「神田まつや」のかけそば

 週末、久しぶりに江戸に出た。切り絵作家の小宮山逢邦さんを交え、敏腕編集者M氏と上野で居酒屋会議を行うため。気心の知れた相手なので、少々時間に遅れてもブーイングはない。

神田神保町に立ち寄ってから、小一時間ほど時間があったので、一杯飲む前に、須田町の「神田まつや」に立ち寄りたくなった。「かんだやぶそば」と並ぶ都内でも有数の老舗そば屋。創業は明治17年(1884年)。江戸の面影を残す数少ないそば屋でもある。
         まつや① 
         タイムスリップ

宮仕え時代に大ボスがまつやはいいぞ。相席だから肩を寄せ合って食べる。それがいいんだ。ぬる燗をやってから、締めのかけが美味い」と言っていたことを思い出したからである。
         まつや② 
         暖簾の先は?
         まつや③ 
         かけ、に限る
         まつや④ 
      明治が滲み込んでいる
         まつや⑤ 
         待つ時間
 
夕方5時ちょい前。この時間帯は比較的客が少ないので狙い目。もう少し時間が遅いと行列、になる。わさびかまぼこで一杯、と考えたが、後のことがあるので我慢して、「かけそば」(税込み650円)だけをかっ込むことにした。江戸言葉でいうと「手繰る(たぐる)」。酒抜きとは野暮の極み。

至福の一杯とは、まさにこのかけそばのことを言うのではないか。年季の浸みこんだ黒光りしたテーブルと竹壁、天井・・・隅々からも江戸の匂いを放っている。柱時計が明治・大正の面影を残している。「相席ですけど、よろしいですか」「もちろん」女性店員のきびきびした自然な動きと対応が心地よい。

注文してから10分ほどの待ち時間。斜め向かいの着物姿の中年女性も「かけ」を食べていた。自然で隙のない動き。村長とは月とすっぽん、ここに来るにはまだ人生修業が足りないかもなあ、そんな思いが頭をかすめる。
         まつや⑧ 
         シンプルの極み
         まつや⑥ 
      何も足さず、何も引かず

角盆に乗ってやって来た「かけそば」は、鰹出汁のいい匂いをゆったりと放ちながら、黒光りするテーブルに納まっていた。ゆったりとしながら、隙というものがない。それに小皿の刻みネギ。シンプルの極み。

つゆはかえし(醤油ベース)がきつめに見えるが、ひと口すすると、穏やかでまろやかな旨味がじんわりと来る。心にまで滲み込んでくるよう。単なる鰹出汁とかえしだけで、ここまで深い味わいは出ないと思う。百年以上の技がそのシンプルの奥に潜んでいる? これ見よがしに説明していないことが、凄味となっている。あんた、粋だけど、憎いねえ、と言いたくなる。
         まつや10 
         江戸の匂い
         まつや11 
         シンプルな深み

そばは挽きくるみで、村長がこれまで食べた手打ちとはいささか違う。エッジがさほど立っていず、丸みさえある。だが、コシといい、ノド越しといい、申し分がない。見落としそうになるほどさり気ない。空気投げのような、達人の味わいとでもいう他はない。
         まつや12 
      慌ててそば湯を入れる

気がつくと、一滴残らずつゆを飲み干していた。途中でそば湯を入れるのを忘れてしまうほど。体中に温かいいい余韻が沈み込んでいる。そのまま、ヨタヨタと上野へと向かうのだった。極楽とんぼめ。

本日の大金言。

シンプルの中に深みがある。かけそばにそれを感じるのは稀だと思う。池波正太郎は「まつや」について、「昔の東京をしのばせるに十分」と書いている。爪の垢を煎じたい。



                 まつや14 



スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

No title

ありがとうございました。知識が豊富で楽しい村長さま。神田まつやのそばを食べたくなりました。
プロフィール

赤羽彦作村長

Author:赤羽彦作村長
あの!エンターテインメント新聞で記者、デスク、編集プロデューサーとして活躍。思うところあって、原発で揺れるヤポネシアを辺境から見つめ直すべく、イカダを組み、オンボロ旗を揚げ、組織を脱出。荒海に乗り出す。「B級うまいものの宝島」を目指して、櫂をガタガタと漕ぎ出すことにした。一か八か泥船となるか、間違って宝船となるか?
特に麺類と和菓子にはうるさい。「舌の上から斜めに世界を見る」などとほざいている。はっきり言ってバカの3乗である。年齢不詳。乙女座、AB型。村民を募集している。

最新記事
カテゴリ
彦作のつぶやき
最新コメント
月別アーカイブ
カレンダー
10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -
最新トラックバック
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR