異色の会津そば「栄庵」に圧倒される

 白虎隊が自刃した飯盛山に背を向けて、ポンコツの愛馬を駆って、赤羽彦作村長がやってきたのは、会津では知る人ぞ知る手打ち蕎麦屋「栄庵」。ここのソバは普通ではない。

会津は日本でも有数のソバどころでもあり、ソバ通の間でも評価の高い隠れたメッカ・山都をはじめ、宮古ソバ、磐梯ソバなどレベルの高いソバを提供している。それらのソバは信州や江戸前のように、洗練されていて、その分、値段も安くはない。


                 会津・栄庵⑥ 


ところが、「栄庵」は違う。地元の人でさえ、「あそこのソバはぶっとすぎて、人間が食うもんじゃねえ」と陰口をたたくほど。彦作村長はかつて幾度かこの店に立ち寄り、「もりそば」に挑戦した。ソバというよりうどんかきしめんみたいな太さで、色も玄そばをそのまま石臼で挽いたような見事な地黒。ドテッとしていて、「どうだ、おめえにワタスが食えんべか?」と挑発しているようなソバである。

まずその姿に圧倒される。変な表現だが、女優のあき竹城みたいだ。つけ汁は鰹節と昆布のダシが利いていて、甘くもなく辛くもなく、ちょうどいい味加減。それなのにこの麵のふてぶてしさ。はっきり言って、普通の人ならウマズイではなくマズイと思うにちがいない。しかし、この店のソバを愛する根強いファンが多いのも事実である。

彦作村長は、かつてよく似たそばを賞味したことがある。以前にも書いたが、東京の下町・三ノ輪の「角萬」だ。ぶっとくて、ごわごわしていて、愛想というものがない、色も地黒。先日久しぶりに足を運んで、「冷や肉」を食べたが、代が変わっていて、見た目も味もちょっぴり洗練されていた。以前は「味わうというより格闘」という表現が当てはまったが、正直に「うまい」と感じたくらいだ。

「栄庵」は入口の佇まいからして、店主の変わらない頑固な職人意識を感じさせる。白地のノレンに墨で「奥州会津 手打ち生蕎麦 栄庵」。それも旧書体で描かれている。それをくぐって中に入ると、明治か大正かオーバーに言うと、江戸時代にタイムスリップした錯覚に襲われる。


         会津・栄庵① 


テーブルと座敷があり、20人はは入れるくらいのスペース。厨房がそのままつながっていて、「昔のソバ屋ってこんな感じだったかなあ」と思わせる。今の主人が四代目だという。
かつて何度か食べた「もり」(400円)は避けることにして、今回は、この店の売りの一つでもある「冷特そば」(600円)を注文することにした。

うまいお茶を飲みながら、待つこと15分ほど。出てきたのは、キツネ、昆布、茹でたキャベツ、刻みネギ、それにタヌキが一見無秩序に乗っかった冷やソバだった。ワサビがどっかと付いている。彦作村長は、2秒ほど息を飲んだ。その奥に控えているぶっといソバの意図を思ったからである。


              会津・栄庵⑤  


意を決してひと口。ムムム、行ける。二八のソバは平均して幅5ミリくらいはある。手打ちなので微妙な違いはあるが、平麺である。以前のように地黒で愛想がない。しかし、揚げ玉と油揚げと昆布、それに茹でたキャベツとともに甘くて濃いめのダシ汁に絡み始めると1+1が3になってくるようだった。「もり」には旨味というものをまるで感じなかったが、「冷や特」になった途端、変化が起きつつあった。

じわじわと「ムムム」が「ううう」となり、「う、うまい」に変わっていくのがわかった。こんなはずはない。あき竹城とばかり思っていたのが、松坂慶子に変身してくるようだった(このあたりの比喩がちょっと古いのはご勘弁ください)。これでいいのだろうか? 彦作村長は、会津ばかりでなく日本中を探してもきわめてユニークな栄庵のソバに傾斜していく自分をいぶかった。

蕎麦湯をゆっくりと入れ、ドンブリの底が見えるまで汁を飲み干してしまった。ツマヨウジを3本ほどちゃっかりとポケットに入れてから勘定を終え、外に出ると、会津のどこまでも青い空が入道雲を従えて、「下にい~下にい~」と掛け声をかけているようだった。空を見たら地面をみろ、極楽とんぼの村長に、そう言っているようだった。



本日の大金言。

「きれい」を求める最近の日本に、こんなソバがあってもいい。本当のきれいとは何か? 3.11以降、その問いが日本の咽喉元に突き刺さっている。


           会津・栄庵④ 
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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