伊勢うどん元祖の深い味

 これまで何度か伊勢うどんについて、そのコシのない意外な凄味を書いてきたが、その本場伊勢には行ったことがない。知人でコラムニストの石原壮一郎さんが「伊勢うどん友の会」作って活発にPR活動していて、「一度はゆるりと伊勢に行ってみては?」と話したこともある。

奈良まで足を延ばしたその足で、その本場に短い足を延ばすことにした。これまで東京で賞味した伊勢うどんとはひと味違う? 江戸時代に流行した「一度は行きたい伊勢詣で」を遅ればせながら、実行することにした。ぎっくり腰持ちでコシのない男がコシのないうどんを食べに行く。案外ポエムかもしれないぞ。
          伊勢神宮内宮 
        伊勢神宮内宮

伊勢神宮内宮に初参拝してから、外宮に戻って、周辺をブラ歩き。何人かの地元のおばはんと仲良くなり、「観光客が行かない地元の人が行く店」を聞き出した。「中むら」「山口屋」「まめや」などメディアに取り上げられることの多い店は「地元の人はあまり行かへん。うちらが行くのは・・・」と教えてくれたのが、「ちとせ」だった。
          ちとせ① 
       本場の元祖に到着

伊勢市駅から歩いて10分ほど、むしろ宇治山田駅の方が近い。おばはんが教えてくれた通りに行くと、昭和の田舎の食堂のような店構えが見えた。小雨が降っていたこともあり、どこかうら寂しく見えた。「名物伊勢うどん そば」と染め抜かれた紺地の暖簾もすすけている。当たり、の予感。
          ちとせ1 
          地元客がほとんど
          ちとせ15 
          ええのう
          ちとせ6 
        中華そばまである

一歩踏み入ると、すぐ左手が板場になっていて、そば屋の板場のよう。黒光りした木製テーブルが7つほど。午後1時半過ぎだったこともあるのか、客の入りは七分ほど。メニュー札を見ると、伊勢うどんだけではなく、そば、とんかつ定食、カレーライス、チャーハンまである。

若い女性店員に「伊勢うどん」(税込み500円)を頼んだ。地元おばはんは「伊勢うどんを楽しむなら、卵とか肉とか、余計なものは入れずに、素の伊勢うどんが一番ええよ」と教えてくれた。その助言に従うことにした。
          ちとせ⑤ 
        一見フツーだが・・・

6~7分で、お盆に乗って、伊勢うどんがやってきた。待っている間に古い新聞記事が飾ってあったので、目を通すと、この店の創業が大正の初めで、先日亡くなった永六輔さんがこの店を気に入り、「伊勢うどん」と命名したことがわかった。それまで、伊勢うどんという名称はなく、ただ「うどん」とか「宇治山田のうどん」と言っていたらしい。つまり、ここは伊勢うどんの元祖とも言える。
         ちとせ④ 
         湯気の向こう側

むろん、宇治山田のうどん自体は江戸時代よりももっと遡るようだ。それがお伊勢さん参りが盛んになる江戸時代に口コミ知られるようになった。釜で長時間茹で、溜まり醤油でズズズと食べる。その歴史的な流れのままの「伊勢うどん」が目の前でシュウシュウと湯気を立てていた。
          ちとせ⑧ 
          かき混ぜると・・・

ぶっとい麺と溜まり醤油、上には刻みネギというシンプルな構成。だが、これが絶品だった。箸で混ぜると、釜から揚げたばかりの、見るからにモチモチしたうどんが黒々と染まっていく。溜まり醤油の何とも言えないいい匂いがほんわかと立ち上る。濃厚な色がどこか禍々しいほど。
          ちとせ⑨  
        おおおの世界
          ちとせ10 
          ま、食べてみなはれ

ひと口。何というもっちり感・・・鰹(かつお)出汁の効いた溜まり醤油とともに、コシのない、ふくよかなもち肌が口中の粘膜に「どないでっか」とささやきかけてくる。色は濃いが、味は濃くない。何とも言えない穏やかな旨味が口中から体全体にじんわりと広がってくるよう。ほどよい甘み。東京で食べた伊勢うどんとはふた味違う・・・。ひょっとして鰹の他にいりこも入っているかもしれない。
         ちとせ11 
         溜まり醤油の深み
         ちとせ12 
         出汁の効き方

シンプルだが、手間ひまのかかり具合が見て取れるような、奥の深い味わい。ひと昔前、コシのないうどんなんてうどんじゃない、と言われた時代があった。だが、さぬきとは対極に位置するこの伊勢うどんを食べると、世界観が変わるかもしれない。コシがなくてもいいじゃないか。安倍首相も参拝する伊勢神宮の近くで、コシのないうどんの深過ぎる味わい。これは哲学的なうどん、かもしれないぞ。口中に残るいい余韻を噛みしめながら、村長はぎっくり腰を押さえて立ち上がろうとした。だが悲しいかな、よろっと来てしまった。

本日の大金言。

東京で食べる伊勢うどんは冷凍が多いが、さすが本場は生麺を長時間茹でる。その時間は約一時間ほど。さぬきのコシのあるうどんより茹でる時間は長い。ただ単にコシがない、とはわけが違う。うどんも人間もコシだけでは判断すると、世界を見間違うかもしれない。



                ちとせ13 


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赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

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