脳天直撃、太田焼きそばの「黒い笑い」

 「村長、以前に真っ黒い焼きそばを食べたわよね。私に内緒で」
美熟女の村民2号が、猫足で忍び寄ってきてささやいた。嫌な予感がする。
「うむ、東村山焼きそばのことかな? イカスミを使った焼きそばでな。まあ、うまかったよ」
「もっとすごい、まっくろクロスケの焼きそば、知ってる?」
「愚かものめ、彦作をなんだと思っておる。太田焼きそばの・・・太田の・・・あそこだろ?」
「あそこって? どこよどこよ。具体的に言ってよ。ぼちぼち認知症かなあ」
「・・・・」

ポンコツ愛車が国道50号をひた走る。目指すは、群馬県太田市。ここはB級グルメ界では知られた街である。秋田県横手市、静岡県富士宮市と並んで、日本三大焼きそばの一つに数えられるB級焼きそばのメッカだ。運転する彦作村長の横で、村民2号が口笛を吹いている。どうやら「となりのトトロ」のようだが、音程がずれている。

「岩崎屋だったな。約80軒ある太田焼きそばの中でも、極めて異色な焼きそば。真っ黒い焼きそばで、歴史も50年以上あるんだろ?」
「町おこしで新しく作ったそんじょそこらの焼きそばとは年季が違うわよ。驚かないでよ。それと、久しぶりに焼きまんじゅうも食べたいなあ。ああ焼きまんじゅう、いけいけポンコツ~」
村民2号が上州出身であることを思い出して、彦作村長は脇の下に冷や汗が吹きだすのを覚えた。


                太田焼きそば① 


「岩崎屋」は太田市の郊外はずれにあった。市内からクルマで20分ほどかかった。太田駅からもかなり離れていて、車がないとまず来れない。焼きそばと孤立感、このアンバランスがいい。

数年前に移転してきたようで、店は民芸風で気さくなおばさん風でもある。店内は意外に広く、テーブルが4つ、座敷もあり、そこにもテーブルが5つほど。甘味屋でもあるため、かき氷やソフトクリーム、ところてん、みそおでんなどもメニューに載っていた。

「まずは焼きまんじゅう! それと焼きそばの中2人前!」
村民2号がうれしそうに半音ずれた声を上げる。一緒にいるのが恥ずかしい・・・。

メニューが面白い。焼きそばは中(1人前)315円、大(420円)、特大(525円)、トリプル(1260円)。「初めての方は中で様子を見てください」などと妙な注意書きが添えられている。
「様子を見るってどういうこと?」
「うふふふ、来て食べてみればわかるわよ」

甘ダレがこってりついた焼きまんじゅうを食べながら、村民2号が意味深に笑う。
ここの焼きまんじゅう(1人前4個170円)は、串に刺してなく、皿に載っている。村長は焼きまんじゅうが苦手だ。具のない皮だけのまんじゅうなんて、まんじゅうではない。そんなものがうまいわけがない。そんなものをうまいという上州人って、感覚がおかしい。この三段論法で、彦作村長は「上州人は宇宙人かもしれない」と思っていた。


         太田焼きそば⑤ 


し、しかし、うまい。いい色合いのまんじゅうがこんがり香ばしく、そこに自然な甘ダレがコッテリからみついて、実にうまいのである。村長の反応を眺めながら、村民2号が謎の笑みを浮かべる。

メーンの「焼きそば」がやってきた。まさか!真っ白い皿に、オーバーではなく真っ黒い焼きそばがギラギラとのっかっている。上にかかった青のりがすがすがしく見える。中なのにかなりのボリューム。「横手焼きそば」のような、汁らしき水分は見当たらない。具はキャベツだけ。それも黒の中に隠れていて、見た目ではわからない。何という焼きそばか!


            太田焼きそば③ 


真っ黒いソースの正体は、ウースターソースをベースにして、独自のタレを加えたものだそう。女主人に聞くと、その調合は「企業秘密だんべ」。イカスミは使っていないとか。

ひと口。もっちりとした食感。甘めのソースがねっとりと絡まって、鈍感なうまみを舌の上で繰り広げる。うまい。イケる。

「太田って、もともとは中島飛行機があった街なのよ。それが戦後は富士重工の街になって、東北とか遠くからいっぱい工員として人が入ってきた。その中に秋田の横手の人たちもいて、その人たちが焼きそばを広めた。まあ、ルーツはそんなところかな。この焼きそばみたいに真っ黒になって汗を流していた人たちの焼きそばなわけよ安くてボリュームがあって、汁もない。だから、長持ちする。お金もないのにぜいたく。村長も少しは太田焼きそばを見習ってほしいわ」
村民2号の毒矢がまたも飛んできた。デリカシーがないのに脂肪分だけいっぱいある。村民2号も見習ってほしいよ。口には出さずに心の中で思った。

食べているうちに、次第に単調な味が鼻についてきた。「初めての方は中で様子を見てください」という意味がようやくわかった。これは長距離ランナー向きの焼きそばなのだ。村民2号にはぴったりだが、短距離・息切れ型の村長には「小」で充分。


          太田焼きそば④ 


「具がもっとあれば、もっとうまくなるのになあ。豚肉なんて合うと思うけど」
「ここは創業51年の太田の老舗なのよ。わかっててもそれをしない、そこがいいのよ。時流になびかない。村長みたいに軽くないのよ」
村民2号の毒矢が彦作村長の後頭部に刺さった。次の瞬間、無口で真っ黒い焼きそばが「むふふ、むふふ」と笑い始めた。その黒い笑いが小石の波紋のように、「バカものめ、バカものめ」に変わって、どんどん広がっていくような気がするのだった。



本日の大金言。

人類にも白人、黄人、黒人があるように、焼きそばにも真っ黒い焼きそばがあってもいい。そのうち、白い焼きそばとか真っ赤な焼きそばが登場するかもしれない。



                  太田焼きそば⑦  
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

最新記事
カテゴリ
彦作のつぶやき
最新コメント
月別アーカイブ
カレンダー
09 | 2017/10 | 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR