涙の海、いわきの寿司屋で絶品の9カン

照りつける夏空の下、いわき駅前のロータリーの上からメーンストリートをボンヤリと見ているひとりの中年男。その背中の佇まいに彦作村長の目が釘付けとなった。自警団員だろうか、ひょっとして漁業関係者かもしれない。長靴姿で街の消防団員がよく着ている紺色に白の横線が入った半纏をまとい、ちょうど背中の中央には「いわき」の白抜き文字。

         いわき市① 


大震災さえなかったら、なに気ない日常の一コマかもしれない。しかし、彦作村長には、その後ろ姿が何かを雄弁に語っているように見えた。何か話そうと思って、声をかけようとしたが、できない。その中年男に何があったか、3.11から約1年5か月。どういう思いでいるのか、極楽とんぼの彦作村長が話しかけるには、あまりの重さを直感してしまったのだ。10分ほどただ背中を見る羽目になってしまった。

原発事故の影響でいまだ続く交通規制。いわきからの北上は広野町まででストップ。そのため彦作村長はいわき市内を目的もなく歩くこととなった。とはいえ、いわきの魚がどうなっているのか、魚好きとしては、重大な関心がある。

「いわき海鮮寿司 おのざき」という看板が目に入った。和紙に墨で「いわき小名浜 地場魚屋」とも書かれている。時計を見ると午後1時を回ったところ。「ランチタイムメニュー 特上武蔵 1500円」と書かれたボードも目に入った特上で1500円! 中身が問題だが、財布の底がつきかけている村長にとっては、その価格設定にも、心と胃袋が動かされた。


          いわき市11 


地元の魚屋さんが経営している寿司屋だった。何か所か回転ずしも経営しているようで、地場の魚をできるだけ安く提供しようというポリシーのように思えた。

「らっしゃい!」店に入ると、店長らしきオッさんと若い女性の店員が同時に声を上げた。カウンター席は30人は座れるくらいの広さ。1時を過ぎていたためか、ひと戦を終えたようで、客は彦作村長の他は3人ほどしかいない。さっそく「特上、お願いします」。のどがカラカラだったので、生ビールも頼もうと思ったが、ここは我慢がまん。冷たい水をビールのつもりでぐいっと飲んで、待つこと10分ほど。

出たきたのは見事な一通りだった。マグロの大トロ、赤見、白身(2カン)、ボタン海老、ズワイガニ、アオリイカ、それにウニ、いくら。そっと数えてみたら、合計9カン。鮮度の良さは魚の色で、すぐにわかった。この中身で1500円とは信じられない。東京の感覚で言うと3500円くらいの印象。しかも、ランチタイム特別メニューで、茶碗蒸し、サラダ、みそ汁まで付いてきた。


         いわき市・寿司  


イカ好きの村長としてはまずはアオリイカ。6月から8月にかけてが産卵期で、この時期のアオリイカは甘みが濃く、村長は好きだ。通でもないのにカッコつけ屋の彦作バカ村長は箸を使わず、指先でつまんで、口に運ぶ。アオリイカ特有の甘いねっとり感が口中の粘膜という粘膜に海の愛をささやくようだ。い、いかん。身を持ち崩してしまいそうだ。ギリギリのところで、あわてて、お茶を流し込む。

白身は今が旬のカンパチとスズキ。あっさりしていて淡泊だが、うまい! 大トロと赤身はなんと本マグロを使っている。ズワイガニ、ウニ、ボタン海老・・・食べ終えるのが正直惜しくなるくらい。食べるたびにため息が出てくる。この内容で1500円とは・・・どうやって採算が取れるのか、逆に心配になってしまうほどだった。

「魚はどうしてるの?近場の魚はまだモニタリング中なんでしょう?」
店主と雑談してみた。
「そうなんですよ。だから全部築地に行って仕入れてるんだよ。これは全部他の地区の魚です。モニタリングが終わるまで近場の魚はダメでしょう。しょうがないけど、そりゃ、くやしいよ」

深刻な話を明るく話す。浜通り特有のあっけらかんとした話しぶりだが、その奥にある思いは相当なものがあると思う。
「また来てくださいよ。いわきは元気で頑張ってるから。お客さんが来てくれることがとにかくうれしいんですよ。東京の値段よりずっと安い。鮮度も中身も胸を張れるよ」
外に出ると、村長のちっぽけな背中にいわきの海が広がっていくようだった。いわきの海を返してくれ!そう叫んでいるような気がした。



本日の大金言。

東電と原発マフィアの罪はあまりに重い。しかもそれは現在進行形でもある。この国は一体誰のためにあるのか?

                                  

                      いわき市10 


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 美味そうな握り寿司を、いわきでよく見つけましたね。思わず涎がたれました。特にアオリイカが良さそうですね。しかし、生ビールを、”鉄管ビール”で誤魔化すのはいけませんね。1杯でもいいから生ビールを注文しないとね。暑いから、年齢を考えて、逆に、熱燗1本で身体を温める工夫も良いかもね。まあ、冷酒でも良いから寿司にはアルコールがないと・・・。”山葵のない”握り寿司」でと同じでいけませんね。愛妻も許してくれるはずですよ(笑い)。
プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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