シバレンも愛した新宿の「とん丼」

久しぶりに東京・新宿へ。知人とお茶してから、一人で新ぶら。伊勢丹本店周辺でJAZZバー「DUG」にでも行こうか、それともどこかに旨い店はないか思案していると、「とんかつ 王ろじ」のセピア色の店構えが視界に入った。
           王ろじ① 
            紺地の暖簾がいい
           王ろじ 
           創業大正十年

「王ろじ」は大正10年(1921年)創業のとんかつ屋で、ここの名物「とん丼」は元祖カツカレーともいうべきカツカレー丼で、村長は遠い昔に一度食べたことがある。「王ろじ」とは「路地の王を目指す」という意味だとか。小腹がすいていたので暖簾をくぐることにした。

ランチの時間がとっくに過ぎていたので、店内はさほど混んではいなかった。年季の入った木のカウンター席とテーブル席が5つほど。村長はカウンター席に腰を下ろした。目の前が厨房になっていて、そこに白いコック姿の二代目店主がりゅうと立っていた。その存在感。女将さんらしき女性がいい雰囲気で手際よく働いていた。若いコックも一人。よき時代の洋食屋の雰囲気そのまま。
           王ろじ② 
           大正のとんかつ

メニューはそう多くはない。むろん、「とん丼(カツカレー) 1000円」を頼んだ。「揚げ物には12分ほど時間がかかります」と書いてある。ふと壁を見ると、柴田錬三郎の直筆の色紙が飾ってあった。「好店三年客をかえず 好客三年店をかえず」と書いてある。しょっ中店を変えてはあーだこーだとブツブツ言っている村長にとっては富士山のようなお言葉。月見草の意地。注文してから店主が揚げ始めている。その軽やかな音がここちよい。

しばらくすると、お新香が置かれた。これが美味だった。薄切りの大根を味噌麹で浅漬けしたもので、いい風味。続いて、主役の「とん丼」がドンと置かれた。ドンブリが受け皿にくっついていて、これは昔と変わらない。その中身の姿に息を飲む。分厚いとんかつが三つ、やぐらのように天高く組まれていた。その上にはとんかつソースが黒々とかかっている。さらにその下には黄土色のカレーの海! 
           王ろじ③ 
           スプーンと箸
           王ろじ⑤ 
           黙って食え

入谷「河金」の河金丼によく似ているが、河金丼にはソースはかかっていない。河金丼はキャベツが敷かれているが、ここはキャベツはない。ちなみに、カツカレーの元祖は銀座スイス(1948年、昭和23年)と言われているが、それよりも30年前の1918年(大正7年)に「河金」の初代が浅草で洋食屋台を営んでいた時に、「カツカレー丼(河金丼)」を出していたようなので、むしろこちらが元祖だと思う。「とん丼」もその元祖の時代に誕生している。
           王ろじ④ 
           上空から

さて、本題。「とん丼」のとんかつはパン粉が粗めで、そのカラッとした歯ごたえが悪くない。何よりも肉の柔らかさに驚く。カレーはルーだけで、じっくりと煮込んだカレーの旨みがやさしい。やや酸味があるのはヨーグルトを入れているのか。思ったほど辛くはない。その下のご飯はかなり柔らかめで、そこは好みの別れるところ。
           王ろじ⑦ 
           ソースもあるでよ
           王ろじ⑧ 
           カレーもあるでよ
           王ろじ⑨ 
           ヒレでっしゃろ?

「これはヒレ肉でしょう?」
と村長。
「いえ、うちはすべてロースなんですよ。叩いて叩いて柔らかくしているんですよ」
と女将さん。創業当時の作り方のままだという。

とんかつのボリュームに圧倒されるが、ご飯が少なめなので、きれいに食べても腹九分目の納まり具合。みそ汁が付いてないのが少々残念(とん汁は別売り)だが、満足感は十分ある。勘定を支払う時にふと「シバレンさんはよく来たのですか?」と聞いてみた。「はい、最後は病院を抜け出して来ていたようです」。女将の目が懐かしそうに波打った。ここにもよき時代の東京が残っている。


本日の大金言。

いまではカツカレーはどこにでもあるが、大正時代にこのアイデアはコロンブスの卵だった。元祖には諸説あるが、「ソースかつ丼」にしても「卵とじかつ丼」にしても、ブームはドンブリから始まっているようだ。



                        王ろじ12 






 
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赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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