塩釜の灯は消えず、ガゼウニとうーめんに完敗

宮城県塩釜市、といえば、別名「寿司の街」。彦作村長はかつて寿司好きの間では有名な「すし哲」に3度行ったことがある。約30年ほど前、「マスコミ酒の会」のメンバーとして、今では全国ブランドとなった老舗の蔵元「浦霞」(佐浦酒造)を取材した。ここで、大吟醸酒を利き酒したことが、その後の彦作村長の「日本酒と薔薇の日々」のいわば出発点となった。当時はまだ大吟醸酒は市販されていず、もっぱら「鑑評会用」に少量だけ生産する特別な酒だった。

その会の幹事だった酒評論家の山本祥一郎さんが、「今日は我々のために特別に社長が大吟醸酒を飲ませてくれます。もちろん火入れもしていません。鑑評会以外には、社長がこっそり飲むくらい。そんなすごい酒なんです(笑い)」。
そんな洒脱な前置きで、利き酒用の猪口が配られた。ひと口含んだ時の衝撃は今でも忘れられない。さわやかなフルーツのような吟醸香が口中に広がり、それまでに飲んだ日本酒とは次元がまるで違っていた。利き酒の際は、口に含んで、香りや舌触りを楽しんだら、飲み込まずに吐き出す。しかし、若かりし彦作村長は、どうしても吐き出すのが勿体なくて、こっそりノド越しを楽しんだ。以来、日本酒、特に地酒の大ファンになってしまったのだった。

その帰りに「すし哲」のノレンをくぐり、噂の味を楽しんだのだった。その後も仙台へ行った際などに、時間があれば、足を延ばした。旨いにはうまいが、値段もそれなりで、「評判」が独り歩きしているなあ、と感じたこともあった。「あら汁」などはダジャレでなく荒っぽい印象だった。

塩釜は村長にとっては、ある種思い出深い場所だった。昨年、大震災後に仙台に来たときには、国分町の居酒屋で「塩釜と松島は湾に守られて被害は少なかった。すぐに復興すると思いますよ」と聞き、胸をなでおろした。日程の関係で、壊滅状態の石巻優先で、塩釜まで足を延ばせなかった。

それから約1年。彦作村長と美熟女の村民2号は塩釜に草鞋を脱いだ。駅前を散策する。商店街はあまり活気がない。すし哲の前まで行く。入ろうかどうか迷っていると、村民2号が、「あそこがいい」と言い出した。黒い2階建ての居酒屋だった。隣にホルモン焼きの店があるくらいで、周りには何もなく、その黒いモダンな建物がポツンと目立った。「食彩庵 わたつみ」という看板。

          塩釜・わたつみ③ 

「ここにしましょ。B級グルメの彦作村長のポリシーにピッタシよ。予算の関係もあるし」
「いいね。村長の嗅覚もここにしなさい、そう言ってる」
1階は4~5人ほど座れるカウンター席になっていて、若い主人とかわいい女性店員が「いらっしゃい」。まだ時間が午後6時前だったので、客は他に美人の熟女が一人いるだけだった。
メニューの中から今が旬の「ガゼウニ(馬糞ウニ)」(950円)と「いわしのなめろう」(500円)を注文。お腹がすくと不機嫌になる村民2号は「白石うーめん」(500円)。村長は生ビールを飲んだ後、地元の名酒「日高見 吟醸酒」(650円)に移った。殻ごと出てきた「ガゼウニ」は今朝、塩釜市場で仕入れてきたもの。鮮度抜群でこれが日高見とよくマッチする。やや辛口ですっきりしていて、しかも奥に芳醇が潜んでいる。リンゴのような吟醸香が大吟醸と間違えてしまうほど鼻腔をくすぐる。

         塩釜・わたつみ⑥ 

「津波でこの一帯もかなりの被害を受けたんですよ。ここも2階まで浸水してしまい、再開まで1年近くかかったんです。ちょうど店を開いて半年でした。呆然としましたよ。泣くに泣けない。でも、ここで引き下がるわけにはいかない。その一心でした」
打ち解けた後に、主人の後藤さんが漏らした話を聞いて、ヨイヨイ気分の彦作村長はバットで背中を殴られたような気分になった。
「そうなんですよ。この周辺が津波で流されてしまって、この店だけがポツンと残って目立ってた。再開して本当によかった」
常連客の美女が努めて明るく言う。

彦作村長はあの3.11を頭に思い描こうとした。しかし、酒と怠惰な生活で衰えた想像力は現実の前で「枯れた薔薇」となって、空しく粉々になっていくだけだった。

村民2号は、うーめんをうまそうに食べている。
「そーめんみたいだけど、そーめんより胃に優しい感じ。ウーメン好きの村長、こっちのうーめんも味見してみる?」
村民2号が意味ありげにチクリと言う。ジョークのつもりかもしれない。

              塩釜・わたつみ・温麺② 

「塩釜はいいとこだから、また来てください。ホントにいいとこなんですよ」
常連客の声を背に外へに出ると、夕闇がすでに降りていた。潮の香りがどこか痛々しい。
店名の「わたつみ」とは「海神」のこと。海神の怒りは一体何に向けられ、何に怒ったのか?海神は怒りの矛先を間違えたのではないか。

翌朝、高台にある塩釜神社に登って、彦作村長は、こう祈るのだった。
「海神さま、今度は絶対に場所を間違えないでください。まず永田町へ、どうぞ」。


本日の大金言。

3.11の傷跡は深い。一日に1分でもいいから東北の現実を想像してみよう。そこから何かが始まるかもしれない。






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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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