幻のうどんを賞味しながら小野小町を想う

 秋田県湯沢市といえば、美人の産地で知られる。平安時代初期に六歌仙の一人として活躍した小野小町生誕の地としても知られている。小野小町については資料も乏しく、謎も多い。本当に絶世の美女だったのか、実在さえ疑う説もあるほどだ。京都での生活に疲れ、故郷の湯沢(小野町)に戻って余生を過ごし、昌泰3年(700年)、75歳で亡くなったと言われる。

だが、湯沢に足を一歩踏み入れると、確かにエキゾチックな美人が多く、小野小町伝説も架空の話とは思えなくなる。彦作村長は記者時代に、近くの角館を取材したことがある。その時の衝撃は未だに脳幹に残っている。街を歩く女性の2人に一人は美人、そう感じた。しかも、肌や目や体形に「白系」の匂いがする。「ここは異国だ。こんな幸せな国に今いる幸せ」若かりし彦作村長は、頭がくらくらするほどの脳内エンドルフィンを感じたのだった。

町役場の一人が「美人が多いのは水がいいばかりではなく、確かに、何らかの理由でヨーロッパ系の集団が遠い昔にこのあたりに移住してきたという説もあります。エキゾチックな美人が多いのもそのせいかもしれませんね」そう言ったことも記憶に残っている。

戦後を代表するカメラマン・木村伊兵衛の代表作「秋田おばこ・大曲」のモデルとなった編み笠をかぶった野良着姿の超美女がその典型的な例だといってもいい。その美女はどう見ても弥生系日本人には見えない。縄文系日本人にも見えない。
小野小町もこうした顔立ちだったのだろうか? クレオパトラ、楊貴妃と並ぶ「世界三大美女」の一人という伝説もあり、当時は写真がなかったことが実に実に悔やまれる。

「何、寝ぼけたこと言ってんの? 湯沢にはもう一つ、稲庭うどんがあるでしょ。それが大きな目的なのに、村長ったら美人に目がくらんで。メッ」
美熟女の村民2号が、彦作村長の幸せな妄想に冷や水を浴びせる。悲しい現実がこちらをじっと見ていた。
「そうだった、そうだった。創業万延元年(1860年)の七代目・佐藤養助本店に行かなくちゃ」


        稲庭うどん② 


本店に電話をすると、「ここは作ってるだけで、食事はできないんですよ。湯沢市内にも1件ありますから、そちらをお教えします」という。稲庭うどんは佐藤養助の祖先・佐藤吉左エ門さんが、寛文5年(1665年)に製法を確立、それは代々秘伝とされ、一子相伝で現在も受け継がれている。稲庭うどんは藩主への献上品として生み出され、驚くべきことだが、一般庶民が口にできるようになったのは戦後になってからで、ごくごく最近のこと。

藍染のノレンをくぐって、出されたお茶を飲みながら、メニューを見る。一番シンプルで安いのが「せいろしょうゆ」(750円)。村長はしょうゆ汁とゴマ汁を楽しめる「二味せいろ」(850円)を注文。村民2号もなぜか同じものを注文。

やってきたのは、奥に夢のような乳白色を隠しながら、見事に透き通った、細いうどんだった。宮仕え時代に銀座などで飲んだとき、最後の締めに出てくる「稲庭うどん」(うまかった)とは見た目からして違った。冷麦のように細くて、しかも凛とした気品が漂っている。讃岐うどんや加須うどんと同じうどん類とは思えない。彦作村長は讃岐も加須も大好きだが、庶民と貴族の違いとでも言ったらいいのか、こんなうどんがこの世に存在することが驚きである。


         稲庭うどん④ 


「稲庭うどんは乾麺なのよ。それもただの乾麺じゃない。一本一本すべて手作り。ものすごい技術と根気がいる。完成するまで4日もかかるの。だから、ちょっと前まで幻のうどんと呼ばれていたのよ」
どこで仕入れたのか、村民2号がウンチクをひとくさり。

まずはしょうゆ汁で。つるりとした食感。ムムム。こんなに細いのにコシがある。昆布とかつお節で取っただろう汁は甘すぎず辛すぎずでほどよくまとまっている。薬味の生姜と大葉を入れてみる。ひと言文句を言わないと気が済まない性質の村長だが、黙ったまま味わい続ける。

う、うまい。シンプルなのに、その分だけ奥が深いと言わざるを得ない。次はゴマ汁でつるり。こちらもイケる。ゴマの甘みがこの貴種うどんを二度も楽しませてくれる。食べ終えるのが惜しい。正直そう思った。

村長、稲庭うどんは小野小町のよう。そう書くんでしょ? ボキャブラリーが貧困なんだから」
村民2号が、彦作村長の意図を見抜いたように、チクリ。
「ムフフフ、村民2号のよう、と書くかもしれんぞ」
小野小町と稲庭うどんの町で、村民同士のくだらない争いが延々と続くのだった。



本日の大金言。

大震災の被害は少なかった湯沢だが、風評被害もあり、観光客は少ない。絶世の美女と稲庭うどん。これだけでも行く価値は十分ある。特に女房に頭の上がらない亭主の皆さん、湯沢周辺には男の見果てぬ夢が歩いている。

         稲庭うどん③ 



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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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