋

 東武スカイツリー線でふと曳舟(ひきふね)駅に降り立った。東京スカイツリーの喧騒もここには及んでいない。永井荷風の「墨東綺譚(ぼくとうきたん)」の舞台になった玉の井も近く、深沢七郎が今川焼き「夢屋」を開いたのもこの曳舟駅前である。時代に取り残されたような下町の雰囲気は悪くない。村長の魚眼レンズの目に一軒の立ち食いそば屋が映った。うむむ、うむむ。

           そばはち② 
           この雰囲気

「揚げ立てお好み天ぷら そば・うどん・ラーメン・カレーライス・かきあげ天丼」と派手に書かれた日除け屋根の看板、その下の紺地の暖簾、提灯・・・それが「そばはち」だった。「曳舟名物」という文字も見えた。この流行遅れの満艦飾はどこか懐かしい。ガラガラと引き戸を開けて中に入ると、店内は予想外に狭く、カウンター席が6つだけ。姐さんと言いたくなるような細身の中年女性がちらとこちらを見た。

           そばはち③ 
           手書きのメニュー

目の前には「しょうが」「なす」「いんげん」「かきあげ」「げそ」「ソーセージ」など揚げ立ての旨そうな天ぷらが10種類ほど並んでいた。券売機はない。村長は口頭で姐さんに定番の「かき揚げそば」(370円」を頼んだ。余計なことはしゃべらない。茹で置きのそばを湯がいてツユの入ったどんぶりに入れ、かき揚げを乗せ、刻みネギを乗せる。気色の悪いマクドナルドスマイルと対極の世界。

          そばはち⑤ 
          江戸の立ち姿?
          そばはち⑨ 
          素材は確かである

「かき揚げそば」は余分なものがない。いい色に揚げられたかき揚げはサクッとしていて、食べた瞬間、これがこの店の売りだとわかる。具は長ネギ、タマネギ、干しエビ、春菊など。そばはグレーがかっていて、黒い星も点々としている。コシはなく、やややわらかめの食感。そば自体に感動はない。ツユは見た目が濃いが、カツオの出汁が効いていて、意外にあっさりしている。天ぷらとツユが小ざっぱりとしているのがいい。量も多くはない。外観の満艦飾との落差がむしろ心地よい。一味唐辛子をかけると、いい辛みが口中に広がる。

          そばはち⑦ 
          手繰ってたぐって

気を付けたいのは、出てきたらすぐに食べること。かき揚げにすぐにツユが浸食してきて、形が崩れてくる。村長は写真を取っているうちに、最高の旨味の瞬間を逃してしまった。しまった。江戸前のそばは食べるではなく「たぐる」だった。姐さんがちらとこちらを見た気がした。

村長はきれいに平らげた後に、ふと会話したくなった。だが、話す隙がない。
「店はいつ頃から?」
「創業35年ですよ」
それを聞き出すのが精いっぱいだった。その素っ気なさはむしろ心地よい。村長の怪しい風体を考えると、むしろその方が自然である。腹七分で外に出ると、深沢七郎が今川焼きを焼いているような気がした。デジャビュ。


本日の大金言。

さびれた下町の生活感。そこには経済成長主義や強欲な市場原理主義からは見えない世界がある。そこにこそ未来の鍵があるかもしれない。




                         そばはち⑧ 
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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