まるで五右衛門、驚きのお稲荷さん

 横浜・馬車道通りを「いい店はないかいな」などとブラ歩きしていると、老舗和菓子屋が目に入った。「明治30年創業 松むら」の看板。うむ。すると、村民2号が「こっちこっち」と合図してきた。それが「いなりの泉平本店」だった。まるでバラックのような質素な店構え。白衣姿の高齢のいなり職人がいなりとかんぴょう巻きを黙々と作っていた。そのあまりに素朴な光景がガラス越しに見え、村長の目が釘付けになってしまった。
              泉平① 
              これが本店とは・・・
              泉平④ 
              よきいなり職人

創業が天保十年(1839年)の文字も見えた。天保十年といえば、まだペリー率いる黒船が浦賀に来航する前である。テイクアウト専門だが、村長は迷うことなく飛び込んだ。財政事情がひっ迫していることもあり、「いなり一箱」(3本入り810円=税込み)を頼んだ。これが見るからに江戸風の煮締めたいなり寿司で、そのあまりの存在感に見惚れてしまった。水飴で長時間煮込んだようなテカリ。北千住の「松むら」よりもどっしりとしている。まるで牢名主か石川五右衛門のようなお稲荷さん!
              泉平③ 
           いなりとのり巻きの世界

村長が感動した京都・新京極の「乙羽」とはまるで違う。調べてみたら、元々は江戸の札差(大名相手のコメの売買商人)泉屋平左衛門が祖先で、その流れで横浜に葦簀(よしず)張りの屋台を作り江戸前寿司の店を出し、それが大当たりして、現在に至っていることがわかった。ペリー来航以来、幕府は横浜を開港し、周辺が急速に発展していった。

いなり寿司は二代目が高野山詣でした際に伝授されたものだそう。それが江戸、東京、横浜と引き継がれてかような黒光りしたいなりになったようだ。ウマズイめんくい村に持ち帰って、賞味となった。折詰を開けると、細長い、濃い飴色のいなりが3本詰まっていた。真ん中で切られていて、甘酢生姜も付いていた。1本当たり270円なり。
              泉平12 
              176年の歴史
              泉平⑤ 
              蓋を開けると・・・
              泉平⑥ 
              濃い江戸のいなり

まずはガブリと行く。恐るべきズシンとくる甘さ。京都のいなりのように、油揚げを油抜きして出汁醤油で炊いている気配はない。油抜きしている気配も出汁の気配もまるでない。固めの酢飯は酢と塩だけだそうで、北千住「松むら」のように白ゴマもない。ぶっきら棒の極み。だが、どうしたわけか旨い! 洗練とはほど遠いのに旨い。食べ進むうちに不思議な感動に襲われる。
              泉平⑦ 
              飴色の驚き
              泉平10 
              素朴の極み?

油揚げの濃いテカリは麦芽糖で煮締めたよう。それもそのはず、醤油と水、砂糖、ザラメで煮込み、さらに代々伝わる秘伝の元汁を加え20時間ほど漬け込んでいるそう。煮方も秘伝だそうで、このフテブテしいまでに煮締めた重量級油揚げの存在感に脱帽したくなった。1本270円は安くはないが、相手が石川五右衛門では分が悪い。
              泉平⑨ 
              癖になる味

新潟の地酒「白龍純米吟醸」をチビチビやりながらあっという間に平らげてしまった。
「もう一箱買ってくればよかったわ。でも、これって江戸のいなりなのかしら?
村民2号も想像の枠を超えた味わいに上気しながら、疑問を口にした。

「そう言えば、店の高齢のいなり職人さんは『京都風でもなく東京風でもなく、ウチのは横浜流です』と言い切っていたなあ。銀座三越にも出店しているのに、未だに原点の店構えと味を続けている。凄いことかもなあ」
村長は空になった折詰を見ながら、「たかがいなり、されどいなり」とつぶやくのだった。

本日の大金言。

洗練の対語は粗野か野暮か? ひょっとして粗野の洗練という世界もあるかもしれない。



                          泉平11 


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NoTitle

 今度、「泉平」の稲荷寿司を買ってきて、ご自宅で食べるときは、醤油に、西洋辛子を混ぜて食べると良いでしょう。あの甘味が、西洋辛子の辛さと程よく調和しますね。店は本来、バラックでない店構えでしたが、色々、経営事情もあって、バラックになったようです。

脱毛です

ひょっとしてあの調布先生? 醤油に西洋辛子・・・確かにうまそうです。大昔に北野天満宮先生に聞いたことがあります。泉平のいなりまで守備範囲とは、恐れ入りました。スコッチのツーフィンガーとも合いそうです。
プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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