浅草「梅むら」の豆かんてん

「辞めた会社には近づくな」
エンターテインメント新聞社時代の上司で、エッセイストのKさんが、かつて決然とそう言ったことがある。Kさんはそれを自分の戒めとして、その後、次々とベストセラーをプロデュース、自らも主に「男の生き方」をテーマにした本を100冊以上書いて、喜寿を迎えた今でも現役で時代の最先端を走り続けている。恐るべき人なのだ。その言葉を思い出しながら、村長は会社から遠く離れた浅草でかつての同僚と酒宴を開くことにした。同僚には宇宙人もいる。

           梅むら 
           本物はさり気ない

と前置きを書いたところで、浅草「甘味処 梅むら」の豆かんの話に突入する。酒宴の時間にはまだ間があり、村長は、「雷5656会館」裏手にある「梅むら」に足を伸ばした。ここは昭和43年(1968年)創業、豆かんの元祖の店で、甘味好きの間では、「豆かんの最高峰」とまで言われている。酒を飲んだ後の豆かんというのがフツーのコースだが、村長は逆を行くことにした。というより、ここは夕方6時には店を閉めてしまうので、飲んだ後の締めの豆かんとはいかないのである。飲む前の豆かん。
           梅むら① 
           敷居が高くない

名前の割には店は意外に小さく、江戸茶の暖簾をくぐると、6席のカウンターとテーブル二つの小上がりのみ。よき時代の庶民的なお汁粉屋のよう。余分な見栄も飾りもない、職人の匂い。この店の歴史がしみ込んだ木のカウンター席に座り、「豆かんてん」(470円)を頼んだ。温かいお茶が江戸しぐさで出された。「豆かんてん」としっかり表記しているのが好感。カウンターの向こうには気さくな二代目。

           梅むら② 
           メニューは多くない

「豆かんてん」は噂通りの逸品だった。意地悪な村長はどこかに欠点を見つけようとしたが、ついに発見できなかった。欠点がないことが欠点、というしかない。驚くべきは赤えんどう豆の黒光りである。ある種感動すら覚える。下の寒天がまったく見えないほどの分量が目の前で黒い宝石のように輝いているのである。

           梅むら④ 
           生で見ると驚きが倍加する
           梅むら⑤ 
           これは一つの作品である

しかも口に運ぶと、そのぷりっとした食感と、羽毛のような柔らかさに二度目の驚き。かなり長時間炊かないとこの柔らかさは出ない。以前このブログで有楽町「おかめ」の豆かんを取り上げたことがあるが、値段(おかめは660円)も風味もかなり違う。浅草「梅園」もそうだが、フツーの豆かんは塩気をかなり効かせている。むろん、それはそれで美味いが、「梅むら」の場合は、塩がかすかで、長時間炊いているはずなのに、ひび割れがない。その下には風味が際立っているさいの目切りの寒天の海。ほどよくかかった自家製の黒蜜は品よく、あっさりしている。ハーモニーの極致と言わざるを得ない。ここにも本物の職人がいる。

「これ、本当に赤えんどう豆? あまりに黒いので、黒豆だという説も出てるけど」
「いえ、北海道産の赤えんどう豆です。作り方ですか? そこは・・・秘伝です」
「寒天も口に入れた途端、テングサの香りがすごいね。しかも、このしゃきっとした食感がとてもいい。これも自家製?」
「いえ、寒天だけは注文してます」

           梅むら⑦ 
           ため息と食欲
           梅むら⑧ 
           黒蜜と黒真珠?

「随分と熱心に写真を撮りますね」と隣りにいた常連客があきれ返ったように話しかけてきた。次第に怪しまれる(?)村長。村長は中身のない正体を明かし、決して怪しい者ではない、と弁明に努める。次第に打ち解ける。二代目が「そう言えば、村長の元いた会社の記事がありますよ」と指さした。そこには確かに「梅むら」を紹介した記事が・・・。「辞めた会社には近づくな」Kさんの言葉が頭をよぎった。


本日の大金言。

本物はさり気ない。今や一大観光地となった浅草だが、昔ながらのスタイルを変えない名店も残っている。浅草にはそれを探す楽しみもある。




                       梅むら10 





 
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赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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