縄のれん「学生居酒屋」のだし巻き

「いいとこへご案内しましょう。ぐひひひ」
不気味なほどきれいな夕焼けに向かって、グルメ先生が千鳥足の3人を引き連れて、何処かへと向かう。いつのまにか通称裏寺町通の細い路地に入っていた。新京極通四条上ルあたり。迷路の予感。刺客がどこかに隠れているかもしれない。京都に慣れているはずの浪花の大出局長代理も辻山教授も「ここはどこ? 私は誰?」状態。村長は二度ほど蹴つまづいた。

グルメ先生の足が止まった。暗がりに見事な縄のれんが下がっていた。「静」という灯りがボッと浮かび上がっている。どうやら店名らしいが、外側から見ただけでは、ここがまさか居酒屋だとは思えない。グルメ先生が妾宅にでも入るような手慣れた手つきで引戸をガラガラッと開けた。一瞬昭和初期にでも紛れ込んだかのような別世界が広がっていた。京都にはいつも驚かされる。
          静1 
           路地裏の別世界
          静② 
          見事な縄のれん

それが縄のれん居酒屋「静」だった。創業は戦後という説や戦前説、さらには大正時代という説まである。セピア色の照明の向こう側には煤けた天井の下、古いカウンター席があり、手前は十畳ほどの広さで歴史がしみ込んだ木のテーブル席がある。止まり木で浪花の織田作之助がこちらを振り向いた気がした。若き日の小松左京や開高健の残像も見えた。奥には半個室が何部屋かあるようだ。
          静③ 
          素晴らしき世界

「ここは昔から学生の居酒屋でね。店名は静なのに、中に入るとガヤガヤ。そこら中に落書きが書いてあるから見たらよろしい」
同志社OBだという金髪のイケメン店員が、怪しい一行を奥の半個室に案内する。6畳ほどの広さの古い壁からテーブルまで落書きが盛大に書かれていた。京都の学生の落書きの歴史。「これはアートかもしれない」村長は瓶ビールを飲みながら、唸った。1万年後、ここは「ラスコーの壁画」になるかもしれない。人類が生き残っていたらの話だが。
          落書き 
          落書きかアートか
          静⑥ 
          「だし巻」ははずせんでぇ

ここの「だし巻」(490円)と「あじの南蛮漬け」(460円)が美味だった。「だし巻」は卵を6~8個使っているのではないか、というほどのデカさで、京都にしてはやや味が濃いが、出汁感がたっぷりあり、その焼き加減が絶妙だった。大根おろしが欲しいが、学生の居酒屋という歴史を考えると、そんなヤワなことを言っている場合ではない。
          静9 
          迫力と焼き加減
          静10 
          熱々をふうふう
          静12 
          くせ者「あじの南蛮漬け」

「いもサラダ」(480円)は男爵イモがストレートに伝わってきて、こちらも味付けはやや濃い目。瓶ビール(中瓶600円)を3本ほど追加。大出代理は焼酎のお湯割りを飲み始めている。辻山教授の話が止まらない。グルメ先生がデカンショ節を唄い始めた。つられて村長も会津磐梯山を唄いはじめた。アナログが止まらない。「昔はよかったなあ」誰かが意味もなくつぶやいた。デジタル撲滅!村長も叫んでいた。安保反対! 酒税反対!反対の反対の反対・・・!
          静⑧ 
      ポテトサラダやない、いもサラダや

後日談。村長は創業年が気になって、女将に電話取材を決行した。
「それがようわかりまへんのどす。主人が4年前に亡くなって、その辺りのことはもう誰も知らはりまへん。主人のお母さんの代に店を始めて、ここに移ったのは戦後のようどす。今は娘も一緒にやってて、三代目ということになります。昔から学生さんがよう来てくれはります。また京都に来たら、ぜひいらしてください」


本日の大金言。

京都は三高以来学生の街でもある。だが、高歌放吟はカラオケに移り、デカンショはスマホに変わっている。香港の学生のデモがどこか懐かしい。







                        静13   




 
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赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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