三島由紀夫が絶賛したマドレーヌの味

 京都にお住いのグルメ先生からいただいた京都・村上開新堂のマドレーヌを賞味したことがきっかけで、伊豆下田の伝説のマドレーヌを何としてでも賞味したいという思いが募ってしまった。下田でしか買えないという希少マドレーヌ。思い込んだら止まらない。下田までポンコツ車を走らせようかと思ったが、諸事情で行けず。思い切ってそのマドレーヌの老舗「日新堂菓子店」に電話してみた。

すると、「宅配もできますよ。でも、今混んでまして、1週間ほどお待ちいただくことになりますが」というお返事。否も応もない。「マドレーヌ10個とレモンケーキ5個詰め合わせ」(税込み2800円)を頼んだ。送料と手数料がプラス1074円かかるのは大きな負担だが、この店を愛した作家・三島由紀夫が「日本一のマドレーヌ」と絶賛したという話も伝わっている。マドレーヌの頂上(?)に行くにはこのくらいの出費はやむを得ない。そう思うことにした。
         日新堂①  
         伝説のマドレーヌ

そしてとうとうその日がやってきた。包装をとくと、村上開新堂と同じような気品のある白い箱が現れ、さらにしずしずとフタを取ると、左右に丸型のマドレーヌが二列、それに中央にレモンケーキが一列現れた。三島由紀夫は昭和39年から自決した年の昭和45年まで、毎年夏、下田の東急ホテルで執筆活動をし、そのたびに日新堂菓子店のマドレーヌを買いに来ていたという。
         日新堂② 
         ついに目の前に

創業は大正11年(1922年)で、当初はせんべい屋さんだった。「それからカステラを作って、それが評判となりまして、昭和36年からマドレーヌを作り始めたんです。三島先生は気さくな方で、マドレーヌとプリンをよく買いに来てくださいました」(日新堂菓子店)。三島由紀夫はフランスの作家マルセル・プルーストを尊敬していて、不朽の名作「失われた時を求めて」は、マドレーヌの香りから遠い過去の記憶を呼び起こされる大長編がスタートする。

三島も頭のどこかにプルーストのマドレーヌがあったはずである。その本場の流れを汲むマドレーヌ。一個がかなり大きめ。測ってみたら、直径75ミリ、厚さ30ミリだった。きつね色のこんがりと焼かれた表面からいい匂いが放たれている。アルミカップをはがすと、卵とハチミツ、それにバニラの香りが魔法のようにふわりと広がった。黄色みが強く、一個一個ていねいに焼き上げたことがわかる素朴な凝縮感・・・。
         日新堂⑤ 
         素朴ないい匂いが・・・
         日新堂⑥ 
         頂点のマドレーヌ?

小さなフォークでまずはひと口。意外とぼろぼろと崩れ落ちそう。だが、口中に入れた瞬間、素朴で上質な甘みと新鮮で絶妙な香り。辛口の村民2号が「ホント素朴ねえ。風味が何とも言えない。口どけがとってもいいわ」と唸った。
         日新堂⑦ 
      牛乳とバターを使っていない
         日新堂4 
         素朴な手作り

村長は予想を超える素朴さにやや拍子抜け。村上開新堂のような洋酒の香りやしっとり感がほとんどない。「バターや牛乳を使ってないんですよ」(同店)のことだが、食べ進むうちに味わいの奥深さといい余韻が潜んでいることがわかってきた。レモンケーキもこの店の売りで、こちらも同じくらいの歴史がある。天然のレモンを絞ったレモンクリームが表面をコーティングしている。こちらの方がアクセントがあるが、好みの問題かもしれない。
         日新堂⑧ 
         こちらはレモンケーキ
         日新堂⑨  
         天然の世界

渓流斎さんもブログで「驚くほど美味いんです。ホントですよ」と書いていたが、村長の好みはむしろ洋酒の効いた村上開新堂。単なる酒好きの自己弁護かも・・・と書いたところで、そう言えば、三島由紀夫の小説の中で、食べ物の描写の印象が薄いことが思い起こされた。和菓子好きの夏目漱石や藤沢周平、池波正太郎ような本当に食べることが好きだという印象がない。人工的な三島由紀夫が、この素朴なマドレーヌを「日本一」と絶賛した意味が少々気になってきた。

本日の大金言。

マドレーヌの最高峰の旅が新たに始まる。このシンプルな焼き菓子の中に詰まった「遠い記憶」を辿ってみるのも案外面白いかもしれない。


                日新堂11
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プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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