田園の中にポツンと一軒、孤高のどら焼き

 埼玉・春日部と言えば、江戸時代は日光街道の宿場町として栄え、今では「KOダイナマイト」WBA世界スーパーフェザー級王者・内山高志の出身地として知られている。クレヨンしんちゃんの作者・臼井儀人が住んでいた街でもある。あまり関係ないが、高倉健主演の「あなたへ」で脇役として熱演していSMAP・草彅剛の出身地でもある。

この春日部の郊外に「変わった和菓子屋がある。売り切れ御免で、知ってる人はまだ少ない。彦作村長、最近はネタ不足だろう。行ってみたらどうじゃな」と教えてくれたのは文吾ジイだった。

いつものことだが、突然ふらりとやってきて、勝手に家に上がり込み、「ああ、暑い、ビールでも出してくれ」ふんどし姿で、ウチワをパタパタさせて、美熟女の村民2号が出す生ビールをうまそうに飲みこんでから、「つまみがない」「冷凍の枝豆でない枝豆はないか」などと大騒ぎしながら2時間ほど居座った後、帰り際にぼそっと言ったのだった。
どら焼きが特に絶品で、あのうさぎやに負けないうまさじゃよ。このワシが言うんだから、間違いない」

彦作村長は和菓子、特にあんこマニア。豆大福、きんつば、鹿の子・・・うまいと聞けば、東奔西走、地獄の果てまで行きかねない。正直に言うと、どら焼きは村長の中では豆大福ほどではない。とはいえ、日本橋「うさぎや」、浅草「亀中」、門前仲町「梅花亭」など、最高峰といわれれる老舗の味は堪能している。その「うさぎや」に負けないとは・・・。


          春日部・細井② 


「ワシが言うんだから間違いない、というところが返って心配だけど、義を見てせざるは勇なきなり、ともいう。行ってみるか」
「村長、意味が違うでしょ。義じゃなくて欲でしょ。単に食い意地が張ってるだけのくせに
ぶつぶつ言う村民2号を振り切って、ポンコツ愛車で国道新4号線を南下する。

春日部市上金崎。田園風景が広がっている。田んぼの中の一軒家。まさかここが・・・と思うくらいの古い民家。看板もないので通り過ぎそうになる。実際、通り過ぎてしまった。幟(のぼり)が2本立っているが、なぜか裏返し。「どら焼き」「営業中」と書かれているが、よく見ないとわからない。

「細井」と書かれた表札を入ると、入口には、白いノレンが下がっている。そのあまりのシンプルさ。白木の引き戸を滑らせて中に入ると、これもまた白を基調にした空間。飾りつけは凧だけで、あとは何もない。それでいて、隅々まで神経が行き届いている。何やら「利休」の茶室が隣にあるような、ワビサビの佇まい。まさか予算がなかった、とは思えない。


          春日部・細井① 


「ごめんください」
声を上げると、奥から30代くらいの若い和菓子職人が出てきた。
「ご用意してあります。遠いところをありがとうございます」
腰が低く、応対がていねい。メニューはどら焼きの他、水ようかん、酒まんじゅう、鮎菓子など数点のみ。
売り切れ御免で、午後になると、すべてなくなる日もあるという。

どら焼き5個の包みを手にする。賞味期限はあの「うさぎや」と同じ2日間。こんな田んぼのど真ん中で、これだけの雰囲気を持った和菓子屋があるとは・・・。彦作村長は新聞記者上がりの好奇心に駆られて、しばし雑談することにした。
「和菓子の修業は東京の阿佐ヶ谷でしました。ええ、今36歳です。30の時にここで店を始めたんですよ。自宅を改造したんです。少しずつお客さんが増えてありがたいです。すべて手作業ですので、一日に作れる数が少ない。売れ切れになってしまうことも多くて申し訳なく思ってます。餡は北海道産の小豆を使ってます」


         春日部・細井③ 


36歳にして、この孤高。そのどら焼き(1個140円)の味わいは「うさぎや」に近い繊細で品のある絶妙さ。うさぎやは1個200円。彦作村長は浅草の「亀十」(1個315円)より日本橋「うさぎや」のどら焼きが好みだが、はちみつ入り皮のふわふわ感といい、いい小豆を熟練のワザで炊いた餡(あん)のさわやかでふくよかな甘さといい、文句のつけようがない。

「うさぎや」よりもひと回り小ぶりだが、皮と餡(あん)1+1が見事に3になっている。さらに驚くべきは時間をおけば置くほど、皮がしっとりとしてきて餡とのハーモニーが増してきたこと。オーバーではなく、味覚の粘膜に愛をささやきかけてきた。翌日、残りの2個を食べてその不思議に脱帽することとなった。この価格にしてこの味、「うさぎや」に負けていないと言わざるを得ない。

クルマでしか行けない田園風景の中(もちろん歩こうと思えば行けないことはないが)の「小さなありえない世界」。その禅の世界に通じるようなあまりにシンプルな佇まい。衒い(てらい)も驕り(おごり)も感じさせない。


          春日部・細井④ 


彦作村長は、自分のバカさ加減を棚に上げて、なぜか「日本の三十代もまだまだ捨てたもんじゃない」と思った。テレビでは連日、永田町のドタバタ喜劇を伝えている。いつまで続くのか、笑えない喜劇・・・。永田町の毒まんじゅうより野中の一軒家のどら焼き。面の皮の厚い政治屋より、皮までうまい和菓子づくり職人の未来に幸あれ。



本日の大金言。

メディアに取り上げられるものを疑え。最後は自分の目と足と直感を信じるしかない。田園の中のどら焼きにこそ真実は宿っている。

          



              春日部・細井⑥ 
             
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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